ちょうど新型コロナウイルス騒ぎのステイ・ホームで、自宅でのんびりしていた平日のことである。午前8時半頃、固定電話が鳴った。「もしもし、〇〇さんですか。」と、私の名前を言う。「文京区役所健康保険課の橋本です。」と名乗る。私は、昨日、家内が文京区役所の人と電話で話していたことを思い出し、「ちょっと待ってください。」と、家内と代わった。横で聞いていると、こんなやり取りがあった。
橋本「2月頃に緑の封筒が届いたはずですが、その中に、過去3年分の医療費(聴き取れず)についての還付金の送り先の書いたものがあって、その件なのですが。」 家内「そういう封筒をもらったかどうか、記憶がありません。」 橋本「あれ、そうですか。それでは、もう2ヶ月の締切り期限が過ぎていて、我々は厚生労働省に返送されて来た方々のリストを送ったのですが、三浦さんのように、こうやって未だ返送のない方に個別にお電話しております。期限は過ぎておりますが、銀行の方で手続をすれば、まだ間に合います。でも、急がないといけません。」 家内「どこに電話しているのですか?」 橋本「ああ、すみません。〇〇さんでした。それで、手紙を探していただいて、もしなかったら、そういう場合の救済措置について銀行に対応させるので、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、りそな銀行のどれが良いですか。」 家内「では、みずほが良いですね。」 橋本「それでは、みずほ銀行本店から電話させますので、そのとき、どの支店が良いか指示してください。そして、通帳、銀行印、キャッシュカード、身分証明書を用意して、お待ちください。連絡は、この電話でよいですか。」 家内「はい、結構です。」(電話を切る。) その直後、家内が私に、「この電話、怪しいわよ。相手の名前を間違えるなんて、有り得ないわよね。通帳、銀行印、キャッシュカードで還付金を用意するなんて、詐欺そのものよ。」と言う。 私は、「まず間違いないなぁ。では、確認してみよう。」と言って、直ぐ文京区役所の組織を調べたら、そもそも「健康保険課」というものがなくて、代わりに「国保年金課」がある。そこへ電話してみた。すると、「橋本という者はおりません。」とのことで、還付金詐欺の疑いがまず間違いないとなった。だいたい、私が弁護士と知って詐欺の電話を架けてくるというのはよほどの間抜けだから、弁護士会の名簿から漏れたのではなさそうだ。 それでは、「受け子」を捕まえるとするかと思って、その銀行本店からという電話を待った。自宅に招き入れるなんて、とんでもないから、みずほ銀行根津支店前で待ち合わせることにするにはどうすればよいかと頭の中で地図を描き、警察官には、あそことここで待っていてもらえばよいと考えた。すると、ちょうど1時間後の9時半に、電話が架かってきた。 糸山「もしもし、こちらみずほ銀行本店営業部の糸山と申します。〇〇さんのお宅でよろしかったでしょうか。」 私 「(『よろしかったでしょうか』なんて、典型的な若者言葉だなと思いつつ)、はい、そうです。」 糸山「先ほど、文京区役所から依頼があった件ですが、お使いになる窓口の支店はどこがよろしいでしょうか。」 私 「ああ、あの件ですか。では、根津支店が良いですね。」 糸山「本日行くということで、よろしかったでしょうか?」 私 「ああ、たまたま今日は忙しいので、行くのは、明日になりませんか。」 (すると、ここで突然、電話が切れてしまった。) いやまあ、残念だった。ちょっとこちらが主導権を取ろうとしたことで、相手が警戒したようだ。それでは、私に対する詐欺未遂に使われたこの電話番号を放置しておくと他に被害者が出かねないから、出来るだけ早く使えないようにする必要があると思って、所轄の本富士警察署防犯係に電話した。 すると、担当の警察官で出てきて、ひと通り私の話を聴取して、パソコンに打ち込んだあと、この詐欺に使われた2つの電話番号を調べてくれた。いずれも、つい最近、詐欺に使われたので、停止の手続中とのことだった。 担当の警察官「お宅の固定電話とお名前が詐欺グループに使われたとなると、電話番号とお名前が知られていて、また同じような電話が架かって来るかもしれません。そういうとき、詐欺を撃退するために、文京区から配ってくれるように言われている器械があるんです。無料ですから、付けてみませんか。電話が架かって来ると、発信者に対して自動で警告メッセージを流す、そして電話に出ると録音するだけの機能ですけどね、効果があると言うのです。」 私 「そうですか。それでは、お願いします。」 担当の警察官「いま確認したところ、たまたま担当の警察官が、お宅の近くで同じように個人宅を訪問中なので、すぐに向かわせます。