葛飾北斎の「富嶽三十六景」と歌川廣重の「東海道五十三次」の浮世絵をデジタル化した展示会が、東京・初台のオペラシティ4階のNTT関連施設であるICC(注)で開催されていたので、観に行ってきた。 実は、初台には家内が現在入院中のリハビリ病院があるので、私はほぼ1日おきに洗濯物の交換のために頻繁に行っているという事情がある。その途中でオペラシティが京王線初台駅に繋がっているものだから、必ずこの高層ビルには立ち寄っている。でも、こんな施設があるとは思わなかった。 ところで、オペラシティの地下1階には、古代の円形劇場のようなちょっとした空間(サンクンガーデン)があって、そこには人体を模した不思議な巨大造形物がある。奇妙なことは、その人体模型の顎がガクガクと動いていることで、とても妙なのだが、何十回か通るたびにそれを見ているうち、前ほど奇妙には思わなくなった。でも、やっぱりおかしいと思う気持ちには変わりはない。どういうコンセプトなのかがとても気になる。調べてみると、この作品名は「シンギング・マン(Singing Man)」というらしい。「Thinking」ならぬ「Singing」つまり歌っている人という意味だから、ああなるほど、顎をガクガクさせているのは、あれは歌っているのだ・・・ということが分かったが、やっぱり気持ちが悪い。それなら、通るたびに見なければよいようなものだが、そこは怖いもの見たさで、目が自然とそちらに行ってしまう。人をひきつけるものがあるようだ。これが芸術というものか。 でも、そのビデオはなかなか良く出来ていて、本日のテーマを端的に要領よく取りまとめていた。曰く、葛飾北斎(1760-1849)は、江戸は本所の生まれ。生涯3万点の作品を創作。その代表作が富嶽三十六景(1834年)。「凱風快晴」「穏田の水車」、「金谷ノ不二」、「甲州石斑澤」、「諸人登山」。最後の諸人登山は、よく見ると皆がお揃いの衣装を着ている。当時の江戸では庶民の旅行は厳しく制限されていたが、例外があり、湯治と参拝だけは許されていた。 浮世絵の制作工程は、版元が、絵師、彫師、摺師を束ねる形で行われる。絵師が版下絵、彫師が版刻と校合摺、また絵師が色さし、再び彫師が色板制作、最後に摺師が摺刷して、販売するという三者の共同作業である。問題は、浮世絵が天然の色素を使っているために、紫外線と二酸化炭素に弱くて、すぐに色褪せてしまうことである。 そのため、本物の浮世絵を保管する美術館は、日光や照明に当てないのは勿論のこと、観覧者を近づけないようにして、その保護を図ってきた。そういうことだから近づいてゆっくり鑑賞出来ないので、浮世絵の細部はこれまであまり明らかになってこなかった。ところが今回、デジタルリマスター版を作ったことにより、ICCのHPにある次の「超絶技巧」なるものが明らかになった。 「20億画素の超高精細デジタル記録と3次元質感画像処理技術により和紙の繊維の一本一本から微細な刷りの凹凸まで現物を再現させた葛飾北斎『冨嶽三十六景』(山梨県立博物館所蔵)全47作品、歌川廣重『東海道五拾三次』(大阪浮世絵美術館所蔵)全53作品を所蔵元認定の展示用マスターレプリカで一堂に展示します。 文化芸術と最新テクノロジーを組み合わせることで、新たに発見された江戸天才絵師の超絶技巧や最新のデジタルアートの数々により、これまでにない絵画の中に入り込んだような臨場感溢れる体験をお楽しみいただけます。」 当時は空前の旅ブームで、そのきっかけを作ったのが十返舎一九の「東海道中膝栗毛」で、弥次喜多が東海道を歩いてお伊勢さんを目指すという話で、その各地の名勝を浮世絵として一度に見せたのが、廣重の「東海道五十三次」である。中でも、「川崎六郷渡し舟」、「箱根湖水図」、「蒲原夜之雪」、「庄野白雨」などはその題材といい、構図といい、他に追随を許さない。 (注) ICCとは、そのHPによれば、次の通りである。 NTTインターコミュニケーション・センター(略称:ICC)は、日本の電話事業100周年(1990年)の記念事業として設立された,NTT東日本が運営する文化施設です。「コミュニケーション」というテーマを軸に科学技術と芸術文化の対話を促進し、アーティストやサイエンティストを世界的に結び付けるネットワークや、情報交流の拠点(センター)となることも目指しています。長期展示「オープン・スペース」、ICCキッズ・プログラム、企画展という展覧会の開催に加え,さまざまなイヴェントやオンライン活動を行っています。 (令和3年 3月24日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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