悠々人生エッセイ



Dリスク判定






1.8月9日に提出した線虫がん検診の結果を待っていたら、9月6日、メールが届いた。それを開くと、なんとまあ、高リスクのD判定だったので、びっくりした。まさか、そんな・・・。そういえば、小泉純一郎元首相が、かつてこんなことを言っていた。「人生には三つの坂がある。上り坂と下り坂、そして『まさかの坂』だ・・・正に、それだなと言いたくなる結論である。さて、どうしたものか。

 実は私は、わずか3ヶ月前の6月21日に虎の門病院人間ドックを受けたばかりである。その報告書によると、腫瘍マーカーなどの値は、次の通り全て基準値内だった。つまり一般的に体内にはがんがなさそうだし、個別的に見ても肝炎ウイルスがないから肝臓がんももおそらく大丈夫だ。

 次に胃がんについてだが、私は8歳まで神戸で育った。その頃の神戸は上水道が普及していたから、私はピロリ菌には感染しておらず、従って胃がんには罹っていないはずだ。その人間ドックでは、念のため、胃の内視鏡検査を受けたが、何も指摘されなかったので、胃がんのみならず、食道がんにも罹患していないのは明らかだ。

     項 目       数値      (基準値)

(1)腫瘍マーカー

  AFP               2.7      (0.0〜10.0)
  CEA               3.3      (0.0〜 5.0)
  エラスターゼ1     57          (22〜221)
  PSA(PA)       0.78    (0.00〜4.00)


(2)肝炎ウイルス等

  HBs抗原      マイナス
  HC抗体       マイナス
  高感度CRP   0.063  (0.410以下)
  ピロリ菌       3未満      (10未満)

 私は若い頃から煙草が嫌いで、学生時代から今に至るまで一貫して非喫煙者で通しているから、肺がんの可能性も低い。現にその人間ドックで、肺のレントゲン写真を撮ったが、何の問題もなかった。あるとすれば、大腸がんだ。私は、3年前の6月に大腸内視鏡検査を受けた。そして5ミリ1個と3ミリ2個の小さなポリープが見つかったので、いずれも削除してもらって生検したところ、どちらからも、がん細胞は見つからなかった。大腸がんは進行が遅いので、検査しなくとも、それからまあ5年は大丈夫だろうというのが医師の見立てだった。

 私の日頃の生活習慣としては、まず、何の病気もしていないので、元気そのものだ。BMI は、23ちょうどだから、標準体型である。週3回、1時間半ほどテニスをしているので、運動不足のはずはない。だから、我ながら全くの健康体だと自信があったので、今回の高リスクのD判定にはとても驚いたという次第である。


2.しかし、そういう判定が出た以上、どういう種類のがんを抱えているのか、詳しい検査をしてみないと、何とも言えない。線虫がん検診では、がんがあるかどうかしか分からないので、男性だと13種のうちのどのがんかを虱潰しに調べないといけない・・・というわけで、リストを作って書き出してみた。そして、欠けているがんの検査を受けようとして調べていくと、MRI検査とPET−CT検査を受ければ、概ね全部を網羅できることが判明した。

 胃がん     ⇒ 6月に内視鏡検査済み
 食道がん   ⇒ 6月に内視鏡検査済み
 肺がん     ⇒ 6月にX線検査済み(元々、非喫煙者)
 大腸がん   ⇒ 6月に便潜血検査済み及び
               3年前に大腸内視鏡検査済み

 都合のいいことに、虎の門病院の人間ドックのオプション検査を受ける資格がまだ残っている(本体の検査後6ヶ月以内)。そのうちのPET−CT検査を予約したところ、3週間後の9月27日に受けられることが確定した。しかし、前立腺がんは、11月末しか空いていない。しかし、早く決着をつけたいので、そんなに待ってはいられない。

 そこで、ネットを検索すると、メディカルチェックスタジオ新宿クリニックというところで、MRIを使って膵臓がんと前立腺がんを検査してくれるようだ。しかも、すぐに予約ができた。この二つ以外のがんについては、都合の良いことに、そのPET−CT検査をすれば、概ね全てをカバーできる。もっとも、乳がんだけは検査できないが、そもそも男性にとってはこれは希少がんだから、検査しなくてもよいだろう・・・ということで、整理すると、こんなことになる。

 膵臓がん       ⇒ 新宿クリニックでMRI検査
 前立腺がん     ⇒ 新宿クリニックでMRI検査
 肝臓がん       ⇒ 虎の門病院でPET−CT検査
 総胆管がん     ⇒ 虎の門病院でPET−CT検査
 胆のうがん     ⇒ 虎の門病院でPET−CT検査
 腎臓がん       ⇒ 虎の門病院でPET−CT検査
 膀胱がん       ⇒ 虎の門病院でPET−CT検査
 口腔・咽頭がん ⇒ 虎の門病院でPET−CT検査


 乳がん         ⇒ 検査せず


3.さっそく、MRI検査をするため、9月12日にメディカルチェックスタジオ新宿クリニックに行ってみた。新宿三丁目駅のE3出口に直結した建物の2階である。膵臓がんに引き続いて前立腺がんの検査をやってくれるそうだ。

