1.2020年2月から3月の政府や知事の対応 新型コロナウイルスの国内感染者数は、2020年2月15日から29日までは、1日当たり15人から25人の間で推移していた。3月に入って、7日頃から連日50人を越えるようになり、とうとう3月27日からは123人と、100人の大台を越した。4月になっててもその勢いは衰えず、4月3日には353人と、感染者が急増するようになった。 この間の政府の対応を見ていると、危機管理の司令塔がいない感じがしてならない。東日本大震災のときは、枝野幸男官房長官(当時)が自ら、連日寝ないで記者会見をやり、普段は政府に批判的なネットの皆さんから、「枝野、寝ろ」という好意的なコールが起ったことは記憶に新しい。今回は加藤勝信厚生労働相がその任に付いているのかと思ったが、紙の棒読みにとどまり自ら積極的に国民と対話しようという雰囲気が感じられない。ただ、顔色が良くないので体調が悪かったのかもしれないが、それならそれで危機管理能力と発信力のある大臣に任せるべきだ。 そういう意味では、小池百合子東京都知事は、ニュースキャスター出身であるだけあって、都民との対話ができているので、大したものだと思う。例えば、政府の専門家会議から聞いた大臣などが「換気ができていない密閉された空間には行かないように、そこで大勢の人と近付いて話したりしないこと」などとモタモタした説明をしているときに、「密閉、密接、密着の三密は避けるように」と、わかりやすいキャッチフレーズで話していたので、私は、これは都民と会話ができる人だと感じた。このような緊急事態になると、政治家としての説明能力が露わになる。 国民がマスクが足りないと毎日イライラしていた。実は私も、2月の初めからマスクを求めて近くのドラッグストアやスーパーを何軒も何度も回ったが、それでも全く手に入らない。そういう時、2月中旬の頃だったか菅義偉官房長官が、「現在のマスク供給数は月間1億枚だが早急に6億枚まで引き上げるので、3月中には国民に行き渡る」と説明していた。私はこれで先に光明が見えたと思った。ところが、3月末になっても何も変わらず、市中では1枚も手に入らない。やはり官房長官のあの発言は、嘘でたらめの類いだったのかとガッカリした。その後、官房長官が表に出てくることはなくなった。新聞記事によると、「官房長官を傷つけてはいけないと、周りが押さえている」とのこと。国難ともいえる緊急事態なのに、そんなことをやっている場合かと言いたくなる。 マスクといえば、4月に入って直ぐのこと、安倍晋三総理が国会で突然、「全世帯に布マスクを2枚ずつ再来週頃に郵便で配布する」と表明した。これも、新聞記事によれば、総理官邸の誰かが「国民がマスクがない、マスクがないと、ご不満のようなので、マスクを全世帯に配布すれば、そういう不満はパーっとなくなりますよ」と進言したという。本当だとしたら、あまりに短絡的な発想だ。この布マスクは30回ほど洗えるそうだが、専門家によると目が細かい不織布ではなくて、目の粗い布なのでウイルス防御という面では全く役に立たないそうだ。ただ、感染者がウイルスを撒き散らすのはある程度防げるそうなのだが、そのためにわざわざ5,300万世帯に単価200円のものを各2枚ずつ、送料込みの合計で466億円もかけて配布するのかという気がする。それだけのお金があるなら、台湾がやっているように、不織布のマスクを配給制にして国民が確実に入手できるようにすべきだったと思う。ただこれも、マイナンバーカードの普及率がまだ15%にも満たないから、無理かもしれない。 その後、新型インフルエンザ対策特別措置法の改正で新型コロナウイルスが法律の対象になると、同法の担当大臣が西村康稔経済財政再生相となった。ところが、全体をまだ掌握できていないのか、それとも経済担当が急に公衆衛生も担当することになって勝手が違うのか、こちらも情報発信が紙の棒読みに終わっていて、国民からすると「自分の言葉で語っていない」ので、誠に物足りない。素人の大臣ではなく、たとえば公衆衛生の専門家で、それなりの地位にある責任者が、毎日、患者数、その属性、マスクや消毒剤の流通、トイレットペーパーの生産と流通、諸外国の様子、ちょっとした公衆衛生の知識などを懇切丁寧に説明するだけで、かなり違うと思う。 その点、台湾では、陳其邁行政院副院長(副首相)の下、中央感染症指揮センターの陳時中衛生福利部長(保健相)及びデジタル政策担当の唐鳳行政院政務委員(無任所大臣)が主導して、マスクの配給制などの誠に時宜に適した政策を展開し、また国民との対話を進めている。私はたまたま、2月8日から4日間、観光で台湾旅行に行ったが、その当時の台湾の感染者数が確か日本と同じくらいでまだほとんどいなかったのに、もうその時点で、ホテルに着けば体温をチェックされるし、レストランでは入口で消毒液を吹き付けられるしで、最大限の厳戒体制だった。蔡英文総統がかつてのSARS騒ぎのときの衛生担当部長だったという巡り合わせもあるのだろうが、ともかくやれることは何でもやるという姿勢で、信頼が持てた。その成果として、2月から4月にかけて世界各国の感染者数が飛躍的に伸びる中、台湾の感染者数は339人、うち死者5人と、非常に低く押さえ込まれている(4月4日現在。同時期の日本は感染者数3,139人、うち死者77人。アメリカはそれぞれ213,600人、4,793人と、まるで比較にならない。)。 私が台湾旅行に行く直前の2月3日には、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号事件が専ら世間の耳目を集めていた。香港の感染者が一時乗船していたために、船内で新型コロナウイルスの感染が広がった事件である。公海上にあったが、急遽、横浜港に寄港して、その検疫をするということで、検疫官が乗り込んでいった。ところが、日本国内では、私も含めてどこか他人事のような感じだった。そういう中、私は台湾旅行から2月12日に日本に帰ってくると、台湾の厳戒体制と比べて日本では、テレビで手洗いが呼びかけられるくらいで、緊張感など全くなく、こんなことで良いものかと思ったものである。 厚生労働省の方も、恐らくダイヤモンド・プリンセス号に人的資源と時間を取られて、とりわけPCR検査の能力を増やすとか、マスクや消毒薬や人工呼吸器を増産させるとか、感染症対応の病床を用意するとか等の日本全体の防御ということに目を配る余裕がなかったのではないかと考える。そのダイヤモンド・プリンセス号事件も、事件処理に当たった関係者はご苦労されたとは思うが、外から見ていると単なる検疫作業の延長という感覚でやっていて、肝心の船内の感染防止、乗客乗員の保護という観点が欠けていたのではないか、船をウイルス培養器にせずもっと早く乗客だけでも外に出せなかったのか、現場責任者は何をしていたのかなどと、徹底的に検証されるべきだと思う。この関係で検疫官などに10数人もの感染者を出したという点は、この検疫は失敗に終わったと言われても仕方がない。 発生直後にこの船に乗り込んだ神戸大学の岩田健太郎教授が「ウイルスがいるかもしれない『レッドゾーン』と、安全な『グリーンゾーン』がグチャグチャに入り乱れていて、どこが危険なのかがわからない。なのに、船内で作業する医師や厚生労働省の職員らスタッフはマスクもしていなかったり、手袋だけ嵌めていたりでチグハグだ。心底怖かった」と表現した。これは、この結果を見れば真実を語っていたと思う。船内に、やや過剰といわれてもよいから、先々を見越して適切な手を打つという危機管理のセンスがある公衆衛生の指導者がいなかったのかと残念に思う。その点、自衛隊が確か2,000人ほど出動したと聞いている。それでいて、防疫という面では素人の自衛隊員からは1人の患者も出さなかったことは、誠に立派なことだと思う。素人だからこそ、「正しく恐れて、正しい防疫の手順を踏んだ」ものと思われる。 その一方、2月の半ばを過ぎると、国内の感染がどんどん進んで、北海道では鈴木直道知事が札幌雪祭りを契機に全国で一番多い感染者を出したことから、警鐘を鳴らしていた。注目すべきは、地方では、和歌山の仁坂吉伸知事もそうなのだけど、最高責任者の知事自らが発表するという流れができて、危機管理がしっかり機能しているという印象を道民や県民に与えている。これこそ、地方分権を踏まえた危機管理のあり得べき姿だ。2月15日の記者会見で仁坂知事は、「メディアにお願いですが、新型コロナウイルスに感染した医師が誰でどこに住んでいるんだとか、そういうことは差別やいじめに繋がるので、社会正義に反していることはやめていただきたい」などと、誠に正論を語っていて、胸がすく思いがした。 2月28日になって北海道の鈴木知事が、「政治決断」として緊急事態宣言を出し、小中学校の休校を打ち出した。おそらく、これに刺激されたのだろうが、翌29日になると安倍首相が全国一斉休校を打ち出した。全く唐突で、それまで寝ていたものが急に起き出して、暴れ始めたようなものだ。おそらく、このままではいけないと突然、首相指導型を見せようとしたのだろうが、これこそ、過剰反応というものだ。これによって迷惑を被る共稼ぎ世帯も多かっただろう。政府部内で慎重に検討すれば、たとえば感染率や患者数が一定以上の都道府県に限るという手もあったはずだ。 2.改正インフルエンザ対策特別措置法の成立 一般に、緊急事態の内容は、その国民への危害の現実化とその恐れの程度に応じて決まることになっている。その最たるものは、武力攻撃事態における国民保護法制である(平成16年6月に成立し、同年9月から施行)。他国による日本への武力攻撃が起こると、国民の財産はもとより、国民の生命そのものが直接危険にさらされる。だから、それ相応の強い措置が法律で設けられている。避難計画と指示、買占め等防止で、これとともに別法で道路、空港、港湾を自衛隊が優先使用することになっている。その性格上、災害対策基本法が参考にされた。新型インフルエンザ対策特別措置法(平成24年法律第31号)は、これらの法律を参考としつつ、SARSの経験と急速に蔓延する伝染病の性質を踏まえて立案されたものである。 今回の新型コロナウイルス対策には、一から法律を作っている時間的余裕がないため、既存の新型インフルエンザ対策特別措置法(平成24年法律第31号)の定義に新型コロナウイルス感染症を追加することにより、同法の枠組みをそのまま使ったものである。国会での審議は、わずか3日間で成立した。この法律に基づき、新型インフルエンザ等緊急事態宣言(2年未満の期間限定)を行うと、次の措置が可能となる。 (1)外出自粛要請、学校、興行場、催物等の制限等の要請・指示 都道府県知事は、住民に対し外出の自粛を要請できる(第45条第1項)。多数の者が利用する施設(学校、社会福祉施設、建築物の床面積の合計が千平方メートルを超える劇場、映画館や体育館など)の使用制限・停止又は催物の開催の制限・停止を要請することができる(第45条第2項)。正当な理由がないのに要請に応じないときは、特に必要があると認めるときに限り、要請に係る措置を講ずべきことを指示できる。ただし、いずれも罰則はない。 (2)住民に対する予防接種の実施(第46条) (3)医療提供体制の確保(第47条―第49条) 臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を強制使用することができる(第49条) (4)緊急物資の運送の要請・指示(第54条) (5)政令で定める特定物資の売渡しの要請・収用(第55条) 都道府県知事等は、新型インフルエンザ等の対応に必要な物資の売り渡しを業者に要請することができ、不当に応じない場合は収用することも可能(第55条)。また、不当に売り渡しに応じなかった業者に対して、罰則がある(第76条) (6)埋葬・火葬の特例(第56条) (7)金銭債務の支払猶予等等(第58条) (8)生活関連物資等の価格の安定(第59条) 買い占め売り惜しみ防止法・国民生活安定緊急措置法等の的確な運用 (9)政府関係金融機関等による融資(第60条) 3.新型コロナウイルス緊急事態宣言の前夜 新型コロナウイルスの全国的な感染爆発(アウト・ブレイク)が起こり、医療機関が患者を受け入れる能力を超える事態(オーバー・シュート)となると、改正インフルエンザ対策特別措置法の緊急事態宣言が出されるかどうかの問題となる。4月3日現在、政府はまだその事態には至っていないと判断しているようだ。確かに、首都圏や関西圏では、感染者数が急拡大する予兆が見られるものの、未だ全国レベルに至っているとは言えない。 新型コロナウイルスは、人と人との距離が近いときに伝染るということで、他の人から2メートルは距離を置くべしと言われる。これを「ソーシャル・ディスタンシング」と言うらしい。なるほど、言い得て妙だ。それから、中国政府が武漢でやったように、外出禁止令で街を一斉にシャット・ダウンすることを、「ロック・ダウン」と言うそうだ。専門家の試算によると、これを行って外出する人数を8割減らせば、感染者数を激減させられるそうだ。 日本では、法律に基づく緊急事態宣言を行っても、先ほど述べたように罰則なしの要請・指示なので、外出する人数は、おそらく首都圏で6割減、関西圏で4割減程度だろう。そうすると、イタリアのように、アウト・ブレイクと医療機関のオーバー・シュートが起こるのは、もはや避けられない予感がする。ヨーロッパで最も早くアウト・ブレイクが起こったイタリアの4月4日現在の感染者数は、11万5242人、うち死者は1万3912人となっている。ちなみに日本は感染者数3139人、うち死者77人だ(ただし、ダイヤモンド・プリンセス号の712人の感染者は除外している)。 本日は4月4日だが、直ぐにでも緊急事態宣言が出されていてもおかしくない状況になってきた。別荘を持っている友達は、自分の車で既に長野県に避難している。私は、かねてから公共交通機関派だったから、こういうときには車がないので不便だ。いや、たとえ車があったとしても、もし自分が感染者だったとしたらウイルスを地方に拡散するようなものだから、東京から出るべきではないだろう。仕方がないので、朝夕の散歩以外は何処にも行かずに家に籠っているつもりだ。事態がどんどん悪くなっていって、もうどうにもならなくなったら、家内とともに如何にして生き残るかを模索することになるかもしれない。父母の世代とは違って、私たちの世代には戦争というものがなくて良かったと思っていたが、代わりにこの未曾有の災難が降り掛かってきてしまった。 (1から3までは、4月4日記) 4.諸外国の強権的措置 4月7日、政府の緊急事態宣言が出された。一般の人々に対しては、外出の自粛をはじめ、学校や興行の自粛等が求められる。ところがこれは、あくまでも要請であり、従わなくとも罰則はない。この点、次のように欧米やアジア諸国で行われている「ロックダウン」つまり都市全体を封鎖し、罰則をもって人の移動を禁止する「外出制限令」に比べて、大甘で実効性が期待できないという論評がある。 (1)ニューヨークでは、3月30日から市長令で、公共の場で人との距離を保つことを徹底していない場合、最大500ドルの罰金。 (2)イタリアでは、3月12日から政令で、行き先と理由を記した証明書を携帯していない人には最大3,000ユーロ(約35万円)の罰金。施行後1週間でおよそ11万人以上が警告を受けた。 (3)フランスでは、3月17日からの外出禁止令で、テレワークできない仕事や必要不可欠な買い物など特定の目的(証明書の携帯が必要)以外の外出に135ユーロ(約16,000円)の罰金、これを15日以内に繰り返すと罰金200ユーロ、30日以内にさらに違反を重ねると禁錮6ヶ月以下が科される。発令から2週間の検挙数は359.000件に上ったという。 (4)イギリスでは、外出できるのは必需品の買い物、1日1回の運動、やむを得ない医療と通勤だけとし、3月25日に成立した法律により、公共の場で3人以上で集まった場合、最低30ポンド(約4,000円)の罰金。 (5)震源地である中国の武漢では、1月23日から都市封鎖が行われた。都市内や市境をまたぐ交通機関や高速道路を封鎖して出入りができないようにし、市民らに武漢を離れてはならないと通告した。居住区ごとに、厳格な監視が行われた。テレビ映像によると、家族内で麻雀の卓を囲んでいるときに公安(警察)が踏み込んで、卓を壊すようなことをしていた。人と人との間の密接な接触を防ぐためというが、家族内のことまで公権力が介入するのは明らかにやり過ぎだ。なお、この封鎖は、感染していない人に限って、4月6日に2ヶ月半ぶりに解除された。 (6)シンガポールでは、当初は、対外的には厳格な国境管理を行うものの、国内では厳しい移動や外出の制限措置を取らず、アプリで感染者の行動を追跡し、人と人との距離を空けさせる「社会的距離」を導入するなどして、それなりの成果を上げていた。ところが、追跡ができない事例が大幅に増えてきたことから、ついに4月7日から全面的な外出禁止令に踏み切った。違反者には、罰金10,000シンガポールドル(約25,000円)若しくは6ヶ月以内の禁錮刑又はその両方が科される。 (7)マレーシアでは、3月18日から、外出禁止令が出された。日用品の買物と通院のため車1台につき1人だけ外出が許されるが、それ以外は禁止される。違反者には、罰金100リンギット(約25,000円)若しくは6ヶ月以内の禁錮刑又はその両方が科される。当初は、違反者に口頭注意するのなど柔軟な対応を取っていたが、不要不急の外出など違反者が続出したことから、軍隊も動員して警察とともに検問やパトロールなどに当たるようになった。3月27日には、首都クアラルンプールの高級住宅街であるモントキアラ地区でジョギング中に警察官に呼び止められ、自宅に戻るよう促されたにもかかわらず無視して反抗的な態度を取った11人が逮捕された。その内訳は、日本人4、韓国人3、インド人2、英国人1、マレーシア人1とのこと。こんなことで逮捕される日本人がいるとは誠に情けないが、うち1人は日本の最大手電機メーカーの駐在員だという。これは特定の地区だけの数字だが、3月29日には全土で828人が逮捕されたとのこと(時事通信)。 (8)フィリピンでは、3月17日から、ルソン島全域で生活必需品を購入するための外出を除いて、市民が移動することを大幅に制限さている。ドゥルテ大統領は、4月4日、「市民が自宅待機などの措置を破った場合、警官らが射殺も辞さない事態が有り得る」と国民に警告した。麻薬取締りのときと同じく、めちゃくちゃだ。 (9)インドでは、3月22日から、全土に日中の(首都ニューデリでは全日の)外出禁止令が出された。ビデオ映像によると、違反者には、警察官が罰として、その場で腕立て伏せをさせたり、鞭で打ったり、頭にコロナの被り物を被せたりと、まるで前近代的な刑罰を科していて、心底驚いた。 こうして見ると、どの国も、強権的な措置を講じている。それも、かなりのものだ。アメリカやヨーロッパの国々では、戦争や災害のようないわば緊急時への対応して行われていると考えられる。ところがアジア諸国では、元々強権的な体質の政府が多いことから、それなりの措置をとっている。それにしても、フィリピンやインドはやり過ぎだ。でも、お国柄が現われているから面白い。 5.微温的な日本の緊急事態宣言の理由 それに比べて、日本の今度の改正インフルエンザ対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、一般向けには外出の自粛、学校や興行場などの管理者には要請や指示ができるものとしているが、あくまでも要請ベースにとどまり、罰則をもって強制するものではない。感染防止のための集会禁止規定もない。ただ、一定の要件を満たせば、土地所有者の同意を得ないで土地等を使用できるとしているくらいだ。もちろん、これには補償がある。その他、罰則はといえば、特定物資の隠匿や損壊への懲役又は罰金と、立入検査の拒否や妨害への罰金しかない。 それはなぜかというと、現行憲法の基本的人権の尊重の観点からは、それが限界だからだ。罰則をもって外出禁止を命令することは憲法22条の居住移転の自由に、同じく集会禁止命令は憲法21条の表現の自由に反する。先に述べたように土地所有者の同意を得ないで土地等を使用できるとする規定があるが、これも憲法29条上、問題なしとはしないところだが、財産権であるからこの程度は公共の福祉の観点からは許されると解されている。これが本法の限界である。たとえ武力攻撃事態であっても、考え方は同じである。 どうしてこういう構造なのかといえば、突き詰めていうと、日本国憲法に緊急事態条項がないからだ。かつての大日本帝国憲法では、戒厳大権など4つの緊急事態条項があった。しかしこれによって基本的人権が大きく制約されたのは歴史的事実である。その反省から、日本国憲法では緊急事態条項が設けられなかったとされる。だから我々は、その制約の下で最大限、何ができるかを考えなければならない。 憲法に緊急事態条項がない中で、憲法の根本である基本的人権を一時停止するようにするには、憲法13条の「公共の福祉」を理由にするしかないが、そんなことは果たして可能だろうか。 現在の日本の緊急事態宣言の要件は、次の通りである。 「新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして、重篤である症例の発生頻度が相当程度高いものに限る。)が国内で発生しその全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし又はそのおそれがあるものとして、感染経路が特定できず、あるいは感染が拡大している事態が発生したと認めるとき」である。 4月8日、世界の新型コロナウイルスの感染者は、1,317,130人、うち死亡は74,340人(死亡率は0.56%)である。これに対して日本の感染者は、4,472人、死亡は98人(死亡率は0.02%)となっている。死亡率が小さいが、これは感染者数が次のグラフ(出典:NHK)のように最近になって急増したことによるもので、あと2週間もすれば、残念ながらかなり増加するものと思われる。とはいえ、この今の状況で「重篤である症例の発生頻度が相当程度高い」といえるか、法律の規定の「当てはめ」としては、いささか疑問が残るところである。 では、現にこういう事態になったら、いや現にならなくともそういう事態になることが十分に想定される事態になったらどうか。それくらいに切迫した状況になってはじめて、外出禁止令を出して罰則をもって強制するべきではないかという議論をする土俵に上ることが出来るというものだ。その場合、国民の外出を一律に禁止することが、現下の疫病の急激な拡大とそれによる多くの国民の命を守る上で必要不可欠であることを立証した上で、現在の緊急事態宣言の要件に何を加えるかであるが、ひとつは死亡率の高さが有力な要件になると考えられる。憲法13条に規定する通り、人間の命は何よりにも増して尊重すべきであるから、憲法の基本原理である基本的人権も、緊急事態宣言が出ている僅かな期間と都道府県の区域に限って、一時制約を受けてもやむを得ないし、それこそが公共の福祉に適うものと説明するのが一案である。 ただ、私は、繰り返しになるが今のような程度の事態では、基本的人権を一時棚上げしてまで、外出禁止を罰則をもって担保するようなことをすべきでないと思う。相手が業者ならば、現行法のように命令をして罰則を科すことはできるが、一般国民を相手に外出禁止令違反を罪に問うなら、他の法律の先例からすると、禁固刑どころかせいぜい罰金10万円以下というのが相場だろう。そんな中途半端な罰金なら、守らない人が次々に出てくるし、それくらいであれば罰則など、ない方がよい。ただでさえ疫病騒ぎで人々が精神的に負担の多い日々を送っているのだから、そこに警官による外出の取締りがあっては、ますます世の中が暗いムードになりかねない。代わりに、特に興行や大型商業施設など企業に対する都道府県知事による中止の指示に反したような場合、その企業名は公表することにして、自ずと社会的制裁が下るようにしておけば良いのではないかと考える。 (4と5は、4月8日記) 6.緊急事態宣言の発出と緊急事態措置 4月7日、政府は、改正インフルエンザ対策特別措置法に基づき、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象として、新型コロナウイルス感染対策のための緊急事態宣言を発出した(基本的対処方針)。 (1)これを見て、まず不思議に思ったのは、「対象区域になぜ愛知県が入っていないのだろうか」ということだ。4月10日現在になるが、新型コロナウイルス患者数は、次のようになっている。 東京都 1,519人 大阪府 616人 神奈川県 381人 千葉県 354人 埼玉県 285人 兵庫県 287人 福岡県 250人 これに対して、愛知県は301人と、4番目の千葉県と5番目の埼玉県の中間の患者数なのに、なぜ指定されなかったのか、どうにも理解しかねる。政府の基本的対処方針等諮問委員会は、「当該都府県内の(1)累計の感染者数、(2)感染者が2倍になるまでの「倍加時間」、(3)1日あたりの感染者数に占める経路を追えない感染者数の割合」の3つを基準にしているというが(2020年4月10日付け日経新聞4面)、その具体的数字は明らかでない。 朝日新聞によると、「各自治体にとって病床の確保が喫緊の課題となっている。軽症者も含めて感染者を全員入院させる現在の仕組みでは、破綻(はたん)は避けられない状況だ。・・・政府の専門家会議は1日、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の各都府県について『医療提供体制が切迫している』と指摘。『今日明日にでも抜本的な対策を』と求めた。」としている。ここでは、ちゃんと愛知県を取り上げている。これに対して名指しされたほとんどの都府県はその方向で検討を進めているようだ。ところが、愛知県の大村秀章知事だけは「2日に臨時の会見を開き、『医療提供体制は十分確保している。迷惑千万だ』と専門家会議の指摘に反発した。感染状況も『どっと拡大しているわけではない』として、軽症でも感染者を入院させるという方針を変える必要はないとの考え」だそうだ(4月3日付け朝刊)。こういう、いわば「可愛くない」態度も、指定されなかった背景にあるのだろう。 (2)次に、この政府の緊急事態宣言を受けて、対象とされた都府県が緊急事態措置を行うのであるが、4月8日から10日かけて国と東京都が調整中という話が伝わってくるだけで、その措置がなかなか発出されないのである。私は、「どうしたのか、事は人間の生死にかかわるのに」と思っていたら、その様子がわかってきた。 要は、国がまずは外出の自粛程度の「穏便な」措置を目指していたのに、東京都はそれだけでなく施設の使用制限という「強力な」措置を求めていて、その調整が長引いていたからである。他の府県は、東京都ほど感染が拡がっていないことから、内心は「穏便な措置でよいではないか、それ以上に休業などを求めると補償の問題が出てきて財政が持たない」と思いながら、その国対東京都のバトルの様子見をしていたからである。現に千葉県知事などは「我々は東京都ほど財政に余裕があるわけではない」と言い、神奈川県知事は「まずは自粛で、その効果を見てからでよいではないか」と言って、東京都を牽制していた。 (3)以上の国(西村康稔経済財政再生大臣)と東京都(小池百合子知事)の調整は、私の見るところ、東京都側の圧勝に終わった。まるで政治家としての役者が違って、国が東京都に押し切られたのである。パンデミックを目前に控えた東京都と、さほどではない他の府県や経済の先行きを気にする国との真剣さの違いが出たのだと思う。 経済に対する打撃を懸念する国側は、東京都に対して、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に書かれた通り、「まん延の防止に関する措置として、まずは法第45条第1項に基づく外出の自粛等について協力の要請を行うものとする。その上で、都道府県による法第24条第9項に基づく施設の使用制限の要請を行い、特定都道府県による法第45条第2項から第4項までに基づく施設の使用制限の要請、指示等を行うにあたっては、特定都道府県は、国に協議の上、必要に応じ専門家の意見も聞きつつ、外出の自粛等の協力の要請の 効果を見極めた上で行うものとする。」(10P)と求めたはずだ。 ところが東京都は、「とりあえず」外出自粛要請をして様子を見るということでは目前に迫っているパンデミックによる医療崩壊を避けられないと考えたのであろう。外出自粛の要請と施設使用制限の要請を「同時に」行い、かつ施設使用制限に応じた中小事業者に50万円(2事業所以上は100万円)の「感染拡大防止協力金」を支給することまで表明した。それに伴う予算措置は、1,000億円だという。他の府県は、とてもそのような余裕はないので、国に頼ることになるだろう。国は、地団駄を踏むことになる。 国と東京都との溝が埋まらなかった部分は、もちろんこれだけではない。特別措置法第45条第1項に基づく東京都知事による緊急事態措置のほかに、東京都知事が特別措置法第24条第9項に基づく都道府県知事による協力の要請を幅広く発出するという主張をしたらしい。これは、本来は緊急事態宣言や措置等が出される前のいわば「つなぎ」として想定されていた条文だが、東京都は国との見解の相違を埋めるために持ち出したようだ。具体的には、居酒屋や理髪店や小規模ホームセンターも全面的な休業要請の対象に加えたいという都の考えに対して、これらは社会生活を維持する上で必要だからやり過ぎだと、国が消極的だったそうだ。 調整の結果、居酒屋や理髪店や小規模ホームセンターについては休止要請まではせず、適切な感染防止策を講じた上での営業を認める。ただし、居酒屋は午後8時まで、酒類の提供は午後7時までとなった。しかしながら、東京都の発表を見てみると、結果的にこれは特別措置法に基づかない協力要請とされたようだ。この辺りの経緯と法的な理由は、明らかになっていない。話が誠に輻輳しているので、それを整理して並べると、次のようになる。 @ 特別措置法に基づく政府の緊急事態宣言(法第32条第1項)から始まり、 A 特別措置法に基づく都道府県知事による緊急事態措置(法第2条第3号・45条)(違反者には特に罰則はないが、守らない者に対して都道府県知事は指示ができるし、その公表規定もある。) 【B 特別措置法に基づく都道府県知事による協力の要請(法第24条第9項)・・・東京都の発表には法的根拠がはっきりとは書かれていないので、よくわからない。おそらくこれらは、結果的に次のCとなったのではないかと思われるが、真偽不明。いずれにせよ要請ベースであることには変わりがない。】 C 特別措置法に基づかない都道府県知事による緊急事態宣言や自粛要請(行政指導) ちなみに、国との交渉を終えた小池百合子東京都知事は、その直後の記者会見で、次のようなやり取りがあったそうだ(日経新聞4月11日付け) 記者の問い「休業要請や協力金は都の財政基盤があるからこそできるとの意見もある。緊急事態宣言の対象の府県には、都のモデルを追随してほしいと考えているか。」 小池都知事「それぞれの地域の特性があり、だからこそ都道府県知事に権限を与えたと思う。ただ権限は代表取締役社長(知事)にあると思っていたら、天の声(= 国)が色々と聞こえまして、中間管理職になったような感じだ。やはりそれぞれで事情が違うので、まずは東京都としてなすべきことを知事としてやっていく。」 これは、地方分権で都道府県知事に感染症対策のほとんどすべての権限を与えておきながら、この改正新型インフルエンザ対策特別措置法に限っては、基本的対処方針という中に書き込んだ「調整権限」で国が都道府県をコントロールしようとしている仕組みそのものに無理があると考えられる。二つの方向がある。そのひとつは、地域の事情を知り住民により近いところにいる都道府県知事に全て任せて国はバックアップに徹するか、あるいは地方分権前のかつての機関委任事務を復活させて国が統一的な感染症対策を作ってその手足として都道府県を使い、万が一にも国の指示に反する知事が出てきたら最終的には罷免するくらいの仕組みを作るかだ。そうでなければ、施策の統一的な実施はできるものではない。しかしながら、これだけ地方分権を進めた以上、もはや前者の道しかないように思える。 (4)東京都における緊急事態措置等(令和2年4月10日) 都内全域を対象として、令和2年5月6日(水曜日)まで、新型コロナウイルス感染症のまん延防止に向け、以下の要請を実施 (1) 都民向け:徹底した外出自粛の要請(令和2年4月7日から5月6日まで) ・新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、 職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請 (2) 事業者向け:施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(令和2年4月11日から5月6日まで) ・特措法第24条第9項に基づき、施設管理者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは 催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼 ・屋内外を問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請 (5)緊急経済対策 緊急事態宣言と軌を一にして、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策〜国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ〜」が閣議決定され(4月7日付け)、その内容が明らかとなった。事業規模は約108兆円で、過去最大の経済対策となる。事業継続に困っている中小・小規模事業者に最大200万円、個人事業主に最大100万円を支援する。また生活に困っている世帯に30万円を現金で支給する。新型コロナへの治療効果が期待されている抗インフルエンザ薬「アビガン」の増産も支援する。20年度中に現在の最大3倍にあたる200万人分の備蓄を確保するなどである。 7.アジア諸国と欧米諸国の違い 本日(4月11日)現在、東アジア諸国と欧米諸国について、新型コロナウイルス感染者数と死者数を比較してみると、次のようになっている。 欧米諸国 (感染者数) (死者数) (死亡率) アメリカ 425,889人 14,665人 3.4% イタリア 143,626人 18,281人 12.7% スペイン 152,446人 15,238人 10.0% フランス 85,351人 12,192人 14.3% イギリス 65,081人 7,978人 12.2% ドイツ 113,525人 2,373人 2.0% 東アジア諸国 (感染者数) (死者数) (死亡率) 中 国 82,008人 3,336人 4.1% 韓 国 10,450人 208人 0.5% 日 本 6,188人 120人 1.9% 台 湾 363人 5人 1.4% この表をみると、欧米諸国のうち、イタリア、スペイン、フランス、イギリスの死亡率がいずれも10%を超えていることが目を引く。これは、流行の始まりが早かったことから死者数がそもそも多く、かつ蔓延が急速であったために医療崩壊が起こってそれに拍車を掛けたからだと思われる。ただし、ドイツだけは別格で、死亡率が低い(注)。 (注)ドイツの死亡率がなぜ低いかということだが、日経新聞とNHKによれば、次のように分析されている。 (1) 元々、新聞や出版社といった業界を含めてほぼテレワークであり、しかもワークライフバランスの気風があることから、外出の制限にあまり抵抗感がない。 (2) 特に北ドイツでは、高齢者は子供と同居しないというライフスタイルを貫いている。また、家が広いから、自宅隔離も容易である。(以上、日経新聞グローバルニュース2020年4月13日付け) (3) 現地ドイツ在住の上原医師によると「感染が広がる前に医療の設備が整っていたのが大きい。患者が増えても落ち着いて対応できた。」また、ドイツでは人口10万人当たりの集中治療のベッド数が、日本やイタリアなどと比べて多く、現在もおよそ1万床が空いている。(NHKニュース4月13日付け) しかし、それにしても日本、韓国、台湾の死亡率2%以下という数字と比べて、欧米諸国(ドイツを除く)とはあまりにも差が大きい。同じウイルスから生じている感染症とはとても思えないほどである。死亡率の高い高齢者の比率は、欧米諸国より東アジア諸国の方が高いはずなのに、これは一体なぜなのだろうか。その解明が進まないまま、上記4の通りの諸外国の強権的措置に比べて、5の通り日本では微温的な緊急事態宣言に基づき、この未曾有の事態に対応しようとしている。イタリア、スペイン、フランスはもとより、ニューヨークでも医療崩壊が起こって死者の数が2万人を超え、誠に悲惨な状況である。果たして日本はそのような道をたどるのか、それとも中国や韓国のように押さえ込みに成功するのだろうか。