1.受賞式に主賓として出席の依頼
ある日、私の所属法律事務所の広報から、ALB(Asian Legal Business)の受賞式に、主賓(guest of honor )として出席し、冒頭に挨拶をしてほしいという要請があった。この業界に身を置いてまだ数年の私としては、あまり馴染みのない名前の主催者だ。ウチの広報からの話だから、私の名前が勝手に使われるということにはならないだろうが、それにしてもどんな内容の受賞式なのか、そもそもいかなる機関が運営しているのかがさっぱりわからない。普通、このような依頼をしてくるなら、その責任者がやって来て、依頼状、会社紹介のパンフレット、昨年の事例などを説明してくれるべきところ、そんな風でもない。これが今風のやり方なのか、、、それとも箸にも棒にもかからない依頼なのか確かめようとして、疑問点をまとめて広報に聞いてもらった。その質問と回答は、次の通りだった。 問1.ALBの本部がどこにあるのか、その活動はどのようなものか、これらの内容が分かる最近の記事や成果物など ALB(Asian Legal Business)は、アジア太平洋地域・中東地域を対象として、法律専門家向けのニュース、各種情報を書籍及びオンラインを通じて提供しています。そのほか、ランキングの作成・授賞式の開催、サミット・コンファレンス開催(法律事務所に対するプロモーションとネットワーキングの機会提供)、広告の掲載なども行っています。 https://www.legalbusinessonline.com/about-us 2011年にトムソン・ロイターがALBを買収したため、現在ALBの母体はトムソン・ロイターとなり、その拠点は世界各地にありますが、日本のトムソン・ロイター(内ALB Japan)は東京都港区愛宕に所在しています(Asiaは全15拠点)。 ALB自体の各拠点(所在地)は明示されていませんが、トムソン・ロイターの各拠点内に存在していると思われます。 ALBではオンライン上でも様々な記事が掲載されています。 そのほか雑誌(ALB Magazine)の発行実績や読者層等については、添付の概要Wordをご参照ください。 問2.前回と前々回の受賞者のリストとその受賞理由 前回と前々回の受賞者リストは以下のリンクをご参照ください。受賞理由は開示されておりません。(過去に理由を尋ねたことはあるものの開示されず、優れた活躍や業績に対して送られる、とのことのみ。) ■前々回:2022年の全受賞者 https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2022#edit-group-winners ■前回:2023年の全受賞者 https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2023#edit-group-winners 問3.今回の受賞者の選定委員、候補者、候補となった理由 応募者は所定のフォームに応募対象となる案件/事柄の概要等を記載の上ALBへ提出し、それをもって例年候補者が選出されます。ただし候補者の選定理由は開示されておりません。 また現時点で開示されている選定委員は以下リンク先の通りで残りのメンバーは当日会場にて開示されます。 ■今回:2024 ・候補者 https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2024#edit-group-finalists ・選定委員(残りは当日会場で開示) https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2024#edit-group-judges 問4.前回や前々回のスピーチの内容 ■広報で尋ねた際のスピーチ内容に関するALBからの回答 And about the topic. As we expected, all guests in the ballroom are from the legal industry, and the GOH may have some thoughts or knowledge that he can share with peers. For example, it is fine to cover some life sharing from Yamamoto san, with his experience or insights as a lawyer or a Former Justice, or any views he would like to share about the recent legal industry, etc. Sometimes, we did have GOH sharing some interesting short stories on stage. We are open-minded about the speech content. ■ご参考までに: 過去の主賓(開会式スピーチ) ・2022年(Mr. Keiichi Hayashi) https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2022#lawawardtab1 ・2019年(Mr. Katsumi Chiba) https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2019#lawawardtab1 問5.