悠々人生エッセイ



新川千本桜の河津桜




 河津桜(東京)( 写 真 )は、こちらから。


1.新宿中央公園

 もう2月も下旬になる。新型コロナウイルスの緊急事態宣言が再度出され、更にそれが1ヶ月延長されてから2週間余り。3月7日の期限までにこの感染第3波が終息するかどうかが、目下最大の世間の関心事となっている。

 実はそれとは別に、1ヶ月ほど前、運悪く家内が骨折して入院することになった。それで、まだ完治していないにもかかわらず、急性期が終わったということで、その治療半ばにしてリハビリテーション病院に転院させられた。この新型コロナ禍の下で、そのように家内を入院させたり転院させたりする手配は、実に大変だった。病院とのその交渉だけではなく、高額医療費の限度額適用認定証、介護保険の認定、保険の請求手続等があっただけでなく、挙句の果てに万が一の場合の有料老人ホームの見学など、いやはや疲れ果てた。緊急事態再宣言どころではなかったのである。


背景が東京都庁の河津桜


 それがひと通り終わったある日、ほっとしながら転院先の初台にあるリハビリテーション病院から新宿に向けて歩いて帰る道すがら、新宿中央公園を通りかかった。すると、桜の花が咲いている。しかも満開だ。この季節に満開の桜といえば、大寒桜(おおかんざくら)か、河津桜(かわづざくら)だが、この濃いピンク色からすれば、河津桜に違いない(後日、公園管理者に確認した)。では、気分転換のつもりで、しばらくこれを撮ってみよう。背景に東京都庁を入れると、なかなか様になる。しかし、手前のフェンスが邪魔になる・・・これは困った。それでも、無理をしつつその場でしばらく撮ってみた。すると、都市の最先端の近代的なビルと、伊豆の田舎で発見された河津桜との対比が、なかなか良い。しかも、ピンク色の花の背景は、真っ青の空だ。

羽田空港への新着陸ルートで飛ぶ飛行機


 そうやって新宿の空を見上げているとき、「ゴォーッ」という轟音が当たりに響いてきた。北から南方向へとエア・ドゥのジェット機が飛んでいる。高度1000メートルくらいだ。結構、騒音がうるさい。これは、2020年3月から始まった羽田空港への新着陸ルートで飛ぶ飛行機に違いない。今は新型コロナウイルスで便数が激減しているが、そのうち回復したら、騒音の苦情が殺到するのではないだろうか。


2.文京区清和公園

 次の日も、4月並みの暖かさの良い天気だったので、ネットで東京の河津桜を調べたところ、近くでは本郷の菊坂の近くの清和公園に河津桜が何本かあるそうだ。ここなら、自宅から30分もかからない。それで、東大の本郷キャンパスに沿って菊坂まで行き、その公園に着いた。それは、樋口一葉旧居跡のすぐ傍だった。

 あるある。たった数本だが、早咲き桜が満開だ。ピンク色が強い。でも、まるで箒を逆さにしたような面白みのない樹形が、あまり美しくない。ああ、これは間違いなく河津桜だ。それを撮っていた女性が、桜を指さして私に「ほらほら。メジロが」と教えてくれた。本当だ。メジロの若鳥が、せっせと桜の蜜をついばんでいる。それがまた、動きが早いし、逆光だし、回りの桜の枝が邪魔になってなかなか上手く撮れない。


メジロの若鳥がせっせと桜の蜜をついばむ清和公園


 しばらく粘って、わずかに数枚、それらしく写っている写真がとれた。こういうことなら、もっと長い望遠レンズを持ってくればよかった。でもまあ、それなりに満足して、帰途に着いた。それにしても、緊急事態再宣言は、予定通り3月7日に解除されるのだろうか。


3.新川千本桜

 更にその次の日、今日は予定がない。朝から晴れている。そこで、近くに河津桜がないかネットで調べたところ、江戸川区の新川千本桜というのが見つかった。都営新宿線の船堀駅から歩いて10分もかからない。しかもこの日は休日なので、電車はガラガラだろうから、新型コロナウイルスも安全だ。それで行くことにした。家を出てみると、強風だ。震えあがるほど寒い。あわてて引き返してもう少し厚着をして出かけた。

