1.首都近郊の近場リゾート 新型コロナ禍の第6波がようやく収まった7月初め、それでは2年半ぶりに海外に行ってみるかという気になった。行き先は、かねてから、ちょっとした仕事を頼まれていたマレーシアにした。慣れているし、何かあったら、日本へ直ぐに帰ることができるからだ。 ただ、仕事ばかりでは行く意味がないので、ついでに首都近郊の近場にリゾートがないかと聞いたところ、クアラルンプール国際空港から南へ40分ほど車を走らせたところに、少し古いが AVANI Sepang Goldcoast Resort というものがあると教えられた。行政都市のプトラジャヤの少し先だというから、それなら近いと思って、行ってみた。 マラッカ海峡に面した遠浅の海に、ポリネシア風の水上ヴィラが建ち並んでいる。一見、無計画に連なっているように思えるが、実はそうではなくて、航空写真で上から見ると、海に突き出た椰子の木のように配置されている。これを眺めていて、そういえばどこかで見たことがあると思い出した。そうそう。ドバイのパーム・ジュメイラという人工の海上都市だった。 ヴィラの中には、改修中のものもあるし、屋根をよく見ると、昔ながらの茅葺き屋根(椰子葺き屋根というべきか)もあれば、それとよく似た色のスレート葺きらしきものもある。たぶん、屋根を順次、葺き替えているのだろう。 ちなみに、空色に塗られた自転車があった。受付で25リンギット(750円)のデポジットを積めば、敷地内を自由に走り回れるらしい。その貸し自転車を駐輪するスペースも設けられていた。 3.「幹」の中ほどのヴィラ 私に割り当てられたのは、「幹」の中ほどのポートクラン方向のヴィラである。行ってみると2階だった。カードキーを読み取り部に当てて中に入ると、印象はまるで山小屋だ。というのは天井が高くて、三角形だったからだ。中には、ベッドが中央にポーンと寂しく置かれていて、テレビや机は、まあ普通である。トイレ、洗面所、シャワールームは観音開きのドアの向こうにある。夜中にこのドアが「ギギギー」と音を立てていきなり開いたのでびっくりした。海賊が侵入してきたのかと思ったが、そうではなくて、海上を吹く風がドアを押し開けたのだった。 この日の海は、ベタ凪とでもいうのだろうか、海面はとても静かだった。外洋ではなくマラッカ海峡(マレー半島の西海岸)に面しているからだと思う。海の向こうはスマトラ島だ。これがもしマレー半島の東海岸に面しているとしたら、荒れ狂う波に翻弄されて、こんな簡単な作りのヴィラなど、ひとたまりもないだろう。 Wi-FiにiPhoneとiPadを接続させようとして、パスワードを調べようとしたが、どこにも書かれてない。普通ならテレビをつけたらその画面に出てくるのだが、それにもない。レセプションに電話をした。すると、「OK。まず、インターネットに接続してもらってこのリゾートのホームページを出してもらい、、、」などというものだから、「そもそもインターネットに接続できないから、Wi-Fiに接続したいのだ。そのためのパスワードを教えてください」と言っても、理解できないようで、また同じことを繰り返す。 埒が明かないので、「では、誰か寄越してほしい」というと、「少しお待ちください」という。電話を切ったあとで、「やはり、おかしい。もしかしてパスワードなど要らないのか」 と思い、「設定」→「Wi-Fi接続」から接続可能なアドレスを見ると、「AVANI Sepang」がある。これに繋ぐと、このホテルのホームページが出てきた。なんだ、このことを言っていたのかと気がついて、それを操作中に若い中国人の女の子が来てくれた。すると、「それでいい」と言ってくれて、難なく接続できた。結局、パスワードは要らなかった。都会のホテルならパスワードは必須だが、こうしたリゾートのホテルは、何事も「緩く」できているらしい。 4.海上レストラン 夕方になった。一緒に来てくれた人たちを誘って、「ハブ」に行った。「幹」の道路に出て皆で歩き始めたところ、タイミング良く電動カートが通りかかった。それに乗せてもらって、歩かずに着いた。1階は朝食のバイキング会場らしい。だから、2階に行くと、その名も「海上」という中華レストランがある。これはいいと思って、そこに入った。 この日は平日なので、お客さんは我々のほかは僅かに二組しかいない。クアラルンプールは広東料理が多いのだけど、こちらは四川料理も調理してくるようだ。それならと思って、スープの酸辣湯(サンラータン)だけ希望し、あとは同行者の注文にお任せして、運ばれてきた料理を美味しくいただいた。それらはやや平板な味だったけど、酸辣湯は期待通りの味だった。