つまりは、強権的と微温的と、どちらの方が功を奏するのか、その答えは、早ければ2週間後、遅くとも1ヶ月後にわかる。 (6と7は、4月12日記) 8.外出自粛要請下での同級生の生活 閑話休題。新型コロナウイルスについて、東京都では3月28日に知事による週末の外出自粛要請が、4月7日には改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく政府の緊急事態宣言が、そして4月11日からはいよいよ同法に基づく東京都知事による緊急事態措置等が出された。その中で、「医療機関への通院、食料の買い出し、 職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等」が要請された。 さてそれで、この外出自粛下での生活をどうしているか、大学の同級生のメーリングリストでのやり取りがある。皆さん、ほぼ現役生活を終えて引退しているとはいえ、それぞれの職業経験を踏まえて、なかなかの知的生活を送っているので感心するとともに、立派な同級生たちだと誇りに思えてきた。 《Aさん》 新型コロナウィルスの影響でいつもの同級生の懇親会場のクラブが、5月の連休明けまで休業することになったとの連絡が来ました。開業以来初めての長期休業だそうです。 スポーツクラブの休業に加えてゴルフ場まで行動制限が厳しくなり、月1回の東京本社での検診、薬の受け取りもバス、電車での感染予防のため、当面近くのクリニックで行うように会社から指導がありました。大切な時間が無駄に過ぎて行くのは本当に残念です。 皆さんはどんな過ごし方をしているのか、良いアイデアがあれば是非教えていただきたいと思います。 私からは月並みながら最近読んだものからお奨めを2点。 @ 藤原辰史「パンデミックを生きる指針」−歴史研究のアプローチ ・岩波新書HP「B面の岩波新書」に掲載されたもので、8Pの小論文ですが、著者の許諾を得て、自由に印刷・複製できます。著者は京大人文研の准教授。 A 楡 周平「サリエルの命題」講談社 単行本 ・新型ウィルスの感染を梃に、長寿化の問題を扱ったフィクションですが、現在指摘されている問題も取り上げられています。ただ、この小説では特効薬がある、感染地域が離島・過疎地域にとどまるなどとしていますが、今回のウィルスは、特効薬もワクチンも無く、都市部で拡がるなど、作者の想像を超えたもので、より深刻です。 《私(悠々人生)》 私の法律事務所も閉鎖した上に所内でも所外でも対面は禁止というので、全く仕事になりません。海外旅行も、今年中に南欧、北欧、エジプトのナイル川クルーズを計画していたのですが、全てキャンセルしました。中でも今年初めにナイル川クルーズに行った日本人が感染して帰国して周りにうつしたと聞いて、かなり危なかったと感じました。 このウイルスは、大多数の人が免疫を獲得するまで、何波にもわたって襲ってくるでしょうから、来年の東京オリンピックもどうなるかわかりませんね。それまで、特効薬とワクチンが出来ていて、かつ私も皆さんも罹らないでいることを願います。 そういうことで、現在は安全が保証された「宇宙船」のような自宅にいて、時々「船外活動」と称して散歩や必需品の買い物に出掛けています。近くの根津神社は散歩コースですが、今年は「ツツジ祭り」が中止となりました。ところが、季節は巡って咲く時期となり、綺麗なツツジが派手に虚しく咲いています。 雑誌にインタビューされたりしたので、それ以来、改正新型インフルエンザ対策特別措置法や政府と東京都の攻防をウォッチしていますが、なかなか興味深いです。とりあえず、次のようにとりまとめています。ただ、2本目は、まだ作成途上です。 日本の感染者はまだ6千人台で死亡率は幸い2%弱ですが、イタリア、スペインは10数万人と12%ほどで、強権的な押さえ込みをしてもこれほど上がってしまいました。アメリカは全体では50万人を超えて死亡率は今のところ3%強ですが、既に医療崩壊が起こっているニューヨークなどは早晩ヨーロッパの道を歩むのは確実だろうと思います。 それに対して日本は、微温的な緊急事態宣言を出したばかりですが、欧米諸国と同じになるのか、それともこの微温的な措置で押さえ込みに成功するのかですね。現に国と東京都は方法論を巡って大議論を行った。どちらが正しかったか、その答えは、早ければ2週間以内に分かるでしょう。もし成功すればさすが日本ということになるし、失敗すれば、こんな微温的なことで良いのか、他の国並みに強権的に対処すべきだとして、個人の権利を制限する方向が強まるでしょう。大袈裟に言うと、戦後日本が構築してきたものが問われている。 《Bさん》 コロナウィルスの猛威は収まるどころか、このまま自粛が数か月続くと、心身ともにめげそうですね。 蟄居閉門の沙汰があったと考え、自宅に抱え込んだ膨大な数のDVDと本棚にあふれかえって前をふさいで積み上がり。下段に何があるのかわからなくなっている蔵書の整理にかかっております。もうお読みになったかもしれませんが、まだの方には藤沢周平の長編「蝉しぐれ」か短編の「帰郷」(文春文庫・又蔵の火に収録)をお勧めします。時代小説もよいものですよ。 携わっているボランティア、習い事のうち、博物館ボランティア2件と藍染は現在ストップ、電話相談(自殺防止です)のみ稼働中で、人生で最もヒマな時期となっております。読書は、今年初めからインド、中央アジア、西アジア、エジプトにわたる4千年の歴史をかじりまくっております。このエリアについての翻訳書はまことに少なく、私が法学部を選ばなかったら進んでいたはずのオリエント歴史学は楽しんで読めるものがほとんどありません。情けないことです。 ボランティアの一つ、みんぱく(国立民族学博物館)では、設立者の梅棹忠夫生誕100年展などを計画していましたが、先送りとなりました。この機会に梅棹忠夫の著書を数点読みましたが、教科書で覚えのある「モゴール族探検記」、「知的生産の方法」などを読むと、改めてわれらの京都大・今西組の知的貪欲さとエネルギーに圧倒されました。入学早々に今西錦司氏(当時・岐阜大学長でした)の講演を聞いたこと、仕事でみんぱく館長時代の梅棹氏にインタビューした事を思い出し、俺たちは充実した知的経験をしてたんだな・・と妙に感心している次第です。 わが蔵書は、文庫、ハードカバー取り混ぜて、@社会科学、歴史系、A文学系(意外と詩集多し)、Bミステリー、SF系(英米のホラーの翻訳はほとんど所有)C自然系、Dなつかしの漫画やコミック・・に大別され、幅1m、8−9段の本棚24本におさまっているのですが、さらにその半分くらいの冊数が本棚の前や間に積み上がっております。冊数は3−4万くらいでしょう。これをあと2年(72歳のうちに)で積み上げを解消するのを目標にしております。 DVDは、@邦画、A洋画、B歌舞伎その他芸能、Cクラシック(主にオペラとバレエ)D宝塚歌劇、EアニメF和洋のテレビドラマG生物、自然科学系、H歴史や文化系に大別して、総計3万枚くらいです。只今重複を整理中ですが、こちらも72歳を期して増やさないつもりです。 自分では、あと12年くらいまでにお迎えが来ると思っており、最後の数年は自選した書籍と映像に埋まって過ごしたいと考えております。 皆さん、蟄居閉門を楽しむ方法を考えましょう。 9.各国首脳のリーダーシップに感動 (1) 新型コロナウイルスは、2月頃に中国の武漢や韓国の大邱で猛威をふるった後、3月中旬頃から舞台は欧州各国に移り、アウト・ブレイクする兆しをみせた。そうした中で、イタリア、フランス、ドイツ、イギリスなど欧州各国首脳は外出禁止令を出し、国民に対して耐乏生活を呼びかけた。それが、実に心に響くもので、私は感動してしまった。 (2) ドイツのメルケル首相 3月18日、ドイツのメルケル首相は、国民に対して「新型コロナウイルス感染症対策に関する演説」を行った。その一部を抜き出してみると、 「ドイツに広がるウイルスの感染速度を遅らせることです。そのためには、社会生活を極力縮小するという手段に賭けなければならない。・・・こうした制約は、渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとり、絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものなのです。民主主義においては、決して安易に決めてはならず、決めるのであればあくまでも一時的なものにとどめるべきです。しかし今は、命を救うためには避けられないことなのです。」 周知の通り、メルケル首相は旧東ドイツの出身で、若い頃は基本的人権が非常に制約された生活を送っていた。そうした体験を踏まえて、このようなことを切々と語りかけると、国民は納得せざるを得ないと考える。実に良い演説だった。 3月16日、フランスのマクロン大統領は、しっかりとテレビカメラを見据え、いかにも若くて元気のよい演説を行ったので、思わず見とれてしまった。 曰く「明日正午から少なくとも15日間、われわれの移動は極めて大幅に限定されます。それはすなわち屋外での集まり、家族同士や友人同士の集まりが、もはや許されなくなるということです。公園や通りを散歩したり、友人と再会したりすることは、もはやできなくなります。家庭以外でのこうした接触を最大限に制限するということです。フランス全土の至る所で、本土でも海外領土でも、必要なルートのみ、規律を守り、最低1メートルの間隔を取りながら、あいさつの握手もキスもせず、買い物に行くために必要なルートのみにとどめなければなりません。治療を受けるために必要なルート、もちろん、在宅勤務ができないならば通勤するために必要なルート、軽く運動するために必要なルート、しかしここでも友人や近親者と会ってはなりません。 すべての企業はテレワークしやすくするように態勢を整えなければなりません。それが不可能なら、ウイルス感染予防策を順守させるため、すなわち従業員を守るため、明日から組織を適応させなければなりません。フリーランスであれば、自分自身を守らなければなりません。政府は今夜、私の演説を受けて、これらの新しいルールの形態を明確化します。これらのルールに対する違反はすべて罰せられます。 私は今夜、極めて厳粛な気持ちで申し上げます。医療従事者の言うことに耳を傾けようではありませんか。『私たちを助けたいのであれば、自宅にとどまり、接触を制限する必要があります』。これが最も重要なことです。当然のことながら、今夜、私は新しいルールを課し、われわれは禁止措置を課し、検問もあるでしょう。しかし最良のルールは、皆さんが市民として、ルールを自らに課すことです。私は改めて皆さんの責任感と連帯意識に訴えます。」 国の首脳ではないが、各国の知事も頑張っている。私が一番感心したのは、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事である。これこそリーダーだと、男を上げている。毎日、定期的に記者会見を開き、データに基づいて科学的に冷静に説明する。その上で、テレビを見ていると、このような発言があり、いちいちそのたびに感激し、感動した。 「(人工呼吸器がない、ないと訴え)、人工呼吸器、人工呼吸器、人工呼吸器と3回繰り返す。(そして、とうとう自分で中国から1万3,000台を輸入して、それをトラックから降ろしてみせた。」 「(患者の7割が貧しい黒人層に偏っていることについて)公共交通機関の関係など、通勤をやむなくされているからだろうが、原因を究明する必要がある。」 「海軍の病院船をニューヨークに回航してくれとトランプ大統領に頼んだ(実現した。)」 「医療従事者が絶対的に足りないと全米に『もし、あなたのいる地域で医療崩壊が起きていないのなら、是非ニューヨークに来て助けてほしい。』と呼び掛けた。」 (5) 東京都の小池百合子知事 そうかと思うと、日本では東京都の小池百合子知事が頑張っている。緊急事態宣言に基づく緊急事態措置の発表に当たり、国が経済への悪影響を懸念して「まずは外出自粛、2週間ほどその様子を見てから休業要請に踏みきるか決める」という腰が引けた態度だったのに対して、「同時にしなければオーバーシュート(爆発的に感染者が増える状況)に陥る。」として頑として譲らず、それを貫徹した。心から拍手を送りたい。 (8は、4月14日記。9は、4月20日記) 10.それに対して、我が宰相は (1) 星野源というシンガーソングライターが「うちで踊ろう」という自作の曲を歌って,外出禁止を呼びかけている。有名人がこれに応じて演奏したりしていたが、驚いたことに、4月12日、安倍晋三首相がその公式ツィッターにこれを取り上げた。画面の左側で星野源がギター片手に歌っていて、その右側に安倍首相が自宅でペットを撫でたり珈琲を飲んだりと、実に優雅に寛いでいる様子が投稿された。そして曰く「友達と会えない。飲み会もできない。ただ、皆さんのこうした行動によって、多くの命が確実に救われています。そして、今この瞬間も、過酷を極める現場で奮闘して下さっている、医療従事者の皆さんの負担の軽減につながります。お一人お一人のご協力に、心より感謝申し上げます。」 だれが見ても、これは国民の神経を逆撫でして、完全な逆効果であることは明らかだ。一庶民が寛いでいるのならともかく、首相は言うまでもなく国政の責任者である。しかも現下は緊急事態にあり、このたびの外出自粛や施設の使用制限によって多くの人が苦しんでいる。例えば、顧客を失ったレストランなどの小規模事業者、派遣切りにあった労働者、観光客が途絶えた旅館のオーナーなどだ。その人たちのことに思いを馳せず、まるで他人事のように、一人自宅で優雅にペットを撫でているときかと、国民は思ってしまう。そんな暇があるなら、メルケル首相やクオモ知事のように、蔓延防止のため一生懸命に仕事をしろと言いたくなる。取り巻きを含めて、そういう政治感覚が全然ないのだろうか。やることなすことが全くちぐはぐだ。これでは先行きが思いやられる。 (2) もう一つ驚いたことは、緊急経済対策を実現するための補正予算案に盛り込まれた「生活に困っている世帯に30万円を現金で支給する。」という施策が、公明党の申入れで、たった一夜で覆り、「国民一人当たりに10万円を現金で支給する。」に代わったことだ。そもそもこの30万円の支給案は、岸田文雄自民党政調会長との協議で決定したはずだ。その時、私はなぜ岸田会長が急に出てきたのか、後継者としてアピールするつもりなのかと訝しげに思っていたが、案の定、直ぐにひっくり返ってしまい、政治力のなさを天下に示してしまった。 当初の30万円支給案が国民の2割程度しか行き渡らないし、月収が一定以上減収するなどの支給要件のチェックをする作業のために支給まで数ヶ月以上もかかるということが明らかになって、二階幹事長や与党の一角の公明党から、「もっとシンプルにした早く支給できる制度にした方がよい」という声が高まってきたからだ。もちろん、幹事長には政調会長へのさや当ての意図もある。その結果、4月16日に公明党山口那津男代表が首相に直接申し入れて、補正予算案の組み替えが決まった。こういうことは、前代未聞のことである。急がなければならないのに、このドタバタ劇で、補正予算の成立は1週間ほど遅れるだろう。 (10は、4月16日記) 11.緊急事態宣言の対象を全国に拡大 2020年(令和2年)4月16日、総理大臣官邸で第29回新型コロナウイルス感染症対策本部を開催された(基本的対処方針)。その議論を踏まえ、安倍首相は、次のように述べた。 「本日、諮問委員会からも御賛同を頂き、4月7日に宣言した緊急事態措置を実施すべき区域を、7都府県から全都道府県に拡大することといたします。実施期間は、5月6日までに変更はありません。まず、北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び京都府の6道府県については、現在の対象区域である7都府県と同程度にまん延が進んでおり、これら以外の県においても、都市部からの人の移動等によりクラスターが各地で発生し、感染拡大の傾向が見られることから、地域の流行を抑制し、特に、ゴールデンウィークにおける人の移動を最小化する観点から、全都道府県を緊急事態措置の対象とすることといたしました。」 つまり、緊急事態宣言の元々の対象だった7都府県に、愛知県及び京都府などの6道府県加えて合計13都道府県を「特定警戒都道府県」とし、それ以外の34全県を緊急事態措置の対象にしてしまった。ここで、「・・・しまった。」というのは、同特別措置法32条やその施行令6条の要件(注)からして、この全都道府県の指定は、この段階ではできなかったのではないかと考えられるからである。 (注) 改正新型インフルエンザ対策特別措置法特別措置法32条及び同施行令6条の要件 (新型インフルエンザ等緊急事態宣言等) 特別措置法第三十二条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。 一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間 二 新型インフルエンザ等緊急事態措置(第四十六条の規定による措置を除く。)を実施すべき区域 三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要 2 前項第一号に掲げる期間は、二年を超えてはならない。 3 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等のまん延の状況並びに国民生活及び国民経済の状況を勘案して第一項第一号に掲げる期間を延長し、又は同項第二号に掲げる区域を変更することが必要であると認めるときは、当該期間を延長する旨又は当該区域を変更する旨の公示をし、及びこれを国会に報告するものとする。 4 前項の規定により延長する期間は、一年を超えてはならない。 (新型インフルエンザ等緊急事態の要件) 施行令第六条 法第三十二条第一項の新型インフルエンザ等についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、感染症法第六条第六項第一号に掲げるインフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められることとする。 2 法第三十二条第一項の新型インフルエンザ等緊急事態についての政令で定める要件は、次に掲げる場合のいずれかに該当することとする。 一 感染症法第十五条第一項又は第二項の規定による質問又は調査の結果、新型インフルエンザ等感染症の患者(当該患者であった者を含む。)、感染症法第六条第十項に規定する疑似症患者若しくは同条第十一項に規定する無症状病原体保有者(当該無症状病原体保有者であった者を含む。)、同条第九項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(当該所見があった者を含む。)、新型インフルエンザ等にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(新型インフルエンザ等にかかっていたと疑うに足りる正当な理由のある者を含む。)又は新型インフルエンザ等により死亡した者(新型インフルエンザ等により死亡したと疑われる者を含む。)が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合 二 前号に掲げる場合のほか、感染症法第十五条第一項又は第二項の規定による質問又は調査の結果、同号に規定する者が新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合 それにつけても思い出すのは、4月7日、政府が改正インフルエンザ対策特別措置法に基づき、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象として緊急事態宣言を発出したときのことである。上記6.で述べたように、都道府県の指定は、「政府の基本的対処方針等諮問委員会は、『当該都府県内の(1)累計の感染者数、(2)感染者が2倍になるまでの「倍加時間」、(3)1日あたりの感染者数に占める経路を追えない感染者数の割合』の3つを基準にしている」とされていた。これは、同特別措置法32条やその施行令6条の要件を念頭に置いていることは明らかである。 ところが今回、安倍首相によるこの全都道府県の指定の記者会見に際して、隣に諮問委員会の尾身茂会長がいたにもかかわらず、両者からこうした要件についての説明が全くなかったのには、驚いた。それどころか、なぜ決断したのかと記者に聞かれた安倍首相曰く「専門家によると、都市部からの人の移動でクラスターが各地で発生し、全国的な感染拡大の傾向が見られるとの見解だった。地方には重症化リスクの高い高齢者がたくさんいる。もし感染が広がれば医療提供体制に大きな負担になる。大型連休に旅行や帰省で多くの人が移動することが予想されるなか、人の移動を最小化するとの観点から全国を対象にした。」。それならそれで、法律の要件に書き込むべきだった。 そして尾身会長も、「先行きについては、(宣言から)1カ月経ってみて『極力8割(の接触削減)』がどのぐらい達成されたのか、感染のカーブが当初に比べて平坦なのか、下がらないのか、我々が期待するような下がり方なのか、下がり方が緩やかなのか――といったことについて、5月6日ごろになると大体のことが言える。その評価を元に専門家として政府に提言したい。」(4月17日付け朝日新聞)などと、法律の要件とはまるで関係のないことを語っていた。 ちなみに、前日16日午後8時半現在の感染者数(括弧内は緊急事態宣言を発出した4月7日の感染者数)の多い都道府県と少ない県は、次のようになっている。(4月17日付け朝日新聞) 最初からの特定警戒都道府県 東京都 2595人(1,519人) 大阪府 1020人( 616人) 神奈川県 674人( 381人) 千葉県 596人( 354人) 埼玉県 528人( 285人) 兵庫県 454人( 287人) 福岡県 461人( 250人) ...................................... 今回加わった特定警戒都道府県 愛知県 370人( 301人) 北海道 332人 京都府 225人 石川県 146人 岐阜県 130人 茨城県 123人 ...................................... 感染者の少ない県 秋田県 15人 佐賀県 15人 鹿児島県 4人 徳島県 3人 鳥取県 1人 岩手県 0人 ここでは省略したが、感染者数50人未満の県は30、中でも岩手県はゼロ、鳥取県は1人だった。こういう県は、この時点では法律の要件には当てはまらないことから区域として指定できなかったはずなので、とりあえずは様子を見るべきであったと思う。案の定、知事の中には全国を指定対象としたことについて、「非常に驚いている」(鳥取県平井知事)、「想定していなかった」(新潟県花角知事)、「朝令暮改という言葉が浮かぶ」(愛媛県中村知事)、「大阪府などと同じことをする必要はなく感染者数といった県内の実態に応じて措置をする」(和歌山県仁坂知事)という感想を述べる人もいた。このように、現行の法律の規定を無視して、強引に当てはめようとする政権の姿勢には、一抹の不安を覚えるものである。これが他の分野で起こったら、重大な結果を招きかねないからだ。 もっとも、今回の特別措置法は、法律の建て方がそもそも要請ベースであることから、法定の要件に外れるようないい加減な運用をしてもさほど目立たない。ところが、仮にこれが欧米のように外出規制や施設使用制限命令違反に直罰をかける法律であったとしたら、とてもこのようないい加減な運用では耐えられない。たとえ起訴されても、裁判所で無罪とされる例が続出するだろうと思う。 (参 考) 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年4月22日) 12.ステイ・ホーム週間の過ごし方 4月24日、東京都の小池百合子知事が、「来週から始まるゴールデン・ウィークは、新型コロナウイルス対策のため、外出しないでお家にいるステイ・ホーム週間にしましょう。企業の方は、4月27日と28日も休んで、12連休にしてください。皆で命を守りましょう。」と呼び掛けている。 私の法律事務所も閉鎖になった上に所内でも所外でも対面は禁止というので、全く仕事にならない。知事がそうおっしゃるので、安全が保証された「宇宙船」のような自宅にいて、時々「船外活動」と称して散歩や必需品の買い物に出掛けることにしている。近くの根津神社は散歩コースだが、今年は「つつじ祭り」が中止となり、つつじ苑も閉鎖されてしまった。ところが、季節は巡って咲く時期となり、ほとんど人がいない中で色とりどりの綺麗なつつじが派手に虚しく咲いている。好きな写真も、旅行や外出をしなければ撮れないものだから、もうダメだ。さりとて、日がな一日、宇宙船内で映画を見るのも飽きる。 そういうことで、起床 → 朝食 → 専門書 → 散歩 → 昼食 → この悠々人生の手入れ → 散歩 → 過去の資料の整理 → 夕食 → 散歩→ NHK → 風呂 → 読書 → 就寝 という規則正しい生活を送っている。会食など全くないので、非常に健康的だ。当然のことながら、アイウォッチの健康アプリの三要素(消費カロリー、エクササイズ、スタンダップ)は、いずれもクリヤーしている。これからのステイ・ホーム週間も、特に出掛けることなく、同じように過ごすつもりである。 ところで、私の親しい友人が、「さだまさしの関白宣言の替え歌があるよ。新型コロナウイルスを歌っている。面白いよ。」と教えてくれた。これがまた、非常によく出来ているのである。政府の広報以上の出来で、感心してしまった。誰の作か調べてみたが、結局わからなかった。 ♪ いま一つは、バンコク高架鉄道(BTS)の新型コロナウイルス・ダンスである。タイ語は全く分からないが、リズミカルに踊りながら、手を洗おうとか、皿を取り分ける時に専用のスプーンを使おうとか、手すりを掃除しようなどとかを訴えているようだ。手造り感いっぱいで、元気そのもの。ともかく、面白かった。 13.新型コロナウイルスの伝播経路 ここで、今回の新型コロナウイルスの由来に関する興味深い報告があったので、記録しておきたい。国立感染症研究所は、日本人の新型コロナウイルス感染者560人、世界の感染者4500人について、ウイルスのDNAを解析した。 そうすると、新型コロナウイルスは、次の図の真ん中の武漢から端を発し、1月から2月にかけてダイヤモンド・プリンセス号や初期の日本に伝播した。そして、北米西海岸にも伝わった。ところが、このウイルスの株の流行は、そこで一旦は終息したらしい。代わって猛威をふるったのは武漢から欧州へ飛んだウイルスの株で、イタリア、スペイン、イギリス、フランスなど欧州各地で暴れまわった後、北米東海岸に飛んで、ニューヨークなどで大惨事を引き起こした。と同時にそのウイルスの株は欧州から日本に伝わって、最近の流行をもたらした。つまり、最近3月から4月にかけての日本での流行は、3月に欧州から帰国した者によってもたらされたというのである。 ちなみに、日本国内におけるウイルスの遺伝子的な特徴を調べた研究によると、令和2年1月から2月にかけて、中国武漢から日本国内に侵入した新型コロナウイルスは3月末から4月中旬に封じ込められた(第1波)一方で、その後欧米経由で侵入した新型コロナウイルスが日本国内に拡散したものと考えられている(第2波)。(5月14日付け官邸対策本部資料10頁) (13は、4月28日記、5月14日追記) 14.決死の覚悟で病院へ ところで、この外出自粛の期間中、家内がどうしても病院に行く必要が生じてしまった。普段の持病の薬は、虎ノ門病院に電話してかかりつけの医師と話をさせてもらい、そこで処方箋を作成の上、自宅に送付したもらって、近くの薬局で入手することができたので、それは問題がなかった。ところが、連休の半ばに、家内が発熱したのである。37.2度くらいだから、大したことではないが、一瞬、新型コロナウイルスではないかとの疑念が頭をよぎる。家内は、私より若いが高齢者であることには違いなく、かつ持病があるので、高リスクだ。でも、症状をよくよく観察すると、風邪の症状は出ていないし、代わりに若干の腹痛を伴うので、これは2年前のこの同じ季節に罹ったあの病気ではないかと思い当たった。その時の記録を引っ張り出して読んでみると、やはりそうに違いないと確信した。 弱ったことに、そうだとすると、病院に足を運んで抗生物質を処方してもらわないといけない。明後日から連休の後半が始まるから、明日5月1日の金曜日は最後のチャンスだ。もし病院に行かないまま連休中に悪化して救急車で運ばれても、熱があるので新型コロナウイルスと間違われて診察を受けられないというのでは困る。昨日は、救急車が搬送先の病院を探すのに50ヶ所も電話した事例があったそうだ。そうした状況は避けたい。ただ、明日に病院に行くのには間違いなく大きな危険を伴う。まるで、新型コロナウイルスの真っ只中に行くようなものだからだ。どうしたものかと思いながら、虎ノ門病院のウェブサイトを見る。すると、普段は午前8時半からの開院だが、午前8時から、全ての来院者に問診と体温測定を行うとして、次のような掲示があった。 「緊急事態宣言の発令に伴い、新型コロナウイルス感染症対策のため、当院では全ての来院者に問診と体温測定を行うことになりました。問診、体温測定を行ってない方は院内へ入ることはできません。また、体温測定の結果37.5℃以上の発熱が確認された方・鼻水・のどの痛み・咳などの症状がある方は、当院にて症状に応じた診療を行うことにいたしますので、ご協力お願いいたします。」 なるほど、病院の方もそれなりに警戒しているようだから、待合室で新型コロナウイルスに伝染るということはあまりなさそうだ。それではと、行くことに決めた。文字通り、必死の覚悟である。午前7時半に自宅を出なければならない。ただ、通勤時間に地下鉄を使うと危ないので、タクシーにした。そういうことで、当日は二人でタクシーに乗り込み、窓を開けて空気が流れるようにした。午前8時に病院に着いた。すると乗ったまま地下2階の入口に連れていかれて、そこで体温計を渡されて測り、問診票に記入させられた。問診票の問はありきたりのものだったが、最後の問にはビックリした。それは、「最近、永寿総合病院、慶応大学病院、墨東病院に行ったことはありますか。」というものだったからである。いずれも、院内感染が問題になっている病院だとはいえ、いささか露骨過ぎはしないか。 そのスクリーニングが終わって、2階の受付に上がって行ったら、人が少ないのには驚いた。普段は高齢者でごった返しているというのに、空いていてガラガラだ。実感として4分の1ほどだ。それは待合室でも同じ。だから、予約外でも直ぐに診てもらえた。医師の診断は、やはり、2年前と同じ病気であった。抗生物質の処方箋をもらって、一件落着した。帰りは地下鉄で帰ってきたが、車内はガラガラだった。二人とも、新型コロナウイルスに罹っていないことを願おう。 15.緊急事態宣言の延長直前の状況 4月30日の時点で、PCR検査で陽性とされた世界の新型コロナウイルス患者数(うち、死亡者数)の累積をみると(ジョンズ・ホプキンス大学まとめ)、次のようになっている。 世界合計 3,156,136人(227,705人) アメリカ 1,040,488人(60,999人) スペイン 236,899人(24,275人) イタリア 203,591人(27,682人) フランス 166,543人(24,121人) イギリス 166,441人(26,166人) ドイツ 161,539人( 6,467人) トルコ 117,589人( 3,081人) ロシア 99,399人( 972人) イラン 93,657人( 5,957人) 中 国 83,644人( 4,637人) .............................................. シンガポール 15,641人( 14人) オーストリア 15,402人( 580人) チ リ 15,135人( 216人) 日 本 13,965人( 425人) ベラルーシ 13,181人( 84人) これを見ると、日本は患者数にして29番目の国となっている。もっとも、日本ではPCR検査を十分に行われていないので見かけの患者数が少ないという批判があるのはその通りであるから、あまり大きなことは言えない。いずれにせよ、医療崩壊が起こったアメリカ、スペイン、イタリア、フランス、イギリスの死者数の多さは目を覆うばかりである。これから日本がこの道を通るのかどうかは、まだ分からない。 他方、日本においては、4月30日は、8日の緊急事態宣言から約3週間が経過した日になる。そこで、5月1日午前10時半現在の都道府県の患者数を見ると、次の通りである。(NHK調べ) これによると、東京都の患者数が4,152人と、全体の3割を占めている。その東京都の日毎の患者数の推移を見ると、次のように、4月17日にピークに達した後、漸減傾向にある。やはり、外出自粛と施設使用制限の効果が現れていることは、明らかである。ただ、まだ46人という高水準である。仮にこれが、1日に1桁の数人というレベルにまで落ちれば、とりあえずは安心ということになるのだが、それが何時になるかは全く見通せない。いずれにせよ、当初の緊急事態宣言の期限である5月7日にはとても間に合いそうにないから、その延長は間違いないという状況になっている。 3月31日 78人 4月 5日 143人 4月11日 197人 4月17日 217人 4月24日 161人 4月28日 112人 4月30日 46人 ところで、緊急事態宣言が出てからの動きをいくつか記録しておきたい。政府の専門家会議の方針は、人出の8割削減を目標としている。東京都であれば大手町、丸の内、新宿、銀座、渋谷などの繁華街においては、確かにこの目標は、ほぼ達成できている。ところが、問題は、住宅地近くの商店街や公園については、かえって人通りが増えてしまっていることで、例えば、戸越銀座商店街、巣鴨商店街、駒沢公園、砧公園などだ。これは、在宅勤務の人達が飽きて繰り出したものと考えられる。次に、湘南や鎌倉、沖縄などに観光客が押し寄せることで、これも都会のウイルスを観光地に撒き散らすことになるので、各自治体の首長が「来ないでほしい」と呼び掛けている。常日頃とは全く反対なので、皮肉なものだ。 パチンコ屋の営業も問題となっている。これは、もちろん施設の使用停止要請の対象として明示されているが、東京都では、これに応じずに引き続き営業をしていた店が10軒あった。これに対し、新型インフルエンザ対策特別措置法第45条第2項に基づいてもう一度要請をして、それでも応じてもらえない場合には、同条第3項に基づき指示を行うことが検討されたが、それに至るまでに営業を自粛したようだ。他方、茨城県、千葉県、神奈川県などでも営業をしているパチンコ屋があり、しかも駐車場には他の都県のナンバーが目立つというので、ますます問題になっている。こうした県では、店名公表まで踏み切った県もある。関東地方以外では、大阪府、京都府、兵庫県、愛知県なども店名を公表した。意外だったのは、店名を公表すると、パチンコ・ファンがそこが営業している店だと認識して押し掛けるという「逆効果」があったことだ。 なお、店名を公表しても、なお営業を継続している店があったことから、兵庫県、神奈川県などでは、5月1日、第45条第3項の指示を行った。 この点につき、西村康稔担当相は、4月28日の予算委員会で「特別措置法について『強制力を持つ形で検討せざるを得ないということも考えている』と表明して罰則の適用を示唆し、内閣法制局とも相談する」という姿勢を見せた。仮にそうなると、本特別措置法の性格が大きく変貌することになる。 5月1日の専門家会議がまとめた報告書の概念図は次のとおりで、この内容が緊急事態宣言の延長に際して考慮されるものと思われる。 16.緊急事態宣言を5月末まで延長 (1)4月7日の緊急事態宣言の元となった「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(3月28日)は、5月7日までを期限としていた。ところが、昨今の感染症とその対策の状況を踏まえ、緊急事態宣言を見直して、期限を5月末まで延長するとともに、その内容に一部変更を加えるために、基本的対処方針が5月4日に変更された。その変更された部分の骨子は、次の通りである(5月4日対策本部総理発言)。 @ 政府や地方公共団体、医療関係者、専門家、事業者を含む国民の一丸となった取組により、全国の実効再生産数(ひとりの感染者が周囲の何人に感染させるかを示す数字)は1を下回っており、新規報告数は、オーバーシュートを免れ、減少傾向に転じるという一定の成果が現れはじめている。一方で、全国の新規報告数は未だ200人程度の水準となっており、引き続き医療提供体制がひっ迫している地域も見られることから、当面、新規感染者を減少させる取組を継続する必要があるほか、地域や全国で再度感染が拡大すれば、医療提供体制への更なる負荷が生じるおそれもある。