 当日、まずは、着替えをしてMRI室に入る。機械には「CANON」というロゴがあったので、元々は東芝メディカルだ。あの買収劇は6年前のことだったから、この機械はまだ古くはなさそうだ。まずは膵臓がん検査に入った。造影剤を飲まされてすぐに機械の上で横になる。頭から機械に入って、「息を止めて・・・吐いて」が繰り返される。最大20秒間も止めていなければならない。それは大したことではないのだけれど、その合間に、機械が「キーン、カツカツカツ、ガチャガチャガチャ」などと妙な騒音を出してうるさい。まあ、何とか我慢をして、30分ほどで終わった。

 次は前立腺がん検査である。同じ機械で、今度は足から機械に入って、同じような騒音を聞きながらの検査である。今回は、息を止めなくてよいから、その分、楽だ。騒音だけ我慢すればよい。これも、順調に進んで、検査が終わった。

 1週間で結果が来るということだったが、さっそく4日後にメールが来た。どちらも、がんではなかった。画像が添付されていたが、素人目にはそもそもどれが膵臓でどこが前立腺かすらわからないので、全く判読できない。

(1)膵臓がん

 【所見】
  膵臓に粗大な占拠性病変を認めません。主膵管の病的拡張像を
 認めません。
  上腹部に病的なリンパ節腫大はありません。
  総胆管はやや拡張していますが、総胆管の閉塞を生じるような
 明らかな病変を指摘できませんでした。
  観察条件下において上腹部にその他の粗大な異常を認めません

 【検査結果】膵臓に積極的に腫瘍性病変を示唆する所見を認めま
 せん。


膵臓


(2)前立腺がん

 【所見】
  前立腺の大きさは5.5×3.7×3.5cmほどです。
  前立腺には積極的に前立腺癌を示唆する所見を認めません。
  観察条件下の骨盤内に、病的なリンパ節腫大を認めません。
  病的な腹水貯留を認めません。

 【検査結果】積極的に前立腺癌を示唆する所見を認めません。


前立腺



4.ということで、ひと安心だが、残るはPET−CT検査で、肝臓、腎臓、膀胱、口腔、咽頭を調べないといけない。これらが無事だったら、大いに安心だが、この検査で発見できるがんは直径1センチ以上だというから、それより小さかったら発見できない。だから、また半年後か1年後に、PET−CTとMRI検査を受けようと思う。

 ところで、線虫がん検診のヒロツバイオサイエンス社が、フォローアップとして、ハイリスク判定が出た場合のサポートを提供している。「N−NOSE安心アフターサービス」というらしいが、その予約を入れて、9月15日にパソコン経由で相談してみた。

 線虫が反応することが分かっている「がん種」が15なので、そのうち女性特有の子宮がんと卵巣がんを除いた13種について、事前に検査状況を取りまとめておいた。それをもとに、質問した。

(問1)以上述べたほかに、がんを精密に検査する方法はあるか。
(答え)毎年の健康診断を恒例にしていて、このように何かあればMRIやPET−CT検査をされているのであれば、もうそれで十分です。

(問2)大腸がんは、3年前(2019年6月25日)に検査し、次は来年に検査するつもりだったが、それで良いか。
(答え)まあ、大腸がんは進行が遅いので、少なくとも4年に一度、内視鏡検査を受けていただければ、十分です。来年、やってみられたらどうですか。

(問3)腎臓がん、膀胱がんは、PETでは上手くいかないそうだが、ほかにがん検診をする方法はないのか。
(答え)確かに尿路系はPETでは分からないことが多いので、健康診断の血液検査による腎機能の数値を見ていけばよいと思う。

(問4)まさか、乳がんは検査しなくてよいと思うがどうか。男について調べる方法はあるのか。
(答え)それは、男性も女性と同じで、脇の下から乳頭にかけて「しこり」がないか、自分で触診していただきたい。

(問5)口腔・咽頭がんは、どうやって検査するのか。
(答え)町のクリニックでも、スコープを使って調べてくれる。

5.他方、虎の門病院の人間ドックでも、9月21日に、結果説明外来を受けた。

 まずは定例の検査について、「血圧がやや高くなってきているので、自宅で測定するように」との御宣託があった。「悪玉コレステロールが高いので、肉の脂身、バター、クリームの類は控えるように」とも言われたが、自分ではほとんど食べていないつもりなのだが、なぜ高いのか、いまだに謎である。それはともかく、がんについての質問をした。

(問6)今度オプションでやってもらうPET−CTは、尿路系はできないと聞くが、虎の門病院でほかに検査する手立てはないのか。
(答え)膀胱がんについては、この健康診断で、潜血反応を調査していて、「反応なし」となっている。これは結構鋭敏な検査だから、がんがあればすぐに反応するので、あなたの場合、がんの可能性は極めて低いと思われます。

(問7)口腔・咽頭がんの検査をしてくれるか。
(答え)腫瘍マーカーは、これが低くてもがんがある人もいないわけではないが、声が出にくかったり、喉が膨れてきたということでもない限り、まず大丈夫でしょう。

