悠々人生エッセイ



ドリアンの実を割ったところ




 ドリアン農園( 写 真 )は、こちらから。


 私のドリアン熱は、正にとどまるところを知らないがごとくである。先日、マレーシア在住の友人から、「皆でドリアン農園に行くから、一緒に来ないか、ひと部屋取っておく」と連絡があった。これは絶好のチャンスだ。今はドリアンシーズンの幕開けである。ちょうど現地での仕事を頼まれていたこともあり、急遽、日程を調整して、飛行機に飛び乗った。

マレーシアに向かう機内から


 コロナ禍の3年間、国内でクレジットカードを使う一方、内外を問わず旅行ができなかったことから、マイレージが貯まりに貯まっている。だから、その消化にちょうど良い。ただし、燃料サーチャージなるものが付加されるので、それは支払わなければならない。今回の往復では、4万6千円だから、それなりの費用はかかる。

 クアラルンプールから北へ車で1時間半ほど行ったベントンという町のはずれに、そのThe Water Way Villa(旧景徳果園休暇村)、pdfがあった。ベントンには、はるか昔にゴルフをしにきたことがある。のんびりした田舎町だ。ちゃんとした中華料理店は、3軒しかない。その一つに入って昼食を注文したが、出てきたのはまさに田舎の中華料理といったところ。でも、それなりに美味しく食べられた。

ドリアン農場メインの建物


ドリアンの絵が描かれた小屋


 さて、そのドリアン農園に着いた。正面上部に「縁」と書かれたメインの建物の向かい側に、ドリアンの絵が描かれた小屋がある。そこで早速、ドリアンの最上級ブランドである猫山王(ムサンキング)をいただく。実は小振りだが、真っ黄色でクリーミーで、匂いはさほどではない。口に入れると、とろけるような香りが広がり、品の良い甘さが口の中に満ちてくる。ただ甘いだけでなく、少し渋味もあるが、それもやがて甘さに変わる。これが猫山王の特徴だと思う。お値段は1キロ当たり28リンギット(845円)で、地元のベントンでは35、クアラルンプールでは50リンギットはするとのこと。しかし、それにしても安すぎると思ったら、猫山王の中でもA、B、Cとランクがあり、これはCランクだそうだ。でも、美味しかった。

 ちなみに、このABCは、味ではなく、そのドリアンの大きさで分けるようで、2.2kg以上をAランク、1.6kg以下をCランクとし、その間をBランクとしているそうだ。確かにAランクのものは、丸くて大きい。これに対してCランクは、変に曲がっていたりして、2粒しか入っていないようなものばかりだ。

ドリアンの外見


ドリアンの実を割ったもの


ドリアンの実を割ったもの


 ドリアン農園を一望できる所に連れて行ってもらった。農園の開設は、2009年だから、もう14年が経過している。日本では、桃栗3年柿8年と言われるが、ドリアンは収穫までに柿並みの8年かかる。早くて5年だ。ドリアンの実は、朝方4時から5時にかけて、熟したものからポトリと自然に落ちてくるそうだ。中には午前11時に落ちるものもあるようだが、それは稀で、ほとんどが4時から5時の間だという。それを拾い集めて売るのを生業としている。時折り、猪や猿が現れて落ちたばかりのドリアンの実を掻っ攫っていくから、油断がならないという。

ドリアン農場の道


ドリアン・プランテーション


 後ほど、ドリアンの木に近づいて、じっくりと眺める機会があった。実らしきものがぶら下がっていた。この写真を後から拡大して見直してみたら、まだ花の段階だった。まだまだ小さいから、このうちから摘花するのだと思う。本当なら、幹からぶら下がっているドリアンを撮りたかったが、「それにはこの谷を下って、あの山を登る必要がある」と言われて断念した。

ドリアンの花


 ドリアン農園と言っても、今はまだ、シーズンの初めだから1日当たり20個から30個しか獲れない。しかし、シーズンピークの8月になると、200個になるとのこと。そうなった時には、泊まり客にタダで配るのだそうだ。この農園で働くインドネシア人労働者の数は、全部で250人、平均賃金は、月1,800リンギット(約6万円)の由。オーナーの方針で、労働者の中には、女性は入れないそうだ。何かと揉め事の種になるからだという。

ドリアン農場の道


 我々がドリアンを美味しく食べていると、全てマレーシア華人の退職者らしきグループが5組10人でやってきて、同じようにドリアンを食べ始めた。ときどき、食べる手を止めて、大笑いしている。何を言っているのかと同行の家族に聞くと、この人たちは、クランに住む同じ団地の知り合い同士、つまり町内会のつながりで来ている。中のひとりのおじさんが言う。「若い頃は、彼女の顔を見ているだけで、胸が熱くなり、愛し合って結婚した。まさに『ラブ』だ。ところがそれから何年かして、『責任』が生じた。責任感で生きてきたようなものだ。ところが今では、隣にいても、何とも感じない。『無(ゼロ)』のような存在だ。そのうち、お互いこの世から全部消えてしまう。『バニッシュ』だ。わっはっは」、、、なるほど、ラブ→責任→無→消滅か、、、面白いことを言うものだ。ただし、隣の奥さんの表情を見逃してしまった。