このため、令和2年5月4日、法第32条第3項に基づき、引き続き全都道府県を緊急事態措置の対象とし、これらの区域において緊急事態措置を実施すべき期間を令和2年5月31日まで延長する。ただし、10日後の5月14日を目途に、専門家にその時点での状況を改めて評価をしてもらい、もはや緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認められるときは、 期間内であっても速やかに緊急事態を解除する。 (次の表は、NHKニュースより) A 東京都や大阪府など13の特定警戒都道府県では、引き続き、極力8割の接触削減に向けた、これまでと同様の取組をする必要がある。一方で、それ以外の県においては、感染拡大の防止と社会経済活動の維持との両立に配慮した取組に、段階的に移行する。例えば、これまでクラスターの発生が見られず、3つの密(密閉、密集、密接)を回避できる施設については、感染防止対策を徹底した上で、各県における休業要請の解除や緩和を検討する。なお、国民の皆様におかれては、まん延防止の観点から、引き続き、不要不急の帰省や旅行など、都道府県をまたいだ移動は極力避けるようにお願いする。 B これからの1か月は緊急事態の収束のための1か月であり、次なるステップに向けた準備期間である。専門家からは、今後、この感染症が長丁場になることも見据え、感染拡大を予防する新たな生活様式の提案があった。様々な商店やレストランの営業、文化施設、比較的小規模なイベントの開催などは、この新しい生活様式を参考に、人と人との距離をとるなど、感染防止策を十分に講じながら実施して結構である。今後2週間をめどに、業態ごとに、専門家の協力を得ながら、事業活動を本格化させるための、より詳細な感染予防策のガイドラインを策定する。 (参 考) 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020年5月4日) (2)専門家会議が提唱する新しい生活様式 ○ 5月1日の提言では、感染の状況は地域において異なっているため、 @ 感染の状況が厳しい地域では、新規感染者数が一定水準まで低減するまでは、医療 崩壊を防ぎ、市民の生命を守るため、引き続き、基本的には、「徹底した行動変容の要請」が必要となる。 A 一方で、新規感染者数が限定的となり、対策の強度を一定程度緩められるようになった地域(以下「新規感染者数が限定的となった地域」という。)であっても、再度感染が拡大する可能性があり、長丁場に備え、感染拡大を予防する新しい生活様式に移行していく必要がある、と指摘した。 ○ これまでの提言でも、感染拡大を食い止めるために徹底した「行動変容」の重要性を訴え、手洗いや身体的距離確保といった基本的な感染対策の実施、「3つの密」を徹底的に避けること、「人との接触を8割減らす10のポイント」などの提案を重ねてきたところである。今回の提言では、5月1日の提言を踏まえ、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を具体的にイメージいただけるよう、今後、日常生活の中で取り入れていただきたい実践例を次のとおり、整理した。 ○ 新型コロナウイルスの出現に伴い、飛沫感染や接触感染、さらには近距離での会話への対策をこれまで以上に取り入れた生活様式を実践していく必要がある。これは、 従来の生活では考慮しなかったような場においても感染予防のために行うものである。 ○ 新型コロナウイルス感染症は、無症状や軽症の人であっても、他の人に感染を広げる例がある。新型コロナウイルス感染症対策には、自らを感染から守るだけでなく、自らが周囲に感染を拡大させないことが不可欠である。そのためには一人ひとりの心がけが何より重要である。具体的には、人と身体的距離をとることによる接触を減らすこと、マスクをすること、手洗いをすることが重要である。市民お一人おひとりが、日常生活の中で「新しい生活様式」を心がけていただくことで、新型コロナウイルス感染症をはじめとする各種の感染症の拡大を防ぐことができ、ご自身のみな らず、大事な家族や友人、隣人の命を守ることにつながるものと考える (3)業種ごとの感染拡大予防ガイドラインに関する留意点 ○ 今後、感染拡大の予防と社会経済活動の両立を図っていくに当たっては、特に事業者において提供するサービスの場面ごとに具体的な感染予防を検討し、実践することが必要になる。 ○ 社会にはさまざまな業種等が存在し、感染リスクはそれぞれ異なることから、業界団体等が主体となり、また、同業種だけでなく他業種の好事例等の共有なども含め、 業種ごとに感染拡大を予防するガイドライン等を作成し、業界をあげてこれを普及し、現場において、試行錯誤をしながら、また創意工夫をしながら実践していただくことを強く求めたい。 ○ ここでは、各業種のガイドライン等の作成に当たって求められる基本的な考え方 や留意点の例をまとめた。また、実際にガイドライン等を作成するに当たっては、適宜、感染管理にノウハウのある医療従事者などに監修を求めることにより、効果的な対策を行うことが期待される。 ○ また、新型コロナウイルス感染症から回復した者が差別されるなどの人権侵害を 受けることのないよう、円滑な社会復帰のための十分な配慮が必要である。 (リスク評価とリスクに応じた対応) ○ 事業者においては、まずは提供しているサービスの内容に応じて、新型コロナウイルス感染症の主な感染経路である接触感染と飛沫感染のそれぞれについて、従業員 や顧客等の動線や接触等を考慮したリスク評価を行い、そのリスクに応じた対策を 検討する。 ・ 接触感染のリスク評価としては、他者と共有する物品やドアノブなど手が触れる場所と頻度を特定する。高頻度接触部位(テーブル、椅子の背もたれ、ドアノブ、 電気のスイッチ、電話、キーボード、タブレット、タッチパネル、レジ、蛇口、手すり・つり革、エレベーターのボタンなど)には特に注意する。 ・ 飛沫感染のリスク評価としては、換気の状況を考慮しつつ、人と人との距離がどの程度維持できるかや、施設内で大声などを出す場がどこにあるかなどを評価する。 (各業種に共通する留意点) ○ 基本的には、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく感染拡大防止策を徹底することが重要である。例えば、人との接触を避け、対人距離を確保(できるだけ 2mを目安に)することのほか、以下のものが挙げられる。 ・ 感染防止のための入場者の整理(密にならないように対応。発熱またはその他の感冒様症状を呈している者の入場制限を含む) ・ 入口及び施設内の手指の消毒設備の設置 ・ マスクの着用(従業員及び入場者に対する周知) ・ 施設の換気(2つの窓を同時に開けるなどの対応も考えられる) ・ 施設の消毒(症状のある方の入場制限) ・ 新型コロナウイルスに関しては、発症していない人からの感染もあると考えられるが、発熱や軽度であっても咳・咽頭痛などの症状がある人は入場しないように呼びかけることは、施設内などにおける感染対策としては最も優先すべき対策である。 また、状況によっては、発熱者を体温計などで特定し入場を制限することも考えられる。 ・ なお、業種によっては、万が一感染が発生した場合に備え、個人情報の取扱に十分注意しながら、入場者等の名簿を適正に管理することも考えられる。 (感染対策の例) ・ 他人と共用する物品や手が頻回に触れる箇所を工夫して最低限にする。 ・ 複数の人の手が触れる場所を適宜消毒する。 ・ 手や口が触れるようなもの(コップ、箸など)は、適切に洗浄消毒するなど特段の対応を図る。 ・ 人と人が対面する場所は、アクリル板・透明ビニールカーテンなどで遮蔽する。 ・ ユニフォームや衣服はこまめに洗濯する。 ・ 手洗いや手指消毒の徹底を図る。 ・ 美容院や理容、マッサージなどで顧客の体に触れる場合は、手洗いをよりこまめにするなどにより接触感染対策を行う。(手袋は医療機関でなければ特に必要はなく、こまめな手洗いを主とする。) (トイレ) ・ トイレは、感染リスクが比較的高いと考えられるため留意する。便器内は、通常の清掃で良い。 ・ 不特定多数が接触する場所は、清拭消毒を行う。 ・ トイレの蓋を閉めて汚物を流すよう表示する。 ・ ペーパータオルを設置するか、個人用にタオルを準備する。 ・ ハンドドライヤーは止め、共通のタオルは禁止する。 (休憩スペース) ・ 休憩スペースは、感染リスクが比較的高いと考えられるため留意する。一度に休憩する人数を減らし、対面で食事や会話をしないようにする。 休憩スペースは、常時換気することに努める。共有する物品(テーブル、いす等)は、定期的に消毒する。従業員が使用する際は、入退室の前後に手洗いをする。 (ゴミの取扱い) ・ ゴミの廃棄で、鼻水、唾液などが付いたごみは、ビニール袋に入れて密閉して縛る。 ・ ゴミを回収する人は、マスクや手袋を着用する。 ・ マスクや手袋を脱いだ後は、必ず石鹸と流水で手を洗う。 (清掃・消毒) ・ 市販されている界面活性剤含有の洗浄剤や漂白剤を用いて清掃する。 ・ 通常の清掃後に、不特定多数が触れる環境表面を、始業前、始業後に清拭消毒することが重要である。 ・ 手が触れることがない床や壁は、通常の清掃で良い。 (その他) ・ 高齢者や持病のある方については、感染した場合の重症化リスクが高いことから、サービス提供側においても、より慎重で徹底した対応を検討する。 ・ 地域の生活圏において、地域での感染拡大の可能性が報告された場合の対応について検討をしておく。感染拡大リスクが残る場合には、対応を強化することが必要となる可能性がある。 ※ 業種ごとに対応を検討するに当たっては、これまでにクラスターが発生している 施設等においては、格段の留意が必要である。 (16は、5月5日記) 17.出口戦略をめぐる鞘当てと各国の状況 (1)4月7日に緊急事態宣言が発出されて、かれこれ1ヶ月が経過した。この間、全国ベースでは、次のように1日当たりの感染者数は4月11日の719人をピークに5月6日には105人となり、4月7日の260人よりは減って、3月25日の96人くらいの水準になってきた。外出自粛と施設の使用制限は、明らかに効果を上げている。 現に北海道では、札幌雪まつりなどに来た武漢からの観光客を感染源とする2月19日から3月16日にかけての第1波を、鈴木知事の「政治決断」としての緊急事態宣言で押さえ込み、4月6日にはいったん患者数がゼロとなった、ところが、4月9日頃からまた第2波の流行が始まった。これは、ちょうど転勤の季節で東京から転勤者がどっと流入したこと、東京で大学生活を送っている子供たちが、春休みと授業がないので北海道に帰省したことなどから、東京で流行している新型コロナウイルスが持ち込まれたというのが定説である。今回の国全体の緊急事態宣言もこのようなことになれば、1ヶ月以上に渡る努力も水の泡となる。 かくして、緊急事態宣言からいつどのように脱して経済、仕事、学校、日常生活をいかに正常な姿に戻すか・・・これを「出口戦略」と称するらしいが・・・これが問題となる。これについて、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長から各都道府県知事あてに「緊急事態措置の維持及び緩和等に関して」という事務連絡が5月4日に出されている。その内容は実に色々なことが書かれているが、簡単に言えば、次の図のようなものである。つまり、13特定警戒都道府県とそれ以外の県とに分ける。前者の13は、外出自粛などを引き続き行い、施設の類型に応じて若干の緩和を行う。後者のそれ以外は、各県知事の判断でかなりの緩和も認めるというものである。 そして、前述の通り、「10日後の5月14日を目途に、専門家にその時点での状況を改めて評価をしてもらい、もはや緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認められるときは、 期間内であっても速やかに緊急事態を解除する。」という。ところが、この点につき、吉村洋文大阪府知事が噛みついた。曰く「『具体的な基準を示さず、単に延長するのは無責任だ。困っているのは大阪だけじゃない。(政府は)具体的な指標を全国に示してもらいたい』と指摘。大阪府の基準は、(1)感染経路が不明な新規感染者が10人未満(2)検査を受けた人に占める陽性者の割合(陽性率)が7%未満(3)重症病床の使用率6割未満――の3点。これを「警戒信号の消灯基準」とした。(1)と(2)の数値は日々の変動が大きいため、過去7日間の平均(移動平均)をみる。」(5月6日付け朝日新聞朝刊) 何やら、緊急事態宣言発出時の緊急事態措置を巡っての4月8日から10日かけての国(西村担当大臣)と小池百合子東京都知事とのやり取りを彷彿とさせるものである。その時は、小池知事に軍配が上がった。しかし、今回は明らかに吉村洋文大阪府知事の方が誤っている。新型インフルエンザ対策特別措置法には、具体的にどのような「まん延の防止に関する措置」を講ずるかは特定都道府県知事の裁量の範囲内であるから、それを国に一律に決めて欲しいというのは、法律を読んでいない証左である。仮にそれが緊急事態宣言そのものの解除宣言(同法32条5項)というのであれば、それは政府対策本部長(総理)の権限であるから、府知事からとやかく言われる事柄ではない。若さによる勇み足だろう。 案の定、西村担当大臣はツィッターで、「緊急事態宣言からの『出口』ということなら、国が専門家の意見を聞いて考える話だ」と述べた。これに対して、吉村知事もツィッターで「「西村大臣、仰るとおり、休業要請の解除は知事権限です。休業要請の解除基準を国に示して欲しいという思いも意図もありません。ただ、緊急事態宣言(基本的対処方針含む)が全ての土台なので、延長するなら出口戦略も示して頂きたかったという思いです。今後は発信を気をつけます。ご迷惑おかけしました」とした。 (2)ところで、各国の状況をみると、次のようだ。 ドイツは3月16日から隣国との国境管理を強化し、18日に緊急事態宣言を発出して外出や営業の制限を行ってきたが、感染の状況が好転してきたことから、4月20日に小規模商店の営業を認めるなど一部を緩和し、引き続いて5月6日に完全に撤廃した。ただし、1週間に10万人当たり50人を超える感染者が出た地区には、再び制限をかけるという。 アメリカでは、トランプ大統領と共和党が経済に与える打撃を懸念して、都市封鎖の早期解除を各州に働きかけている。共和党の知事にはこれに呼応して緩和する動きがある。ところが全米で最大の感染者を出しているニューヨーク州のクオモ知事は慎重である。それというのも、新規感染者の数が5月5日には2239人、新たに入院した者が601人と、3月下旬の水準まで減少してきているとはいえ、絶対数がまだまだ多い。日本ならびっくりするような数字だ。そういう意味で、経済活動を再開するには、感染者と入院患者の数を大幅に減らす必要があると考えているからだ。 マレーシアは、3月18日に東南アジアで初めての活動制限令(MCO)を出してロックダウンに踏み切った。その活動制限令は3回にわたって延長され、最終の延長による期限は5月12日までとなっていた。ところが、5月1日に突如として活動制限令の大幅緩和が発表された。政府が定めた規制内容(SOP)を遵守するという条件付きながら大部分の企業、工場、商店、レストランの操業が認められようになった。その背景には、活動制限令が功を奏して新規感染者が激減していると同時に、その弊害として経済的損失が1日当たり24億リンギット(590億円)と見込まれているからだという。規制の導入も早かったが、規制の撤廃も早い。さて、この判断が吉と出るか凶と出るか、今後の推移に注目したい。 (17は、5月7日記) 18.日本の出口戦略と緊急事態宣言の解除 (1) 4月7日の緊急事態宣言時には、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県を対象にしていた。その後、4月16日に政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見直して、これに北海道、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び京都府の6道府県を加えて13都道府県とする一方、宣言の対象を全都道府県に拡大し、5月6日までとした。そしてゴールデンウィーク後半の5月4日、その13特定警戒都道府県では、外出自粛などを引き続き行いつつも、施設についてはその類型に応じて若干の緩和を行う。それ以外の県では、各県知事の判断でかなりの緩和を行うことを認めるようになった。 その上でゴールデンウィーク明けの5月14日には、政府は再び「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見直して、「北海道、埼玉県、千葉県、 東京都、神奈川県、京都府、大阪府及び兵庫県については、直近1週間の 累積報告数が10万人あたり0.5人以上であることなどから、引き続き特定警戒都道府県として、特に重点的に感染拡大の防止に向けた取組を進めていく必要がある。上記以外の39県については、緊急事態措置を実施すべき区域としないこととなるが、これらの地域においても、基本的な感染防止策の徹底等を継続する必要があるとともに、感染の状況等を継続的に監視し、その変化に応じて、迅速かつ適切に感染拡大防止の取組を行う必要がある。」とした。 つまり、特定警戒都道府県だった13のうち、茨城県、石川県、岐阜県、愛知県及び福岡県の5県を特定警戒都道府県から除外した。そして従来から特定警戒都道府県ではなかった34県とともに、合計39県について、「緊急事態措置を実施する必要がなくなった」として、速やかに当該措置が解除された。これにより、緊急事態措置を実施すべき区域は、「北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府及び兵庫県」だけとなったのである。 (2) NHKニュースサイトで関連する次のデータを見ると、まず、日本全国の1日当たりの感染者数は、4月11日の720人が最大で、多少の揺り戻しはあるものの、全体としてはそれから漸減している。もはや最大の危機は去ったと思って良いだろう。感染者の累積グラフも、次第に平らかになりつつある。問題は、新型コロナウイルス対応のベッド数で、入院患者による占有率を見ると、北海道は71%とかなり高い。それに比べて、例えば、山形空港で旅行客、そして県境で県外ナンバーの車のドライバーの体温をチェックしていた山形県は、わずか7%ではないか・・・騒ぎすぎだ。それより、東京都のこの数字は何だ。126%ということは、入院待ちが26%もいるということか。こんなところで患者になったら一大事だ。石川県が61%だと?何故だ。吉村知事が活躍している大阪府は35%か。これなら、まあ大丈夫だろう。というわけで、問題は、東京都と北海道だということがわかった。 (4) 5月21日、政府は、新型コロナウイルス感染症対策本部を開いて再び「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を見直し、次のように決定した。「北海道、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県の5都道県については、直近1週間の累積報告数が10万人あたり0.5人以上であることなどから、引き続き特定警戒都道府県とする。それ以外の42府県については、緊急事態措置を実施すべき区域とはしないこととするが、感染の状況等を継続的に監視し、その変化に応じて、迅速かつ適切に感染拡大防止の取組を行う。中でもオーバーシュートの予兆が見られる場合には迅速に対応し、直近の報告数や倍加時間、感染経路の不明な症例の割合等を踏まえて、総合的に判断する。」 そして、安倍首相は、同日の記者会見で「関東の1都3県と北海道については、緊急事態が続くこととなりますが、新規の感染者は確実に減少しており、また、医療のひっ迫状況も改善傾向にあります。そのため、週明け早々、25日にも専門家の皆様に状況を評価していただき、今の状況が継続されれば、解除も可能となるのではないかと考えて」いると述べた。出口戦略が加速しているという印象を与えた。 (5) そういうことで、まだ緊急事態措置が続く東京都(小池百合子知事)は、「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」を公表して、次のような説明をしている。これが、なかなか分かりやすいので感心した。すなわち、 @ 緊急事態宣言下においては、外出自粛等の徹底を通じて、感染を最大限抑え込む。(緊急事態宣言下では自粛要請を維持。STAY HOME ・ STAY in TOKYO) A 適切なモニタリング等を通じて、慎重にステップを踏み、都民生活や経済社会活動との両立を図る。(感染状況や医療提供体制などの観点から7つの指標を用いて常にモニタリング。2週間単位をベースに状況を評価し、段階的に自粛を緩和) B 状況の変化を的確に把握し、必要な場合には「東京アラート」を発動する。(感染拡大の兆候を把握した場合には、「東京アラート」を発動し、都民に警戒を呼び掛け、それでも再要請の目安を上回った場合などは、必要な外出自粛・休業を再要請し、感染拡大防止を徹底) C 今後、発生が予想される「第2波」に対応するため、万全の医療・検査体制を整備する。(迅速に検査を受けられる体制を充実 ・症状に応じた医療提供体制を整備するとともに、患者情報を的確に把握し、モニタリングを強化) D ウイルスとの長い戦いを見据え、暮らしや働く場での感染拡大を防止する習慣 =「新しい日常」が定着した社会を構築する。(都民や事業者に向けて「新しい日常」の考え方とそれを支える施策を提示) この東京都のロードマップを見ると、感染の第2波が必ず来るので、それに備えて万全の医療・検査体制を敷くことと、感染防止のための「新しい日常」に慣れることが強調されている。そして、当面は3段階に分けて徐々に緩和していくこととする。解除していない現在の状況をステップ0とすると、 ステップ1は、博物館、美術館、図書館を再開し、飲食店等は、営業時間の一部緩和(夜8時までから、10時までへ)。50人までのイベントも認める。 ステップ2は、劇場、映画館、展示場なども、 入場制限や座席間隔の留意を前提に再開し、100人までのイベントも認め、商業施設も再開する。(その後、状況が好転したとして、6月1日にこのステップ2に移行したが、早くも翌2日には、東京アラートの発令に至ってしまった。) ステップ3は、ネットカフェ、漫画喫茶のような遊興施設、パチンコのような遊戯施設も入場制限を前提に再開する。飲食店等は、営業時間を一部緩和し、夜10時までから12時までへ。1000人までのイベントも認める。ただし、クラスターが発生した施設、すなわち接待を伴う飲食店、ライブハウス、カラオケ、スポーツジムはまだ認めない。 感染拡大状況を判断するため、府独自に指標を設定し、日々モニタリング・見える化した。また、各指標について、「感染爆発の兆候」と「感染の収束状況」を判断するための警戒基準を設定した。その上で、以下の@〜Bの警戒信号全てが点灯した場合、府民への自粛要請等の対策を段階的に実施する。以下のA〜Cの警戒信号全てが原則7日間連続消灯すれば、自粛等を段階的に解除する(病床使用率以外の指標は7日間移動平均)。 (1) 市中での感染拡大状況 @ 新規陽性者における感染経路不明者の前週増加比 A 新規陽性者におけるリンク不明者数 (2) 新規陽性患者の発生状況 検査体制の逼迫状況 B 確定診断検査における陽性率 (3) 病床のひっ迫状況 C 患者受入重症病床使用率 これらの指標を追いかけていくと、大阪府が緊急事態宣言の対象から外れた5月21日の時点では、上記@からCまでの指標が、確かに緑に点灯していた。 ところで、新型コロナウイルスに関する国、東京都、大阪府のそれぞれの対策本部のホームページを見ていて、面白いことに気が付いた。まず国は、そのほとんどが文章で、図表があるのはきわめて稀だ。東京都は、もちろん文章が多いが、それと同じくらいに図表がある。ところが大阪府は、文章はほとんどなくて、その大半が図表ばかりなのである。なんとまあ、対照的なのだろう。ひょっとして、大阪の人は、文章だと読む気にならず、図表だと読む気になるのかという仮説を立ててみたが、どうもよくわからない。どなたか、教えていただければ幸いである。 (7) 緊急事態宣言の解除 4月7日に行われた新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言は、その後、事態の改善によってもはや緊急事態措置を実施する必要がなくなったとして、約1ヶ月半後の5月25日、「緊急事態が終了した旨の宣言」が行われた。(基本的対処方針) その時点での人口10万人当たりの新規感染者の数は、首都圏1都3県が0.32人、うち東京都は0.34人であったが、神奈川県が0.62人、北海道が0.80人と、目安の0.5人を上回っていた。この点、慎重な意見もあったと聞くが、いずれも感染源が追えているとして、同時に解除されることとなった。 毎日の感染者の数を見たところ、感染者のピークは4月10日前後で、そこからすると緊急事態宣言が同月7日と、やや出遅れた感は拭えないが、それでも医療崩壊がギリギリのところで避けられたのは事実である。やはり、緊急事態宣言と緊急事態措置の効果は、確かにあったと認められる。 ところで、スウェーデンは、公衆衛生庁の方針で、集団免疫戦略でもって対抗しようという戦略をとっている。人々に対しては、@発熱や咳があれば自宅療養、A他人とはソーシャルディスタンスをとる、Bできれば在宅勤務、C70歳以上は他人と接触しないなどを「要請」するが、その他は普段通りにしてよい。そのうちに気づかないで新型コロナウイルスに罹った人が人口の6割程度を占めれば、そこで感染は自然に収束するというのである。しかし、人命第一の観点からすると、その戦略が奏効しているかといえば、そうでもない。人口が1,023万人の国で、感染者数34,440人、4,120人もの死者を出した。人口が半分の北欧諸国でいずれも都市封鎖に踏み切ったデンマークがそれぞれ11,428人、563人、ノルウェーが8,383人、235人というデータを見れば、やはり失敗したのではないかと思われる。 実は、イギリスも最初は集団免疫戦略の考え方だったが、感染があまりに急拡大するものだから、3月23日、遂に耐えきれなくて都市封鎖に踏み切った。それでも、5月25日現在の感染者数265,227人、死者37,048人となっている。イギリスの人口は6,665万人と、スウェーデンの6倍だから、その比でいくと、イギリスに相当する死者の数は約6,000人になる。それが現実には4,120人と3分の2になっているのだから、スウェーデンは、かなり抑え込んでいるのかもしれない。ただ、社会防衛という観点からはそれでよいかもしれないが、可能な限り死者の増加を防ぎかけがえのない人命を守るという観点からは、経済を多少犠牲にしてもまずは都市封鎖で感染を防止するという日本を初めとする主要国の新型コロナウイルス対策は、間違っていなかったと思う。 (18は、5月15日、20日、23日、26日記) 19.世界の感染者数と死亡者数の考察 (1) さてここで、全世界の新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数の統計(5月20日現在)を見てみよう。次の表は、ニューヨーク・タイムズのもので、流行期まで分かる。これによると、アメリカとヨーロッパ主要国が軒並み酷くやられている。中でもアメリカは、感染者が153万人、死亡者が9万人と、目も当てられない状況だ。その一方、最初の発生地である中国は武漢の都市封鎖で完全に制圧したかのように見える。世上、押さえ込みに成功したとの評判が高い韓国と台湾の死者が非常に少ない。韓国は263人、台湾に至っては(余りに少ないことからこの表には載らないが)、わずか7人だ。それにどういうわけか自粛要請が奏効した日本は韓国と台湾に近く、感染者数は1万7千人、死亡者数は778人だ。 概して、感染者数と死亡者数が欧米主要国ではとてつもなく多いのに、東アジア諸国の日本、中国、韓国ではそれほどでもない。これは一体なぜだろうという素朴な疑問が浮かぶ。特に日本の場合は、強制措置を伴う都市封鎖(ロックダウン)ではなく、外出自粛などの弱い措置だったのに、なぜ被害を最小にとどめたのか、外国メディアでは「不可解な謎」、「ラッキーなだけなのか、政策が優れていたからなのか見極められない」と表現する向きもある(注)。 (注)5月26日付けの朝日新聞は、次のように報じている。 「 新型コロナウイルスを抑え込んだかに見える日本の状況を、海外メディアは驚きと共に伝えている。強制力のない外出自粛やPCR検査数の少なさにもかかわらず、日本で感染が広がらなかったことに注目し、「不可解な謎」「成功物語」などと報じている。 米誌フォーリン・ポリシーは日本の新型コロナ対策について「何から何まで間違っているように思える」と指摘した上で、それでも現状は「不思議なことに、全てがいい方向に向かっているように見える」と伝えた。「日本がラッキーなだけなのか。それとも優れた政策の成果なのか、見極めるのは難しい」との見方も示した。 「不可解な謎」と題した記事を配信したのは、オーストラリアの公共放送ABCだ。公共交通機関の混雑ぶりや高齢者人口の多さ、罰則を伴わない緊急事態宣言を「大惨事を招くためのレシピのようだった」と表現。「日本は次のイタリアかニューヨークとなる可能性があった」と指摘した。 海外ではこれまで、英BBCが「ドイツや韓国と比べると、日本の検査件数はゼロを一つ付け忘れているように見える」と報じるなど、日本のPCR検査数の少なさを疑問視する報道が相次いでいた。米ブルームバーグ通信はこの点について、「第1波をかわしたのは本当に幸運」「(第2波が来る前に)検査を1日10万件できるように準備しなくてはならない」という専門家の話をまとめた。 英ガーディアン紙は「大惨事目前の状況から成功物語へ」とのタイトルで、日本人の生活習慣が感染拡大を防いだとの見方を伝えた。マスクを着用する習慣▽あいさつで握手やハグよりお辞儀をする習慣▽高い衛生意識▽家に靴をぬいで入る習慣などが、「日本の感染者数の少なさの要因として挙げられる」と指摘している。」 先ほどの「全世界の新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数の統計」の表の話に戻りたい。もちろんこの統計は、いい加減なものである。まず、感染者数はPCR検査をどれだけ、またどんな方法で確認しているかで月とスッポンの差があるから、当てにならない。日本では、当初から5月7日まで「37.5度以上の熱が4日続くこと」などという現実離れした基準を作って意図的に検査をサボって多くの国民に迷惑をかけたほどだ。検査そのものも、日本の専門家に言わせれば検体を取るのに技術が要り、検査にも熟練が必要というから、もしそれが本当なら他の国はどうやってこの感染者数を出しているのか、疑問だらけである。 他方、死亡者数はまだ信頼できる気がするが、それも、陽性をちゃんと確認した人たちから出た死者なのか、それとも陽性を確認しないまま医師が症状から判断した死者数を新型コロナウイルスによる死者数としているのか、その厳密さが国によって異なる。その他、イギリスなどは途中まで介護施設での死者数をカウントしていなかったほどだ。それに、日本では、町で行き倒れた死者にたまたまPCR検査をしたら陽性だったというケースも散見されたので、本当に新型コロナウイルスで死んだ人の数は、もっと多いはずだ。これを正確な数字とするために例年同時期のトレンドと比べて超過死亡者数がどれだけあるかと調べていくアプローチもあるが、もちろんそれも推計に過ぎない。 (2) そういうわけで、いい加減な統計に基づいてあれこれ考えをめぐらすのもどうかとは思うが、でもこれしかないのだから、仕方がない。まずこの表から思うのは、なぜ、欧米諸国では多くの人が死んでいるのに、日中韓の東アジア諸国では死者の数が桁違いに少ないのだろうかということである。遺伝学的な差異か、社会的な違いか、それとも環境が異なるからか、これからの科学的な解明が待たれる。でも、現段階で、これを説明するアプローチとして、人種的な差、政治体制の差、人口構成の差、医療機関の差、基礎疾患や体型の差、社会的習慣の差、BCG仮説、感染源対策と国民意識の差などがある。ただ、いずれもごく一部しか説明することができない。 @ 人種的な差 要は遺伝子レベルの差異で、調べようと思ったらこれはもう人種別にDNAを比較するほかない。そのうち緊急事態が去ってよほど暇になったらやればよいが、何もこの時期に取り組む課題ではないだろう。それよりも、新型コロナウイルスに取りつかれたときに、8割の人が無症状である一方、直前まで普通だったのに、突然に重症化し、あるいは死に至ることがあると報告されている。どういう遺伝子の違いがあると、そうなるのかということをDNAレベルで調べた方が良さそうだ。(注) その有力な候補として、ヒト白血球抗原(HLA)を調べるプロジェクトが発足したそうだ。これは、免疫反応をつかさどる司令塔の役割を果たす血液中の因子で、これを重症化した患者と無症状の患者とで比べて特有の遺伝子を見つけるというもので、同じ調査研究を諸外国で行って比較すれば、因子をあぶりだすことができる。これが上手くいけば、あらかじめ血液検査で重症化の危険性を把握して、感染した場合に備えることができるし、創薬にも役立てることが可能となる。 (注)5月28日、NHKは、次のように報じている。 「アメリカの民間の調査団体によりますと、今月26日の時点で、全米の40州と首都ワシントンでは、人口10万人当たりの死者は、白人が22人、アジア系が24人、ヒスパニック系が24人であるのに対し、黒人が54人と、ほかの人種と比べて黒人の死亡率が2倍以上になっています。 また、感染がもっとも深刻なニューヨーク市が発表した調査によりますと、人口10万人当たりの死者数は、アジア系が100人、白人が106人なのに対し、黒人は214人、ヒスパニック系は225人と黒人やヒスパニック系の死亡率が白人の2倍に上っています。」 ということは、アジア系の死者数は白人とほぼ同じだ。つまり、欧米諸国の国民と東アジア諸国の国民との間には、新型コロナウイルスに対する免疫力の人種的な差はないことになる。イタリアやスペインなどで起こった医療崩壊は、日本でも容易に起こりうるということだ。そうすると、彼我の死亡率の差は、@人種的な差に求めることはできず、次のA以下の理由に求めざるを得ないものと思われる。 A 政治体制の差 これは、西側の自由主義国家と旧東側の一党独裁制国家の比較である。中国が感染者数8万9千人、死亡者数4千人台にとどまっているというのは、まさにそれだと思うが、「こんなに少ないわけがないだろう、正しい数字を隠している。」と言われている。その一方、ロシアが感染者数29万人とヨーロッパ主要国並みなのに死亡者数は2千8百人と、これら主要国の10分の1になっている。しかし、これは中国と同じで、政治的に介入された結果、統計が歪められたと思っている人が多い。 逆にシンガポールの感染者数2万8千人に対して、死亡者数はわずか22人というのは、どう解釈すべきか。これは非常に少ないと思いがちだが、実はシンガポールは当初からその警察力を駆使して街灯のカメラを使ったり、スマートフォンのアプリを通じて濃厚接触者を追うなどして、感染の押さえ込みに成功したと考えられていた。事実、感染者の数はずーっと千人台に押さえられていた。ところが、つい最近になって居住環境が悪い外国人建築労働者の間で急速に蔓延するようになった。この人たちはまだ若いので、幸い今の段階では死亡するには至っていないからだと思われる。 B 人口構成の差 ところで、人口構成の差は、死亡者の数を各国比較をする上で大事な要素である。日本国内の感染者22,450人(7月16日午前0時の時点)に対し、7月15日午後6時時点では、新型コロナウイルス感染症による死亡率は全体で4.4%だが、20歳以下がゼロであるのに対して30歳代0.1%、40歳代0.4%、50歳代1.0%、60歳代4.7%、70歳代14.2%、80歳以上28.3%と、高齢者になるほど死亡率が急激に上がっている。ということは、国民の人口構成が若いほど死亡者の数が少ないことを意味する。これは、諸外国でも同じ傾向にある。2月17日の古い統計だが、中国では、30歳代までは0.2%、60歳代は3.6%、70歳代は8%、90歳代は15%となっていた。 感染者数が5万9千人のサウジアラビアは、若い世代が多いから、死亡者数が329人と少ないのかもしれない(7月25日現在ではもっと増えて、それぞれ26万2千人と2672人)。