 ということで、ハッキリしなくて不得要領ではあるものの、何となく「大丈夫だ、まず問題ない」という気がしてきた。


6.最後に、9月27日、虎の門病院のPET−CT検査を受けた。事前に5時間ほど、絶食しなければならない。また、水やお茶はよいが、糖分を含んだジュースを飲んではいけないらしい。

 というのは、「がん細胞の活動のエネルギーの元はブドウ糖で、がん細胞は正常細胞の何倍もの量のブドウ糖を取り込むため、18F-FDGを注射すると、このくすりもがんの病巣に集まります。くすりが集まったところからは放射線が多く放出されるので、それを捕らえて画像化することにより、がんの病巣を見つけ出すことができます」国立国際医療研究センター病院PDF)というのだから、食物やジュースによって糖分を摂ると、がん細胞と紛れやすいのである。

 画像によると、ブドウ糖を使う脳内と、試薬18F-FDG(フルデオキシグルコース)が最終的に集まる膀胱も、そこを写し出す画面が、がん細胞と同様に真っ黒になるので、がんの有無がわからないらしい。

 検査当日は、午前8時の約束で、かなり早いなという印象である。でも、行ってみてわかった。18F-FDGを注射してからそれが全身に行き渡るまで、90分間、安静にしていないといけない。それから、撮影に20ないし30分。それが終わったら、約2時間、放射線が減衰するまで再び待機する必要がある。合計4時間だ。しかも、朝食抜きなので、お腹が空いて仕方がない。若干被爆するし、大変な検査だ。そう頻繁に行うものではない。

 ちなみに、放射線同位体18F-FDGの半減期は、2時間とのこと。これによる被ばく量は、通常のエックス線検査の2倍ないし4倍だそうだ。結構ある。やはりこの検査は年に一回くらいがよさそうだ。


7.3週間後、虎の門病院のPET−CT検査の結果レポートが来た。結論は、次の通りだった。

[所見]

 検査前の血糖値は98mg/dLと正常範囲内でした。
 18F-FDG 351.4MBq(薬剤量です)を静脈注射し、約90分後から撮像しました。
 PET画像上、脳、咽頭、顎下腺、心臓、肝臓、腸管、左右腎臓、膀胱、睾丸などにFDG(薬剤)の生理的集積(正常な薬剤の集まり)を認めます。
 悪性病巣(がん)を疑うような異常な薬剤の集まりは認められません。


 但し一般に、サイズの小さいがんや高分化度のがん、細胞のまばらながん、中枢神経系(脳・脊髄)や尿路系のがん、胃がんや肝臓がんの一部でPETでの検出率が低いことが知られています。他の検査所見も併せて総合的にご判断ください。



 
ああ良かった。がんは見当たらなかったとのことだ。念のため、添付されてきた画像を見て、もう一度、自分の目で確認することにした。といっても、添付されてきたCDは膨大で、しかも専門知識がないのでさっぱりわからない。


 そこで、まずは先ほどの国立国際医療研究センター病院の正常全身画像を見てみた。これは「脳、扁桃腺、乳腺、肝臓、腸管に正常の集積があります。腎から膀胱にFDGの排泄が見えます。これらは、すべて正常の人で見られるもので、がんを疑うような異常はありません」とのことである。これら2枚の画像を比較すると、確かに、薬剤が集まった黒い部分(正常な集積)は、似たようなものだ。そのほかの部分には、特に何もない。画像判定の専門医はカラー画像も見ているのだろうから、そのほかの部分に何か異常な集積があると、判定するはずだ。

 念のため、国立国際医療研究センター病院の悪性リンパ腫の治療前後の写真を見てみた。左の治療前の写真では、食道、胃、心臓、腸管のあちこちに真っ黒な病巣が見受けられる。ところが、右の治療後の写真では、それらがすっかり消滅してしまっている。FDGがあって黒くなっているのは、左右の腎臓と膀胱のみである。これからもわかるように、この患者は、ものの見事に、治療の効果が上がっていることがわかる。私の画像は、この右の画像とほぼ同じだから、とりあえずは安心してよさそうだ。ただ一つ、引っかかるのは、私の画像の場合、心臓に黒い集積があるのだが、これらの正常な人や治療後の人の画像には、心臓に黒い集積がない点である。しかし、私についての所見には、わざわざ心臓への集積についても言及されていることからして、見落としではなさそうである。だから、目くじらを立てるほどのことではないだろうと考えてよいと思う。

 それにしても、このPET−CT検査は、「放射性物質であるブドウ糖(FDG)を使ったりして、大変な検査だったなぁ」と思っていたら、後日、請求書が届いて、目が点になった。13万7,500円もした。高い上に被爆もあるから、そうしょっちゅう行うような検査ではない。事は線虫がん検診から始まったとはいえ、安心料にしては、いささか高くついた。自作自演のお笑いものだ。まあ、D判定から始まった今回のがん騒動は、健康に気を使って生きよという天からの啓示だと思うことにしよう。




(令和4年10月12日著)
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