私は、それこそ、何十年ぶりに、サーカスを観に行った。シルク・ドゥ・ソレイユ(CIRQUE DU SOLEIL)の代表作「アレグリア(ALEGRIA)」である。その感想だが、まるで舞台劇を見に行ったような美しい衣装、そして芸術的な背景と照明の中で、様々な芸が披露される。ひやひやするものもあれば、美しいなと感ずる芸もあるし、これは珍しいと軽く驚く芸もある。単なるアクロバットというよりは、思った以上に芸術的要素が高い。いやぁ、本当に面白かった。
私がまだ小学生だった頃は、サーカスといえば「木下大サーカス」が代表的なもので、そのころ住んでいた福井の田舎町にもやって来た。空き地に、2本の棒に支えられたテントを設営し、そこにブランコの綱と安全ネットを張り、動物を収容する一角を設けた粗末なものである。うらぶれたという雰囲気は隠せない。 その一方、ジンタというサーカスの曲を流しながら、客寄せのピエロが繁華街を練り歩いたものである。我々悪童どもはその後ろに付いて回り、その真似をしながら笑い合っていたものだ。 それで、親にサーカスそのものに連れて行ってもらった。すると、まず、あの動物臭が鼻についてかなわなかった。でも、不思議なことに、しばらくするとそれも慣れてしまう。いよいよ始まると、ライオンや象もシマ馬も出て来た。どれも、田舎の少年には、めったに見ない動物ばかりだ。しかも、白いライオンがいたから、ビックリしたことを今でも覚えている。アルビノというのだろうか。 ちなみに、もう少し時代がくだると、ライオンや象など大型動物はいなくなり、代わりにスピッツのようなワンちゃんたちが10匹近く丸く設えた椅子の上に乗って、集団で演技していたことを思い出す。希少な大型動物を見せる移動動物園のような役割は終えて、飼いやすくて手軽な小型動物に替えていったのだろう。希少動物の保護の機運が高まってきた時代の流れもあったのかもしれない。しかし、今回のアレグリアでは、動物は一切、出てこずに、全て人間による芸となっていた。動物愛護が極まると、こうなってしまうのだろう。 木下大サーカスに話を戻すと、記憶に残っているのは、舞台の真ん中に大きな鉄の球が出現したことである。球といっても、スカスカで中がよく見える。その中に、オートバイが何台か入って、ブォーン・ブブォーンという爆音を立てながら疾走するのである。もちろん、球だから真っ直ぐには走ることができなくて、最初は下半球をぐるぐる回っているだけだが、スピードが乗って来るに従って、斜めに走ったかと思えば、遂には縦に走ったりと、自由自在に球の中を走り回るのである。私は、ただただ、目を丸くして眺めていた。友達にこの話をすると、やはり観ていたそうで、同じ時代の同じ空間を生きていたのかと嬉しくなった。 そのほかの出し物としては、ピエロあり、空中ブランコありで、これは並みのサーカスにはどこでも良くある、ありきたりの出し物である。中でも空中ブランコだけは、感心した。特に膝をブランコに引っ掛けてぶら下がり、反対側からやってくるパートナーの両手を持って受け止めて一緒にスイングする、、、その時にパートナーが縦に一回転しようものなら、私の小さな胸の動悸が早くなる。落ちたら大変だ、、、これは相当な練習が必要だと思いながら、ハラハラしながら観ていたものである。 導入部では、てっぺんに灯りのついたねじれた棒がぐるぐると回っている。それを、赤い服を着たおじいさんが持ち上げて、、、から始まる。どんな意味があるのか、よく分からなかった。 それから「アクロ・ポール」というのだそうだが、HP(pdf)によると「世界初のパフォーマンスで、貴族たちは、棒高跳びで使うポールの上でバランスを取りながら跳ね、フライヤーをポーターの頭上高く舞い上げる」。 なるほど、白に金色の縁取りがあるあの高貴な服装は、貴族を意味しているのか、、、それにしても、棒高跳びの棒を肩に担いで、その上をぴょんぴょん飛び跳ねるとは、ちょっと考えつかないパフォーマンスである。これは凄い。確かに、世界初の発想だろう。 「ジャーマン・ホイール」というその次の出し物は、「巨大な車輪を回転させながらステージを横切る・・・人間ジャイロスコープとなって、ジャーマン・ホイールの内部やその周囲で流麗なアクロバットを披露する」とのこと。 いやはや、これも面白かった。周囲が光る大きな車輪がぐるぐると回って来たかと思うと、その周りでダンサーが飛び跳ねる。どこか、近代的のような、それでいて原始の味わいがある。 ああ、これこれ。二人による空中ブランコだ。これこそが、サーカスの原点である。金糸装飾の白い衣装を身に付けた二人の男女が、大きくスウィングしたかと思うと、相手方に飛び移る。その途中で、昔のような一回転どころか三回転もスピンする。それも、下に命の救命ネットがないのがすごい。「シンクロナイズド・トラピス・デュオ」というそうだ。 次の出し物は、「ファイヤーナイフ・ダンス」という。男性が、暗い中を両端が燃えさかる松明をぐるぐると回している。ハワイの男性の踊りに、こういう趣向のものがあった。ああっ、松明の数が増えた。身体の周りに揺らめく炎の数が多くなる。これは難しそうだ。火傷をしないかと、ヒヤヒヤする。 今度は一転して、二人の道化師の掛け合いが始まる。ど突き漫才あり、悲しみあり、笑い合っていたり、クラウンのやることは、どこでも同じだ。 「エアリアル・ストラップ」というのは、一面の吹雪の中を、カップルが舞い上がる。二人が空中で、離れたり、抱き合ったり、お互いの手を握り合ったりする。芸術的だ。 おやおや、フラフープが出て来た。演技者が、たくさんのフラフープを操る。手足でぐるぐる回りたり、体全体をくねくねさせながら、フラフープを自由に操る。それがたくさんの数なものだから、まるで扇を広げたようで、スポットライトを反射して光るトンネルがうねうねと動いているように見える。見事だ。 「パワートラック」というのは、二つのトランポリンを使う演技である。それも、10数人が参加して、高くポーンと跳んだかと思うと、それがタイミング良く交差して、別のところに着地したり、ぐるぐると縦回転したり、まるで重力がないが如くで自由自在だ。これも、凄い。次の演目「ハンド・トゥ・ハンド」も、空中に放り出されてビックリするほどきっちりと正確にキャッチされていた。 「フライング・トラピス」は、ステージ上に置かれた4つのブランコを中心に演じられる空中ブランコである。大勢が参加しているので、さすがにこれには、下に安全ネットが敷いてある。一番の見せ場は、膝でブランコにぶら下がっている演技者を目掛けて反対側からブランコで飛んでいき、手を離してキャッチしてもらう場面だ。両方の呼吸が合わないと、落下してしまう危険と隣り合わせだ。その人数の多さもあって、手に汗を握ることとなった。 「ハンドバランシング&コントーション」というのは、顔立ちからして中国人の女の子に違いない。身体を複雑な形に折り曲げるその演技は、美しさ、優雅さ、柔軟さという点で、とても他に真似ができるものではない。 (令和4年3月18日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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