もっとも、別の見方をすれば、この国も外国人労働者が多いので、さきほどのシンガポールと同じタイプなのかもしれない。マレーシアも若者主体の人口構成であるし、医療もそれなりに整っているから、感染者数6千百人、死亡者数114人となっている。 その割には、高齢化社会である日本が、感染者数2万2千人、死亡者数984人に抑えている(7月16日午前0時の時点)というのは、なかなか頑張っている数字ではないかと思われる。これは、次に述べる医療機関の数や優秀さのおかげなのかもしれない。 C 医療機関の差 未だ有効な薬やワクチンがない中で、これだけ猛威を振るう強烈な感染症に対抗するには、優秀な医療機関で適切な処置を受ける必要がある。ところが、そういう環境にない国や人々では、死につながりやすい。アメリカでは、所得が低くて簡単には医療を受けられない黒人などの死亡率が高いといわれている。 また、ヨーロッパ主要国では、あまりに短期間で急速に流行したため、イタリア、スペイン、フランス、イギリスでは、患者が病院に次々に運び込まれた。ところが、ベッド数が足りないものだから廊下にそのまま放置され、そこで亡くなることも多々あったという。これが「医療崩壊」というもので、今回の流行の当初に中国湖北省武漢で起こった悪夢を再度見ているような気がした。その点、ドイツは、患者数は他の近隣主要国並みなのに、ICU(集中治療室)と人工呼吸器などの施設設備や治療看護体制を十分に用意したので、医療崩壊は起こらず、その結果、ドイツの死亡者数は8千人と、他のヨーロッパ主要国の3万人程度と比べて4分の1程度になっている(しかし、それでも日本の死亡者数778人の10倍だ!)。 D 基礎疾患や体型の差 新型コロナウイルスでは、経験的にみて、糖尿病、心血管疾患、慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等の基礎疾患のある患者とともに、高齢者、肥満、喫煙者が重症化しやすいというのは、ほぼ定説となりつつある。こうした患者や高齢者や喫煙者は、危ないだろうなということは、薄々わかる。ところが、肥満体の人がなぜ重症化するのか、まだよく分からない。 そう言えば、欧米主要国には、本当に肥満体が多い。それも、小錦レベルのもの凄い肥満体である。現地で地下鉄に乗ったり、レストランに入ったりしたときの実感では、4割近い人が肥満だ。しかも不自然に太っている。よくあれで歩けるなぁと思うほどだ。こういう人々は、東アジア諸国では、まず見かけない。 だから、新型コロナウイルスがこのような肥満体の人に取り付いたら重症化しやすいというのなら、死亡者数の彼我の差は、ある程度、説明できそうだ。 E 社会的習慣の差 ヨーロッパでは、特にイタリアで最初の感染爆発が起こった。イタリアでは、握手は言うに及ばず、さほど親しい間柄ではないと思われるのにハグしたりキスしたりと、人と人との接触が非常に密接である。かつて私の一家がイタリアに行った時、娘がまだ小さくて(それなりに)可愛かったせいか、あちこちでキスやハグをされそうになり、娘は嫌がって逃げ回ったほどである。 また、イタリアでは家族の間柄が非常に密接なので、週に一度は祖父母の家に集まって皆で食事をするという習慣があるが、実はこれが裏目に出て、新型コロナウイルスが一気に蔓延してしまった。それに対して、日本人は挨拶と言えばお辞儀だから、握手、キス、ハグのような肉体的接触を伴う挨拶はない。これも感染予防に大いに役立っているのかもしれない。 それに、なんと言ってもマスクの効果は無視出来ない。水野康孝医師のおっしゃるように、マスクにはウイルスの侵入を防ぐ効果はないかもしれないが、自分が感染者の場合に周りの人にウイルスを感染させないためにはマスクが実に効果的である。ということで、日本にはマスクを着用する習慣があり、人々は自然にそれを受け入れている。それだけでなく、たまたま2月から4月にかけては花粉症の季節だったので、日本人の2割とも3割とも言われる花粉症の方は、ごく自然にマスクをしていた。だから、この新型コロナウイルスの話を聞いただけで、ほとんどの人がマスクを着用するようになった。 これに対して、欧米では、新型コロナウイルスの流行前は、マスクをするのは(潔癖症などの)よほどの変人か、あるいは本当に具合の悪い病人かというのが常識だったので、マスク着用が遅れたものと考えられている。 F BCG仮説 このほか、結核を予防するBCGワクチンが新型コロナウイルスに有効だったのではないかという仮説がある。結核と新型コロナウイルスとは全く無関係だが、しかしBCGワクチンは一般に免疫作用を促進するので、新型コロナウイルスにも効くというのである。なぜそういう説が出てきたかというと、日本、中国、韓国はBCGワクチンの定期接種国であるのに対して、感染爆発が酷いアメリカやイタリアは、定期接種国ではないからではないかというのである。ただ、この説は検証されていない。それどころか、イスラエルでBCGワクチンを受けた群とそうでない群を比較してみたところ、有意な差はなかったという報告があるそうだ。 なお、BCG仮説を検証するため、ドイツでは、遺伝子組み換え技術を利用した新型BCGワクチン「VPM1002」ならば効くのではないかと考えて、5月に入って、新型コロナウイルスに対する免疫反応を強化するかどうかの臨床試験が始まっている。 G 感染源対策と国民意識の差 日本では、流行の当初から、保健所が「濃厚接触者の調査」をしっかりと行い、感染源の追跡を行ってきた。これは、中国、韓国、シンガポールなどで行っている最新のGPS、クレジットカード利用履歴、防犯カメラなどのハイテクによる追跡と比べて、アナログそのものである。しかし、流行の当初はかなり有効で、その拡大防止にとても役立ったと言われている。ただ、感染規模が大きくなると、とても追いつかなくなった。これからは、やはりハイテクによる追跡を導入せざるを得ないだろう。 もうひとつは、いわゆる「三密(密閉、密集、密接)すなわち(@密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、A密集場所(多くの人が密集している)、B密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる))」という感染対策のスローガンで、今回の新型コロナウイルスのような特徴の感染症対策には、非常に有効であった。 最後に、日本では2月初頭のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で起こった集団感染事件で、新型コロナウイルスとはこれほどまでに恐ろしいものかという記憶が国民に刻まれた。だから、日本で流行が始まり、(罰則を伴う強制的な都市封鎖ではなく)色々と自粛が呼びかけられたときに、国民が進んで協力しようという意識が自然に生まれたのではないかと考えている。法律による緊急事態宣言は4月7日と出遅れたが、結果的には上手く押さえ込んだと思われる。ただし、これはあくまでも第1波に過ぎないから、手放しで喜ぶにはまだ早い。 H 麻生太郎の民度説 麻生太郎財務大臣は、6月4日の財政金融委員会で、次のような自説を述べていた。「死亡率が一番問題なんです・・・人口比で100万人当たり日本は7人ですよね。こういうのは結果は死亡者ですから。戦争も何もみんな、最終的に死亡者が何人でその戦争が勝ったか負けたかって言われるような話になりますんで。『なんかお前らだけ薬を持ってるのか』ってよく電話がかかってきた時、私どもとしては、これ、そういった人たちの質問には、『お宅とうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ』と言って、いつも、みんな、絶句して黙るんですけれども。このところ、その種の電話もなくなりましたから、何となく、これ定着しつつあるんだと思います・・・やっぱり島国ですから、なんとなく連帯的も強かったし、国民が政府の要請に対して極めて協調してもらったっていうことなんだと思います。」 要は、「民度」という言葉を使って「あなたの国の国民と、日本国民とでは、そもそも出来が違うんだ。」などと、かなりひどい言い方の麻生節で説明したわけである。相手の外国人が「絶句して黙」り、二度と電話をかけてこないわけだ。もう少し外交的で、洒落た言い方はなかったものか。 I 国民皆保険、マスクの習慣、衛生意識 舘田一博 東邦大学医学部微生物・感染症学講座教授(日本感染症学会理事長)は、インタビュー記事(注)で、次のように語っている。 (注)2020年6月21日付け。朝日新聞デジタル) 「5月に欧州であった感染症の国際会議のウェブセミナーで、日本の状況を説明した。向こうの人は、どうして日本は死者が少ないのかと不思議がられた。日本はPCR検査が少ないといわれ、実際弱点だった。最初のころは1日千件ですよ。 でも、日本は国民皆保険で、みんなが医療にアクセスできる。当たり前のように思われているけど、ほかの国ではなかなかない。普段からマスクを着ける習慣があるのも大きかった。衛生に対する意識も高い。そういうことの重なりが、今の状況につながっているのではないかと思います。 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの集団感染を経験したことも大きかった。船内で感染が広がり、毎日報道されるようになった。対応には色々反省すべき点はあったが、国民への注意喚起になって、心の準備、行動の準備ができていたということがあるのかもしれません。」 同様の趣旨をシカゴ・グローバル評議会ブライアン・ハンソン副会長が新聞紙上(注)で語っている。 (注)2020年6月18日付け。日本経済新聞 曰く「日本は新型コロナウイルス対策に戦略性も一貫性もないように見えるのに、感染の拡大を抑えることができた。政策と現実とのギャップがこれほど大きい例はほかにない。・・・成功例から得られた教訓をあげるとすれば戦略と明確な目標が必要だということ。対策が超党派の支持を得ることも大切だ。日本は例外で、何が起きたのかは謎に包まれている。 おそらく、成功をもたらしたのは政府ではなく国民ではないか。新型コロナの流行前から日常的にマスクを着けているし、あいさつの時に握手をしない。政策よりも人々がこうした習慣の延長線上で、行動に注意を払おうと決めたのが奏功したと考えられる。」。要は、政府は役立たずだったが、国民が偉かったということか。 (19の@からFまでは5月22日、Gは5月25日、Hは6月5日、Iは6月21日記) 20.閑 話 休 題 (1)ナイトクラブの新型コロナ対策 今回の緊急事態宣言は、旅行、観光、小売、レストラン、製造業などの幅広い業種に大きな影響を与えた。東京都は、5月25日に緊急事態宣言が解除されてもステップ3として、クラスターが発生したことがある「接待を伴う飲食店等、カラオケ、ライブハウス、スポーツジム」については引き続き自粛要請を継続する姿勢である。 先日、NHKテレビを見ていたら、団体「日本水商売協会」というものがあって、妙齢の女性たちが記者会見を開いていた。それにしても、そのものズバリの単刀直入な名前だなぁと思って見ていたら、何とこれが一般社団法人なのだそうだ。ひと昔前だと、とても認可されなかったと思うので、これにはビックリした。これも、社団法人改革の「成果」なのだろう。この法人は、東京都内のナイトクラブやキャバクラ店で働く女性たちによって構成されているそうで、今回の自粛要請により生活が厳しいと訴えている。 それには同情を禁じ得ないが、「経営が厳しく休業要請の解除を待たずに営業を再開する店もあるとみて、専門家の監修を受け、独自に感染対策のガイドラインを作成した。」というのは、いただけない・・・それはいわゆる自粛破りではないか・・・。それに、あまり早まって営業を再開して、先日の韓国のナイトクラブでの206人もの集団感染のように、万が一、クラスターが発生したら、誰も来なくなるのではないだろうか。 ところでそのガイドラインを見たところ、例えば、@マスク着用。飲み物を飲む時以外は外さない。A検温による入店規制体温計(非接触型が好ましいが、接触型の場合、人ごとにアルコール消毒)、B感染拡大大国からの入国後14日以上経過していない方の入店規制、Cソーシャルディスタンス(キャストとお客様のペアごとに1卓分あけて着席)、Dできれば、接客のキャストはチェンジなしの固定(接触者をできるだけ減らす目的)などとある。 いずれも、まあ常識的な内容だが、ナイトクラブでホステスさんがマスク姿というのは、これで商売が成り立つのかという気がする。マスク姿でお相手ができるのか、せめて透明なフェイスシールドにすべきではないか・・・ちょっと余計なことかな・・・などと思っていたら、記者会見に出たキャバクラ店の経営に関わる女性が、このように話していた。「やむをえなく営業する場合でもマスクを外すわけにはいきません。いつかマスクを外して『こういう感じの女性だったのか』という日が来るのを楽しみにしてもらいたいです」と。なるほど、ものは言いようだ・・・夜目、遠目、傘の内、そしてマスクの中か・・・しかし、そう上手くいくだろうか。ともあれ、ポスト・コロナの時代には、夜の世界も容易には立ち直れないほどの打撃を被りそうだ。 (2) 必要は発明の母というが、外出と営業の自粛で客も仕事もなくなってしまった「スナック」について、「オンラインスナック横丁」なるものを考えた人がいる。なかなかの知恵者というか、よほどスナックがお好きなのだろう。朝日新聞夕刊(6月15日付け)によれば、全国のスナック約500軒を訪ねたことがある五十嵐さんという方で、5月中旬から北は北海道、南は九州、海外もアメリカの10軒で始め、それから1ヶ月後には20軒余に拡大した。 利用方法は、「店を選び、『1対1』『ほかの客と相席』『グループ貸し切り』の3種あるチケット(いずれも1時間3千円前後)を購入し、タブレットなどの画面越しにママと向き合い、おしゃべりしたり、お酒を飲んだり」ということらしい。意外なことに、「利用者はスナック初心者が7割で、女性の一人客が4割を占めるという。『楽しかったから』と、再開した実店舗を女性客が『再訪』する現象」する見受けられるというから、新しい客層を開拓したことになる。 (3)トランプ大統領が抗マラリア薬を摂取 5月18日のトランプ大統領の記者会見をテレビで見ていて、驚いてしまった。トランプ大統領は、「(抗マラリア薬の)ヒドロキシクロロキンを2週間ほど前から飲んでいる。いろいろと良い効果があると聞いているから。問題ない。まだ、ここに、こうしている。」と述べたのである。 確かに、新型コロナウイルスについては、治療薬を新規に開発する時間的余裕がないため、既存の薬で効果のあるものはないかと世界各国で探索が続いている。ヒドロキシクロロキンもその一つで、もしかすると効果があるかもしれないということが言われている段階に過ぎない。そんな海のものとも山のものともわからない段階のものを、事もあろうにアメリカ大統領たる者が、何の科学的検証もせずに飲むものか、これは常識というものだ。こんな人が、核大国として核爆弾の鍵を握っていて、大丈夫なものだろうかと思ってしまう。 ちなみに、この報道があったその直後の23日、BBCによると、「英医学誌ランセットは、ヒドロキシクロロキンを新型コロナウイルスの患者に投与しても、治療効果は見られなかった」と報じている。それどころか、「投与された患者は入院中に死亡する確率が高く、心拍異常がみられた」という。世界保健機構(WHO)も、新型コロナウイルス治療にヒドロキシクロロキンの使用を推奨する臨床結果は一つもないと表明している。 6月15日、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、ヒドロキシクロロキンは新型コロナウイルスの治療にも、感染防止にも効果はなかったとして、治療への緊急使用許可を取り消した。感想を求められたトランプ大統領は、「2週間使って気分は良かった」と述べた。 (4)作りすぎた人工呼吸器の処分先 笑い話のようだが、安倍首相がトランプ大統領と電話で連絡を取り合ったとき、大統領から「人工呼吸器を作りすぎたので、日本で引き取ってくれ」と頼まれたそうだ。アメリカでは、GMなどの異業種の企業に対し、戦時の法律を適用して「人工呼吸器を作れ」という大統領令を出して大いに作らせたのだが、感染の進行が一段落してそれが大きく余ってきたとのこと。日本側は、「足りているから・・・」と言ったのだけど、最終的には引き取ると約束したという。 (5)コロナパーティー 共同通信によると、「新型コロナウイルスに感染して米南部テキサス州の病院で死亡した男性(30)が生前、感染者と同席してウイルスがうつるかどうかなどを試す『コロナパーティー』に参加していたことが分かった。死の間際に『間違いだったようだ』と後悔の念を口にしていたという。」(7月13日付け)。これは、いかにも怖いもの知らずのアメリカ人らしいエピソードである。若い人で重症化する人は稀で、ましてや死んでしまう人はほとんどいないという傾向にある。しかしそれでも、このように現に亡くなることがあるのだから、やはり新型コロナウイルス感染症は怖いと、老いも若きも正しく恐れるべきだろう。 (20(1)と(3)は5月25日、(4)は同31日、(2)は6月15日、(5)は7月13日記) 21.専門家による緊急事態対応の総括 (1)5月29日の専門家会議 日本では、5月25日に緊急事態終了宣言が行われ、これで日本はとりあえず新型コロナウイルスの第1波を凌ぐことができたといってよいと考えられる。それでは、日本の専門家はこれについてどう考えているのか、5月29日の専門家会議の資料を読んでみた。これは、日本が講じてきた対策を総括するもので、そのさわりの部分は、次の通りである。 (1−1) 現時点において、欧米の先進諸国などと比較して感染者数・死亡者数が低水準であることの主な理由として、 @ 国民皆保険制度による医療へのアクセスが良いこと、公私を問わず医療機関が充実し、地方においても医療レベルが高いこと等により、流行初期の頃から感染者を早く探知できたこと、 A 全国に整備された保健所を中心とした地域の公衆衛生水準が高いこと B 市民の衛生意識の高さや元々の生活習慣の違い、及び、政府等からの行動変容の要請に対する協力の度合いが高かったこと C ダイヤモンドプリンセス号への対応の経験が活かされたこと D 緊急事態宣言やその前からの自主的な取組の効果によって、新規感染の抑制がなされたことなどが挙げられる。 (注) 台湾は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)対応の際に、医療関係者を中心に数百人の感染者と70人以上の死者を出した反省と教訓があったほか、 @欧州等からの人々の移入の規模が台湾の方が少なかったこと A台湾の方がより早く水際対策による対応(2月6日に中国全土からの入国を禁止、3月19日からはすべての外国人の入国を禁止)を講じたこと。これに対し、日本では、2月1日に中国湖北省からの入国を禁止したが、イタリアの全域、ドイツ、フランス等欧州の大部分の入国を禁止したの は3月27日、米国や英国、中国全域等からの入国禁止は4月3日からであったことなどが要因として挙げられる。 (1−2) これらに加えて、我が国が実行したクラスター対策の取組が感染拡大を抑える上で効果的であった。クラスター対策とは、積極的疫学調査を実施することで、クラスター感染(集団感染)発生の端緒(感染源等)を捉え、早急に対策を講ずることにより感染拡大を遅らせたり、最小化させたりするためのものである。我が国では、「効果的なクラスター対策」の実施によって、次のような効果が得られたと考えられる。 @ クラスターの連鎖による大規模感染拡大を未然に防止できた。 A 初期の積極的疫学調査から多くのクラスターを見つけ、それに共通する「3密」の場や、歌うこと・大声で話すこと、といった特徴を指摘することができた。これにより、クラスター感染(集団感染)が生じやすい環境をできるだけ回避するための対応策を市民に訴えることができた。 B クラスターを中心とした感染者ごとのつながり(リンク)を追うことにより、地域ごとの流行状況をより正確に推計することができていた。つまり、リンクが追えない「孤発例」が増加することは地域で感染拡大を示すものと判断することができ、地域での早期の対応強化につながった。 要は、国民皆保険制度による医療へのアクセスが良いこと、全国に整備された保健所による公衆衛生水準が高いこと、クラスター対策が功を奏したことなどを指摘している。いささか自画自賛的で、本当かという気がしないでもないが、一面は真実なのだろうと思う。それにしても、これだけITやAIが発達した世の中だというのに、クラスター対策のごとき100年前の古い手法がそのまま役に立つとは、何ともはや、面白いことである。 ちなみに、この専門家会議は、次なる波に備えるため、以下のようなモニタリング体制の整備、医療提供体制の整備、保健所の強化などを提案している。感染の中休みのような今、こうした対策を着実に準備しておくことが大切である。 (2)お隣の韓国は、携帯電話、クレジットカード、防犯カメラなどを通じて新型コロナウイルス感染者と濃厚接触者を徹底的に追跡することにより、感染拡大を4月中の早い段階で押さえ込んだとして、国際的に評判が高い。ところがそれでも、第1波の感染が沈静化して約1か月後の5月6日、ソウルの梨泰院(イテウォン)と江南(カンナム)にある複数の風俗店で集団感染が発生した。中でも、クラブ・キングという性的マイノリティが集うクラブでは、20歳代のたった1人の感染者(スーパー・スプレッダー)から290を超える人に感染が拡大し、7次感染と認められる例があったという。ところが、そういう場所であるために身元が知られないよう携帯電話の電源を切っていたりしたことから、韓国得意のITを活用した追跡が難しかったとのことだ。 また、日本でも北九州市は約1ヶ月ほど感染者の発生はなかったが、突然、感染が確認されるようになり、5月31日現在、この9日間で91人がPCR検査で陽性となった。しかもそのうち、34人について、感染経路が不明である。これについて北九州市長は、「第2波の感染の真っ只中にある」と語っている。 これはまだ一地方都市の出来事に過ぎないが、私は、遅くとも今年の秋にも、全国的に感染が再び拡がる第2波に襲われるという気がしてならない。よほどの幸運が重ならない限り、全世界の人々に打つワクチンの開発には少なくとも3年から4年はかかるだろうから、それまではロックダウンや外出自粛のような措置で対応するほかない。もちろん、来年の東京2020オリンピックも、かなり危ないと思っている。そうした中、一庶民としては、感染防止のための「新しい生活様式」に慣れ、何とか罹患しないようにやっていくしかない。 22.新型コロナウイルス診療の手引き 厚生労働省が、「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き(第2版)」を公開したので、それでこの病気の特徴を勉強させてもらっている。 (1)伝播様式 【感染経路】 飛沫感染が主体と考えられ、換気の悪い環境では、咳やくしゃみなどがなくても感染すると考えられる。また、接触感染もあると考えられる。有症者が感染伝播の主体であるが、無症状病原体保有者からの感染リスクもある。 【潜伏期・感染可能期間】 潜伏期は1〜14日間であり,曝露から5日程度で発症することが多い(WHO)。発症時から感染性が高いことは市中感染の原因となっており、SARS や MERS と異なる特徴である。感染可能期間は、発症2日前から発症後7〜14日間程度(積極的疫学調査では隔離されるまで)と考えられる。SARS-CoV-2 は上気道と下気道で増殖していると考えられ、重症例ではウイルス量が多く、排泄期間も長い傾向にある。発症から3〜4週間、病原体遺伝子が検出されることはまれでない。なお、血液、尿、便から感染性のある SARS-CoV-2 を検出することはまれである。 (2)臨 床 像 多くの症例で発熱、呼吸器症(咳嗽、咽頭痛、鼻汁、鼻閉など)、頭痛、倦怠感などがみられる。下痢や嘔吐などの消化器症状の頻度は多くの報告で10%未満であり、SARS や MERS よりも少ないと考えられる。初期症状はインフルエンザや感冒に似ており、この時期にこれらとCOVID-19を区別することは困難である。嗅覚障害、味覚障害を訴える患者さんが多いことも分かってきた。イタリアからの報告によると約3割の患者で嗅覚異常または味覚異常があり、特に若年者、女性に多い。中国では発症から医療機関受診までの期間は約5日、入院までの期間は約7日と報告されており、症例によっては発症から1週間程度で重症化してくるものと考えられる。さらに重症化する事例では10日目以降に集中治療室に入室という経過をたどる傾向がある。 【重症化のリスク因子】 高齢者、基礎疾患(糖尿病・心不全・慢性呼吸器疾患・高血圧・がん)、喫煙歴のある患者では、致死率が高い。 【合 併 症】 若年患者であっても脳梗塞を起こした事例が報告されており、血栓症を合併する可能性が指摘されている。また、軽症患者として経過観察中に突然死を起こすことがあり、これも血栓症との関連が示唆される。小児では、川崎病様の症状を呈する事例もあることが欧米から報告されている。 (3) その他、色々な雑誌や新聞記事などを総合した結果をとりまとめておきたい。 新型コロナウイルスは、初期の段階では「新型コロナウイルス肺炎」とされ、肺炎を引き起こす病気だと思われていたが、最近ではそれに加えて、血管中の血栓を引き起こす全身性の病気だと認識されるようになってきた。そのため、脳や目の粘膜、肝臓や腎臓、手足の指などに炎症を引き起こす。 それには、サイトカインストームという現象が関わっている。サイトカインとは、ウイルスが侵入してきた時に免疫系が分泌するたんぱく質で、他の細胞に命令を伝えてウイルスに対抗する役割を果たす。ところが、これが数多く分泌されてしまって嵐のような状態(サイトカインストーム:免疫の暴走)になると、正常な細胞まで傷付け、それが血栓になることから、臓器に多くの障害が発生するという仕組みである。 新型コロナウイルス重症患者の2割から3割に、血栓が見られるという。そういう場合には、上記の診療の手引きでも、「Dダイマー」の指標が正常値を超えていれば、血液が固まるのを防ぐ「へパリン」を使う治療を勧めている。(23ページ6.) 中国での疫学調査によると、新型コロナウイルスに罹っても、8割の人が軽症か中程度で、入院を要するのは2割、そして重症化するのは5%だという。 アメリカの科学雑誌「サイエンス」によると、感染者の咳やクシャミの飛沫中に含まれる新型コロナウイルスが、鼻や喉から人体に取り込まれると、その辺の細胞の表面に沢山ある受容体の「ACE−2(アンジオテンシン転換酵素2)」に取り憑いて細胞に侵入してくる。そしてどんどん増殖していって、発熱、空咳、味覚や嗅覚の喪失を招くという。 さらにウイルスが侵入していって肺に達すると、肺細胞にはACEー2が多いので、これを足掛かりにどんどん侵入されて大きなダメージを受ける。 ACE−2は、血管、脳、目、肝臓、腎臓、腸にも多く、これらに侵入されて全身性の多臓器不全を引き起こす。また、手足の指にも血栓ができて、霜焼けのような症状を引き起こし、欧米では子供に川崎病のような症状が見られることがあるとのこと。 なお、ACE−2は、子供にはあまり多くないので、子供が新型コロナウイルスに罹っても、ほとんど重症化しないし、現に死者もゼロに近いと言われている。重症者や死者の大半は、65歳以上である。 BBCによると、イギリスのオックスフォード大学の研究チームによると、「安価で手に入りやすいステロイド系抗炎症剤『デキサメタゾン』が重症患者に効果・・・人工呼吸器を必要とする重症患者の致死率が3割下がり、酸素供給を必要とする患者の場合は2割下がった。」ということで、サイトカインストームを抑える役割をしているようだ。(なお、日本の臨床では、前述のように血液をサラサラにする「ヘパリン」を投与して効果を上げている。) (21・22は、6月1日記) 23.東京アラート初の発令 東京都は、新型コロナウイルスによる休業の自粛要請を緩めていく計画を予め「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」として示し、その中で3段階で緩和することとし、その施設の種類を5月26日に公表していた。同日からの緊急事態宣言の解除を受け、まずステップ1として、博物館や図書館への自粛要請を解除した。感染状況が落ち着いてきたことから、当初の予定に沿って6月1日からステップ2に移行することを決定した。その中には、学習塾、スポーツジム、商業施設が含まれている(スポーツジムは、当初のステップ3から2になった。)。おかげで、私も今週から室内テニス場に通えることになり、本日3日から早速プレーをしに行ってみることにした。ところで、夜の歓楽街の接待を伴う飲食店やライブハウスは、ステップ3に位置づけられており、未だ解除されていない。 そういうことで、やっと自粛要請が解除されたばかりだというのに、早くも6月2日には、感染者の数が1日で34人と、それまでの概ね1桁台から跳ね上がってしまった。このため「東京アラート」を初めて出すことを余儀なくされた。大阪府が解除した時に大阪のシンボルである通天閣をグリーンにライトアップしたのに向こうを張って、東京都では、新宿の東京都庁舎のみならず、お台場に繋がるレインボーブリッジを真っ赤に点灯した。(注) (注) 時事通信マレーシアによると、大阪府が通天閣を新型コロナの感染者数に基づいてライトアップしているのに倣って、ペナン州政府が同様にしてペナン島の世界遺産地区ジョージタウンにある商業施設「コムター・タワー」について、ライトアップを始めた。感染者がゼロはグリーン、20人まではイエロー、40人まではオレンジ、それを超えるとレッドだそうだ。ちなみに、現在はグリーンだという。こんな所にまで、日本の「大阪文化」が輸出されているとは思わなかった。 ところでこの「東京アラート」(注)、これが出されたからといってまた自粛要請に直ちに繋がるものではない。その時点で都民に警戒を呼び掛けるものに過ぎないが、気になるのは、これが既に感染者が出ている病院のほか、新宿などの夜の歓楽街を中心に出ていることである。とりわけ夜の歓楽街は、韓国の例を見るまでもなく、感染者の追跡が難しい。6月2日までの1週間で判明した新規の陽性者数合計114人のうち、夜の繁華街が感染源とみられるのは32人で、その3割近くを占める。その他の指標は、週単位で比較した陽性者数で、これは前週の2倍強である。また、直近7日間平均での感染経路不明率は50%となっている。 (注)東京アラート (東京都のHPより) @ 「東京アラート」は、都内の感染状況を都民の皆様に的確にお知らせし、警戒を呼び掛けるものです。 A 都民の皆様は、夜の繁華街など、3密のリスクが高い場所には十分ご注意ください。 B 手洗いの徹底とマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保、「3つの密」を避けた行動など、「新しい日常」を徹底して実践してください。 C 事業者の皆様には、都や各業界団体が策定するガイドライン等を踏まえて、適切な感染拡大防止対策の更なる徹底をお願いいたします。また、出勤に当たっては、テレワークや時差通勤の活用をお願いいたします。 24.愛知県知事が東京と大阪が医療崩壊と酷評 愛知県の大村秀章知事は、記者会見で、「東京と大阪では医療崩壊が起きている」と何回も指摘している。もう、酷評といってよい。とりわけ5月11日の記者会見では「病院に入れないということと、それから救急を断るという、この二つはやっぱり医療崩壊ですよ。それが東京と大阪で起きているわけですから、それはですね、よその国の話ではないんですね。ですから、私は、絶対に起こしちゃいかんと。起こしたらやっぱり負けだと思いますよ、僕は。行政としては負けですよ、それは。何をうまいこと言い繕ってもね、結果ですから。」などと述べていた。また、緊急事態宣言が解除された26日には特に首都圏や大阪圏について、「病院で受け入れ困難だった感染者数や救急件数などの情報公開と検証が必要とし、ひと山越えて目出たしではない。検証しないとまた同じことになる。」とも述べた。 他の県のことまで失礼なことを言うものだと思っていたところ、その一方で大村知事は、「愛知県は入院やクラスターの状況を日々情報公開しているが、こういう対応をしているのは私たちだけだ。予想される第2波に備え、既存の施設を活用した新型コロナ専門病院を計画し、増床準備をしている。」などと語っているから、東京と大阪の状況を引き合いに、愛知県の対策を自画自賛しているもののようだ。 案の定、そこまで貶された大阪府の吉村洋文知事は黙っていない。翌27日、ツイッターで、「大阪で医療崩壊は起きていません。何を根拠に言っているのか全く不明です。一生懸命、患者を治療する為、受け入れてくれた大阪の医療関係者に対しても失礼な話です。東京もそうですが。根拠のない意見を披露する前に、県は名古屋市ともう少しうまく連携したら? と思います」と投稿した(注)。 (注)この最後の名古屋市との連携部分には、笑ってしまった。大村知事は、河村たかし名古屋市長との間で、昨年の「あいちトリエンナーレ2019」を巡る紛争その他諸々の事件を抱えているので、その状況を大きく皮肉ったからである。 すると更に翌28日に大村知事は、「私は公表されている厚生労働省の公表データや報道された内容をデータを元にしている・・・病院に入れていない、救急を断るという状況を医療崩壊。間違いなく東京と大阪はそういう状況にあった。事実関係を検証し、二度とそういうことがないようにやっていただくことが必要と申し上げている。もし違うというなら、データを持って、言わなければいけない。もっともっと事実関係を公表した上で、ものを言われたほうがいい。そうでなければただ単に言い訳をしてるだけにすぎない。」と述べた。同格の知事に対して、まるで学校の先生が生徒を諭すような調子で、かなり上から目線だ。 もちろん、吉村知事は黙っていない。その当日、記者に対して「感染症が広がったとき、医療状態が逼迫したのは事実です。これは東京、大阪に限らずです。医療崩壊が起きて、きちんと看なければいけない人を看ることができていない状況ではない。なぜ、そういうことをおっしゃったのか、理解不能ですので、あんまり相手せんとこ」とまで言う。「相手にせんとこ」という大阪弁がこれまた面白い。 吉村知事と同じ「日本維新の会」の松井一郎大阪市長もこの論戦に参入し、「救急受け入れを止めた病院はあるが、一般の重症患者さんは他の医療機関を受診してもらっただけだ。(大村知事は)愛知全体の危機管理をやればいい」と語った。一方、東京都の小池百合子知事は「ほかの自治体の方がどうおっしゃるのかについて、一つ一つお答えする気はない。東京に集中したい」と、大人の対応をみせた。 そうこうしているうちに、話はどんどん大きくなり、6月2日、地元の美容外科院長の高須克弥氏が大村秀章知事の解職請求(リコール)運動を始めると発表した。理由は、昨年のあいちトリエンナーレと今年の新型コロナウイルスへの対応だという。報道によると、吉村知事も賛成、河村市長も応援の立場だそうだ。 なお、愛知県の新型コロナウイルス感染症に関する問題とは、5月5日の午前中の45分間、県のウェブページ上に、県内発生事例1例目から495例目までの患者に関する非公開情報を誤って掲載した事件である。その誤って掲載した内容は、「患者の氏名、入院先医療機関、入院日、転院先医療機関、転院日、退院日、発生届提出保健所、クラスターの名称及び分類」というが、原資料そのものを掲載したため、中には「恋人」「愛人?」などという機微な人間関係にまで言及していた例もあったというから、穏やかでない。個人情報の漏洩もここに極まれりだ。愛知県も、他県のことをとやかく言う前に、まずは自らの足元を固めることが先決ではないか。 25.特別定額給付金 (1) 今回の新型コロナウイルス対策の第一次補正予算を使い、4月20日の閣議で「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が決定され、そのうちのひとつの施策として全国民に一律10万円を支給する「特別定額給付金」が決定された(注)。元々の案として支給対象を絞って一世帯30万円を支給するはずだったところ、連立与党の公明党からの強力な申入れで、このような形になったものである(10(2)参照)。そのときの外向きの説明は、「そんなことをしていたら審査に時間がかかって支給が遅れてしまう。緊急経済対策なのだから、全国民に直ちに届けられるようにすべきだ。」というものだった。それもあってか、郵送での申請方式に加えて、マイナンバーカードの所持者ならオンラインでの申請方式も使えるし、その方が早いという触れ込みだった。 (注) 特別定額給付金の概要 令和2年4月20日、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定され、感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うため、特別定額給付金事業が実施されることになり、総務省に特別定額給付金実施本部を設置いたしました。 (1)施策の目的 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月20日閣議決定)において、「新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言の下、生活の維持に必要な場合を除き、外出を自粛し、人と人との接触を最大限削減する必要がある。医療現場をはじめとして全国各地のあらゆる現場で取り組んでおられる方々への敬意と感謝の気持ちを持ち、人々が連帯して一致団結し、見えざる敵との闘いという国難を克服しなければならない」と示され、このため、感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う。 (2)事業費(令和2年度補正予算(第1号)計上額)12兆8,802億93百万円 給付事業費 12兆7,344億14百万円、事務費 1,458億79百万円 (3)事業の実施主体と経費負担 実施主体は市区町村、実施に要する経費(給付事業費及び事務費)については、国が補助(補助率10/10) (4)給付対象者及び受給権者 給付対象者は、基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている者 受給権者は、その者の属する世帯の世帯主 (5)給付額 給付対象者1人につき10万円 (6)給付金の申請及び給付の方法 感染拡大防止の観点から、給付金の申請は次の(1)及び(2)を基本とし、給付は、原則として申請者の本人名義の銀行口座への振込みにより行う。なお、やむを得ない場合に限り、窓口における申請及び給付を認める。その際、受付窓口の分散や消毒薬の配置といった感染拡大防止策の徹底を図る。 @ 郵送申請方式・・・市区町村から受給権者宛てに郵送された申請書に振込先口座を記入し、振込先口座の確認書類と本人確認書類の写しとともに市区町村に郵送 A オンライン申請方式(マイナンバーカード所持者が利用可能)・・・マイナポータルから振込先口座を入力した上で、振込先口座の確認書類をアップロードし、電子申請(電子署名により本人確認を実施し、本人確認書類は不要) (2) それで蓋を開けてみたら、市役所や区役所などの地方自治体の窓口が大混雑となった。緊急事態宣言下で「3密(密閉、密集、密接)」は避けよということになっているのに、まさにその3密そのものの風景が各地の窓口で現出し、広く報道された。一体、何をやっているのかというと、まずはオンライン申請をするために、この際、マイナンバーカードを作ってもらおうという人たちだ。そもそも、この騒ぎが始まる頃までに、マイナンバーカードの保有率は、全国民のうちわずかに15%しかいなかった。その残る85%の人の一部が押しかけてきたのだから、それは混雑するはずだ。ただ、こんな混雑時にカードを発行してもらうには、早くて1ヶ月半、普通なら2ヶ月もかかると聞いて、諦めた人も多かったと言われている。 次に、既にマイナンバーカードを保有している人たち、つまり15%のうち、申請に必要な暗証番号を忘れた人たちが、窓口でそれを聞こうと集まってきているのである。こんな外出自粛の非常事態宣言下で、まるで趣旨に反することが行われている。こういう事態になったのも、マイナンバーカードの使い勝手が悪くて、誰も持つ必要性を感じていなかったからだ。数年内に、健康保険証として使えるようになるというが、それまでは身分証明書として使う以外には、メリットが全く思いつかない。 ちなみに、私と家内は、マイナンバーカード制度が始まってから1ヶ月経たないうちに二人で区役所に行って、作ってもらった。発行用の区役所のパソコンが時々フリーズする中だったが、それでも1週間ほどで入手できた。それ以来、使ったのは税務署にe−Taxで確定申告するときだけで、それも医療費領収書などの書類の保管が面倒に感じて、また紙ベースに戻してしまった。 (3) ところで、私のようにマイナンバーカード保有者は、今回の特別定額給付金を受けるためには、マイナンバーカードと自分の銀行口座を紐づけないといけない。税務署に申告するときは、税金を納付したり、納めすぎの税金の還付を受けたりするときに、自分の銀行口座を申告しているし、その情報は地方自治体の課税当局にも行くから、その口座を使ってくれるのかと思いきや、どうも法律で雁字搦めに用途を絞っているために、そんな融通無碍なことは出来ないようだ。アメリカの場合は、社会保障番号と銀行口座が紐づいていることから、決定からわずか2週間で振り込まれたそうだ。 これというのも第一に、行政の電子化といっても既存の仕組みをそのままにしてバラバラに電子化を進めてきたために、情報が横断的に使えないからだ。第二に、個人情報保護を過度に恐れすぎて、電子化自体に消極的になっていることだ。台湾は、マスクを配給制にするときに、全国民に配布しているカードを利用した。エストニアは、行政手続の99%を電子化している。もっとも、それぞれ隣国の中国、ロシアという潜在的脅威の存在があったからこそできたものかもしれないが、日本もこれからの人口減少や高齢化の時代に、行政効率を飛躍的にあげるために必要な施策だろうと思う。 (4) 特別定額給付金は希望者にのみ配付されることから、別に困っていなければ、貰わないという選択肢もある。しかし、今や私も「年金生活者」だし、これまでせっせと納税してきたことから、「貰う」ことに決めた。そうしたところ、たまたま、文京区役所から「固定資産税・都市計画税納税証明書」が届いた。それがまるで図ったように「97,600円」と、ほぼ10万円だったのには参った。なるほど、国も地方も、転んでもただでは起きない。うまい仕組みになっている。この際、国が発行した国債で国民に10万円を配るが、それがそのまま地方公共団体の財源になるということだ。これは一種の地方交付税交付金なのである。ぬか喜びをしてしまった。 (5) 特別定額給付金の申請には、郵便による方式とマイナンバーカードを使ったオンライン方式があるというので、早そうなオンライン申請を試してみようとした。しかし、その頃からオンライン申請の方が時間がかかるという報道が溢れるようになった。なぜなら、オンラインで二重に申請してきたり、同居者を間違えたり、振込み口座番号を書き間違えたりするのが多くて、それを人海戦術で住民票などと照らし合わせ、必要なら本人に電話する作業でてんてこ舞いだというのである。 私は、てっきりオンライン申請は住民票データベースと紐付いていて、そんな作業は自動的に行われるに違いないと思っていたけど、とんでもない。総務省の特別定額給付金アプリケーションと、住民票データベースとはプッツンと切れているのだ。こんな「名ばかりオンライン」では、時間がかかるわけだ。それに、二重申請をチェックできないなんて、初歩的なミスとしか言いようがない。なお、中には「二重」どころか、「十五重申請」というのもあったそうだから、そんなことをする申請者の方も、どうかしている。 結局、郵送での申請が早そうだと思い、オンライン申請はやめた。そして、待っていたら、ようやく6月6日になって文京区役所の「緊急経済対策推進室」から、書類と返送用封筒が送られてきた。その内容を確認し、「要」のところに丸を付け、印鑑を押し(これだけ印鑑を止めようという時代なのに、まだ、印鑑を求めている)、それに運転免許証と銀行預金通帳のコピーを貼って送り返した。さて、今月中に送金されてくるだろうか。 【後日談】 結局、6月25日に、何の通知も前触れもなく、私の口座に二人分の20万円が振り込まれていた。 26.パルスオキシメーター 私が初めて「パルスオキシメーター(酸素濃度測定機器)」という医療用器具の名前を知ったのは、4月24日のニューヨークタイムスの記事だった。それは、ニューヨーク在住で、30年間救急医療に携わっている現役医師によるドキュメンタリーものだ。ちなみにそのときは、新型コロナウイルス感染症の病態がどういうものか、まだ明らかになっていない段階のときだった。 その医師は、「肺炎では患者は通常、胸部の不快感や呼吸時の痛みなどの呼吸障害を発症する。しかし、新型コロナ肺炎の場合、当初患者は酸素量が低下しても、息切れを感じない。しかしその間、驚くほど酸素濃度が低下し、中等度から重度の肺炎(胸部X線写真で見られる)になっていく。正常な酸素飽和度は94%から100%だが、私が見た患者の中には、酸素飽和度が50%にまで低下していた例もある。」という。 そして、「新型コロナ肺炎を患う患者をより多く迅速に特定し、それらの患者をより効果的に治療するひとつの方法がある。その方法では、病院または医院でのコロナウイルス検査を待つ必要はない。普及型の医療器具を使って無症候性の低酸素症を早期に発見することが求められる。その器具とは『パルスオキシメーター』であり、ほとんどの薬局で処方箋なしに購入できる。パルスオキシメーターは、体温計と同様、複雑なものではない。この小さな機器はボタン1つで起動する。利用者が指先に装着すると数秒で、酸素飽和度と脈拍数を表す2つの数字が表示される。パルスオキシメーターは、酸素化障害および高心拍数を検知する器具として非常に信頼度が高い。」とのこと。 私はこれを読んで、早速、アマゾンのサイトを見てみた。すると、「パルスオキシメーター」なるものがあるではないか。あれ、どこかで見たことがあると思ったら、義理の母が老人ホームで毎日測ってもらっていたあの器具だ。大型のクリップのような形をし、クリップ部分を開いたときに指先を突っ込んで血管中の酸素濃度を測るのに使い、98%とか何とかやっていたあれだ。値段は、2,865円とある。これは安い。我が家では、家内に基礎疾患があって、薬の副作用で免疫が低下しているから、もし新型コロナウイルスに罹患したとすれば命に関わる危ない状況だ。それでは、買ってみようかという気になった。注文したら、配送は、何と6月中旬になるという。1ヶ月以上先だ。それまで、新型コロナウイルスに罹らないようにしなければならない。 ちなみに、一般社団法人「日本呼吸器学会」のHPを見ると、パルスオキシメーターについて、次のような説明があった。 「 皮膚を通して動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定するための装置です。赤い光の出る装置(プローブ)を指にはさむことで測定します。 肺から取り込まれた酸素は、赤血球に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運ばれます。酸素飽和度(SpO2)とは、心臓から全身に運ばれる血液(動脈血)の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているか、皮膚を通して(経皮的に)調べた値です。プローブにある受光部センサーが、拍動する動脈の血流を検知し、光の吸収値からSpO2を計算し表示します。 酸素飽和度(SpO2)は肺や心臓の病気で酸素を体内に取り込む力が落ちてくると下がります。主に病院や在宅治療の患者さんで、必要に応じて測定します。睡眠時無呼吸症候群の簡易診断にも利用します。加齢によってもある程度低下し、労作時にも変動します。 一般的に96〜99%が標準値とされ、90%以下の場合は十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態(呼吸不全)になっている可能性があるため、適切な対応が必要です。慢性に肺や心臓の病気のある患者さんでは、息苦しさや喘鳴などの症状が強くなり、SpO2が普段の値から3〜4%低下した場合は、かかりつけ医に連絡するか受診をしてください。 操作自体は簡単で、家庭での購入も可能ですが、測定値のもつ意味はその人の状態やかかっている病気によっても異なるため、測定値の判断は主治医など医療専門の方の指導を仰ぐことをお勧めします。」 その後、5月2日に、「新型コロナウイルスの感染拡大で、血液中の酸素濃度を測るパルスオキシメーターと呼ばれる医療機器が不足し始めていて、メーカーは、感染の有無を判断できる機器ではないとして、一般家庭での購入はできるだけ控えるよう呼びかけています。」という記事が載ったが、もう取り消せない。だいたい私が注文したのは中国製のようだから、少なくとも国内メーカーの製品の需給には、むしろ緩和する方向に働くはずだ。 それから、まだ来ないなぁと首を長くして待っていたら、6月6日になってようやく配送された。中国からの直送だ。包装を解いてみると、どうもチャチな製品だと感じる。外から配線が丸見えだ。これで得られる数字は、信頼できるのかとすら思う。ええっと、標準値は96%から99%か・・・ではまず最初に、万が一感染したら危なそうな家内の指を測ろう。 電池を入れ、白い頼りない電源ボタンを押し、家内の人差し指をちょっと挟む。全然痛くない。表示がピコピコと動いて、98、72という数字が出てくる。ははぁ、酸素飽和度が98%というわけか、96%〜99%の範囲内だ。72というのは、脈拍だ。結構、結構。では次に、私の番だ。ピコピコと動いた後に出た数字は、98、77だった。これ以降、毎日の朝晩の検温の際に、併せてこの酸素飽和度も測ることにしている。確かに、96%〜98%の範囲内で推移しているので、今のところ安心だ。 それにしても、この酸素飽和度と心拍数の表示はなぜ縦向きで、横向きにしなかったのだろうか? (26は、6月8日記) 27.新型コロナ川柳 COVID-19とは 俺のことかと コロナ言い ギョエテ並み エレベーター 肘で押すのが 上手くなり ボタンは感染源 朝昼晩 女房と食う 三度の飯 仲が良いのか迷惑か、外出自粛 帰りがけ 一杯の酒なし 小遣い余る 外出八割減、飲み屋十割減 在宅も ズームズームで 飽きてきた 在宅テレワーク勤務疲れ おやお宅も コロナ太りで 体重計 在宅勤務で平均2キロ増 アベノマスク 洗ってしまえば コドモノマスク ただでさえ小さい 十万円 マイナンバーで 大混雑 自治体職員の悲鳴、特別定額給付金 28.東京アラート解除・ステップ3へ緩和 (1) 東京都は、6月11日、新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きつつあることから、2日に出した警戒情報「東京アラート」をこの日をもって解除し、それとともに翌12日から、休業要請の段階的な緩和措置につき現状の「ステップ2」から「ステップ3」へ移行することにした。これにより、飲食店に求めていた午後10時までの営業時間制限がなくなり、カラオケ店、遊園地、ゲームセンターなど遊興・遊戯施設への休業要請もなくなった。NHKの統計などは、次のように伝えている。 (2) 新型コロナウイルス感染防止から、外出自粛や施設使用制限で傷みに傷んだ経済の正常化へと大きく舵を切ったものだ。しかし、未だに有効な治療薬やワクチンがない中、感染の再拡大を懸念する声が多いのも事実である。現に世界を見渡してみると、早目に都市封鎖を解除したイランでは、第1波を上回る感染拡大の波に襲われている。 (3)6月11日に東京アラートが解除されたというのに、東京都内、特に新宿歌舞伎町などの夜の繁華街を中心として、新たな感染者が相次いでいる。14日には東京都で47人が判明し、そのうち歌舞伎町の同一ホストクラブで働くホスト18人だという。しかもほとんど自覚症状がない人ばかりというから恐ろしい。東京アラートの解除が早すぎたのではないかという批判がある中、西村康稔担当大臣が「接待を伴う飲食店などでの感染防止を図るためのガイドライン」を公表した。(民間のナイトクラブ・ガイドライン) それは次の通り共通の対策と3つの業種別の対策から成るが、これは大変だ。たとえ法律をもってしても、守ってもらうのは難しいと思われるものばかりだ。結局、「そんなことをしてまで夜の町に行きたいのですか」ということになりそうだ。しかし、それでも、好きな人は行くに違いない。まさに、「死ななければ治らない」ということか。 【共通の対策】 @ 店内においては対人距離を確保し人数を制限(できるだけ2メートル、最低1メートル確保) A 飛沫防止のためテーブルやカウンターへのアクリル板やビニールカーテン等の設置 B 客や従業員へのマスクやフェイスシールドなどの着用に努める C 店内の換気や消毒を徹底 D 客に名前や連絡先の記入を求め、当面の間、保存する 【キャバクラやホストクラブ、スナック等接待を伴う飲食店】 @ 利用者の横に着いて一緒にカラオケやダンス等を行うなどの接客は、当面の間、自粛 A 利用客の近距離で行うライブ、ダンス、ショー等は当面の間、自粛 B 利用客同士のお酌、グラスのまわし飲みは避けるよう注意喚起 【ライブハウス】 @ 出演者(演奏者・歌唱者等)と観客の間の距離は、なるべく2メートル確保し、それができない場合には、飛沫が拡散しない対応をする(発声場所を中心に、遮明の遮蔽物を設ける等) A オンラインチケットの販売やキャッシュレス決済を推奨 B 公演前後および休憩中に、人が滞留しないよう段階的な会場入り等を工夫。 【ナイトクラブ】 @ 過度な大きさ・頻度の声出しの禁止を促す A 飛沫の過度な拡散を制御するため店内の音量を必要最小限に調整 B 多くの人を集めるイベントは、当面中止ないし延期 C 感染追跡アプリ運用が始まれば、導入を入場条件にする D 当面の間、都道府県をまたぐ来店は遠慮してもらう (28(1)〜(3)は6月11日、(4)は6月14日記) 29.新型コロナウイルスによる後遺症など (1) 6月14日の夜、NHKのドキュメンタリー番組で、職場で院内感染した40歳の男性医師の話が報じられていた。この医師は、1週間ほど意識がなく、ECMO(エクモ:体外式膜型人工肺)でようやく命をとりとめたそうだ。そして、PCR検査で陰性となって退院したものの、病気の後遺症で、歩いたり階段を上ったりすると息切れして、以前のような勤務はできないという。おそらく、肺が傷ついて肺細胞が繊維化してしまったものと思われる。そうだとすると、もう元には戻らないだろう。新型コロナウイルスからの回復者の中で、こうした何らかの後遺症を抱える人の割合は、日本では7%だという。やはり、新型コロナウイルス感染症は、ブラジルのボルソナロ大統領が言う「単なる風邪」どころか、相当恐ろしい病気だと考えざるを得ない。 (2) あるスペインの女性(35歳)の話では、新型コロナウイルス感染症の症状が出たものの、自宅療養で意外と簡単に症状は収まり、PCR検査でも陰性が確認された。ところがそれ以来、掃除や皿洗いでも息切れして続けられない。そのうち胸の傷みに襲われて、病院で調べてもらうと、心臓の膜が傷ついているとのこと。フランスでの調査によると、新型コロナウイルスから回復しても、10%ないし15%の人に何らかの後遺症が残る。しかも、後遺症を訴える患者の3分の2が女性である。免疫が過剰に働いて、自分の身体を攻撃しているのではないか。免疫異常の割合は、元々、女性に多いという。 (3) このように、第1波が去った後、この病気について色々と分かってきた。後遺症の話以外に、6月19日の朝日新聞夕刊にはこういう報道が載っていた。欧州の研究チームがスペインとイタリアの感染者のゲノム解析をしたところ、新型コロナウイルスに感染した人のうち、血液型がA型の人は重症化するリスクが5割ほど高くなり、反対にO型の人はそのリスクが5割ほど低く、B型とAB型では、有意な差はなかったという結果が出た。これは血液型ごとに異なる生まれつき持つ抗体が関係しているか、遺伝子の違いで生じる血液を固める因子の働きなどが影響している可能性があるという。 (4) 猛威を振るう新型コロナウイルス感染症は、国内では3月下旬から5月下旬にかけて第1波があり、その後直ぐに6月下旬から第2波が始まったが、8月下旬になるとその勢いがやや下火になってきた。ところが、南北アメリカやインド、南アフリカでは未だ感染が真っ盛りで、とても収まる気配は見られない。既に感染がいったんは終息したと思われたヨーロッパでも、スペインで再び感染が急拡大して第2波が到来していると言われるし、フランスでも同様になりつつあり、イタリアやイギリスでも徐々に再拡大する兆しを見せている。そうした中、これまでは新型コロナウイルス感染症の治療に追われていた医療研究機関が、次第に回復した事例にも目を向けるようになり、後遺症についても少しは研究成果が公表されるようになってきた。 8月23日の日本経済新聞によると、「新型コロナウイルス感染症の症状が収まっても体の不調が続くとの報告が相次いでいる。ドイツの研究チームは回復した人の6割で心臓の炎症が続いていたと明らかにした。イタリアでは、退院患者の9割近くが発症から約2カ月が過ぎても体の不調を訴えていた。新型コロナウイルスはいまだ解明されていない性質が多い。専門家は退院後も健康状態を管理する仕組みが必要と指摘する。独フランクフルト大学病院の研究チームは、呼吸器症状が収まり検査で陰性になった元患者100人を調べた。磁気共鳴画像装置(MRI)で心臓を診ると6割の人で心筋炎が続いていた。感染確認から数カ月過ぎても4割弱に息切れや疲労感が残り、5%に心筋梗塞の疑いがあった。」ということである。もっとも、「国内では心筋炎の発生率は研究例がない」そうだ。その他、「イタリアのチームが退院患者143人を約2カ月後に調べたところ、『だるさ(53%)』『呼吸のしづらさ(43%)』などが続いていた。」とある。 一方、上記(1)の「何らかの後遺症を抱える人の割合は、日本では7%」という話と比べれば、このドイツやイタリアの調査結果はその10倍以上で、随分と後遺症の比率が高いと思われる。その要因として、そもそも人種的な差があるのか、いやそれとも日本では既にコロナウイルスに対する免疫がある人が多かったので新型コロナウイルスにも免疫も持つ人の割合が多いという仮説が正しかったのか、どうもよく分からないところである。今後、国内外で更に詳細な調査が行われることを期待したい。 (20(1)は6月14日、(2)と(3)は同19日、(4)は8月23日記) 30.接触確認アプリ(COCOA) (1) 厚生労働省は、アップルやグーグルと提携して、6月19日に「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」(COVID-19 Contact Confirming Applicationの略)を公表し、国民にそのダウンロードを促すようになった。これは、新型コロナウイルス感染症の感染者と、「1メートル以内で15分以上」接触した可能性について、通知を受け取ることができるスマートフォンのアプリである。 Q&Aで「陽性者との接触の可能性が確認されたとの通知を受けたら、何をすればいいですか。」という質問に対する答えは、「アプリの画面に表示される手順に沿って、ご自身の症状などを選択いただくと、帰国者・接触者外来などの連絡先が表示され、検査の受診などをご案内します。」とある。 こういうところの設計が、実に不十分だと思う。例えば、このアプリで陽性者との接触の可能性が確認されたとの通知を受け、心配しながら近くの保健所に行ったとする。そうしたら、まず何よりもPCR検査を優先的に受けられて、確定診断までどうすべきかのサジェスチョンをもらい、ついでに検査費用とそれに基づく診察を無料にするくらいのささやかな「特権」でも用意してさしあげないと、国民はあまりメリットを感じないからあまり普及しないのではなかろうか。また、陽性と判明した者には強制せずに任意の登録に任せるというのも、システムとして全く使い物にならないという気がする。 なお、私の場合はiPhoneなので、COCOAをダウンロードしようとApple Storeを開いてみたが、直訳風の訳のわからない説明が出てきたので嫌になった。それでも、6月19日の配信開始から3日経った22日午後5時現在のCOCOAのダウンロード数は、326万だったというから、悪くはないと思う。こういうアプリは、作って配信して終わりというものではない(注)。1ヶ月後には大幅に更新されるらしいから、それまでにもっと親切で使いやすいものに仕上げてほしい。私はそうして改良されてからインストールすることにしよう。要は、官と民の良いとこ取りを狙ったつもりが、「官製の使いにくさ、民製の無責任さ」にならないようにしてもらいたい。 (注1)COCOAアプリの提供を始めて4日目の23日午前9時には、ダウンロード数が371万に達したが、案の定というかやはりというか、アプリに決定的な欠陥が見つかった。感染を自己申告すると保健所から「処理番号」が届くのでそれを打ち込まないと登録されない仕組みのはずだった。ところが、どんな番号でも打ち込みさえすれば「完了しました」と表示されるという。そんなことなら、処理番号を発行する意味がない。成りすまして登録を乱発することも可能となる。早急に修正しているとのことである。 (注2)COCOAアプリは、6月23日の最初の不具合で番号の発行を一時停止してから修正版を配布し、ようやく7月3日に番号の発行を再開した。ところが、わずかその1週間後の7月10日に、再び別の不具合が生じた。今度は、修正版をアップデートした人の端末から番号を入力しようとすると、エラーメッセージが表示されるというものである。早急に修正するとのこと。なお、7月10日現在のCOCOAアプリのダウンロード数は、648万件である。 (2)接触確認アプリ(COCOA) の登場後、約1ヶ月半が経った。8月7日現在のダウンロード数は、1,200万、感染者が登録したのは165人となっている。濃厚接触者に通知した件数は、厚生労働省は明らかにしていないのでわからないが、ほとんどないのではなかろうか。これでは、せっかくCOCOAをダウンロードし、自分のスマートフォンの電源浪費をわざわざ容認して常時動かしている人が浮かばれない。 それというのも、何といってもCOCOAが使いにくい上に、プライバシー保護を重視しすぎて利用者任せにしている設計思想自体に欠陥があるからだ。第一に、当局が利用者の連絡先を把握していない点だ。普通、民間のアプリを使う時にはメールをアドレスや電話番号をダウンロード求められる。ところが、COCOAはそうではないので、感染者とその濃厚接触者を把握しても、当局が連絡をとる手段がない。しかも、第二として、感染者が登録するかどうかは自由になっている点だ。つまり、登録してくれなければ、それまでである。これでは、COCOAは何の役にも立たない。 プライバシー保護を十分に図りながら、COCOAの仕組みを保健所の感染者リストと感染経路追跡に連動させ、感染が判明すれば直ちに本人に連絡し、PCR検査や療養、入院の手筈を整えるようにすべきである。また、普及を図るという観点からは、できればアンドロイドやiOSのようなスマホのOSに直接搭載してしまうか、それがかなわなければ既存のアプリでで日本で最も普及しているLINEなどにCOCOAの仕組みを載せるということも、緊急事態であるから試みるべきだろう。 (3)接触確認アプリ(COCOA)について、厚生労働省は、ようやく8月21日になって「これにより通知を受けた人は、症状の有無などにかかわらず自己負担のない行政検査の対象」として、都道府県などに通知した。2ヶ月も遅れて、やっと通知したかという気がする。 ちなみに8月21日時点でのCOCOAダウンロード数は、約1,416万件、判定結果陽性の登録件数は、360件となっている。 (4) 笑い話のようであるが、8月23日から25日にかけて、敦賀市役所の職員59人に、COCOAから「感染者と接触した可能性」があるとの通知があったそうだ。接触したとされる日は、ほとんどが8月12日の出来事だったという。本庁の職員のみならず出先機関の職員も含まれるというが、たった1日でそれほど多くの職員に1人の感染者がそれぞれ15分以上も接触できるものなのだろうか。いやいや、まずあり得ないことだろう。現にPCR検査を行ってみたところ、とりあえず57人は陰性で、陽性と確認された人はまだいない由。 厚生労働省に市が問い合わせると、「現状としては、誤作動ではない」とのこと。しかし、どう考えてもおかしい。ところが、COCOAの仕組みからして、調べることはできない。これは、深刻なバグではなかろうか。それにしても、色々と問題が起こるものだ。 (5)9月初めに私の持っているiPhoneのiOSがバージョンアップされて13.7となり、それによって接触確認機能が追加された。だだし、実際に接触確認の通知を受けるには、COCOAが必要とのこと。そのCOCOAもアップデートによってバージョン1.1.3となった。9月8日時点でのCOCOAダウンロード数は、約1,639万件、判定結果陽性の登録件数は、632件となっている。私も、ここに至ってようやくCOCOAをダウンロードして使っている。もちろん、通知が来ないことを願っている。 (6)令和2年4月から5月にかけて新型コロナウイルス第1波が襲ってきた後、厚生労働省公認の「接触確認アプリCOCOA」が配布されるようになったのが同年6月19日だった。その後しばらく、COCOAのダウンロード数は伸びなかったが、同年8月に第2波がまた襲来してきた頃、再び注目を浴びるようになった。かく言う私も、前述のようにしばらく様子を見た後、アプリが安定してきた9月8日に、ようやくCOCOAをインストールした。その時点のダウンロード数は、約1,639万件、判定結果陽性の登録件数は、632件であった。 同年12月に始まる第3波に際しては、国民の危機感が更に高まり、ダウンロード数が大きく伸びた。12月4日の2,107万件から翌令和3年1月18日には2,365万件となった。ところが、感染拡大に伴って陽性の登録件数はそれ以上の急激な伸びを示して、12月4日の3,618件から1月18日の8,040件へと急上昇して、いかにこの第3波が深刻であるかを示すこととなった。私も、通知が来ないことを切に願いたい。 (7) いやはや、出鱈目もいい加減にしてほしい。これには本当に驚いた。2月3日に判明したのは、「COCOA(ココア)」が前回のバージョンアップ時(昨年9月28日)のミスで、1メートル以内に15分以上接触した利用者がいても、通知されない状態が4カ月間も続いていたというのである。もっともアンドロイド端末の場合だけで、それは全体の31%にあたる (ちなみに、iPhoneの場合は、普通に機能していたそうだ)というのだが、とんでもない失態である。さすがに菅義偉首相も、4日の衆議院予算委員会で「お粗末だった。二度とこうしたことがないように緊張感をもって対応したい」と謝罪するに至った。 COCOAのダウンロード数は2491万(2月5日現在)、感染者登録が、10,239件と、やっと1万件を超えたが、全国の感染者数は40万1661人である。そうすると、40分の1しか登録していないことになる。先程のミスばかりか、この程度ではこのアプリ、なんの役に立つのかと思ってしまう。これが厚生労働省のやることだから、情けなくなった。 (30(1)本文は6月21日、注1は23日、注2は7月11日、(2)は8月7日、(3)は8月21日、(4)は8月26日、(5)は9月8日、(6)は翌令和3年1月18日、(7)は令和3年2月3日記) 31.上野動物園が再開された 上野動物園は、新型コロナウイルスの影響で2月末から休園していたが、ようやく6月23日から4ヶ月ぶりに再開された。そこで、近いこともあり、行ってみる気になった。インターネットで整理券を取得しなければならないという。iPhoneを使って3回目に、ようやく午前10時45分からの番号をもらった。実は私の家から不忍口まで歩いて7分ほどなのだが、入るのは正門だけだというので、蒸し暑い中を上野桜木町方面へトコトコと歩いて行った。 着いてみると、入園を待っている人がそれぞれ1mのソーシャルディスタンスをとっているので、延々と長い列を作っている。周りを見回すと、パンダの絵柄のあるポストがある。面白いことに、その口にマスクが付けてあった。誰か奇特な人がやっているのかと思ったら、朝日新聞によると、都内に住む40代の男性で、「子どもたちに着用を促しつつ少しでも癒やしになればと考え、4月下旬からパンダの口元に手作りでビーズを施したカラフルなマスクを数日おきに付け替えている。ポストが傷付かないよう磁石を使って取り付けている」(6月22日付け)という。 やっとのことで動物園の中に入ると、すぐにパンダ舎に通じる道を歩かされる。悲しいかな、混雑防止のため写真撮影は禁止とのこと。これでは、何のために一眼レフを持って行ったのか分からない。それでも、3歳になったばかりのシャンシャンが、こちらに寄って来てくれるなど元気に動いているのがとても良く見えたので、それなりに満足した。もう、体重が既に80キロもあるそうだ。竹ばかり食べて、よくそんなに重くなるものだ。 爬虫類館などの室内展示施設は、三密を避けるために展示は中止。だから、楽しみにしていたミーアキャットには会えなかった。ほかは、ほぼ普段通りである。ただ、入園者の数が相当少ないと思ったら、一日当たり4,000人に制限しているそうだ。 次にスマトラ・タイガーを見ようと虎舎に行ったら、ちょうどよい具合に大きな石の上に雄のタイガーがちょこんと乗っていたので、それを撮ることにした。ところが、ガラスに私の背の高さまでフィルムが貼ってあって、それが白く曇っているので、そもそも焦点が合わないではないか。困ったなぁと思って、そのフィルムを避けるために両手を上げてカメラの位置を高くして試しに撮ってみた、すると、なんとか撮ることができた。ただ、後からパソコンで写真をよくよく見たところ、そのタイガーさん、眠そうで眠そうで、ほとんど目を閉じている。何十枚も連射して、やっと数枚、目が開いていて何とか使えそうな写真があった。野生動物を撮るのには根気がいるし、たくさん撮って「下手な鉄砲かずうちゃ当たる」を実践するしかない。 ゴリラは、展示がお休み中だ。ヒトと近縁種だから入園者から新型コロナウイルスを伝染されてはたまらないということか。仕方がないので、猿山に行く。あれ、これもほとんどお猿さんが見当たらない。昼寝中かそれとも感染を恐れて数を絞っているのか、目の前にはわずか4匹しかいないではないか。写真を撮るどころではない。気のせいか、どのお猿さんも、どこか虚ろな目をしている。 猛禽類は興味深いが、ゲージの中なので檻の格子が写りこんでしまい、写真にならない。象のところに行く。ノッシノッシ、グルグルと歩いてくれるので、写真を撮りやすい。気のせいか、笑っているような表情を見せるので、面白い。ただ、撮影がガラス越しのときは、よく撮れたと思っても、家に帰ってパソコン画面でよくよく見ると、画面の一部に風景が映り込んで使い物にならなかった。 さて、イソップ橋を通って、西園の方に行く。このモノレールは、車両が老朽化したが高額の費用のために更新がかなわず、昨年10月から休止している。このままいくと、どうやら廃線になるらしい。初孫を連れて何回も乗ったのに、誠に残念なことだ。歩く途中、イソップ橋から不忍池の方を見下ろすと、蓮の葉っぱで辺り一面が覆われていて美しい。そろそろ、蓮の花の季節だ。また、あの池に朝早く撮りに行こう。 西園に降りてきたところで、まずはハシビロコウのところへ行く。この鳥は、丸一日でも立ったまま動かずに近寄ってきた魚を狙うという忍耐強いハンターだ。でも、あれ?今日は座り込んでいる。この環境に慣れて、だんだんズボラになってきたのかもしれない。これでは写真にならないので、フラミンゴのところに行く。 あれあれ、手前でフラミンゴ2羽が羽根を広げて追いかけっこをしている。それを撮ってみたのだが、鳥かごの手前の網が画面に写りこんでしまって、絵にならない。試しに、奥の方にいるフラミンゴの群れにレンズを向けると、幸いなことに手前の網は写らなかった。焦点が奥なので、網は画面上からは消えてしまう。光の屈折効果だ。これというのも、APS−Cサイズで300mmだからこそ、できる技だ(フルサイズで450mmに相当する)。キリン舎でも、キリンが奥の方にいるときは、同じように手前の檻の格子を消すことができた。 そこから、不忍口から出て帰宅したが、ともかく暑くて湿気の高い日だった。パンダのシャンシャンが中国との取り決めで今年いっぱいで中国に帰るというので、それまでにまた何度か会いに来ようと、入園するときに年間パスポートを購入した。だけど、パンダの写真が撮れないとは、残念なことだ。ともあれ、緊急事態宣言で数ヶ月の蟄居生活の後なので、久しぶりにすっきりした。 ところで、東京ディズニーランドとディズニーシーは、7月1日から営業を再開するそうだ。ただし、感染対策のために入場者の数を通常の2割に絞るとともに、パレードは中止、レストランも半分くらいは閉めるという。なお、感染の終息が早かった大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、既に6月8日から再開している。 (31は、6月23日記) 32.