悠々人生エッセイ



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1.高齢ドライバーへの風当たり

 高齢ドライバーによる交通事故が相次いでいる。アクセルとブレーキの踏み違いで横断歩道を歩いている歩行者の群れに突っ込んだり、道路脇の商店に飛び込んだりする事例が、後を絶たない。

 なかでも悪質なのは、2019年4月19日に東池袋で起こった暴走事故で、当時87歳だった飯塚幸三受刑者がアクセルとブレーキを踏み間違え、横断歩道を自転車で渡っていた母子を一瞬にして死亡させ、その他9人に重軽傷を負わせたものである。

 事故当初、飯塚被告は「踏み間違えた記憶がない」と言っていたが、車両の検証などを経て、裁判で踏み間違いと認定され、2021年9月に東京地裁で過失運転致死傷の罪で禁錮5年の刑を宣告されて確定した。その後、齢90を過ぎているというのに、収監された。

 高齢ドライバーによるこんな事故がたびたび起こるので、運転免許の更新手続がますます厳しくなって迷惑だ。その際たるものが、この認知機能検査である。私も、75歳の誕生日を迎える前に、警視庁からハガキが来た。それによると、まずはこの認知機能検査を受け、次に高齢者講習等を受けて、ようやく免許証を更新できるそうだ。面倒なことになった、、、昨年は高齢者講習だけだったのに、、、と思いながら、認知機能検査に行ってきた。


2.認知機能検査

 認知機能検査を受けるには、予約しなければならない。警視庁のハガキにその予約ができるQRコードがあったので、それで警視庁のWebサイトを開いた。そこにハガキに記載された予約番号、予約者情報などを打ち込み、検査の場所を選んで、予約を行った。

 検査の日、その警視庁滝野川庁舎に行ってみた。最寄りの駅は、都営新宿線の西巣鴨である。A3出口を上がり、高架のある交差点に出て、iPhoneを開いて経路を確認し、その方向に歩いて行った。少し行くと左手に大正大学があり、更に行って右側に渡り、通りに沿ってもっと進んで行くと、出発から8分ほどで、滝野川庁舎に到着した。

 玄関を開けて入ると、そこは待合室で、私と同年代の人達が十数人が座っていたから、私もその仲間入りをした。時間の5分ほど前に係員が一人出てきて、まず全員の名前を確認した後、「手数料1,050円を支払ってもらうが、先にお釣りのない人から窓口に来ていただき、次に1,100円の方、最後に10,000円の方とする」という。

 待合室の一角が金銭収納窓口で、そこで支払うと、まあ立派な領収書をくれる。全員が支払った後、それぞれにA4型ボードに挟んだ紙と運転免許証をセットしたものを渡され、更に10分ほど待たされて、隣の中間待合室のような部屋に通された。そこには、壁際に(1)から(15)までの番号が書かれていて、私はボードに挟まれた紙の記載に従い、(15)に座った。

 係員が「皆さん、タッチペンは使ったことありますか。タブレットを渡すので、最初のページの青いところをなぞって確認し、それからお名前を書いてください。次のページから検査が始まります。書き損じは、二重線で消してください。書いたそばから自動的に採点され、合格点に達したら、合図が出るので、そのまま席を離れて結構です」という。

 数人ずつが呼ばれて検査室に向かった。係員によると「東京都は9人分のタブレットしか予算を付けてくれないから、しばらくお待ちください」という。納税者に対する嫌味か、何なんだこれは、、、。

 検査室の脇でまた待たされる。その一方で、検査室から出てくる人がいる。最初に出てきたのは、ヨボヨボの杖をついている人だ。待合室で最初見かけた時は、まだ運転しているのかと、驚いたのだが、そういう人が実は頭は耄碌していなかったとはと、二度驚く。人は見かけによらないものだ。

 その人は、最初の待合室で、係員から青い紙をもらい、氏名と住所を確認して、無罪放免となった。検査室より次から次へと人が出てきて、同じように青い紙をもらっている。何だ、落ちる人などいない検査なのかと安心する。

 いよいよ、私の番となる。「手元のスマートフォンは音量をオフにして時計はしまって下さい」というので、その通りにして机に座り、タブレットを前に、両耳を覆うレシーバーを着用する。タッチペンを握り、係員に言われた通りに名前を書いて、検査スタートだ。


 最初の問1は、画面が縦横4つの長四角に区切られていて、それぞれに、大砲、オルガン、耳、ラジオが描かれている。そして耳を被ったレシーバーから「これは大砲で、戦いの武器です」などと聞こえてくる。次は「これはオルガンで、楽器です」、「これは耳で、体の一部です」、「これは、ラジオで、家電製品です」と続く。