うまい。 若い中国人女性のウェイトレスさんがいて、この人がなかなか有能で親切だった。一度言っただけで注文は間違えないし(こちらでは、確認しないとよく間違えられる)、気を利かして余分なお皿を持って来てくれるし、マイタン(お勘定)の段になったら、「ここのメンバーになったら、2割安くなります。それには、こうしてください」などと言って具体的に教えてくれる。感心してしまった。 5.満天の星と嵐の到来 夕食が終わって皆さんと別れて、部屋に戻った。幸いWi-Fiが繋がったので、数日分の新聞を読んでその記事を切り抜いて、Evernoteに貼り付ける作業がある。ロシアのウクライナ侵攻と、新型コロナウイルスの記事ばかりだ。どちらも、気が重くなる。 ウクライナ南部では、ハイマースなど欧米から供与された長距離砲の支援を受けたウクライナ軍が反攻に出ている模様で、8年前にロシアが一方的に併合したクリミア半島のロシア空軍基地や弾薬庫などの補給処を破壊している。 新型コロナウィルスの患者数は一日当たり25万人と、日本は過去最高かつ世界一の数を記録した。他の国はもう一般の風邪と同じように扱って患者数などまともに報告していない中で、日本だけ全数調査にこだわってバカ真面目に報告しているから、こんなことになるのだ。そんなことに保健所のキャパシティを浪費するより、保健所のその能力を入院調整や在宅患者のサポートに充てるべきだ。日本は、こういうところが硬直化している。 それから、少し目を休めるために、ベランダに出てみた。陸地の方を見ると道路の照明が続いている。海の対岸には、ポートクランの光が見える。ところが、これらの光は、上空を見上げる妨げにはなっていない。陸地の上空にオレンジ色に光る星がある。なんだろうと思って「Sky Walker」というアプリをその方向に向けると、木星だ。それを契機に空を見上げると、ああ満天の星だ。素晴らしい。こんなに多くの星が見えるとは思わなかった。空の真上には、天の川銀河が見える。海をわたってくる風が、何と心地よいことか。海が少しうねっているが、別に波の音もしないから、静かで平和そのものだ。なるほど、これこそが、リゾートというものだ。 6.バイキングの朝食 明け方、日の出の直後に目が覚めた。ベランダに出てみたら、陸の方向から、日の光が後光のように差している。素晴らしい。清々する気分だ。思わず、両手を合わせる。イラスラムの国にきていながら、こういうところは、我ながら日本人だと思う。 二度寝してしまって、起きてみると、そろそろ朝食の時間だ。着替えて外に出てみると、電動カートが通りかかったので乗せてもらって、「ハブ」に着いた。途中の道すがらに植えられている赤と橙色のヘリコニアの花が綺麗だ。 それはともかく、太ると困るなぁと思いつつ、フルーツと甘いものを中心にいただいて、席に戻ってきた。目の前が子供用のプール、その次が普通のプール、更にその先が海なのだが、まるで連続しているかのようである。潮の満ち引きが、あまり大きくないのだろうか。 7.ドラゴンフルーツの産地 帰り支度をして、レセプションの建物に向かう。そこで、車でクアラルンプールに戻ったのだが、このリゾートを出てしばらくして、道端にドラゴンフルーツを売っている店が多いのに気がついた。ドライバーに聞くと、このセパン地区は、その有名な産地だという。車を止めてもらって、見定める。大粒5個で20リンギット、つまり600円だ。私が日本のスーパーで買うベトナム産のドラゴンフルーツは、330円くらいだから、なんとまあ、3分の1の値段だ。しかも、中身がベトナム産が白色なのに対して、こちらは赤色というか茜色ではないか。これは食べずにはおられない。そこで買い求めた。 クアラルンプールのホテルに帰って、ナイフとお皿を持ってきてもらって、お尻の方を切り落とし、皮を手で剥いていった。この茜色の液体が白い衣類に付くと洗濯しても取れないので、気を付ける必要がある。さて、実を口に入れると、ジューシーで瑞々しい。さほど甘くはないが、それがドラゴンフルーツというものだ。ちなみに、ドラゴンフルーツには、ビタミンB1、B2、C、E、カリウム、マグネシウム、葉酸、ポリフェノールが豊富に含まれている。私は、日本で品種改良された果物が甘すぎて、かねてから健康によくないと思っている。それに対して、ドラゴンフルーツは全然甘くないのが気に入っている。 (令和4年8月18日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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