専門家会議が突然廃止される (1)6月24日、西村康稔担当大臣は、新型コロナウイルス対策の専門家会議を廃止し、それに代わるものとして「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を新たに設置することを表明した。従来の専門家会議は、新型コロナウイルス感染症対策本部の下に設置されていて、「厚労省のアドバイザリーボードのような位置付けの感染症の専門家の皆さんの会議」(西村大臣)だった。それに対して新しい分科会は、「改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく有識者会議の下部組織として位置付け、感染症専門家のほか、地方自治体の代表や危機管理対応の専門家らの参加も求める。」という。 これは関係者にとっては寝耳に水の発表で、現にその当日、たまたま日本記者クラブで記者会見を開いていた専門家会議の尾身茂副座長(地域医療機能推進機構理事長)らはこの件について記者に聞かれ、「今、大臣がそういう発表をされたんですか?」と困惑し、「私はそれは知りません」と語った。新型コロナウイルス感染症対策の中心となっていた専門家会議を廃止して大きく衣替えするというのに、その専門家の中心人物たちに何の事前連絡もなく勝手に決めてしまうというのは、大変失礼な話である。一体どういうことが起こったのだろうか。 (2)話は、5月のNHK報道番組を見ていたときに遡る。日比谷公園に面した中央合同庁舎5号館(厚生労働省と環境省が入っている)の11階と12階に、狭い会議室がそれぞれ1つずつあり、「厚生労働省クラスター対策班」のいわゆる「タコ部屋」となっていた。一方は東北大学大学院押谷仁教授がチーフとなる東北大学・新潟大学・長崎大学などのグループである。当初は、各県の保健所などから上がってくる報告を元に全国の感染状況を把握し、厚生労働省から各地へ「クラスター対策班」を派遣して鎮火に努めていた。ところが3月中旬以降、感染が急拡大してクラスター対策が追いつかなくなると、次の西浦グループの立てた戦略に基づいて、接触機会の8割削減という方針転換を主導していった。もうひとつのその西浦グループは、北海道大学大学院医学研究院西浦博教授をチーフとする数理モデルを駆使した理論疫学の北海道大学のグループである。 その2つのグループが、日付が変わる頃まで、調べ、議論し、悩み、呻吟してクラスター対策や予測に没頭する様子をNHKが報道していた。私はこれを見て、ご苦労さまという気持ちとともに、大いなる違和感を感じた。それは何かというと、これは学者のやるアドバイザリーボードではなく、行政官の行う行政そのものではないかと。早い話、感染者数が激増してクラスターの追跡どころではなくなったら、一体どうするのか。緊急事態宣言の発出をしなければならないと考えるが、同時に宣言による政治経済への打撃が懸念されるから、各方面への調整が必要となる。そんなことまで、組織の一員でもなく、ましてや政治的責任をとる立場にないこうした学者が、できるはずがない。ところが、政治が手をこまねいていることもあって、こうした専門家会議が表面に押し出されてきた。 緊急事態宣言は、結局4月7日に発出されるが、その前の2月24日、専門家会議は「今後1〜2週間が感染拡大のスピードを抑えられるかどうかの瀬戸際だ」という見解を示した。私は、この頃はまだ専門家と政治の棲み分けはできていたのではないかと思っている。ところが、これを契機として、次第に専門家が国民への説明の前面に立つようになった。そして、5月25日に緊急事態宣言が解除されるまでの間に、専門家会議は見解を3回、要望を1回、提言を7回も出し、その度に尾身茂副座長を中心に懇切丁寧で中身のある記者会見を開くものだから、国民の関心も高まり、自ずと新型コロナウイルスに関する政策が、あたかも専門家によって決定されているように思われるようになった。 (3)そんなクラスター対策班の中にあって、ユニークな存在は西浦博教授である。数理モデルを駆使した理論疫学の専門家だという。接触機会の8割削減などを明瞭に主張し、そのユニークな容貌とキャラクターと相まって、専門家会議の記者会見ではかなり目立った。それだけでなく、大阪府の吉村知事に説明して隣県兵庫県との往来の自粛を語らせたかと思えば、東京都の小池知事には気に入られて記者会見に何回も同席するなど、活動も活発であった。私が驚いたのは、4月15日の「個人的な見解」と称する記者会見で、「接触を減らすなどの対策を全くとらなければ、国内で約85万人が重症化し、うち約42万人が死亡する恐れがある」という試算を公表したことである。 6月25日現在でアメリカの感染者数は242万人、死者数は12万人であることからすれば、これらの数字は荒唐無稽なものではない。しかし、それにしても、どういう計算式といかなる根拠でそのように試算したのかくらい明らかにされていないと、いたずらに国民の不安を煽るだけの結果になりかねない。だから、普通の行政官であれば、簡単には公表しないはずなのに、どうなっているのかと思った記憶がある。 (4)そのような一連の流れからすると、今回の出来事は、さもありなんという気がする。専門家が舞台から引きずり降ろされ、今まで、日々急激に進行していくあまりに深刻な感染状況にオロオロしていた政治家と厚生労働省が、感染がいったん落ち着いたので、ここからようやく気を取り直すことができて本来の任務についたということだ。 西村康稔担当大臣は、専門家会議をなぜ廃止したのかと問われて、「会議は法律に基づくものでなく、位置付けが不安定だった・・・今後はワクチン接種の優先順位なども課題になるから、・・・感染症の専門家だけでは決められない事柄も出てくる」と話した。でも、専門家会議が法律に基づくものでなかったのは、最初からだ。そういう宙ぶらりんの立場の専門家会議に、政府の新型コロナウイルス対策の司令塔のような役割を果たさせる一方、自分たちはその陰に隠れて、事態が落ち着くまで表にほとんど出て来なかったのは誰なのかと反省すべきである。 (32は、6月25日記) 33.各国の超過死亡数の比較 日本で新型コロナウイルス感染症が猖獗を極めていた今年の春、4月7日から緊急事態宣言が発出された。それから約1ヶ月半で解除されたのであるが、感染が最も多かったのは4月初旬から中旬にかけてといわれる。そこで、特に4月の「超過死亡数」つまり例年と比べた死亡者数の増分が相当多いのではないかと思われていた。その背景として日本は、他国よりPCR検査の数が桁違いに少ないし、検査漏れで亡くなってしまう人が、「新型コロナウイルスによる死亡」ではなく「自然死」として扱われた例がかなり多いのではと考えられていたからである。 BBCによると、各国の超過死亡数と考えられる数字は、次の通りである。 アメリカでは、平年より16%高く、97,300人も多く死亡 (2月16日〜5月2日) イギリスでは、平年より43%高く、64,500人も多く死亡 (3月7日〜6月5日) フランスでは、平年より25%高く、28,400人も多く死亡 (3月2日〜5月10日) イタリアでは、平年より40%高く、42,900人も多く死亡 (2月24日〜4月26日) スペインでは、平年より50%高く、42,900人も多く死亡 (3月2日〜5月14日) ドイツでは、 平年より 4%高く、 7,100人も多く死亡 (3月9日〜5月10日) ところで、感染者数はPCR検査の対象を人為的に変えられることから、その統計数値は実態を表さないことが多いと思われる、その点、死亡者数は事情が異なり、これは人為的な操作はなかなかできないので誤魔化せるものではない。その死亡者数がこれほど平年より多くなっている要因は、おそらく新型コロナウイルス感染症によるものと考えて間違いない。もっとも、新型コロナウイルス患者で病床が逼迫して、そのため他の病気の患者が十分な治療を受けられなくて死亡したという事例もありそうだが、統計上で把握するのは困難である。 といういわば「常識」を踏まえると、6月26日に日本の厚生労働省が発表した今年4月の人口動態統計速報には、知る人全てが本当に驚いたのではなかろうか。死亡が113,362人で、昨年4月が112,939人だから、わずかに423人しか増えていないのである。これくらいなら誤差の範囲内で、つまり新型コロナウイルスによる超過死亡は、ほとんどなかったのではないかと考えられる。また一つ、日本のミステリーが増えた。そういうことで、 日 本 では、平年より0.4%高く、 423人が多く死亡 (4月1日〜4月31日) (33は、6月30日記) 34.ポピュリスト対女性リーダー (1)ポピュリストの大統領たち 7月6日現在の新型コロナウイルスの感染者数は、世界全体で1,145万247人(うち、死者は53万4,273人)である。感染者数(うち、死者数)を国別にみると、以下のように最も多いのがアメリカ、次いでブラジル、インド、ロシアと続く。 第1位 アメリカ 288万8,730人(12万9,947人) 第2位 ブラジル 160万3,055人( 6万4,867人) 第3位 イ ン ド 69万7,413人( 1万9,693人) このように、アメリカとブラジルだけで4割近くに及んでいる。それでは、この2国に共通するのは何かと言うと、科学を軽視し、専門家を信じず、単に大衆受けを狙うだけのポピュリストの大統領が率いる国だということである。 (2)トランプ大統領 まずは、アメリカのドナルド・トランプ大統領をみてみよう。当初は、「単なる風邪だ」と言い、国民に対して、新型コロナウイルスは大した問題ではなく、コントロール可能という印象を与えようとした。例えば、 「中国から来た感染者は1人で、管理下に置いているから全く問題ない」(1月22日) 「少し暖かくなれば、4月までにはウイルスは奇跡的に消えてしまうそうだ。」(2月10日) 「感染者数はただいま15人。数日中にゼロになる。我々の対策が見事だからだ。」(2月26日) ところが、アメリカでの新型コロナウイルス感染者数と死者数は、3月に入ってうなぎ登りに増え、4月末にはどうにも止まらない奔流となって、あっという間に患者数が世界一になってしまった。それからの主役は、ニューヨーク州のクオモ知事であることは、既に述べた通りである。 そういう中で、トランプ大統領の唯一の関心は自らの再選である。そこで、クオモ知事の向こうを張って、自らほとんど中身のない記者会見を延々とし始めた。ところが、4月23日の会見で、「新型ウイルス感染症の患者に光を当てたり、消毒液を注入したりするのはどうか」と述べて、世間を驚かせた。これに加えて、5月18日には、「(抗マラリア薬の)ヒドロキシクロロキンを2週間ほど前から飲んでいる。」と語って皆を唖然とさせた(その後、案の定、効果は否定された)。非科学的にもほどがある。 このトランプ大統領の記者会見につられて実際に消毒液を飲んだ人もいたというから、恐ろしい話である。もっとも、これは都市伝説かもしれないが、今のアメリカの共和党トランプ支持者の非科学的な思考法をみると、然もありなんという気がするから怖い。 【後日談】 アメリカのトランプ大統領は、側近のヒックス大統領顧問の新型コロナウイルスの検査が陽性と出たために、自らも検査を受けた。すると2020年10月2日未明、ツイッターで、自ら「陽性」だったと明らかにした。メラニア夫人も、陽性だったという。11月3日に大統領選挙を控えているという最も大事な時期なので、どのような影響があるのか注目されている。 10月2日のNHKの報道によると、「これを受けてホワイトハウスのメドウズ大統領首席補佐官は、『軽い症状が出ているが大統領は元気にしている』としたうえで、『トランプ大統領はアメリカ国民のために一生懸命、仕事をしていく。けさの最初の質問は『経済はどうなっている』だった。大統領は執務を続ける予定ですぐに回復すると楽観している」と述べたという。 同じく3日には、「首都ワシントン近郊の軍の病院に移りました。トランプ大統領はビデオメッセージで『体調はいいと思うが問題がないか確認してもらう』と述べ、ホワイトハウスは念のため今後、数日間、病院から執務を続ける」という。 (3)ボルソナロ大統領 その点、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領も、負けず劣らず酷い。トランプ大統領と同様に抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンを飲んでいるというのはご愛嬌にしても、新型コロナウイルスについて聞かれて「あんなものは、ちょっとした風邪だ。」と同じことを言う。 そればかりか、ロックダウン(都市封鎖)の必要性を説く保健相を続けて2人も解任した。州知事らが全国的なロックダウン(都市封鎖)を求めるのに、それは大量監禁だと主張して必要ないと何週間も論争する。死者が5000人を超えたことにコメントを求められると、「だから何なんだ」と答える。新型コロナウイルスより、それにより経済がストップすることが良くないと考える。だから、国民に働いて経済を動かし続けるよう呼びかける。なぜなら、「私たちはみな、どうせ死ぬのだ。」とまでのたまう。 いやもう、とんでもない大統領だが、熱心な支持者がいる。強気、アンチ・エリート、非科学的で凝り固まった存在だ。まるでトランプ大統領そのものだが、これをもっと極端にしたようなタイプだ。一時は、感染者と死者が続出するので保健省の統計の発表を差し止めたほどだが、さすがにこれは、連邦裁判所が開示を命じた。マスクの着用を義務付ける法案が議会を通過した。ところが、ボルソナロ大統領は学校や商業施設での着用や、貧困層への配布に反対し、一部の条文について拒否権を発動した。 (以上、BBCニュースより) 朝日新聞によると、7月6日にボルソナロ大統領は、38度の発熱と倦怠感があったためにPCR検査を受けたところ、7月8日、陽性と判明した。そこでようやく人前ではマスクをしているようだ。ところで、「ブラジル国内の感染者は162万3284人、死者は6万5487人に上る。これは、NPO『ブラジル公安フォーラム』のまとめでは、2017年に起きた殺人事件の被害者(死者数)6万5602人とほぼ同じ」という。 ファベーラという貧困地区がブラジルにはあるそうだが、狭いところに大勢の貧しい人々が住んでいて、新型コロナウイルスが蔓延すると見られている。しかし、政府には援助する気は全くなさそうで、代わりにその地を根城とするギャング団が水や食料を配り、外出禁止令まで出しているというから、驚いた(以上、BBCニュースより) (4)ボリス・ジョンソン首相 イギリスのボリス・ジョンソン首相も、トランプ大統領並みのポピュリストだと見られていて、実際に当初は、新型コロナウイルスの脅威を非常に軽く見る発言が多かった。そればかりか、3月3日の演説では、「先日、病院を訪れて新型コロナウイルス患者と握手して回った。」と話していた。ところが、そんなことをしていると、やはりというか案の定というか、首相本人が新型コロナウイルスに罹ってしまった。しかも、4月6日には集中治療室(ICU)に移ったほどの重症である。同じ頃にイギリスでは、チャールズ皇太子も新型コロナウイルスに罹ったから、その当時はこの感染症を軽く見る傾向が一般的だったのかもしない。ちなみにジョンソン首相は、4月27日にようやく公務に復帰した。 しかしジョンソン首相が不在の間、イギリス政府の楽観的な見方は、これを危惧した政府科学顧問の進言で一変した。4月13日に「(このまま何もしないという現状を)方向転換しないと、国民健康サービス(NHS)が崩壊し、25万人が死ぬという大惨事をもたらす。」と警告したのである。そこで、イギリス政府は16日、新方針を発表し、不要不急の移動や他者との接触を避け、自宅で仕事をするように呼びかけた。ちなみに、その時のイギリスの死者の数は、わずかに55人だった。 結果として、7月8日現在のイギリスの感染者数は世界第7位の285,768人、死者数は44,236人となっている。イギリスの特徴は、老人ホームでの死者の数が多いことである。これは、ただでさえ高齢者の死亡率が突出している中で、人材派遣会社から老人ホームに派遣された若い職員が、発症しないままに各地の複数の老人ホームで勤務したために、それだけ感染が拡大したと言われている。 (5)女性リーダーの国 まずは、この感染者数(死者数)の統計を見ていただきたい。 第15位 ド イ ツ 197,523人 (9,023人) 第63位 デンマーク 12,832人 ( 606人) 第69位 ノルウェー 8,930人 ( 251人) 第77位 フィンランド 7,253人 ( 329人) 第114位 アイスランド 1,863人 ( 10人) 第123位 ニュージーランド1,534人 ( 22人) 第125位 香 港 1,268人 ( 7人) 第155位 台 湾 449人 ( 7人) この8ヶ国は、次のように、いずれも女性リーダーの国である。 ド イ ツ (アンゲラ・メルケル首相) デンマーク (メッテ・フレデリクセン首相) ノルウェー (アーナ・ソールバルグ首相) フィンランド (サンナ・マリン首相) アイスランド (カトリーン・ヤコブスドッティル首相) ニュージーランド(ジャシンダ・アーダーン首相) 香 港 (林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官) 台 湾 (蔡英文総統) これを見ると、大国ドイツは、感染者数も死者数も絶対数は多いけれども、イギリス、フランス、イタリア、スペインなど他のヨーロッパ諸国と比べて死者数は3分の1から4分の1であり、かなり健闘していると言えよう。 デンマーク、ノルウェー、フィンランド等の北欧の国は、元々、人口が少ないが、それにしても死者数は低く押さえられている。隣国スウェーデン(男性首相)が、集団免疫の理論に固執して、感染者数71,419人、死者数5,420人を出していること(注)に比べれば、死者数が数百人にとどまっているのは、その徹底した感染対策が奏功したといえる。 ニュージーランドに至っては、感染の初期に危険を察知して外国人の入国を早い段階でストップし、ロックダウンも行い、しかもアーダーン首相自らが自宅から国民に呼びかけて、安心感を与えた。そして先進国の中では最も早く経済の再開を行ったことが特記される。 香港と台湾は、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS:severe acute respiratory syndrome)のときの反省を生かして、今回はかなり早い段階で中国人の入国をストップして、被害を最小限に抑えている。 (注)スウェーデンの「ロックダウンせずに集団免疫がつくのを待つ」という独特の戦略は、あのトランプ大統領からも揶揄されている。 Despite reports to the contrary, Sweden is paying heavily for its decision not to lockdown. As of today, 2462 people have died there, a much higher number than the neighboring countries of Norway (207), Finland (206) or Denmark (443). The United States made the correct decision! 2020年4月30日20:45 (6)日本にもいた「コロナはただの風邪」 7月5日は、東京都知事選挙の投票日である。その直前に街中を歩いていたところ、候補者のポスター掲示板があり、その中の一つのポスターに思わず目がとまった。それには、「コロナはただの風邪、コロナ騒動を作ったのはメディアと政府。『マスク、ソーシャルディスタンス、3密を避ける、自粛』は必要なし。新生活様式反対」とあった。 ああやはり日本にも、トランプ大統領やボルソナロ大統領のような考え方をする人が実際にいるのかと驚いた。それにしても、ただの風邪で、わずか5ヶ月の間に世界中で55万人も死ぬものか? 35.東京都で再び感染拡大、第2波か? (1)東京都で第2波到来か? 新型コロナウイルス緊急事態宣言は、4月7日に発出され、5月25日に解除された。東京都に限ってみると、感染者のピークは4月17日の206人で、その後漸減していって、5月23日には2人までになり、これで第1波は凌ぎきれたかに思えた。経済活動は次第に再開され、人出も徐々に戻ってきた。その一方、東京都の新宿や池袋等の「夜の繁華街」を中心に再び感染者が目立つようになり、7月2日から6日まで連続して100人を超すこととなった、そして、7月7日にはいったん75人となったものの、8日には224人、9日には243人と激増し、4月17日の以前のピークを軽く超えてしまった。こうなると、夜の街での限定感染というよりは、もはや市中感染が起こっているのではないかと危惧される。 このようにチャートで見ると、もはや感染の第2波が始まったように思えるが、政府と東京都の動きは鈍い。10日に西村大臣と東京都知事が会談して、PCR検査の強化と、繁華街のクラブなど接待を伴う飲食店での感染防止策を打ち出したくらいだ。理由は、「30代以下の感染者が7割を占めているほか、PCR検査は1日当たり3000件以上行われ、その陽性率も5%程度と、緊急事態宣言が出された4月に比べて大幅に低下している」という。 しかし、これはどう見ても、対策を講じない理由を無理矢理ひねり出しているように思える。4月7日に緊急事態宣言を出した日の感染者数は87人で、今回はその時の3倍近いというのに、この危機感のなさは一体何なんだと思う。それどころか東京都は、6月30日に開いた対策本部会議で、従来の「東京アラート」という警告はやめて「新たにモニタリング項目を設けるが、それには都民に警戒を呼びかける基準となる数値は設けない。」ということにした。もはや全く諦めて放置体制に入ったかに見える。 勘ぐれば、これ以上の強い措置を打ち出せば、ただでさえ冷え込んでいる経済を更に冷え込ませて壊滅的な打撃を与えかねないことを危惧したのだと思われる。尾身茂分科会座長などは「自粛をこれ以上続けると経済活動が持たなくなり、国民が付いて来られない。」などど正直に述べている。加えて東京都などは、自粛要請に応じた事業者への協力金の支払いなどに財政調整基金の95%もの財源を使い果たして、もはやほとんど枯渇しているという状態に陥っているからだろう。しかも、当面の課題であった東京都知事選挙が終わって現職が再選されたことから、もはや都民に感染防止をアピールしたり、協力金を配って甘い顔をしたりする必要はさらさらない。これからは、対策を行っている「フリ」をして、積極的放置策をとるのではないかと思われる。 アメリカ、ブラジル、インド、イランなどでは、一向に感染が収まっていないときに、冷え込む経済に耐えきれなくて外出や営業を再開し、以前にも増す感染の拡大を引き起こしている。日本も、同じ間違いをおかそうとしているのか、この数日間の状況に注目する必要がある。ただ幸いなことに感染爆発の兆候があるのは、本日現在で、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県といった首都圏に限られており、未だ全国的規模ではないことが唯一の救いだ。 (2)トルコの例から見た感染対策と経済の両立 新型コロナウイルスの脅威の一方で、経済活動を如何に維持するかが世界共通の課題となっている。人命は地球より重しと言っても、毎日の暮らしが成り立たないのでは何ともならない。 トルコについて、興味深い記事があった。「中東のトルコは当初からはっきりと経済を重視し、21歳から64歳までの生産年齢層を外出制限の対象から外し・・・外出禁止令の対象を65歳以上と20歳以下だけに限り・・・社会を支える働き盛りの世代に対しては、外出の自粛要請にとどめた。」(朝日新聞ポッドキャスト7月11日付け) それでどうなったかというと、トルコの新型コロナウイルス患者数は世界第15位の210,965人、死者数は5,323人である。患者数に占める死者数の割合は、わずか2.5%である。同時期の近隣国イギリス(患者数第8位)が15.5%、イタリア(患者数第13位)が14.3%であることに比べれば、はるかに低い。アメリカ(患者数第1位)の4.2%に比べても、半分にとどまる。その大きな要因は、生産年齢人口の新型コロナウイルスによる死亡率が低いことである。 既に見た通り、日本での統計では、全体の死亡率が1.6%であるのに対し、29歳以下は0%、30〜59歳以下は0.1%からせいぜい0.4%と低くなっている。ところが60〜69歳は1.5%、70〜79歳は5.6%、80歳以上は11.9%と年齢が上がるにつれて死亡率も大きく上がっていく。トルコの年齢別死者数の統計はないが、もし日本と同じ傾向で生産年齢層の死者が非常に少ないのなら、この結果は納得できる。 そうすると、日本ではこれから第2波が来るとして、とりわけ60歳以上の人には外出自粛を求め、それ以外の生産年齢の人には、これまでと変わらない経済活動を続けてもらうというのも、感染の脅威防止と経済活動の維持の両立を図るひとつの手かもしれないと思われる。 もちろんその場合は、医療崩壊が起こらないように、患者数の増加と病院のキャパシティとの両にらみの微妙な調整が必要であるが、場合によっては軽症患者用の隔離施設の活用などを図りながら、何とか対応していけないわけでもないと考える。 もっとも、マクロではそうかもしれないが、個人の話に還元すると、命に係わる重要な問題である。上記20.(5)で述べた通り、テキサス州で30歳の男性がコロナパーティ(感染者に来てもらって感染するかどうかを試す肝試し)に参加したところ、案の定、自分も感染してしまい、結局それが原因で亡くなってしまった。そういうことを考えると、感染防止か経済活動かというこの二律背反関係は、社会にとっても個人にとっても、まさに究極の選択といえる。 (35は、7月11日記) 36.新型コロナウイルスは空気感染する (1)日本ではまだあまり報道されていないが、BBCによると、世界保健機関(WHO)は、7月7日にようやく「新型コロナウイルスの空中感染」の可能性を認めるに至った。それまでは、まだ科学的根拠が不足しているとして、どういうわけか煮え切らない態度を続けていた。ところが世界の科学者239人が公開書簡でそれを批判するに及び、とうとう認めた形だ。WHOのこういうところが政治的配慮が過ぎるのか、どうも私には不可解で、もっと科学的価値観を大切にする組織であるべきだと考える。 更に言えば、この政治的配慮の過ぎることがWHOの命取りになっている。例えば、今回の新型コロナウイルス騒動の当初はあまりに中国寄りだったとしてアメリカのトランプ大統領から批判され、新規の拠出金が止められたばかりか、とうとう来年には脱退すると通告される事態とになった。 (2)それはともかく、本題に戻ると、これまでWHOは、「新型コロナウイルスは、咳やくしゃみをした時に飛び散る飛沫で伝染する」と説明していた。このような飛沫を直接浴びた場合はもちろん、飛沫がドアノブ、手すり、スイッチ、食器などに付けばそれを介して次々に伝染していくというイメージだった。だから、感染者はマスクを付けて飛沫が飛び散らないようにし、健常者は手を頻繁に洗えということになっていた。日本政府が推奨する対策も、それに従っている。 ところが、空気感染(airborne)するとなると、話は違ってくる。科学者によれば、「新型コロナウイルスは感染者の発する呼気などに含まれ、それがエアロゾルとなって空中を漂う。およそ8時間は、感染力がある」そうだ。だから今回、WHOは密閉空間や混雑した場所では、それは有り得ると認めた。 すると、これからは、マスク着用が重要になる。これまではマスク着用は感染者が他人にうつさないエチケット程度という感覚がなきにしもあらずだったが、実はそうではなくて、マスクには、やはり「新型コロナウイルスを含むエアロゾルから我が身を守る」という大事な役割があったのである。次に、密閉空間や混雑した場所に行ってはいけないという点については、こういう場所の管理者は、2mどころかもっと間隔を空ける必要があるだろう。演劇やミニシアター、路地裏の飲み屋などというものは、もはや商業的には成り立たないのではなかろうか。 (3)折しも、新宿区の劇場で集団感染が発生した。7月14日の報道によれば、新宿シアターモリエールで上演された舞台「THE★JINRO イケメン人狼アイドルは誰だ!!」で、出演者16人、スタッフ5人、観客16人の合計37人が感染したという。公演は6月30日から7月5日まで全12回あり、保健所は、延べ約800人の全観客を濃厚接触者に指定した。これなどは、新型コロナウイルスが出演者の唾などからうつるというだけではなくて、空気感染したと考えることが妥当だろう。 NHKの報道によれば、この劇場の主催者は、出演者の中に二人ほど体調が悪い者がいたが、業界のガイドラインに従い、「発熱が37.5度を超えていないこと、抗体検査が陰性だったこと」を満たしていたので、出演させたという。しかし、このうち「発熱が37.5度を超えていない」というのは厚生労働省が意図的にPCR検査をさせないために作った基準で、検査を受けるべき人が受けられないと強く批判された結果、厚生労働省自身が5月に取り下げたものである。また、「抗体検査」は過去に新型コロナウイルスに罹ったことがあるかを知るのには有効だが、現在新型コロナウイルスに罹っているかどうかを調べる検査ではない。要は、この劇場の主催者が参照した業界のガイドラインが、古かったということだ。 (36は、7月14日記) 37.やはり感染の第2波が始まった! 次のグラフは、全国で新型コロナウイルスへの感染が確認された人数の推移である(NHK調べ)。これを見ると、一日の感染者数が、いったんは4月11日に720人のピークを迎えた後、漸減傾向を示していた。緊急事態宣言が解除された5月25日には21人と少なくなり、それ以降6月中旬までは非常に落ち着いた動きであった。国民は安堵し、この調子では夏を迎えるまでに流行が収まるかと思われた。 ところが、6月下旬から感染者が徐々に増え始め、7月になって急激に増加し、あっという間に18日には661人と、第1波のピークの720人に迫る数字となった。とりわけ東京都では、第1波のピークの206人(4月17日)に対して、既に293人(7月17日)と、もう前回のピークを超えてその1.5倍になってしまっている。一時は、小池百合子東京都知事は、「夜の街を中心にPCR検査の数を増やしたから」と語っていたが、それでは全く説明がつかなくなってきた。 この増加傾向は、大阪でも同様で、4月9日に92人のピークを迎えた後、漸減していって5月下旬から6月半ばまではほぼゼロだったが、7月19日には89人とピークに迫っている。その他京都は前回のピークを超え、愛知県、福岡県なども気になる感染の拡大である。かくして全国的に感染の第2波が始まったのは、もはや間違いないと思われる。 (37は、7月20日記) 38.「Go To トラベル」が大トラブル (1)官房長官と東京都知事が不毛の鞘当て 新型コロナウイルスの第2波が襲ってきたのは確実で、感染者が急増している緊急事態だというのに、政府の菅義偉官房長官と、東京都の小池百合子知事とが不毛の鞘当てを続けている。 最初に菅官房長官が北海道千歳市内での講演で、「(東京を中心に感染が拡大する)この問題は圧倒的に東京問題と言っても過言ではないほど東京中心の問題」と発言した。 これに対し、小池知事は黙っていない。「圧倒的に検査数が多いのが東京。陽性者には無症状の方もかなり含まれている」と指摘した。返す刀で政府が今月22日から前倒しして実施予定の観光支援策「Go To キャンペーン」に触れ、「整合性を国としてどう取っていくのか、冷房と暖房と両方かけることにどう対応していけばいいのか。体調不良の方は『都外へお出かけにならないでください』と伝えているが、無症状の感染者も出ている中で、どう仕切りをつけるのか。これは国の問題だ」と述べたそうだ。(2020年7月14日付け朝日新聞) (2)「Go To トラベル」は感染を拡げるだけ ところで小池知事が言及した「Go To キャンペーン」だが、新型コロナウイルスの流行の収束を見込み、「官民一体型の地域活性化、需要喚起を目的としたキャンペーン」である。その内訳は、「Go To トラベル」(観光キャンペーン)、「Go To イート」(飲食キャンペーン)、「Go To イベント」(イベントなどのチケット代を補助するキャンペーン)、「Go To 商店街」(地域振興キャンペーン)から成る。 その中の代表的な一つ、「Go To トラベル」は、旅行代金の半額(1泊一人当たり最大2万円)の補助があり、そのうち、70%程度は旅行代金から割引、30%程度は現地で使える地域共通クーポンが付与されるという。それを7月22日から、しかも新規の旅行だけでなく既存の旅行にまで対象を広げて実施するという大盤振る舞いだ。実は私も、感染が落ち着いてきたことから、8月末に京都旅行、9月初旬に北海道旅行をするつもりでいた。 ところがやっと第1波をやり過ごしたと思ったら好事魔多しで、前述37で述べた通り、東京都だけでなく、各地に新型コロナウイルスの第2波の感染が急拡大している。そういう中、予定通りこのキャンペーン実施するのは感染を地方に拡げる結果になるのではないかと、大いに危惧される。ここは早めに見切って、延期又は中止すべきではないか。 (3)「Go To トラベル」から東京を除外 7月16日、赤羽一嘉国土交通大臣は、Go To キャンペーンから「東京都内の宿泊や東京都在住者を対象から除外する。国として(キャンセルへの)補償する考えはない。」と驚くべき発表をした。翌日、菅義偉官房長官は、「直前になって東京都の感染者が拡大している現実の中で判断した。大変申し訳ない・・・(旅行の)キャンセル代金は特別な対応を行わず、旅行会社に判断いただく」と発言した。 ところが、これには大きな問題がある。22日から実施すると言って国民の期待を大いに高めておきながら、わずか1週間前になって突然取り消すなんて、およそ行政機関のやることではない。これによって損害が発生したなら、賠償責任が生じる。現に東京在住でこのキャンペーンを当てにして各地の宿を予約した人たちから、予約の取消しが数多く発生している。キャンセルが無料でできるならともかく、キャンセル料を払わなければならない人は、泣き寝入りとなる。また、旅行会社がこの措置によってキャンセルが続出して損害を被ったということも考えられるし、何よりも観光地の旅館、ホテル、土産物屋が気の毒だ。 また、「なぜ東京在住の人が除外されるのか、同じ税金を使う予算だというのに、不公平だ、差別だ。」という声がある。確かに、その通りだと考える。これは、第二のアベノマスク、星野源とのコラボレーション並み、あるいは朝令暮改という意味では特別定額給付金(減収世帯への30万円支給を取りやめ、補正予算を組み、急遽全世帯に10万円を支給)と同様の大問題になりそうだ。もはや、政権が統治能力を失って、方向感なく漂流し始めた感がある。 (4)やはりキャンセルの補償を行う方向で調整中 7月20日、また驚くことが起こった。4日前の記者会見で赤羽一嘉国土交通大臣があれほど明確に「国として補償する考えはない。」ときっぱり言っていたのに、今度は前言を引っくり返して「補助の適用外となった予約のキャンセル料金を補償する」方向で検討中と言い出した。また朝令暮改だ。こんな調子では、政府に対する信頼がなくなる。この間、安倍首相の顔が全く出てこない。これは、汚れ球を拾いたくないのだろう。統治能力喪失の極みだ。 なぜこうなるのか考えてみると、慎重な思慮もなく、その場の極々限られた数の政治家の単なる思いつきで政策を決めていくからだろう。かつてであれば、各省内各省間で事務方が大いに議論して用意周到に準備をして進めたような話が、トップの単なる思いつきで、あれよあれよという間に飛んでもない方向に進んで行って自滅している感じである。政治主導と言って勝手気ままな政策を連発して何一つ成果を出せずに自滅していった民主党政権の姿を再び見ているようだ。 (5)なぜ東京だけ除外なのか? 感染者の数が連日最高を記録しつつある8月初旬の状況をみると、都会と観光地の主要都道府県の1日の患者数は、次のようになっている。(8月7日現在) 全国合計 1605人 _____________________________ 北海道 14人 東 京 462人 神奈川 107人 愛 知 158人 大 阪 255人 兵 庫 49人 福 岡 140人 沖 縄 100人 つまり、東京は462人と最も多いが、愛知+大阪では、413人と、あまり変わらない。だから、なぜ東京だけ「Go To トラベル」から外されているのか、もはやその合理性が説明できない。 (37(1)(2)は7月17日、(3)(4)は20日、(5)は8月8日記) 39.第2波の勢いが増すのに政府は無策 (1)新型コロナウイルスの第2波の勢いが、なかなか止まらない。