 「こんなのを覚えるのか、、、脈絡がないので、覚えられない。最初の大砲だけ記憶して、次はオルガンも楽器も、耳にうるさいと覚えてしまおう。すると、最悪の場合は、大砲と耳だけは残るから、点の半分は確保できるので、あとは問2か問3で稼げば良いだろう」と考えた。


 それは数分で終わって、次の画面に移る。今度は、てんとう虫、ライオン、竹の子、フライパンだ。最初の二つは『小さなものと大きな動物、後二つは、竹の子をフライパンで料理する』とでも記憶しよう」。それも数分で終わり、更に次の画面に行く。物差し、オートバイ、ぶどう、スカートだ。これも覚えにくいが、オートバイ、スカートは覚えやすい。その次は、にわとり、バラ、ペンチ、ベッドだ。最後の二つは「ペ」と「べ」から始まると思えば楽勝だ。

 問2は、数字の羅列があって、例えば「7と2を消せ」というものだ。あまり一生懸命にやると問1の内容を忘れかねないので、これをやりながら、問1が本命だろうからその絵を思い出すようにして、適当にやり過ごした。

 問3は、問1の内容を思い出してそれをタッチペンで書けというもの。いよいよ来たかという気がして、16の空欄を埋めて行く。半分は直ぐに書けたが、あとはかろうじて思い出しつつ12か13を埋めたところでタイムアップ。でも、これだけ出来たから、楽勝だろう。

 その次が「『戦いの武器』、『楽器』、『体の一部』などというヒントを与えるから、そのアイテムを書け」というもの。これで追加で二つ思い出して書き、時間の経過を待たずに直ぐに「次へ」のボタンを押した。こういうところは、我ながらせっかちだと思う。

 すると問4が画面に出てきて、「今日は何年何月何日の何曜日ですか」などと聞かれる。最初の欄に「2024」と記入して次の月に移りかけたところで、タブレットの上部に「合格です。お帰りください」と表示された。そんなことで、呆気なく検査は終了してしまった。AI(人工知能)か何かで、書いたそばからそれを読み取って採点をしているらしい。この調子で「頭を使う」人間の仕事がなくなっていきそうだ。今日の係員は、案内係をやっているだけだ。これが時代の流れならば、悲しいことだ。

 ということで、何のこともなく終わったが、見ていると、15人のほとんどが受かっていた。それならば、あまり意味のない検査だと思った。ともあれ、最後に名前が呼ばれて「認知機能検査結果通知書」という青色の紙を渡され、名前と住所を確認して受領した。そこには、「『認知症のおそれがある』基準には該当しませんでした」と書かれていた。


 それにしても、つまらない検査だったなぁと思いながら、帰宅して警視庁のホームページを見ると、何とまぁ、あの検査問題と採点基準が載っている。検査問題は、手掛かり再生(最大32点)と時間の見当識(最大15点)から成る。前者はパターンAからDまでがあり、各16問だから最大64問である。私が受けたのはパターンAだったらしい。そして後者が始まったところで、終わってしまった。

 採点基準も載っていた。手掛かり再生は、1つにつき2点、ただし自由回答は2点だが、手掛かりを必要としたものは1点だ。時間の見当識は、年5点、月4点、日3点、曜日2点、時間1点らしい。時計も持っていないのに、時間がズレたらどうするのかと思っていたら、「始めてください」と言った時刻から前後30分ズレていなかったのなら正解とするようだ。

(計算式)
  総合点 = 2.499×A+1.336×B
    A 手がかり再生の点、 B 時間の見当識の点

(総合点と結果の判定)
  総合点によって、認知症のおそれがある者又は認知症のおそれがない者に判定します。
  ア  認知症のおそれがある者 総合点が36点未満


 ということは、前者の手掛かり再生が自由回答で全問正解だと、それだけで79点だから36点のラインをはるかに超えているので、もう合格だ。ということは、手掛かり再生だけで合格しようとすると、全部を自由回答で8つ正解するだけでよい。逆に後者の時間の見当識の全問正解では20点しか取れないので、それに加えて前者の手掛かり再生を自由回答で3つ、手掛かり回答で1つ正解出来れば、合格となる。なるほど、そういうことか、道理で不合格者がいなかったわけだ。それにしても、事前にこの警視庁のホームページを見ておくべきだった。試験だから、問題や採点基準など載っているわけがないとの先入観にとらわれてしまっていた。