泊まったコテージ


泊まったコテージ


 泊まったところは、コテージである。全て竹でできていて、雨漏りしないかと心配になったが、大丈夫だった。夜中に「チチッ、チチッ」と鳴くものがいる。知らない人には不気味に思えるだろうが、私はこの国の一軒家に住んだことがあるので、直ぐにわかる。正解は、家守である。何十年ぶりにまた聴くとは思わなかった。朝になると、「チチュン、チチュン、チーチーチー」などと賑やかな小鳥の囀りで目が覚める。やや湿った空気の中、明け方に散歩をすると、気持ちがよい。自然そのものだ。花も綺麗だし、これだけでも、来た甲斐がある。

花


 朝食を摂ったら、またドリアンの時間だ。猫山王(ムサンキング)を持ってきてもらった。とても大きな実だ。いささか匂いが強く、中を開けてみると、それが際立つ。黄色い実を口にすると、昨日のドリアンより更にクリーミーでジューシーで、口の中でとろけるようだ。ドリアンは、身の回りにへばりついている黄色のクリームの部分を食べるが、普通のドリアンは、その実が大きくて、食べるクリーム部分が少ない。ところが今、口にしているものは、その実がへらべったくて食べられるクリーム部分が多いので、大いに満足した。

猫山王(ムサンキング)


 「これは、Aランクだね」と聞くと、「その通り、輸出用だ」と言う。ちなみに、1キロ当たり48リンギットが定価というから、昨日のCランクの倍近い値段だ、、、大きなドリアンでは3キロあるのはざらなので、「これだけで150リンギット(4,530円)かぁ、、、高いなぁ」と思っていたら、同行の友人が「8個まとめ買いするから半分にしてくれ」と交渉に出て、本当にそうなってしまったから、私は目を丸くした。定価販売に慣らされた日本で育った私には、どうにもやりかねる値下げ交渉だ。しかしマレーシアでは、これをやらないと、生きていけない。

近くの緑


 あと、こちらの商習慣で、値下げ交渉と並んでこれは馴染めないなぁと思うのは、不動産取引、特にマンションの購入である。よく日本で「マレーシアのマンションを買いませんか」などと宣伝しているが、あの口車に乗って買うと、とんでもないことに巻き込まれるはずだ。というのは、こちらのマンションを買うと、文字通り「最低限」の設備しかない。そのままでも住めなくもないが、ほとんど大改造しないと住めない代物なのである。まあ、スケルトンで買うようなものだ。

 だから新築マンションを買うと、買った直後からオーナーは、電源の配置、飾り棚、備え付け家具、テレビ台セット、キッチンのシンク、トイレなど、大規模リノベーションに踏み切り、原型をとどめるのは、大理石を敷いた床だけという有り様になる。しかも、コントラクターは専門分化していて、電気屋、家具屋、大工などと入り乱れるから、それらを総監督するのをオーナーが自分でやらなければいけない。それが難しいし、気を遣う。例えば、電気屋を叱ろうものなら、後日、発火しかねないようないい加減な仕事を意図的にするから、危なくてかなわない、、、まあ、そんな世界だから、ここでマンションを買って永住するようなことは、考えない方が無難である。もっとも、最近は三井不動産が日本式のマンションの売り方をし始めているそうだから、それなら安心かもしれない。その代わり、その分、価格はさぞかし高かろう。良し悪しだ。

キャンプ場を流れる泥川と化した清流


 農園近くのキャンプ場に連れて行ってもらったが、残念なことに傍に流れるのは泥川である。説明によれば、政府が東海岸に繋がる鉄道を建設しているところで、中国企業が落札して、環境への影響など全く配慮せずに昼も夜もガンガン工事しているから、それ以来、清流だったのが泥川になったそうだ。悲しい話である。

 あと、こちらでは、色々な花が咲いている。中には、日本では熱帯植物園でしかお目にかかれないものが、目の前に生えている、、、当たり前か。最近では、グーグルレンズといって、その花に向けてiPhoneで写真を撮ると、画面にその花の名前の候補が出てくるという便利な仕掛けがあり、それを使ってみると、実に楽しい。これこそ、テクノロジーが可能性を広げてくれるというものだ。

Coral Bush


グーグルレンズ


グーグルレンズ





(令和5年6月12日著)
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