This is my essay.








 きょうは、肩の凝らないお話をひとつ。

 その前に、「ボンド・十二・バニラ」、この三つの言葉を聞いただけで、その共通点を言い当てることのできる人は、これ以上、この文を読む必要はない。それは、時間の無駄というものである。

 しかし、「ジェームズ・ボンドって、007じゃなかったっけ。なんで12なんだ?」とか、「それとバニラのアイスクリームと、何の関係があるのか? さっぱりわからんじゃないか?」などと首をひねっている人には、ためになる情報を差し上げたい。

 実はこれ、欧州と中国と日本の、それぞれ別々の女性アーチスト・グループの名称なのである。といっても、画家や版画家の女性アーチストではなくて、女性の演奏家グループの名前である。やっと、わかりましたか? ああ、疲れた。

 というのはもちろん冗談として、それにしても、同じ世代の友人にこの三つをすべて知っているかと聞いても、誰も彼もトンチンカンチンなのである。仕事に忙しすぎるのか、それとも大体そんな暇そのものがないのか、あるいは音楽演奏などそもそも全く興味がないのか、どれかは知らないが、大方そんなところである。しかし、この3グループについては、知っておいても決して損ではない。それどころか、ホントにおもしろい。休みの暇つぶしには絶好の音楽である。たとえばボンドなどは、こんな音楽って、あっていいのかと一瞬でも思うほど、耳と心に残るユニークな音と旋律である。それにまあ、いずれ劣らず美人ぞろいのグループだから、姿形がかっこいい。

 最近の女の子たちは、親が小さい頃から手塩にかけて慈しんで育ててきていることが、手にとるようにわかる。いずれも単に美しいだけでなく、栄養もよくて立派な体格をしており、それに何よりも4〜5歳の頃からクラシックなどの本格的音楽教育を受けている。教養十分、実力十分、それに類まれな美貌までも兼ね備えているという、何重ものハナマルを付けたいくらいの才色兼備女性ばかりなのである。それが二十代前半の最も美しい時に演奏活動を始めるものだから、売れない方がおかしいくらいである。

 ところがこの3グループを比較すると、出発点はさほど変わらないだろうに、結果をみると大きな格差が出てしまっているなぁと私には感じる。10点満点でボンドに8点を与えるとすると、中国の女子十二楽坊は6点ぐらいだが、それでもまあ及第点には届いている。これに対して、残念なことに、わが日本のバニラ・ムードへは、わずか3点くらいしか差し上げられない。もちろん、本人たちはいずれも美人ばかりであるし、実力の差も、演奏については、ボンドや十二楽坊などと、あまり大きな差はないものと思う。しかし、現実にはマネージメントの力量が天と地ほどの違いがあって、それでこんな大きな差となって現れているのではないかと考える。私としては、これを言いたいがために、これから紙幅を若干費やすことにしたい。ご関心のない方は、それぞれのオフィシャル・ホームページにリンクしてあるので、それらを直接ご覧いただければと思う。とりわけ、ボンドはホームページのつくりもしっかりしているし、試聴もできるので、お勧めしたい。女子十二楽坊も、中国版のサイトに試聴ができるところがある。

 さてそれで、最初は、ボンドから話をしたい。まあその、過激な姿態と宣伝文句(21世紀対応、超美形ストリング・クァルテット! 完璧なテクニックを身につけた美女4人組"ボンド"のエレガントで情熱的でセクシーなセンセーション)にびっくりしてしまうが、それはまだ早い。その音楽を聴くと、クラシックあり、中東か中欧かと見まごう旋律あり、サルサのような熱狂ありで、もう一体全体これは何だと叫びそうになる。しかしそれでいて、不思議とまた聞きたくなるという音楽である。たとえば、私の中学生時代に、ハチャトゥリアンの「剣の舞」を聞いて、世の中にこんな激しいすごい音楽があるのかと驚いたものだ。しかし、ボンドたちは、「ハイリー・ストラング」というタイトルで剣の舞を編曲している。そのホームページには、これは
「剣の舞のワイルド・バージョンね。クレイジーで歪んで演奏したような我々のパフォーマンスと、狂ったようなギターが聴けるわ。勝負というか、競い合っているみたいね。すごく狂っていて、速いったらないわ。」というのである。いや、確かに全くワイルドであるが、それでいて、演奏はクラシックそのものである。