 千代田線のお茶の水駅で都営新宿線に乗り換える。これを新宿方面に行けば家内のいる初台で、今日はその反対方向である。車内にはあまり人はおらず、一つの長いベンチシートに2〜3人しか腰を掛けていない。これなら安全だ。10駅目に船堀駅に着いた。2007年3月に、こちらの駅前のホールで開かれていた日本観賞魚フェアに来たことがあるので、それ以来だ。


新川千本桜


 新川千本桜に関しての江戸川区のHPの説明は、次の通りである。

「新川は、天正18年(1590年)、江戸城に入った徳川家康が千葉県の行徳までの塩の船路開削を命じ、道三堀・小名木川と同時に開削。以来、新川は江戸市中に様々な物資を運ぶ水路、行徳の塩を運ぶ『塩の道』として多くの人に利用されるとともに、沿川には味噌や醤油を売る店や料理店などが立ち並び賑わいを見せていました。

 現在では、鉄道や車などの移動手段が変化したことや、水門で区切られたことで船の就航はなくなりましたが、都市空間の中の貴重な水辺として活用されています。また、平成6年から平成19年まで護岸の耐震・環境整備を東京都が実施し、新川橋から東水門までを除く約2キロメートルを整備しました。その後、区が都の未整備箇所の整備をするとともに、新川の両岸の遊歩道に桜を植樹し、江戸情緒あふれる街並みとして整備する『新川千本桜計画』を平成19年4月からスタート。平成23年度に一部見直しを行い、平成26年度には、耐震護岸整備及び遊歩道整備が全川3キロメートルにわたり完了しました。春には20種、718本の桜が遊歩道を行き交う人々の目を楽しませています。」


新川千本桜のススキ


新川千本桜のマスク銅像


 船堀駅からぶらぶらと6分程度歩いて、新川に架かる宇喜田橋に着いた。そこを河津桜がある新川橋を目指して左手に行く。とても風が強い日で、後から調べると風速は毎秒6mだった。またこの風は寒かった。これでは、メジロが来ないだろうと思いながら、黙々と歩いて行った。なるほど、川岸の両側には遊歩道があり、また道路のための橋がないところには、随所に人が通る木製の橋が架かっている。これは歩きやすい。川岸は花崗岩を砕いた石が敷き詰められていて、固められている。これでは、ビオトープなどはできないなと思うが、時々は枯れたススキが固まって生えているので、少しはアクセントになっている。あれあれ、これは面白い・・・川岸にある銅像の女性の顔に、マスクがかけられている。時節柄とはいえ、こんなところにもマスク着用の呼びかけが行われるとは、悲しいことだ。

新川千本桜の河津桜


新川千本桜の火の見櫓


新川千本桜の全景。火の見櫓から。


 さて、新川橋のたもとに河津桜があった。それも、たった2本である。あれれ・・・これでは絵にならない。メジロでも来てくれれば別だが、今日は風が強いからそれは望めない。しかもこんな見通しのよいところでは、メジロは警戒心が強いから、いくら待ってても来そうもない。幸い今日は青空なので、ピンク色の河津桜の色が映える。少しだけ撮って、再び新川に沿って歩き出した。宇喜田橋に戻り、更にそのまま先へ行くと、なんとまあ「火の見櫓」がある。これは川越の「時の鐘」と同じだなぁと思っていたら、そこにいた係員が「そうです。時の鐘をモチーフにして、11年前に作られました。どうぞ、上までお上がりください」というので、そのお言葉に甘えて階段を上っていった。最上階に着くと、そこからは新川が一望の下に見えて、なかなか良かった。これが染井吉野が咲くシーズンだったら、さぞかし綺麗な風景が目の前に展開することだろう。





(令和2年2月25日著)
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