この波は、まずは東京から始まったが、1週間もしないうちに大阪、名古屋、福岡と急速に拡大した。当初は新宿や池袋などの夜の繁華街が中心だったが、いつの間にか夜の会食を通じて、職場、家庭、学校に広がっていき、感染経路が不明な割合も半分を超えるようになった。そして8月7日には、ついに1日の感染者の数がこれまでで最高の1,595人、累積の感染者の数が45,889人にも達した。 下のグラフのグレーの線は過去1週間の移動平均の感染者数だが、これに見られるように、むしろ感染の騰勢はますます加速している。どこまで増えるのか、全くわからなくなってきた。PCR検査が少しは増えたことによる早期発見と検査期間短縮による待機期間の縮小が功を奏し、それとともに重症患者への治療法の工夫により、幸い、死者の数は、第1波の時ほどは多くない。しかしそれでもこの数日間で数人ずつ増えて行ってついに1,040人にもなった。1ヶ月前はその日の死亡がゼロの日もあったことを思えば驚くほどだ。これからもっと増えていくに違いないが、そうすると再び医療崩壊かというギリギリの局面が現出するのは時間の問題かもしれない。 それどころか、西村大臣が「お盆の帰省は高齢者に感染を拡げるから慎重な行動をお願いする」と言ったかと思えば、旅行業界をバックにした菅官房長官が「一律に控えてと言っているわけではない」などとそれをひっくり返すといった具合で、閣内不統一の極みだ。地方では、各都道府県の知事が口々に帰省の自粛を呼びかけているというのに、この体たらくである。 ところで、私が可哀想に思うのは、病院と医療従事者である。4月から5月にかけての緊急事態宣言の間、普通の患者が病院での感染を恐れて診察を受けに来なくなった上、新型コロナウイルス患者を受け入れたことで普通の患者の手術を延期したりして、病院経営が大きな赤字となった。そればかりか、しばしばクラスターが発生して医師や看護師などに感染者を出しているし、そういう危険な業務に従事しているというのに、病院の経営が危ないといってボーナスが減らされたりするケースが多いようだ。 朝日新聞によると、「病院の経営悪化が加速している。病院関連の3団体が6日公表した4〜6月の経営状況調査によると・・・診療に伴う収入から費用を差し引いた「医業利益」は、6月の1病院当たりの平均で5951万円の赤字。利益率はマイナス12・1%で、4月の同9・1%、5月の同8・4%から赤字幅が拡大した。新型コロナ患者を受け入れる病院の6月の赤字幅は同14・8%と、4月の同11・4%、5月の同11・1%から拡大した。赤字の要因は、感染を避けるなどの理由から、外来患者と入院患者が減っていることがある。初診患者数は4月と5月が前年同月比で約4割減、6月も約2割減った。夏の賞与支給については「満額」が71・3%、「減額」が27・2%、「支給なし」も0・8%あった。」という(8月7日付け)。 そうかと思うと、新型コロナウイルス患者を受けいれたというだけで、病院関係者の子供が保育園での保育を断わられたという話もよく聞く。もう、踏んだり蹴ったりだ。よくこれでやってくれている。それなのに、政府は医療従事者一人あたり20万円程度の見舞い金を用意する程度だ。病院自体に対する援助も含めてもっとケアすべきではないかと、もどかしく感ずる。 その一方で、上記38で述べた「Go To キャンペーン」事業は、こういう第2波が猛威を振るっている状況では、まるで感染を全国に拡げるようなものだ。それなのに、1兆7千億円もの予算を使ってなお強行しようとしている。どう考えても、おかしい。この予算はもう凍結し、10兆円もある予備費を使って病院と医療従事者を支援するスキームに変えるべきだ。 (3)そういうことで、政府が無策の中、急増する感染者に対応しなければならない立場に追い込まれた各都道府県知事は、やむにやまれず、それぞれが独自の対策を打ち出している。大別すると、飲食店の営業時間規制とゾーン規制とに分けられる。 その中で、まず東京都は、8月3日、一部の飲食店と全てのカラオケ立場店に対して、次のように夜10時までの営業時間短縮の要請を行った。 〇対象施設: 酒類の提供を行う飲食店・カラオケ店 〇営業時間: 朝5時から夜10時まで 〇対象期間: 令和2年8月3日から8月31日まで このチェックシートは、次の全業種向けのほか、実に細かく個別の業種ごとに作成されている。たとえば、 レストラン・料理店等編、 百貨店等編、 屋内テニス場等編、 博物館・美術館等編、 自動車教習所編、 ナイトクラブ等編などといった具合である。妙にきめ細かなところもあれば、反対に大雑把に引っくくるという極めて大胆なところもあるような・・・。 大阪府では、大阪市の繁華街、ミナミの一部エリアで、酒類を提供する飲食店やカラオケ店に、今月6日から20日までの15日間、休業や営業時間の短縮を要請した。営業時間の短縮は午前5時から午後8時までとし、要請に応じた店舗には、府と大阪市がそれぞれ、1日につき1万円、合わせて2万円の支援金を出すという。 愛知県では、8月5日から24日までの20日間、名古屋市の繁華街である栄地区と錦地区の一部で飲食店などに対する短縮営業、休業要請を行った。これに応じた事業者には、1日当たり1万円、最大で20万円の協力金を支給する。翌6日には、県独自の緊急事態宣言を出した。対象期間は6日から24日まで、不要不急の行動自粛・行動の変容、県をまたぐ不要不急の移動自粛、感染防止対策の徹底の3本柱で、重症化しやすい高齢者などへの配慮も促している。 沖縄県でも7月31日に県独自の緊急事態宣言を出し、8月1日から15日まで、那覇市内の飲食店に対して営業時間を午前5時から午後10時までとするように求めた。加えて、沖縄本島全域での不要不急の外出自粛を要請し、県をまたぐ移動について、県民に対しては自粛を求め、県外からの訪問者に対しては慎重な判断を求めている。 岐阜県では、「県感染者の約6割が、愛知県由来で、そのうち繁華街のクラブ等、酒類を伴う飲食店での感染者が約7割超」という認識の下に、7月31日に「第2波非常事態」を宣言し、愛知県、特に名古屋での酒類を伴う飲食の回避、学校夏休み、お盆休み対策の徹底、感染防止対策の基本の徹底、行動指針、ガイドラインの遵守徹底を県民に呼びかけている。 (5)帰省自粛の呼び掛けの結果 これらの帰省自粛の呼び掛けの結果として、旅行者の数は、昨年同時期と比べて、(JRは8月7日から17日まで、その他は同16日まで) ■ JR新幹線や特急列車の利用者の数は、24%に、 ■ 高速道路の1日当たりの平均交通量は、67%に、 ■ 飛行機は国内便が35%(国際便はわずか3%)になった。 (39(1)から(4)までは8月8日、(5)は18日記) 40.専門家会議に代わった分科会の評価 東洋経済オンラインで、和田一郎教授(花園大学社会福祉学部)という方が「日本のコロナ対策」初期対応は成功したワケ」という記事(7月8日付け)を書いておられる。これがまた今回の新型コロナウイルス騒動に際しての政府と国民の対応を見事に言い当てているので、感心してしまった。ちなみに、この方は、6月24日に政府によって廃止された新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議)にエビデンスを提供していた「クラスター班」の一員(厚労省参与)として参加していたそうだ。 それによると、わが国の一般的な政策の評価は、おおよそ次のパターンに落ち着くという。 (1)新たな危機に対して、初期対応システムは奇跡的にうまくいく。 (2)初期対応への批判に迎合して政治主導によりシステムが取り潰される。 (3)他分野の専門家や著名人が入り、経験や体験談、的外れのエビデンスをベースとした新たな議論が始まる。 (4)誰も責任を取らないような総花的な提言等しかできず、本質的な対応ができない。 (5)情勢が悪化するも、誰も責任を取らない。よって支援や補償もない。 (6)過酷な国民の負担と頑張りによって何とか持ち直す。 (7)最初に戻る。 そして、「政治家は西浦教授をはじめ専門家を隣に座らせ、自粛の必要性を説きました。一般的には権威付けといわれますが、政治においては『成功したら私のおかげ、失敗したり批判が起こったらすべてこの専門家の責任』という意味です。その結果、政治家でなく、専門家である西浦教授批判となったのは皆さんの知るところです。そして専門家会議の議事録を公開してもいいという声がメンバーから聞こえるや否や、解散となりました。」とまで言うのには、笑ってしまった。いや笑い事ではないのだが、もう笑うしかない。というのは、全くその通りなのだから。 上記の(1)から(7)までを今回の新型コロナウイルス騒動に当てはめていくと、(1)は、緊急事態宣言の発出(6)からその解除(18)までを言うのだろう。(2)は、西村大臣による専門家会議のお取り潰し(32)のことに違いない。(3)は、まさにその後に発足した「新型コロナウイルス感染症対策分科会」のことだ。そうすると、「他分野の専門家や著名人が入り、経験や体験談、的外れのエビデンスをベースとした新たな議論が始まる。」というのが現下の状況らしい。 分科会のメンバーを見ると、そもそも専門分野がバラバラなので、仰るように確かに烏合の衆かもしれない。専門家会議の西浦博教授(北海道大学)のような感染症理論疫学に的を絞った鋭い切れ味のある議論ができるとは、どうも思えない。分科会はこれまで5回開かれたようだが、その5回目は西村大臣の注文に応じて次のような数字を挙げていた。 ところが、これがどうなれば第2波の緊急事態宣言に繋がるのか、あるいはこれらが都道府県でやっている数値や指標といかなる関係にあるのかなどということが全く不明である。ますます(4)でいう「誰も責任を取らないような総花的な提言等しかできず、本質的な対応ができない。」という段階そのものになっている。専門家会議の時代と違って、政治家の思うがままに「牙が抜かれて」しまったというわけだ。そんな訳の分からない数字を次のように説明する尾身茂分科会座長がピエロのように見えてきて、気の毒だ。 そうすると、次は(5)「情勢が悪化するも、誰も責任を取らない。よって支援や補償もない。」ということになるのか・・・まあ、そうだろうな・・・そして、(6)「過酷な国民の負担と頑張りによって何とか持ち直す。」そして、ワクチンができるまで、これを繰り返す事になるのだろう。 (参考)新型コロナウイルス感染症対策分科会 設置根拠 構成員 開催状況 令和2年7月 6日 第1回資料 令和2年7月16日 第2回資料 これからあるべき対策の概要 今後実施すべき対策について 検査体制の基本的な考え・戦略 GO TOトラベル事業に関する分科会の政府への提言 令和2年7月22日 第3回資料 直近の感染状況等の分析と評価 令和2年7月31日 第4回資料 今後想定される感染状況の考え方(暫定合意) 令和2年8月 7日 第5回資料 今後想定される感染状況と対策について 令和2年8月21日 第6回資料 ワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方 令和2年8月24日 第7回資料 大都市の歓楽街に対する迅速な感染拡大防止と中長期的な感染防止 を目的とした提言 ところで、日本はいま、第2波の真っ最中であるが、日本と同様に新型コロナウイルス感染症の第1波をいったんは上手く封じ込めたと思われた国でも、第2波が大きく押し寄せてきて、大問題となっている。オーストラリアとイスラエルがそれで、第2波の方がより深刻になっている。 (40は8月12日記) 41.感染経路事例集 国立感染症研究所が、新型コロナウイルスの感染経路を図解した「クラスター事例集」をとりまとめた。といっても、ごく簡単な図が6枚あるだけだ。これまで、都道府県からは感染者の数や死者の数は発表されるものの、それが誰からどういう経路で感染したのか、その内容がほとんどわからなかった。 もっとも、例えば病院での院内感染の場合には、個別の病院名は公表される。しかし、その具体的な感染の状況や経路については全く情報がなく、あれこれ推測するにとどまっていた。ましてや同じ公的施設でも、私の住んでいる文京区では、認可保育園でクラスター(感染者の集団)が発生したというのに、どういう状況で誰からどのように感染したかも全然わからない。それどころか、どこの保育園ということすら公表しない。だから、ますます疑心暗鬼になるという悪循環に陥る。 その点、厚生労働省などは「3密(密閉、密集、密着)」は避けよというが、それだけでは漠然としすぎて、何のことやら、いかに行動すべきか、さっぱりわからない。だから、もっと具体的に、どういう状況で集団感染したのかを具体例を上げて公表すべきである。 もちろん、個人情報の保護や人権尊重の意義は重々承知しているが、事は人命に関わるものだけに、情報は隠匿するのではなく、もっと積極的に公開を行って国民に周知し、短期決戦で早期に流行を抑制すべき時期に来ていると思う。 そういう観点で、遅まきながら国立感染症研が公表したこの資料を見ると、クラスターが発生した6つのパターンが描かれている。その内容の乏しさには落胆するほかないが、これしかないのだから、仕方がない。 第1は、院内感染の事例である。どこだろう。東上野の永寿総合病院かもしれない。看護師同士が狭い休憩室で感染している。換気の悪いところで、ぺちゃくちゃおしゃべりして伝染してしまったようだ。他方で、感染しているのに気付かずに患者を退院させて介護老人保健施設に帰らせ、そこで二次感染をさせてしまっている。この例なら、対策を講じるのは簡単なことだろう。 第2は、昼カラオケ店での事例だ。北海道で見られたものである。そもそも北海道では、昼間に高齢者がカラオケをするなんて、思いもしなかった・・・それはともかく、この事例だが、カラオケ店主が80歳代で女性というのが2軒もあるではないか・・・しかも、お客にも70歳代が結構いる。皆さん、元気だなぁとしか言いようがない。その70代の客があちこちの店に行って感染を拡げている。症状が出ていたら、「店で遊ばない、店を開けない」、無症状の人は、「マスクを着ける、長時間歌わない」という対策をとればかなり防げそうだ。それにしても、マスクを着けてカラオケというのは、興がそがれるのも確かだ。でも、そんなことを言っておられない世の中ということか。 第3は、職場での会議で、感染してしまった事例である。発端は、50歳代の女性か。発症1日前に出席したらしい。すると、3人が4日以内という早目に発症し、また別の3人が遅目に発症したということになった。こういう場合、職場に最初に新型コロナウイルスを持ち込んだその女性は、平謝りだろうな。職場の会議というのは狭い密室で行われることが多いし、発言者は限られるから、その人が感染していたら、もうアウトだ。だから、当分はWeb会議かメールでするしかない。 第4は、スポーツ・ジムの更衣室で発生した事例である。2月の終わりに千葉の市川で発生したクラスターだろう。年代を問わず女性ばかり5人だ。てっきり、ジム本体ではないかと思っていたが、岩盤浴だけの人もいたから、共通点は更衣室ということらしい。これも狭い更衣室でぺちゃくちゃおしゃべりしていたことによるものだろう。 私も、室内テニスをするためにスポーツクラブの更衣室を利用するが、女性ほどではないにしても、マスクもしないで大声で無神経に話す高齢者がたまにいて、そういうときは、さっさと出てくることにしている。 第5は、接待を伴う飲食店の事例だ。20歳代のキャバクラの女性店員が、症状があるのにホストクラブの客となって2人の男性店員に伝染し、自分の店内で他の店員と男性客にまた伝染し、更にその男性客は自分がオーナーとなっているスナック店でまた感染させている。その他、東京からの客がラウンジで女性店員に伝染した。 こういうことが、夜の街で全国的に夜の街で生じているのだと思う。この新型コロナウイルス感染症が流行している限り、こういう飲食店で自信を持って感染しないように行動するなどということは、まず難しいのではないかと思わせられるケースである。 第6は、バスツアーの事例である。日本で発生したごく初期の新型コロナウイルス感染者は、1月中旬に感染が明らかとなった屋形船で会合をしたタクシー運転手である。それに次いで、1月下旬に見つかった2例目は、その直前に武漢市からのツアー客を乗せたことがあるバス運転手とそのすぐ後ろの座席にいたバスガイドであるが、この事例はこの2例目のことらしい。こういうケースを見ると、まずはマスク着用をすべきであるが、そもそも長時間のバスでの移動は控えたほうが無難だと思われる。 新型コロナウイルス感染症クラスター対策 (国立感染症研究所IASR Vol. 41 p108-110: 2020年7月号) 2020年1月15日, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例が日本において初めて確認された。以降, 症例数の漸増を認め, 3月中旬には海外からの輸入例を契機とした流行がさらに拡大し, 4月7日緊急事態宣言へとつながった。様々な施策や行動変容による市民の接触機会の減少を通じて, 症例数は減少傾向となり(5月31日時点で1日の確定例は22例, 5月1〜14日まで1,765例の確定例が認められたが, 5月15〜31日までは600例), 緊急事態宣言は5月25日に解除となった。本邦では, COVID-19対策の重要な柱の一つとしてクラスター対策が行われてきた。症例が減少傾向である今, 新たな感染拡大に備えるべく, クラスター対策について振り返りたい。 COVID-19において, クラスターとは患者集団を指す。クラスターの発生により, 連続的に集団発生が起こり(感染連鎖の継続), 大規模な集団発生(メガクラスター)に繋がる可能性がある。クラスター対策とは, 日本のCOVID-19対策の一つの柱であり, 疫学情報の収集, 分析を通してクラスターの早期発見と対応を支援するだけでなく, 市民に対してはクラスターの発生しやすい場所, 環境, 行動を避けるよう啓発することで, クラスターの形成を防止することを目的としている。 クラスターの同定は, 積極的疫学調査に基づいて行われる。積極的疫学調査では, 発見された症例からその濃厚接触者を特定し, 前向きに感染のさらなる広がりを防止するのに加えて, 症例の行動歴を後ろ向きにさかのぼって(COVID-19の場合, 発症前14日間を目安), 感染源の同定を試みる。クラスターに伴う感染が疑われた場合には, クラスターが発生した場や状況を把握することで, そこから他の方向に広がった感染連鎖を見つけ, 断ち切る必要がある。これは, 他の感染症疫学調査でも行われる手法であり, 例えば, 結核の集団感染調査は, 保健所をはじめとする衛生主管部局の業務として長年行われているものである。これは, 前向きに濃厚接触者を管理するのみでなく, 症例の行動歴を後ろ向きにさかのぼることで, 感染源や曝露歴を特定し, 感染リスクが高い集団を見つけ, 封じ込めを行い, 新たな結核の発生を予防することに役立てられている 。 一方で, COVID-19は, 無症状や軽症例が多く, すべての患者を把握するのが実際的に困難である。感染者の多くが重い肺炎を起こす重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスによるアウトブレイクと異なり, 感染連鎖を認識しにくい(図)。しかし, 次に述べる理由でクラスターを特定することに意義がある。 日本における感染者のデータを用いた分析では, 感染者の約80%が二次感染を引き起こさなかったことが示されている。一方で, ごく一部の感染者は多くの人に感染させ, クラスターを形成していた。つまり, クラスターが形成されなければ感染の連鎖は維持されないことになる。そのため, クラスター形成の機会を減らすことができれば, COVID-19の感染拡大を相当程度抑えることが可能であると考えられる。さらには, クラスターが特定されれば, そこから広がった感染については, クラスターとの繋がりにより検出されやすくなる。しかしながら, 認識されているクラスターから連鎖した症例がある一方で, それらとの繋がりが不明な症例, 聞き取り調査をしても感染機会や感染源がわからない“孤発例”が散見されることもある。このような場合は, 見えていない感染連鎖が水面下で進展しており, 確認されていない症例や認識されていないクラスターが地域内に存在している可能性がある。したがって, 次の大規模な感染機会へと繋がるリスクがあるため, 孤発例を認識した場合には, 詳しい行動歴を聴取し, クラスター発生の場となった感染源や感染機会を推定し, そこから派生している感染連鎖を見つけ出して断ち切る必要がある。孤発例を対照的に見つけ出すという意味でも, クラスターを認識把握しておくことが重要である。 クラスターの発生場所に共通する環境因子として, 国内では多くの感染伝播が「3つの密」と呼ばれる特定の環境で発生したことが, 流行の早い段階から明らかとなった(換気の悪い密閉空間, 多数が集まる密集場所, 間近で会話や発話をする密接場面)。 「3つの密」の条件が必ずしもすべてそろわなくても, 大声での発声や歌唱などは感染リスクになりうる, また息の上がるような運動が感染リスクを高めたと思われる事例も発生している。至近距離での会話機会が多い接客を伴う飲食店などでは, 多くの人が密集していなくても1人が複数の人と密接に接触するような場合にクラスターが形成される可能性がある。クラスター対策の重要な役割として, こういった共通する環境的および行動的要因を特定して, そのような場を避けるように市民に呼びかけることが重要である。市民がこうした場所・環境・行動を徹底的に避けることでクラスターの発生を予防することができると考えられる。また, 病院や高齢者・障害者施設でも多数の院内/施設内感染クラスターを認めている。このような場では, 通常リンクを追うことが可能である。また隔離など対策を実行しやすいために制御下に置きやすい。一方で, 対策が後手に廻ると感染拡大が起こりやすく(メガクラスターの発生), 感染すると重症化するリスクが高い集団がいることも多い。そのため, 国内外の感染の状況の子細な分析に基づく院内/施設内感染の対策・予防の徹底が望まれる。 本稿では, COVID-19に対して日本で行われているクラスター対策について記載した。クラスター対策の今後の展望としては, 感染拡大時のリソースの効率化を図るため, 積極的疫学調査や濃厚接触者の追跡を含め, サーベイランスへのIT技術の活用が重要になってくる。既知のクラスターの特徴を分析することに加え, 新たな形のクラスターを認めた際の迅速な分析・予防提言を行うシステムの構築も行っていかなければならない。また, 医療提供体制や検査体制の拡充といったロジスティックス, 水際対策といった異なる行政機関が関わる分野でのさらなる協調, クラスター対策の定量的な有用性の検証, などを今後さらに検討していく必要がある。短期に解決できる課題, 中長期的に取り組んでいく必要性があるもの, などさまざまであるが, 関係府省庁, 関係諸機関・諸団体, 関係学会等の支援を受けながら取り組んでいかれればと考えている。 謝辞:クラスター対策は, 全国保健所, 地方衛生研究所, 医療機関の多大なる支援のおかげで実施可能となっている。ここに謝辞を申し上げる。 なお、8月17日に、たまたま朝の民放テレビを見ていたら交通機関での感染事例を取り上げていた。一つは、バス運転手で、1時間ばかりバスを運転していたが、乗客の中に感染者がいて、その人から伝染ったらしい。もう一つは、航空機の乗客で、すぐ前の席に感染者がいて、1時間半ほどのフライト中に感染したものと思われる。いずれのケースも、面と向かって話しをしたというわけではないので、公共交通機関には、1時間も乗ったら感染の危険があるということだ。 こういうケースを厚生労働省がもっと具体的かつ網羅的に調べ上げて、それを一般に情報提供をしてくれないかと考える次第である。今のままでは、何をどうした時に感染するのか、情報が全くない。だから、日常生活を過ごす上で、どうすれば危険なのかがさっぱり分からない。分からないから、何をするにしても危険に思えて、ついつい疑心暗鬼に陥る。これでは、国民の精神的な健康へのダメージが増すばかりである。ところが、そういう感染事例がたくさんあれば、どういう時に伝染するかが明確に分かるので、自ずと行動指針を作ることができるし、精神的な負担も軽減されると思うのである。これには、予算はほとんどかからない。「GO TO キャンペーン」に1兆数千億円も浪費するより、はるかに意義があると考えている。 (41は8月15日記) 42.日本の感染者6万人、死者千百人超え (1) 日本の新型コロナウイルスの新規感染者が毎日2000人弱増加していって、8月20日、遂に累計感染者が6万人を超え、累計死者は1160人となった。6月以降の感染者数は4万人と、4月から5月にかけての「第1波」のときの約1万5000人の2倍以上にのぼっている。しかも、6月以降のこの「第2波」は当初こそ東京が主な発生地だったが、その後全国的に感染が拡大していって、とうとう8月19日の1日当たりの感染者は大阪府が187人で東京都の186人を上回った。 こうした状況について、日本感染症学会の舘田一博理事長は、8月19日の同学会の学術講演会で「『第1波』は緊急事態宣言の後、なんとか乗り越えられたが、いままさに『第2波』のまっただ中にいる」と述べた。同理事長は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の構成員である。 ところが、こうした事態なのにどういうわけか、政府は「第2波」とは明言しないのである。8月19日の衆議院厚生労働委員会において加藤勝信厚生労働相は「必ずしも定義があるわけではない」 と言い、西村康稔経済再生相も記者会見で「『第2波』に定義があるわけではない。どう呼ぶかは別として大きな波であることは間違いない ・・・重症化するリスクの高い方々への感染が増えてきていることは警戒しないといけない」と語るにとどまる。緊急事態宣言を再び出して、経済を冷え込ませるのを懸念しているのだろう。しかし、これでは逆効果だ。政府は事態を直視せずに手をこまねいているのかと、いらぬ疑念を抱かせてしまう。いや、本当に成り行き任せで、打つ手もお金も、ついでに知恵もないのかもしれないと思えるから怖い話だ。 それにしても、気になるのは重症者の数が漸増していることである。5月8日の287人には及ばないにしても、7月10日の31人を底に徐々に増えていって、8月17日には243人に達した。今回の第2波の当初は夜の街を中心に感染が拡大していったが、最近は家庭内感染が増えていき、それにつれて高齢者の年代にも拡がりつつあることから、これ以降、重症者がますます増えるのではないかと懸念される。 (2) なお、第1波と第2波の患者特性を比較した資料が、8月24日の政府の第7回分科会に提出された。それを見ると、死者数は第1波が900人、第2波が219人となっている。感染者数が第1波が16,784人、第2波がその倍以上の41,472人であることを考慮すれば、医療従事者がよく頑張ってくれていると思われる。もっとも、第2波の感染がまだ若い人中心の初期段階で、これから高齢者に感染の重心が移っていくのかもしれないので、まだ安心できる段階ではない。 (3) ところで、世界に眼をやると、次のように、もう惨憺たる状況である。アメリカではニューヨークを中心とした感染地域が下火になったかと思うと、経済の再開に伴って、カリフォルニア、フロリダに感染が広がり、1日の感染者数が4万7千人にもなる日が続いた。その一方、世界的な感染の流行地はブラジルなどの南アメリカから、インド、ロシア、南アフリカなどの新興国に広がりつつある。流行の終息の兆しは未だそのかけらすら見ることができない。 感染者の数 死者の数 世界全体 2,294万人 79万人 アメリカ 557万人 17万人 ブラジル 350万人 11万人 イ ン ド 297万人 5万人 ロ シ ア 94万人 1万人 43.ワクチン開発への期待と優先接種 (1) 新型コロナウイルス感染症に対する最終的な対策は、やはりなんといっても効果的で安全なワクチンをできるだけ早く開発し、多くの国民に接種をすることである。8月21日に開催された政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(第6回)資料によると、新型コロナウイルスについて開発中のワクチンには5種類がある。 このうち、@ 不活化ワクチンとA 組換えタンパク・ ペプチドワクチンは、これまで開発の実績があり、最も免疫がつきやすいものの、開発に時間がかかるのが玉にキズである。これに対して、B DNAワクチン、C mRNAワクチン、D ウイルスベクターワクチンについては、いずれも実績が乏しい。ただ、最新技術を使うので、開発を早くできる、という特徴がある。 海外では、いくつかの有力なワクチン開発が続いている。例えば、次の一覧表のほか、英製薬大手アストラゼネカは、米バンダービルト大学が発見した「AZD7442」を元に開発した抗体医薬について、8月25日、初期臨床試験(治験)を始めたと発表している。同じアストラゼネカとオックスフォード大学の組合せで開発中のワクチンもあり、これらが先頭を走っている有力なワクチンではないかと思われる。この他、ロシアではもうワクチンを開発して軍関係者に投与しているとか、中国でも開発に成功して医療従事者を相手に最終臨床試験に入ったという話もあるが、どちらも有効性や安全性について信ずる気になれない。ともあれ、各国では熾烈な開発競争が行われているので、そのうち、どれかが大きな効果をもたらして、この新型コロナウイルスのパンデミックを終わらせてくれるものと期待したい。 (2)政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(第6回)では、有効なワクチンが出来上がることを前提に、早々と、次のようにワクチン接種の優先接種が議論されている。なお、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の流行を控えて議論されたときの「高齢者」の定義は、65歳以上だそうだ。 (医療従事者) ・医療従事者は、新型コロナウイルス感染症患者や有症者に頻繁に接触する必要があり、直接医療を提供することから、感染リスクが高い。 ・感染した場合には、新型コロナウイルス感染症対策等に必要な医療サービス提供にも影響が大きい。 ・そのため、医療従事者については、医療提供機能の維持の観点から必要性が高い。 ・同様の観点からは、新型コロナウイルス感染症患者や有症者に直接対応する救急隊員及び保健師についても、接種を優先する必要がある。 (高齢者・基礎疾患を有する者) ・高齢者や基礎疾患を有する者は重症化するリスクが高いことから、重症化を防ぎ、一人でも多くの命を守るという観点から考えた場合、接種を優先する必要性は高い。重症者を減らすことで医療の負荷を軽減することにもつながる。 (妊婦) ・妊婦の重症化リスクに関しては、今後、エビデンスを基にさらに検討する。 (高齢者及び基礎疾患を有する者が集団で居住する施設で従事する者) ・高齢者及び基礎疾患を有する者の重症化を防ぐ観点からは、高齢者及び基礎疾患を有する者への接種を優先した上で、業務の特性等を踏まえ、高齢者及び基礎疾患を有する者が集団で居住する施設に従事する者についての接種順位を検討する。 (43は、8月26日記) 44.スパコン富岳のシミュレーション 8月24日に開催された分科会(第7回)において、「AI等シミュレーション開発事業」の進捗状況の報告があった。まだイメージ段階だということであるが、今年になって世界一となったスーパーコンピュータ「富岳」を使った「気流シミュレーション」がなかなか面白かったので、ここに記録しておくことにしたい。 (1) マスクとフェースシールドの効果 最初は、街中で最近見かけるようになった透明なフェースシールドの効果について、マスクの効果と比較したシミュレーションである。それによると、フェースシールドには20ミクロン以下の飛沫に対する捕集効果は小さいので、マスクの代替としてフェースシールドを使うのであれば、換気等を併用しなければならないそうだ。 (2-1) 飲食店での飛沫等の拡散(パーティションなし) 4人で2人ずつ向かい合って座っている状態でそのうちの1人が感染者でマスクなしで咳をしたとき、@湿度が高い場合と、A湿度が低い場合とで大きな違いがある。 すなわち、@湿度が高い場合、10ミクロン以上の飛沫は大半はテーブルの上に落下し、正面の人に到達するのは数ミクロン以下の小さなエアロゾルのみである。だから、まあ大丈夫だ。ところが、A湿度が低い場合は全く逆になり、飛沫は高速に蒸発することで微小化し、机に落下する数は大幅に減少する一方、空気中をエアロゾルとして拡散する数が増加する。だから、感染の危険が増す。 ただし、いずれの場合も、感染者と並んで座っている人や、斜向かいに座っている人は、まず感染しないものと思われる。もっとも、感染者がたまたま真横や斜向かいに向いて咳をしたら、やはり危ないだろう。咳をするときは、マスクを着用するか、あるいは「咳エチケット」と言われているように、肘で口を覆ってするべきである。 (2-2) 飲食店での飛沫等の拡散(パーティションあり) 次は同じく4人で座っているときに、そのテーブルに透明なパーティションがある場合で、やはりマスクなしという前提である。焦点はそのパーティションの高さであり、少なくとも1.4メートルあれば、大丈夫なようだ。ところが、1.2メートルでは30秒程度で正面に到達するエアロゾルが確認される、つまり正面の人が感染の危険にさらされるというわけだ。ただ、私の知っている限り、大抵の店のパーティションの高さは、せいぜい80センチ程度である。1.4メートル以上のパーティションなど、見たことがない。 (3) 通勤電車内での窓開け効果 山手線を想定した通勤電車内では、エアコンによる機械式換気だけでなく、窓を開けることで換気速度が数倍になる、つまり感染の危険性を減らせることがわかった。まあ、当たり前と言えば当たり前だが、こうしてシミュレーションで目に見える結果が出れば、安心して電車に乗ることができるというものだ。それにしても、通勤電車はそれで良いとしても、窓が開かない電車やバスの場合は、一体どうしようかという気がする。 (44は、8月28日記) 45.感染症対策の微修正 (1)8月28日、安倍晋三首相は体調不良のため辞任する意向を発表したが、まさにその日、新型コロナウイルス感染症対策本部(第42回)が開催され、新たな方針が決定された。 その前提としての感染者と入院者の動向であるが、次の図の通り、新規感染者(陽性者:灰色の線)は3月下旬から5月上旬にかけての第1波の後、7月上旬から第2波が始まり、それが同月下旬から8月上旬にかけてピークを迎え、それからゆっくりと減少に転じて9月上旬に至っている。入院治療を要する者(青色の線)は、5月4日に11,535人、8月26日には10,306人となっている。とりあえず、第2波の山は越えたと考えられる。 @ 感染症法における入院勧告等の権限の運用の見直し 「今後は、新型コロナウイルス感染症の政令の位置付けを見直して、軽症者や無症状者について宿泊療養 (適切な者は自宅療養)での対応とし、保健所や医療機関の負担の軽減、病床の効率的な運用を図る。」 つまり、これまではPCR検査で陽性者となれば、感染症対策法上はたとえ無症状でも原則として入院させなければならず、その手配を保健所が行って業務の繁忙を招き、同時にせっかく用意された新型コロナウイルス患者用ベッド逼迫という残念な結果となっていた。それでは本当に入院が必要な重症化した患者の入院治療まで十分に手が回らないこととなってしまうので、このようにしたものである。 A 検査体制の抜本的な拡充 「新型コロナウイルス感染症について、地域の医療機関で簡易迅速に検査が行えるよう、抗原簡易キッ トによる検査を大幅に拡充(1日平均20万件程度)するとともに、PCR検査や抗原定量検査の機器の整備を促進し、必要な検査体制を確保する。」 つまり、「目詰まり」として、もう何度も指摘されながら少しも進まなかった検査体制を、ようやく拡充しようというものである。PCR検査数は、2月頃の1500件/日から、9月になってようやく検査能力は6万件/日と増えたが、実際の検査数は2万件/日にとどまっている。アメリカやイギリスでは、人口当たりでは日本の10倍から20倍の検査数をこなしている。このボトルネックを解消しようとしている。 (2) それとともに、従来は発熱などの症状が出て新型コロナウイルスへの感染が疑われる場合、まずは保健所などが開設する「帰国者・接触者相談センター」に電話することとなっていた。ところが、37.5度以上の発熱が4日続いていないと検査を受けさせないとか、そもそもこのセンターに何回電話をしても繋がらないという問題が頻繁に起こり、結局のところ検査も治療も受けられずに肺炎で亡くなるという事例が見受けられ、国民の怒りは頂点に達したのは、既述の通りである。 