3.高齢者講習等

 気を取り直して、次の週は高齢者講習等に出かけた。昨年は足立自動車学校で受けたから、今年もその代表電話に掛けたところ、高齢者専用の電話に掛け直させられた。それだけでも不親切なのに、そちらへ電話してみると、「もう6月の分は終わった。7月の分はまだ受け付けしていない」などと悠長なことを言う。こんな対応では、商売っ気がないとみなさざるを得ない。そこで、ほかの自動車学校を探すことにした。すると、京成ドライビングスクールというのがあった。電話に出てくれた人も、愛想がよい。千代田線の綾瀬からも北千住からも行ける。よし、これにしよう。昨年は、何とかパスしたのだから、また今年も大丈夫だと思いたい。

 京成ドライビングスクールに着いた。昨年の足立自動車学校の方は若い人がいっぱいいたというのに、こちらはほとんど人がいない。実地講習の方を見ると、大型のトラックが走り回っているなど、かなり様相が違う。これは間違えたかと、一瞬思ったほどだ。高齢者講習等の受講者は、わずか4人だ。これで大丈夫かという気もしないではなかったか、待っていると指導員が来て、受講料8,000円を払い、高齢者講習等が始まった。(1) 運転適正検査、(2) 講義(座学)、(3) 実車指導が、合計2時間以上とのこと。

 その前に指導員が、「この高齢者講習等を受けたことがある人?」と聞くから、私は手を挙げて、「去年受けた」と答える。すると指導員は、「また今年も受けるなんて、考えられない」と言う。私は「そんなことを言ったって、昨年もこのハガキが来て、今年もまた同じハガキが来たので、2回目の受講になる」と説明したが、納得していない。講習が終わってから調べると、やはり私が正しかった。70歳で免許証を更新すると、有効期間は普通は5年のところ、4年しかない。だから私は昨年このハガキに基づいて高齢者講習等を受けた。そして今回新たな更新期間を迎えているので、また高齢者講習等を受けなければならないのである。

 (1) 運転適正検査は、静止視力、動体視力、夜間視力、水平視野を測る。動体視力は、ランドルト環が遠くから近づいてくる。時速30kmだそうだ。それを60秒内に切れている方向を当てよというのだが、何とかこなした。

 次に夜間視力は、30秒間、照明に照らされた後で、切れている方向を当てよという。これが困った。正面には白くぼやけたようなものがあるし、その下にぼやけたオレンジ色の丸いものがあり、どちらなんだと困惑する。でも、白いものは照明の残光だと判断して、オレンジ色のものを目をこらして見て、レバーを押した。ギリギリの59秒だ。危なかった。

 水平視野は、左右どれだけ見えるかという検査で、真ん中の目印に注目しつつ、左右何度の角度まで見られるかというもので、私は左右合わせて150度だった。私の歳では、平均値とのこと。20歳くらいの子だと、200度を超えているのが普通らしい。

 (2) は、いただいた二冊の交通教本をレクチャーするらしいが、とても時間が足りない。中でも驚いたのは、指導員による高齢者マークの説明がいい加減なことだ。「このマークを付けていると、前後を走る車が配慮してくれる」というのは良しとして、「保険だって少しは安くなるかもしれない」というが、本当だろうか?むしろ60歳以上になると保険が高くなるはずだ。ただのマークで安くなるはずがないと思うが、私はペーパードライバーだから確認はしていない。

 (3) 実車指導は、昨年と同じく1台の車に1人の指導員と2人の受講者が乗る。私は今年も車に乗るのは2番目だったから、昨年と同様に後部座席から前の人の運転を参考にできたのはラッキーだ。前の人が終わり、いよいよ私の番になった。フートブレーキを踏み、エンジンを掛けてサイドブレーキを倒し、ギヤをDレンジに入れて出発した。外周を半周してから左折し、信号で止まり、また外周に入り、、、とやっているうちに、昨年とは異なる指示が二つでた。

 それは5cm程の段差でいったん止まり、アクセルを吹かしてその上に乗り上げてすぐにブレーキをかけることだ。アクセルとブレーキの踏み間違いを防止する訓練だそうだ。もうひとつは、登り坂を上がり切る直前でいったん止まり、アクセルを踏んで上がることだ。昔の言葉で言えば坂道発進である。ということで、今年も呆気なく終わってしまった。それにしても、いい加減な指導員だった。

 そういうわけで、昨年同様に「高齢者講習終了証明書」(東京都公安委員会名)をもらって帰った。これからまた、免許証の更新に行かなければならない。誕生日の前後1ヶ月以内だそうだ。


高齢者講習と免許証の更新(令和5年)







(令和6年5月23日著)
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