授賞式に招くゲスト、出席者のリストと所属事務所 出席者名簿は開示されておりませんが、問3の候補者のリストに載っている人・事務所は、全員ではないものの授賞式へ出席の確率が高いです。 https://www.legalbusinessonline.com/law-awards/alb-japan-law-awards-2024#edit-group-finalists 問6.今回の授賞式の意義 例年、日本の評価すべき事務所・弁護士の表彰のためのイベントとして開催されていますが、関係者が一同に会するため関係者同士の交流も大きな意義となっています。 ああ、なるほど、そういうことか、、、特に、2022年の主賓の林景一さん、2019年の主賓の千葉勝美さんは、いずれも元最高裁判事の同僚だ。では、私も出席せざるを得ない。 別途、確認のために同業の息子に聞いたら、「この種の『受賞』は、個人としても事務所としても、名誉なことで、その仕事が評価されて『励み』になるし『宣伝』にもなるから、できれば受賞したいものだ」というものらしい。つまり、弁護士個人として、あるいは法律事務所として、絶好のPRの機会を提供してくれるのだそうだ。 念のため、広報にドレスコードを聞いたら、「ブラックタイ」とのこと。私はもちろん持っているのだが、最後に着たのは確か、7年前だ。洋服ダンスから取り出してみると、まだ着られる。ところが、カマーバンドやらエナメル靴、オニキスのスタッドボタン・カフスボタンが見当たらない。1年半前の引越しの際に捨ててしまったのかもしれない。イカ模様のシャツは洗濯に出していたのに、襟が黄色くなって使い物にならない。仕方がないので、日本橋高島屋のカインドウェアに一式買いに行った。思わぬ出費だ。 2.受賞式当日の私の挨拶 六本木の東京ミッドタウンにあるリッツカールトンが会場だ。当初は午後6時と聞いていたのに、直前になって6時半という連絡が来た。道が混むと行けないので早目に出たら、6時前に着いてしまった。場所を確認した後、ミッドタウンのアゼリアで時間をつぶすことにした。歩いていると、「虎屋」に喫茶がある。そこで甘いものを頼み、今日、何を話すかを考える。わずか5分間だから、何か記憶に残る話題が良いなと思い、こんなことを喋ることにした。 「人間何をするにも『ひらめき』が大事、今日の皆さんもそれがあってはじめて受賞に至ったと思うが、私も同じことを経験した。でも、良い『ひらめき』は、直ぐに真似されるものなので、これに終わることなく、引き続き良いアイデアを出して行ってほしい。」 会場に着くと、ロビーにたくさんの人が集まりはじめている。知り合いはいないかと思ってその中をかき分けて行くと、当法律事務所のお二人の先生がおられた。しばし談笑する。時間になって会場に入ると、舞台前のメインテーブルに案内された。私の隣は、中国人女性だ。シンガポールにいる「Amantha Chia」さんという方で、この事業の責任者らしい。テーブルは、ざっと見て20ほどある。各テーブルで10人は座っているだろうから、200人は集まっている。 司会の女性が、日本語と英語で開催を宣言する。「Amantha Chia」さんが挨拶をして、すぐに私の番となった。見たところ日本人が8割、外国人が2割といったところなので、最初は英語で、これから日本語で話すと断って次のような挨拶をした。 Good evening ladies and gentlemen. I am honored and delighted to be here tonight for the special occasion of the 20th annual ALB Japan Law awards. When I look around here, I think most of the participants are Japanese, soー let me speak in Japanese. ただいま、ご紹介に預かりました山本庸幸と申します。私は、アンダーソン毛利友常法律事務所に所属しているのですが、そこでもご紹介をいただいたように、私は46年間、公務員を務めまして、最初の20年間は通産省で行政を行い、次いで内閣法制局で法案を作る仕事を20年間行いました。そして最後に最高裁判所の判事を6年間勤めております。考えてみたら、三権のうち、行政、法案を作るだけですが立法、そして司法という三権を全て経験したことになります。 本日お集まりの受賞者の皆様方は、それぞれご専門の分野で素晴らしい業績を挙げられた方々です。その背景として、日頃の業務が評価されて重要な案件を受任されただけでなく、何らかの「ひらめき」があり、知恵に知恵を絞ってこれに取り組み、それが実を結んで今日のこの受賞式に列席されたものです。 私も、三権を経るうちに、同じように「ひらめいた」経験を何度かしたことがあります。