 それもそのはず、この4人の美女ヘイリー・エッカー、エイオス、タニア・デイビィス、ゲイ・イー=ウェスターホフは、いずれもロンドンやオーストラリアの音楽院を首席で卒業し、あちこちで受賞した本格的なクラシック奏者なのである。本来なら、ソロの奏者としてクラシック音楽の演奏会で活躍していたはずのところ、この4人は、それに飽き足らなかった。ホームページには、このように記されている。

「レッド・ツェッペリン、デヴィッド・ボウイ、クィーン等を手がけた伝説的なコンサート・プロモーター兼マネージャーのメル・ブッシュの紹介で4人は出会い、夢へ向かって同じヴィジョンを持つことになった。堅苦しいボウ・タイやふわっとした黒いドレスはなし。分厚い譜面のまえに座って権威的な指揮者の意のままになることもなし。その代わりに彼等はまったく自由な空気を呼吸するのだ。楽器編成はクラシカルだが、このクァルテットは既存のジャンルや伝統に拘束されはしない。4人の調和と野望に満ちた計画を象徴して、4人は自らを「ボンド(=きずな、統合)」と名付けた。」

 まったくこの通りで、クラシックとジプシー音楽と南米の情熱的音楽が混在したような不思議な音楽を、スタイリッシュな姿でステージ狭しと弾きまくるのが、ボンドというイメージにぴったりしている。彼らはまずイギリスで、2000年8月にファースト・シングル「ヴィクトリー」をリリースした。私が聞いたのは、このアルバムで、その哀愁を帯びつつも、クラシック的な正統性もあるというところに驚いたものある。ところが最近では、とてつもないバイタリティで、ぐんぐん迫ってくるような音楽が多い。中年以上の人がこれを聞くと、耳が悪くなるか、そもそも疲れてしまうので、デビュー当時の曲(たとえばボンド・ボーン。このプロモーション・ビデオ映像もすごい)の方をお勧めする。

 ともかく、私がびっくりするのは本人たちはともかく、これをプロデュースしているメル・ブッシュなる人物である。彼女たちにふさわしい作曲家を見つけてきて、そのステージ衣装、コンセプト(クラシック、上等でスタイリッシュ、上品なセクシーさ)というものを作り上げて、見事その売り込みに成功している。これが、プロの仕事というものである。

 ところで、女子十二楽坊であるが、王暁京という個性あるおじさんがプロデュースしている。この人、なかなかの敏腕家のようにお見受けする。コンセプトもしっかりしている。ただ唯一の欠点はホームページに本人が出過ぎていること、つまり肝心の演奏者たちをさしおいて、妙にこのおじさんの写真ばかりが目立つことである。まあ、それくらいでないと務まらないのかもしれない。それはともかくとして、この人に対するインタビューが載っていたので紹介する。

 
「中国においては、伝統的な民族音楽に興味を持たせたと思います。現在、中国でも古典音楽を聴く人は少なくなってきていましたが、女子十二楽坊がでてからは聴く人がだんだん増えてきています。また、民族楽器を学ぶ子供たちも増えてきました。ですから、民族音楽に非常に貢献していると思います。

 ただ、わたしたちがやっていることで伝統音楽を変えていくということは考えていません。独自のスタイルで新しいものを作りたいと思っています。わたしたちの独自のファンを作り、独自の道を歩んでいきたいのです。今までにないもの、自分たちの独特のものを作り出したいということですね。」


 その目指すところが誠に明確である。確かに女子十二楽坊が、琴や琵琶や二胡や笛を使って奏でる伝統的な民族音楽は、私にとっても、何か郷愁を呼び起こされるような気がするのである。

 担当の楽器と奏者の名前を並べると、【琴】周健楠・楊松梅・馬菁菁 【琵琶】張爽・張・仲宝 【二胡】・麗君・殷・雷・孫・蒋瑾 【笛】孫媛・廖彬曲ということになる。履歴をみると、中国音楽学院、中央民族大学、中央音楽学院、解放軍芸術学院ということで、やはり彼女たちも本格的に音楽を学んだ人たちである。うまいはずである。ただ、強いて難点を言わせてもらえば、12人(実際はもっといる)というのは、ちと、多すぎはしないか。奏者の個性を認識できる範囲を超えている。それに、ステージ衣装がこれまたちょっと、時代遅れのような気がする。もっとも、中国では新しいのかもしれない。しかし何よりも、そのシルクロードを思わせる雰囲気は、とても良い。したがって、及第点を差し上げたいのである。