ちゃんと警察手帳を提示させますから、確認してください。」 (すると、1時間もしないうちに、婦人警察官がやって来て、「自動通話録音機」なるものを電話機に接続してくれた。) 試しに私が携帯電話から自宅の固定電話に電話してみたところ、「この電話は、特殊詐欺防止のため、通話内容を録音させていただいております。」というメッセージが流れた。この固定電話に架けてくる人にはご迷惑だが、我慢してもらおう。私や家内の親類は、皆、それぞれの携帯電話に架けてくるから、まあ良いかと思った。 この一連の出来事は、たった2時間半に起こったことで、本当に妙な一日だった。格好の暇つぶしにはなったが、受け子を取り逃がす結果になったのは残念だ。次回もし同じようなことがあったら、痴呆老人を装うことにしよう。もっとも、それまで本当の痴呆に陥らないようにしないといけない。ちなみに、文京区役所のHPによれば、次のようになっている。 特殊詐欺防止のため「自動通話録音機」の無償貸し出しを行っています 自動通話録音機とは、 1.自動警告メッセージ 設置電話機の呼出音が鳴る前に、発信者に対して自動で警告メッセージを流すため、 居住者が電話に気付く前に犯人へ警告を与えることが出来ます。 2.自動録音機能 受話器が応答したときから自動で録音を開始し、通信が遮断された時点で停止します。 自動通話録音機は13センチX16センチ程度の箱に入る大きさで、取付けも簡単です。 警察庁のホームページの「特殊詐欺」の項を見ると、次のように書かれている。私のところに架かってきた電話と、見事に全く同じである。 還付金等詐欺とは、市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺です。 【主な手口】 医療費、税金、保険料の還付、年金の未払金等と、還付の手続のためATMに行くよう求めてきます! 【 具体的な手口 】 犯人は、「自治体(県や市区町村)」、「税務署」、「年金事務所」などの職員を名乗り、被害者に対して 「医療費の過払い金があり、還付の手続のため電話しました」 「年金が一部未払いとなっていたので、受け取る手続をしてください」 などと、被害者に対してお金を支払うという内容の電話をかけてきます。 このとき、被害者を信用させるため 「以前、青色の封筒を送ったが、返信がないので電話しました」 などと、被害者が封筒を見落としているということや、突然電話をしたわけではないということを強調することもあります。 被害者を信用させた上で、犯人は 「還付手続の期限は今日までなので、急いで手続をお願いします」 「すでに期限が切れていますが、本日中であればなんとか間に合います」 などと、急がなければ還付金が受け取れなくなることを強調し、被害者を焦らせた上で 「銀行窓口は混んでいるので、携帯電話を持って近くのATMに行ってください」 「ATMに着いたら、操作方法を説明するので、***-****-****まで電話してください」 などと、携帯電話を持ってATMに行くように指示してきます。 ※ あらかじめ被害者の家の周辺のATMを調べ、ATM管理者などの注意が届きにくい無人ATMを指定して手続を行うよう指示することもあります。 被害者がATMに到着すると、犯人は 「操作方法を説明しますので、私が言ったとおりにボタンを押してください」 「誤った操作や、押し間違い等があれば手続ができませんのでご注意ください」 などと、犯人の指示するとおりに操作をするよう強調した上 「『お振込』というボタンを押してください」 「○○さん(被害者)の個人番号である『 *,***,*** 』を入力してください」 「入力が終わったら、画面右下の『確認』ボタンを押してください」 などと言い、本来は相手方に振り込み送金することとなるにもかかわらず、被害者自身の口座に振り込み入金されるものと誤信させ、さらに「個人番号」や「取扱番号」などと偽って、犯人側に振り込む金額を入力させて、お金をだまし取るのです。 中には 「還付手続のため、お手持ちの口座の種類や残高を教えてください」 「最初に『残高照会』というボタンを押し、表示された数字を右から読んでください」 などと言って、あらかじめ被害者の預貯金口座の残高を聞き出し、その被害者からだまし取れる限界の金額がいくらかを把握した上で、詐欺行為に及んでいることもあります。 (令和2年4月24日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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