それを一つ、ご紹介したいと思います。 平成16年の内閣法制局にいた時のことです。警察庁の皆さんがやって来られて、「いま、駐車違反が大変なことになっている」というのです。特に東京と大阪の駐車違反摘発数が激減していました。確かにその頃、銀座を歩いていると、二重駐車どころか三重四重に駐車していて、わずかに真ん中の一車線だけが空いていてそこを交互に通行するという有様でした。 なぜこんな事態になったかというと、当時、ピッキングという泥棒が年に百万件単位で急増し、それへの対応で交通警官まで動員されてしまったものですから、駐車違反を取り締まる警官がいなくなったからです。 警官の数を増やせないのかと聞くと、どの都道府県も増やせないという。では仕方がない。警官ではなく監視員でも置いて、それに取締りを代わってしてもらうしかないと思いました。これなら、人件費ではなく、政策費から出せるわけです。しかしその時に立ちはだかるのが、公権力の行使主体は、公務員でなければならないというドグマです。 これには、困り果てたのですが、ふと思いついたのが、監視員は単なる補助する人に位置付ければよいというアイデアです。つまり、その当時写メというのが出始めた頃です。駐車違反の車を見つけたら、監視員が写メで撮ってそれを県警本部にいる警官に送る。これを見たその警官は、駐車違反と判断して交通反則の告知を決定する。これが公権力の行使となります。そして、その告知書を違反車両に貼れと監視員に命ずる。この監視員が関わる行為は、写メとともに事実行為と位置付けられるというわけです。 これで駐車違反は撲滅できたのですが、その翌年に法務省から出てきた法案にはびっくりしました。この私のアイデアをそっくりそのまま使っていたからです。 山口県美祢市に新たに作る刑務所をなるべく民営化するということで、「例えば中央監視所に民間会社のガードマンを置いて24時間監視させる」というのです。では、「受刑者が逃げ出したらどうするのか」と聞くと、その場合は「直ちに刑務官に連絡して捕まえてもらう。これが公権力の行使となり、ガードマンの業務は単なる補助という位置付け」だそうです。 何か笑い話のようですが、新しいアイデアを「ひらめいて」も、すぐどこかで真似をされてしまうという実例です。この分野では、特許や著作権で保護されるということは望めないものですから、本日の受賞者の方々は、誠におめでたいことなのですが、これにとどまらずにますます精進されて、他に追随を許さないような、新しいアイデアで勝負して頂きたいと思います。ご清聴ありがとうございました。 3.受賞者の発表とお開き さてそれで、いよいよ個別部門の受賞者の発表である。50近い分野に別れて行われる。紛争解決弁護士、女性弁護士、若手弁護士、銀行金融サービス、エネルギー資源、投資ファンド、知的財産権など、それぞれについて候補が読み上げられ、最後に「受賞者は、○○弁護士又は○○会社、〇〇法律事務所」などとやって、その読み上げた人がトロフィーを渡す。ついで、その受賞者が喜びの短いスピーチをするという具合に進行していく。 それだけでは見物人が飽きると思ったのか、二度ほど3人の女性バンドが出てきて、エレキギターをかき鳴らす。中には、「モスラー、やっ」と歌っている。私などは懐かしくて嬉しいが、こんな半世紀前の今や化石のような歌を知っている人はいないだろうと思っていたら、案の定、周りの日本人は「何のことだろう」と全然知らない。もう笑い話だ。でもまあ、受賞かどうかでピリピリしている雰囲気を和らげるという意味では効果があった。 隣のChiaさん、バリバリのビジネスウーマンといった雰囲気の方で、仕事のことばかり機関銃のように話してくる。典型的なシンガポール人だ。私が、「熱帯の海が好きで、今度パンコールラウのリゾートに行ってくる」と水を向けると、「それはどこ?」と聞いてくる始末。あんなに有名になっている隣国マレーシアの海浜リゾートなのだから、知らないはずはないと思っていたので、いささか意外だった。私が「リゾートには行かないのですか?」と尋ねると、「先日は家族でクアラルンプールに5日間滞在した」とおっしゃるので、それとこれとはレベルが違う。どうやらワークホリックのタイプのようだ。 さて、受賞者の発表は続き、法律事務所に所属の弁護士のほか、社内弁護士の方もおられる。また、飛び抜けた案件を手掛けた会社などもあった。なるほど、こうやってスポットが当てられて、皆さん嬉しそうだし、これからの励みにもなるだろう。民間法曹界の欠くべからざるイベントになっているようだ。それやこれやで、午後10時半前にお開きとなった。 【後日談】 翌朝、同業の息子のところに、「あなたの法律事務所も何件か受賞していたけど、どうだった?」と聞いた。すると、「ありがたいことに自分もグループで受賞したけど、自薦の案件ではなく、他薦の案件だからびっくりした」とのこと。そういうことも、あるのか、、、。まあ、公平に選ばれている証左なのかもしれない。 (令和6年6月12日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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