 最後に取り上げるのが和製のグループで、バニラ・ムードと称する東京芸大の女子学生4名からなるカルテットである。なぜ私が知っているかというと、お昼休みのNHK番組「お昼ですよ!ふれあいホール」にレギュラー出演しているからである。お昼のニュースの次にはじまる番組である。ピアノはケイコちゃん、バイオリンのユイちゃん、チェロのマリコちゃん、フルートのワカちゃん。いずれも美人で、その点は言うことはないが、見れば見るほど、何でこんなにマネジメントとかみあっていないのだろうと、この4人が、かわいそうになる。

 たとえば、ファッション・スタイルがマチマチ、てんでバラバラなのである。同じ日の演奏なのに、ショート・スカートがいたかと思えば、ロング・スカートがいたり、あるいはジーンズがいたりという調子である。一人一人はそれぞれ似合っているけれども、同じ時に隣り合って同じ曲を演奏するには、まったく統一感というものがない。せめて色ぐらい調整すればいいのにと、残念である。ホームページを見て、ははぁ、これが原因かと思ったのは、「衣装提供」という欄があって、いろんなアパレルの会社名が並んでいた。つまり、こういうところが競って4人に「バラバラの」服をてんでに着せるために、並べてみると何ともはや、調和のとれていない情けない格好になるのではないだろうか。少なくとも、同じ日には同じ服屋さんから同種同系統の衣装を調達するようにしてはいかが?

 これが改善されてもねえ、まだちょっと・・・ というのは、本人たちに何かプロ意識が欠けているようなのである。あるとき、そのNHK番組「お昼ですよ!」を見ていると、バニラ・ムードのバイオリン奏者にエミリちゃんというのがいたが、番組途中で試験があるとか何とか言って、帰ってしまった。試験大事かもしれないが、仕事を引き受けておいて帰ってしまうのも、どうかと思う。もっとも、それからほどなくして、確かその子だったと思うが突然メンバーから外れて、フルートのワカちゃんという子が加わった。個人的には、フルートというより、前のようにバイオリン2丁の方がよかったのではないかと思う。別にフルートという楽器を駄目だという気はないけれども、このグループの音としては、少しか細くて、やや埋没している観があるからである。

 バニラ・ムードというそのグループ名のとおり、このホンワカ・ムードのかわいい子たちを見ていると、これはこれで日本社会そのものなので、いいと思う。しかしながら、ついつい彼女たちと、まったく逆にエネルギーの塊りのようなボンドの4人組と比較してしまって、そのあまりの違いに唖然としてしまう。農耕民族と狩猟民族との差か、あるいはプロ意識の差か、それとも日本人全体が野性的エネルギーをなくしてしまったのか・・・、実はそれが心配なのである。

 それにしても、日本人でちかごろ活躍しているのはアイちゃんと名の付く女の子ばかり。卓球のアイ(福原愛)ちゃん、テニスのアイ(杉山愛)ちゃん、ゴルフのアイ(宮里藍)ちゃん、ついでに天才チンパンジーのアイちゃん。

 ところで、日本の若い男の子たちは、どうなってしまったのか。目立つのは体を使ったサッカーや野球選手ばかりである。それも、世界のレベルに達しているのは、ほんの一握り。もっと頭、特に芸術的才能を開花させられる若い日本男児はいないものか。えっ、何ですって、最近、証券市場や野球業界をかき回している御仁がいるではないかって?それに、○○ファンドなるものも。うーん、外資系新人類ねぇ・・・。そういう人たちをイメージして言ったのではないのだけれど。






(平成17年3月 1日著)
(お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。)

(各グループの写真は、それぞれのホームページのものです。)
(冒頭のタイトル下のダンスの絵は、季節の窓さんのものです。)





悠々人生・邯鄲の夢





悠々人生のエッセイ

(c) Yama san 2005, All rights reserved