厚生労働省は、9月4日、新しい方針を発表し、「早ければ10月以降、(帰国者・接触者相談センターを通すことなく)、かかりつけ医などの身近な医療機関に電話で相談した上で受診する」ということにしたそうだ。前述のような診断までの「目詰まり」の解消とともに、これから冬を迎えてインフルエンザと同時流行する恐れが十分にあることから、より受診しやすくしたものと考えられる。それにしても、4月から始まった第1波どころか、もはや第2波も終わろうとしているこの9月までの間、既に半年も経っている。なぜこれほど長く時間がかかったのか、実に不可思議なことである。 46.日本では感染が落ち着くが世界では猛威 (1)前回の報告から約1ヶ月が経ち、この間、実に色々なことがあった。まず、安倍晋三首相が、8月28日に持病の悪化のため辞任を表明した。その後、自民党内での総裁選挙を経て、9月16日夕刻に国会で菅義偉首相が選出された。新内閣では、それまで厚生労働大臣だった加藤勝信氏が官房長官となり、ベテランの田村憲久氏が厚生労働大臣となったが、新型コロナウイルス対策担当はやはり西村康稔大臣が担うことになっているので、新型コロナウイルスへの政府の対応には変わりがない。 肝心の日本の感染状況は、感染者数8万7,762人、死亡者数1,816人となっている。一日当たりの感染者数は8月7日の1,605人をピークに減少に転じて落ち着いてきたとはいえるものの、次のチャートで示される通り、ここしばらく一日当たりの感染者数は500人から600人ということで、下げ渋っているというのが実情である。 (2)GO TOキャンペーンに、10月1日から、東京発着を加えることになった。これまで、東京が対象となっていなかったために、しばしばテレビで東京の浅草寺近辺の商店街に閑古鳥が鳴く場面が放映されて、そのたびに同情を禁じえなかったものだ。ところが、最近では、まだ3割ほどではあるが、少し人出が戻って来た。もちろん、外国人観光客の姿は非常に稀である。 その一方で、東京在住の人が、京都や奈良などの観光地に繰り出して、西陣や産寧坂をそぞろ歩きする姿も放映され、こちらも3割から4割ほど人出が戻ってきている。近隣のお土産物屋やレストランも、一息ついていると見られる。他方、GO TOトラベルは一泊最大2万円を補助するものなので、これを利用してこの際、高級ホテルに泊まりたいと思う人が増えているという。例えば一泊6万円のホテルに4万円で宿泊できるから、何も安ホテル(といったら失礼かもしれないが)に泊まることはないという発想である。だから東京都内の高級ホテルには宿泊客が8割方戻り、2万円以下のビジネスホテルは相変わらず閑古鳥という珍妙な現象が生まれている。 (3)驚いたことにアメリカのトランプ大統領が、大統領選挙まであと1ヶ月という10月2日になって、新型コロナウイルス陽性であることが判明し、近くの陸軍病院に入院した。大統領補佐官によれば、一時は血液中の酸素量が減少するなど深刻な病状であったが、三日後の5日にはもうホワイトハウスに帰ってきた。入院前には酸素吸入を受け、病院では未承認の抗体治療薬、レムデシベル、それにデキサメタゾンを投与されたそうである。後者2つは中等症や重症患者に投与されるものだから軽症者にはかえって有害だというので、大丈夫かと心配になる。 (4)世界の新型コロナウイルスの感染は、ますます拡大している。世界の感染者数は、3,600万人を超え、うち死亡数はとうとう100万人を超えた。これは、大戦争並みの死者の数である。中でも、次のアメリカ、インド、ブラジルの3ヶ国が飛び抜けている(10月8日18時現在。ジョンズ・ホプキンス大学調査)。ペストは、科学的知識のなかった中世の時代の疫病で、当時のヨーロッパの人口のおよそ3分の1が亡くなったといわれる。科学的知識が発達した現代でも、アメリカやブラジルは国のトップの対応が殊更に科学を無視する態度に出るので、その手痛いしっぺ返しを受けているような気がする。特にアメリカでは、感染症の世界的権威であるアンソニー・ファウチ博士(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長)がいるのに、その言うことをトランプ大統領は全く聞かず、かえってその発言を封じてしまうなど、末期的な症状が起こっている。インドも、世界一の人口を抱えている国であるが、その大半を占める貧困層が、まるで中世そのもののような暮らしぶりであるから、感染はとどまるところを知らず、これからも増加する一方であるものと考えられる。 感染者数 死亡者数 全 世 界 36,156,226人 1,055.683人 アメリカ 7.549,682人 211,801人 イ ン ド 6,838,655人 105,526人 ブラジル 5,000,694人 148,228人 (10月8日記) 47.各国とも第2波、第3波が猖獗を極める (1)この3ヶ月間に欧米で第2波、日本で第3波が襲来 前回の記録は10月8日なので、それから3ヶ月近く経ってしまった。実はこの間、10月半ばに家内が入院して外科手術を受けたかと思うと、11月に入って今度は私自身が叙勲の対象となって旭日大綬章をいただいたことがあって、とても新型コロナウイルスをトレースするどころではなかったからである。 この3ヶ月間は、いやもう、実に慌ただしい日々だった。これら一連の嵐のような出来事が過ぎ去ってみると、家内も無事に後遺症なく退院し、私もようやく各方面への御礼の算段を済ませ、しかも年賀状も書き終えて、ようやく平穏な日々が戻ってきたところである。しかし、新型コロナウイルスは、北半球が冬に入り、世界中で猖獗を極めるようになってきた。 (2)世界の感染状況の3ヶ月前との比較 この間、欧米各国とも10月頃から新型コロナウイルス第2波に見舞われ、大変なことになっている。まず、世界の感染状況を3ヶ月前と比較してみよう。(アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の統計) 2020年10月5日 同年12月29日 全世界計 3,516万3114人 8,127万8115人 (死者:103万7122人) (死者:177万4390人) アメリカ 741万8107人 1,930万1543人 (死者:20万9725人) (死者:33万4836人) イ ン ド 662万3815人 1,224万4303人 (死者:10万2685人) (死者:14万8153人) ブラジル 491万5289人 750万4833人 (死者:14万6352人) (死者:19万1570人) (3)アメリカで感染者が再び急増 アメリカにおいては今年の3月から4月にかけて第1波が到来し、ニューヨーク市では爆発的に感染者が増え、クオモ知事が全米の医療従事者に対して「すぐにでもニューヨークに来て助けてくれ」と呼びかけるなど深刻な危機を経験した。その当時の同市では最大で1日に1万人、累計で25万人もの人々が感染し、約2万4千人が死亡した。 ところが3月下旬から行われた厳しい経済封鎖の効果が上がり、感染者数は劇的に減少に向かった。そこで、段階的に経済を再開させてきて、夏頃までにはどうにか押さえ込んだと見られていた。 ところが、9月中旬から一部の地区で感染者が再び増え始めた。やむなく10月初めから区域を絞った「限定封鎖」を行うことにした。しかしながら、これはまだ序の口に過ぎなかったのである。11月10日、アメリカ全土の感染者数がついに1,000万人を超え、1日当たりの新規感染者数も5日連続で10万人を超えて、全米の州の8割に相当する42州で過去最高を記録した。 12月8日になると、アメリカ全土の感染者数が1,500万人を超え、わずか1ヶ月の間に1.5倍になった。1日当たりの新規感染者数は平均で20万人を超え、死者数も1日に2,000人を超える日が続いている。これだけ増えたのは、11月末の感謝祭の頃からだという。特にカリフォルニア州で急増している。同州では、12月6日から不要な外出を規制する自宅待機命令が出されている。単純計算すると、アメリカでは今や17人に1人が感染していることになる。 (4)ヨーロッパの第2波 ヨーロッパはどうかというと、10月に入って、特にフランスとスペインで、春に続く再流行が始まった。第2波の到来である。まずフランスのパリでは、10月初旬には感染者数や集中治療室の病床などの指標が最悪レベルに達し、1日当たりの感染者数が過去最悪の1万7,000人に達した。ショッピングセンターの入店が制限され、大学の教室も受講者が定員の半分に限られ、バーやスポーツジムの閉鎖が決まった。続いて10月14日、パリ、マルセイユやリヨンなど9都市に夜間外出禁止令が発令された。12月18日には、マクロン大統領自身の感染が公表された。 スペインのマドリードでは、集中治療用病床の利用率が定員の110%に達するという緊急事態が現出し、10月2日から市内全域とその周辺地域に移動制限が拡大された。 (5)スウェーデン式の集団免疫待望論は失敗 スウェーデンは、新型コロナウイルス対策の当初から、アンデシュ・テグネル公衆衛生局長の方針の下、「公衆が集団免疫を獲得すると流行は収まる。それは秋頃だ」という方針でいた。だから、他の欧米諸国のようなロックダウン(都市封鎖)はせず、レストラン、学校、映画館などの興行場、スポーツジムなどは普通に運営していたし、感染防御の根拠不明という理由でマスクの着用を勧めてこなかった。 その結果、悲惨な事態を招いた。12月26日現在の感染者数は39万6,048人、死者数は8,279人であるのに対し、隣国フィンランドはそれぞれ3万4,648人と548人、ノルウェーは4万6,248人と421人にとどまっている。それぞれの国の人口がスウェーデンの半分程度であることを考えれば、失敗だったことは明らかだ。とりわけ、12月に入っての患者の増加は顕著で、ストックホルム地域の病院の集中治療室は完全に埋まっているという。 スウェーデンのグスタフ国王も、「簡潔にいえば、我々は失敗したと考えている。多くの人が亡くなっている。恐ろしいことだ」(12月18日付けNHK)と述べている。 (6)日本国内の第3波 日本国内では、4月から5月にかけての第1波の後、8月にそれよりやや大きい第2波が来た。それを何とかしのいだと思ったらついに11月頃から更に大きな第3波が到来し、感染者数は12月に入ってうなぎ登りに増加している。 次いで、11月から12月にかけての感染の拡大から、東京、大阪、名古屋、千葉、埼玉、神奈川で、営業時間の短縮や休業が呼びかけられた。なかでも大阪の感染状況は深刻で、12月3日、府独自にレッドステージ(非常事態)の対応方針に基づく要請を行った。それは、@年末年始はステイ・ホームに努めること、A忘年会・新年会、成人式後の懇親会への参加は控えること、B帰省は控えること、Cカウントダウン等の主催者のいないイベントへの参加は控えること、D初詣をする場合にはできるだけ密を避け、時期を分散すること等の常識的な内容である。 東京都も12月17日、医療提供体制の警戒レベルを最も深刻なレベル4に引き上げた。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めはかからず、首都の「医療崩壊」が現実味を帯びてきた。 12月26日時点では、日本国内の感染者数21万5,824人、死亡者数3,193人となっている。1日当たりの感染者数は、この1週間ほぼ毎日、過去最高を記録している。 (7)遅きに失したGO TOキャンペーン中止 11月下旬より、北海道、大阪、東京の順で新型コロナウイルス重症患者がどんどん増えていった。そこで政府の観光振興策「GO TOキャンペーン」の見直しが迫られた。11月21日の政府対策本部で、まず北海道札幌市と大阪府大阪市を目的地とする旅行の支援対象からの除外を決めた。ところが、政府の専門家分科会が更にこれらを出発地とする旅行も検討するよう政府に求めたことで、政府も自粛を呼びかけることになった。もちろん、キャンセル料は、旅行代金の35%を政府が負担する。 ところが、感染拡大が止まらないどころかますます拡大する状況下で、政府はようやく重い腰を上げて、GO TOトラベルを12月28日から来年1月11日まで全国で一時停止することを発表した。わずか数日前に菅首相が停止するかどうかを聞かれて、はっきりと「しない」と答えたばかりだったものだから、皆が驚いた。 これについて行われた世論調査では、「『賛成』は78%、『反対』は15%。一時停止に『賛成』と答えた人のうち、タイミングが『遅すぎた』は84%にのぼった」(朝日新聞2020年12月21日付け)。春の緊急事態宣言以降、客離れに疲弊した地方や観光業界が回復の望みを託していたGO TOトラベル政策ではあったが、これだけ感染が急拡大すれば、経済よりは、人命の方を最優先すべきであろう。 (8)ワクチン 頼みの綱のワクチンといえば、開発が最も早く進んだ米ファイザー製のワクチンがようやく12月15日頃から米国内で投与され始め、まず290万人分が用意されるという。米政府は来年の前半中にでも全国民に行きわたらせたい意向のようだ。しかし、本来は10年はかかるというワクチン開発を1年にも満たない期間で行って、しかもろくな臨床試験も行われていないというのであるから、世論調査では積極的に受けたいという人と、副作用を恐れて慎重に考えたいという人が半々である。集団免疫を獲得するには70%の人がワクチンを接種する必要があるというが、このままではその目安が達成できそうもない。 皆が気にしているワクチンによる副作用であるが、米ファイザーと独ビオンテックのワクチンをイギリスで医療従事者に投与したところ、2人がアナフィラキシーによるショック症状を起こした。しかし、幸い命に別状はなかったようだ。また、12月下旬にアメリカで100万人規模の投与が始まったところ、現在までに6人がやはりアナフィラキシーによるショック症状を見せたという。引き続き注目していきたい。ただ、ワクチンの副作用で長期にわたって生じるものもあるため、短期で評価するのは適当とは思われない。 なお、このファイザー等のワクチンのほか、米モデルナのワクチン、英アストラゼネカのワクチンが、アメリカとイギリスで承認されたようである。この3つのワクチンが日本で投与が始まるのは、来年2月以降とのこと。 日本政府が確保しているワクチンの数量が気になるところである。ファイザーのワクチンは21年6月までに6000万人分、アストラゼネカのワクチンは21年初めに6000万人分(3月までに1500万人分)、モデルナのワクチンは21年6月までに2000万人分、それぞれ日本に届くことになっているそうだ。ただ、1回のワクチンでどれだけ効果が続くのかは未だ不明である。 朝日新聞の報道によると、「新型コロナウイルスのワクチンについて、厚生労働省は12月25日、優先接種の対象者が、高齢者や持病のある人ら約5千万人になるとの見通しを明らかにした。高齢者は『来年度中に65歳以上となる人』としている。接種は2月下旬、医療従事者の一部から始める方向で準備を進める。 ワクチンは無料で接種できる。政府はすでに、@医療従事者、A高齢者、B持病がある人・高齢者施設などの職員――の順番で接種を始める方針を示している。 この日の厚労省の専門家らによる部会で示された資料では、優先接種の対象となる@の医療従事者(薬剤師や救急隊員、保健所・検疫所の職員らも含む)は約400万人。このうち、まず同意を得られた約1万人に先行して接種する。副反応などの情報を集めるため、接種後に一定期間、健康状態を報告してもらう。 Aの高齢者は約3600万人。ワクチンの供給量に応じて、60〜64歳の人(約750万人)もBの持病がある人らと同時期に接種を始めることも検討する。 Bの持病に該当するのは糖尿病やがんなどで通院、入院している患者。肥満も感染した場合の重症化リスクを高めるとされ、BMI(体格指数)が30以上の人も対象となった。20〜64歳で約820万人になる見通しという。」(2020年12月26日付け朝刊) なお、ベルギーの政府高官が、本来は契約上で秘密であるはずの各ワクチンの価格を公開してしまった。それによると、次の通りである(日経新聞12月27日付け)。一番高いワクチンと安いワクチンとでは、8倍近くもの価格の開きがある。しかもこのうち最も承認が早かった米ファイザー/独ビオンテック製はマイナス70度で流通させなければならないし、次に承認された米モデルナ製はそれがマイナス20度だというから、価格の高さとも相まって先進国以外は普及は無理だろう。 米モデルナ 18ドル(1862円) 米ファイザー/独ビオンテック 12ユーロ(1525円) 仏サノフィ/英GSK 7.56ユーロ(952円) 英アストラゼネカ 1.78ユーロ(224円) (9)変異型ウイルスの脅威 それにつけても気になるのは、イギリスで新型コロナウイルスの変異型が見つかったことである。従来のウイルスより感染力が70%ほど強いという。事実、イギリスでは従来のウイルスと急速に入れ替わっている。「今回の変異種が最初に見つかったのは9月だった。11月にはロンドンで確認された感染の約4分の1が、この新たな変異種だった。12月中旬になると、感染の3分の2近くが変異種となった」という(BBC news)。 ただ、「今のところこの変異型ウイルスが毒性を強めたり、現在開発中のワクチンが効かなかったりするという証拠はない」というが、早急に対処してほしい。なお、この変異型ウイルスは、50歳代以下によく感染するという情報がある。従来型ウイルスは65歳以上で死亡率が特に高いということで要注意だったが、その点、変異型ウイルスはどうなのだろうか。 ところで、変異型ウイルスは、早速、日本国内でも発見された。それに先立ち、イギリスから成田空港と関西国際空港に到着した5人が変異型ウイルスだったことが判明しているが、これは空港での検疫で止められたので、まだ良かったといえる。ところが、12月26日になって都内に住む夫婦が変異型ウイルスに感染していることがわかった。30歳代の夫は16日にイギリスから帰国したが、航空機のパイロットだったために空港でのPCR検査はされなかったという。こんな「検査漏れ」から、国内への侵入を許してしまった。 「 政府は11月、海外との往来再開を促すため、外国に短期出張する日本人出張者らの帰国後の待機免除措置を始めた。出張先の滞在期間が7日以内で、帰国後2週間の行動計画書を出し、公共交通機関を使わないことなどを条件にした。 変異種の流行を受け、24日から英国をこの対象より外す。政府は10月以降、入国後の2週間待機などを条件に3カ月以上の中長期滞在者を全世界から受け入れているが、今月24日以降は英国からの新規入国を認めない。 短期出張以外の理由で英国から帰国する日本人の要件も厳しくする。現在は義務付けていない新型コロナの陰性証明について、出国前72時間以内の取得・提出を求める。27日の帰国者から適用する。位置情報を記録し、感染者との接触情報を確認できるスマートフォン向けアプリの利用を誓約させる。」(2020年12月23日付け日経新聞夕刊) 。 日本に限らず、22日現在で欧米諸国を中心に40ヶ国と地域がイギリスからの入国を停止する措置をとっている。 ところで、英国で見つかった変異型ウイルスとは別の種類の変異型ウイルスが、南アフリカで発見され、日本でも南アフリカからドーハの空港を経由して帰国した30代の女性から見つかった。12月19日に帰国して隔離の対象となっていたから、幸い濃厚接触者はいないということである。この南アフリカ変異型の感染力などは、まだわかっていない。 かくして、新型コロナウイルスでの終息の見込みどころか、ますます燃え盛ったまま、新しい年を迎えることになる。7月に東京オリンピックの時期を迎えるまでに全国民にワクチン接種を行うなど、到底できそうもない。そうすると中止が現実味を帯びてくる。「ステイ・ホーム」ばかりの憂鬱な時期が少なくともあと半年は続きそうだ。 (47は、12月28日記) 48.日本でも第3波、再び緊急事態宣言を発出 (1)2021年に入って新型コロナウイルスの感染状況(第3波)が日に日に悪化してきたことに加えて、東京都知事をはじめとする1都3県の知事が1月2日に官邸を訪れて緊急事態宣言の発動を迫ったことから、菅首相が重い腰を上げてようやく1月7日になって、遂に緊急事態を再宣言するに至った。 @ 外出の自粛 不要不急の外出・移動自粛の要請、特に、午後8時以降の外出自粛を徹底 A 催物(イベント等)の開催制限 別途通知する目安を踏まえた規模要件等(5000人を上限・収容率は半分以下、飲食を伴わないこと等)を設定し、要件に沿った開催の要請 B 施設の使用制限等 ・ 飲食店に対する営業時間の短縮(午後8時までとする。ただし、 酒類の提供は午前11時から午後7時までとする。)の要請 ・ 関係機関とも連携し、営業時間短縮を徹底するための対策強化 ・ 飲食店以外の他の特措法施行令第11条に規定する施設(学校、保育所をはじめ別途通知する施設を除く。)についても、同様の働きかけを行う ・ 地方創生臨時交付金に設けた「協力要請推進枠」による、飲食店に対して営業時間短縮要請等と協力金の支払いを行う都道府県に対する支援 C 職場・出勤 ・ 「出勤者数の 7 割削減」を目指すことも含め接触機会の低減に向け、在宅勤務(テレワーク)等を強力に推進 ・ 事業の継続に必要な場合を除き、午後8時以降の勤務を抑制 D 学 校 ・ 学校設置者及び大学等に対して一律に臨時休業を求めるのではなく、感染防止対策の徹底を要請 ・ 大学等については、感染防止と面接授業・遠隔授業の効果的実施等による学修機会の確保の両立に向けて適切に対応 ・ 部活動、課外活動、学生寮における感染防止策、懇親会や飲み会などについては、学生等への注意喚起の徹底(緊急事態宣言区域においては、部活動における感染リスクの高い活動の制限)を要請 (参考)新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和3年1月7日変更) (2)最初の緊急事態宣言が昨年の4月7日に行われたので、それからちょうど7ヶ月後に再び宣言を行わざるを得ない状況に陥ったことになる。しかも、感染状況は前回の第1波の時と比べて圧倒的に悪くなっている。重症者の推移だけをとってみても、次のグラフの通り、4月30日の第1波のピークの時は328人だったが、今回の第3波ではうなぎ登りで、1月6日には796人と、その2倍を超えている。この調子では、新規死亡者の数も、とどまるところを知らずに増えていくのではないかという気すらするくらいだ。私など、もう70歳を超えているので、いったん罹ったら重症どころか死ぬ可能性もあることを考えておかなければならない。全くもって、危ない嫌な状況だ。 諸外国とりわけアメリカやイギリスの例をみたら、誰でも「これはいけない。今こそ感染拡大を止めるべく行動する時だ」と思うのが普通なのに、どういうわけか、菅首相の危機感がなさすぎる。そもそも危機管理のセンスが全くないのではないかと考えざるを得ない。そこで、小池百合子東京都知事をはじめとする1都3県の知事に「押し切られる」形で、しぶしぶ宣言を行うという「みっともない」仕儀となった。1月7日の緊急事態宣言の当日、菅首相の記者会見が行われたが、首相の目がしばしば宙に浮き、かと思うと下のペーパーばかりに目をやり、しかも「思います」を連発するスタイルは、いかにも自信なさそうに見えた。実際そうなのではなかろうか。そういう目つきで「1ヶ月で事態改善に全力を尽くす」というから、国民は「嘘に決まっている」と思うのである。 もしここで、感染拡大が収まらずに更に拡大していくとなると、「こんな頼りないリーダーは要らない」ということになりかねない。12月中旬には、菅首相は、多人数での食事の自粛を呼びかけながら、その一方で自ら都内のステーキ店で自民党の二階俊博幹事長らと8人で会食して、呆れられている。首相は謝罪したものの、大きな汚点となった。そのせいか、内閣発足直後には8割近かった内閣支持率は12月末には42%と、11月と較べて16%も下落し、不支持率48%に逆転されてしまった。 下村博文自民党政調会長は、「4月25日に予定されている衆議院北海道2区(注1)と参議院長野選挙区(注2)の補欠選挙に負ければ政局だ」という発言をしたが、それが真実味を帯びてきた。それにつけても気になるのが、菅首相の語彙の少なさで、これで国会で答弁ができるのか不安が増すばかりだ。自民党はなるべく首相の答弁の機会を減らそうとしている。ところが、もうすぐ通常国会が始まると予算委員会が開かれるので、首相は2週間は出ずっぱりとなることから、そうそう隠しおおせるものではない。 麻生内閣のときの麻生太郎首相は「未曾有」を「みぞゆう」と発言して失笑をかったし、森内閣のときの森喜朗は「日本は神の国」と言って反感をかった。菅義偉首相の場合はそういう「不思議な」語彙はないだろうからそういうことはないとは思うが、答弁中に想定問答の棒読みで立ち往生するシーンが今から目に浮かぶ。これで、新型コロナウイルス対策特別措置法の改正が行えるのだろうか。 (注1)衆議院北海道2区の補欠選挙は、鶏卵業者から賄賂を受け取ったのではないかと疑われている吉川貴盛元議員の辞職に伴うもの (注2)参議院長野選挙区の補欠選挙は、新型コロナウイルスで急死した羽田雄一郎元議員の死去に伴うもの (4)首都圏1都3県に緊急事態宣言が再び出されてから一夜明けた1月8日、東京都では新たに2392人の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表した。これは、7日の2447人に次ぐ過去2番目の数字である。次いで9日には、これまでで3番目に多い2268人が感染していることが確認され、これで3日連続で2000人を超えた。 NHKの報道では、「都の担当者によると『年末年始の会食の場で感染した人が多く、そこから家庭内にも広がっている』。9日の2268人のうち、およそ36%にあたる816人はこれまでに感染が確認された人の濃厚接触者で、およそ64%の1452人はこれまでのところ感染経路がわかっていないという。濃厚接触者の内訳は、 ▽「家庭内」が486人と過去最多となったほか、 ▽「会 食」が 79人、 ▽「職場内」が 45人、 ▽「施設内」が 40人」 以上は東京都に限っての話であるが、今度は日本国内全体を見てみると、1月9日、新型コロナウイルス感染による累計の死者数が4025人となり、初めて4000人の大台に乗った。振り返ってみると、日本国内で2000人を超えてから昨年12月22日に3000人に達したが、そこまでかかった期間は1ヶ月間だった。ところがそれからわずか半月余りで、また1000人も増えてしまった勘定になる。これは酷い。 (5)大阪府、兵庫県、京都府等も緊急事態宣言を要請 東京都をはじめとする1都3県に続いて、大阪、京都、兵庫の3府県の知事も9日にオンラインで西村康稔担当大臣とオンラインで会談し、やはり緊急事態宣言の発令を正式に要請した。ところが、西村大臣は「今後の動向を見極める必要がある」との考えを示し、躊躇の様子をみせた。 これについて聞かれた菅首相は、「専門家の意見を聞いて」と、これまた煮えきらなかった。一体、何をためらっているのかよくわからない。それとも、政府として責任を取りたくないので、うまくいかなかったら、専門家のせいにするつもりなのだろうか。 上記の関西3府県に加えて、愛知県、岐阜県、栃木県の知事も緊急事態宣言を発出を要請する方針であると聞く。これら全てを政府が受け入れると、10都道府県について、緊急事態宣言が出されることになる。しかし、この調子で感染が拡大していくと、前回同様にそのうち全都道府県に対象が拡大され、また期間も2月間ほど延長されるのではなかろうか。 (48は、令和3年1月10日記) 49.1都3県から1都2府8県へ拡大 (1)1月13日、政府は新型コロナ対策本部を開催し、緊急事態宣言の対象に、先の1都3県に続き、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県及び福岡県の7つの府県を追加することを決定した。これで1都3県から1都2府8県へと拡大されたことになる。期間はいずれも2月7日までとされた。 その内容は、当日に行われた菅首相の記者会見の冒頭発言をご覧いただきたい。しかし、この記者会見での菅首相の質疑応答を聞いていて、大いに不安を感じたのは、恐らく私だけではないはずだ。質問に対する回答が的を得ていないどころか、全くあさっての答えとなっていて、いわゆる「はぐらかし」にもなっていない。しかもそれが不安を煽る内容なのである。 (2)例えば、記者の「日本は病床数は世界で、人口当たりの病床数は世界一多い国ですよね。今、感染者数はアメリカの100分の1くらいですよね。それで医療がひっ迫していて、緊急事態を迎えているという状況の総理の説明が、単に医療の体制が違うんですというので果たしていいのでしょうか」という質問への答えである。 菅首相は、「医療法について、今のままで結果的にいいのかどうか、国民皆保険、そして多くの皆さんが診察を受けられる今の仕組みを続けていく中で、今回のコロナがあって、そうしたことも含めて、もう一度検証していく必要があると思っています。それによって必要であれば、そこは改正するというのは当然のことだと思います」と回答したが、聞きようによっては、「国民皆保険を見直して、やめてしまう」というようにも受け取られかねない。 確かに国民皆保険だから皆が懐具合を気にせず気楽に医者にかかるという面はある。しかしそうかと言って、まさか、国民皆保険をやめてしまうという乱暴なことはしないと思うが、官邸一強で厚生労働省を含めて各省が頭を使わない「指示待ち」人間と化している中で、首相の一存で突然方針転換することが全くないとは言いきれないから怖い。 例えば、ほんの数日前まで「GO TOトラベルはやめない」と言っておきながら、内閣支持率と不支持率が逆転した途端にいきなり中止すると言い出した。かと思うと、菅首相が固執していた「ビジネストラック(ビジネスベースで11ヶ国と人の往来を認める政策)」が、「変異ウイルスが流行りそうなのにそんな事をやっている場合か」と自民党内から突き上げにあい、一時停止に追い込まれた。もう、先の見通しも何もあったものではない。 今度は逆に内閣の指導力を見せつけようとしたのか、今回追加された7府県のうち福岡県だけは緊急事態宣言の発令を要請していなかったのに、福岡県の小川洋知事が西村大臣に屈服されられて方針転換をする羽目に追い込まれた。もともと小川洋知事は「医療態勢も含めて宣言を要請する状況にはなっていない」と県民に説明していた。 ところが、発令前日の12日に西村大臣と協議したところ、「西村さんから、追加指定は考えていない。これが『最後の船』だと説明されたので、やむをえないと判断した」と語った。これについてはその後、小川知事が「西村大臣の『時間をかける余裕はない』との表現を私が『追加指定がない』『最後の船だ』と表現してしまった」と取り消しているが、これも、内閣の方針のブレの大きさに翻弄された結果ではないかと見ている。 (3)更に国民の不安を煽ったのは、上記の記者会見に先立つ新型コロナウイルス対策本部での首相の発言である。追加する7府県のうち、「福岡県」と言うべきところを「静岡県」と喋って、それを訂正もしなかった。これには、静岡県の人はびっくりしただろう。 新型コロナウイルスは、人間世界の悪いところ、弱いところ、慣れや疲れなどの弱点を突いて、どんどん攻勢を強めてきている。これを対抗するには、当面の軸足を「経済活動」ではなく「国民の命を守る」に移して、まず拡大を食い止めることを徹底的にやるというのが、あるべき姿だと思う。それが一段落すれば、再び経済重視路線に戻ればよい。ところが、今の菅官邸の有り様は、そういう哲学も何もなく空っぽで、ますます悪化していくパンデミックにただただ翻弄されているだけのように見える。先行きが本当に不安になる。 もう一つ、最近の記者会見でも菅首相の表情がますます疲れ気味となっているのが気になる。まるで、「心ここにあらず」という感じで、非常に心配である。これというのも、官邸に過度に権力を集中してしまい、何もかも自分で決める羽目に陥っているからではないか。もっと各省に権力を分散しておかないと、最悪の場合は自分自身が疲れ果てて倒れかねない。それとも、安倍官邸のときの今井秘書官兼総理補佐官のような存在がいないからだろう。菅首相は、自分が官房長官時代の秘書を全て引き連れて行って総理秘書官としたが、はっきり言ってしまうと、官房長官秘書官と総理秘書官とでは、電話番と番頭くらいの差がある。首相自身が疲労困憊するのを防ぐためには、まずはこのあたりから手を付ける必要があると思われる。 その第一歩かどうかは定かではないが、元日に政務秘書官が元々の菅事務所の秘書から財務省出身で内閣審議官だった寺岡光博氏に交代した。前の安倍内閣が経産省で支えられていたのに対し、今度の菅内閣は、財務省の支援を仰ぐらしい。 (49は、令和3年1月13日記) 50.ワクチン接種が各国で進むが日本は大幅遅れ (1) パンデミックと称される新型コロナウイルスが現れてから、既に1年以上の期間が経過した。この感染症に対しては、当初から各国で一斉にワクチン開発が進められ、その中で最も早く実用化にこぎ着けたのが、アメリカのファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンである。しかも、なかなかの優れもので、昨2020年11月18日には、65歳以上の接種者につき、その94%を感染から守る有効性が示されたと発表された。非常に高い数値である。年齢層や人種にかかわらず効果が確認され、引き続き第3相の臨床試験が行われていった。 そして、米食品医薬品局(FDA)は、12月11日、このファイザー製ワクチンの緊急使用を許可した。既にこの時点で、このワクチンは、イギリス、カナダ、バーレーン、サウジアラビアで当局の承認を得ている。 アメリカでは、12月14日から早速このワクチンの接種が始まった。ワクチン接種事業としては過去最大規模で、翌21年4月までに総人口3億人のうち1億人にワクチンを接種する計画である。イギリスでは既に12月7日から、カナダでは12月14日からそれぞれ接種が開始された。 注目されている接種に伴う副反応(副作用)であるが、この時点までに軽い疲労感や発熱、頭痛などが報告されている。加えて、イギリスでは国民保健サービス(NHS)の職員2人が、アレルギー反応のアナフィラキシー・ショック様の症状を示したが、いずれも過去にそのような反応を呈したことがあったという。だから、そういう経験のある人には接種を勧めないこととなった。 更に、アメリカで190万人に第1回目の接種を行った段階で統計をとったところ、21人にアナフィラキシー・ショックが起こった。つまり、ファイザー製ワクチンによるアナフィラキシー・ショックは、約10万人に1人の確率で起こるようである。 また、イギリス当局は、12月30日、同国のオックスフォード大学とアストラゼネカが開発した新型コロナウイルスのワクチンを承認した。実用化された2番目のワクチンとなる。上に述べた1番目のファイザー製のワクチンは、超低温の摂氏マイナス70度で流通保管しなければならないのに対し、このアストラゼネカ製のワクチンは、摂氏2度から8度までの間でよいので取り扱いやすく、価格も何分の一と相当安いという利点がある。こちらの方のワクチンの効果は、70%だったというが、1回目のワクチン投与量を半分にして2回目を規定量にすると、なぜだか分からないが効果は90%に高まったという。 3番目のアメリカのバイオ企業モデルナのワクチンは、11月中旬には、有効性が95%だったと公表された。そして、12月18日にはアメリカで承認され、翌週から接種が開始された。こちらの方は、摂氏マイナス20度で流通保管しなければならない。だから、ファイザー製のワクチンよりは取り扱いしやすい。価格は、ファイザー製より若干安い。 このモデルナ製のワクチンの副反応は、比較的少ない。2021年1月10日に接種が400万人となった段階で、アナフィラキシー・ショックを起こした人の割合を調査したところ、10人だったそうだ。つまり約40万人に1人の確率で起こるというわけで、ファイザー製のワクチンより安全だ。 このほか、ロシア製ワクチン「スプートニクV」も開発されているが、ちゃんとした臨床試験が行われていないようだ。また、中国が開発したシノバックというワクチンの有効性は90%という触れ込みだったが、ブラジルの研究所は、せいぜい50%としている。中国はこのワクチンを外交の手段として用いており、東南アジア、アフリカ、南米などに供与している由である。先日は、インドネシアのジョコ大統領がシノバックの接種を受けていた。 ここで驚いたのは、現段階で日本の国産ワクチンが全く影も形も見当たらないことである。確か、2000億円ほどの予算を使って数社に開発させていたのではなかったか。こういうところにも、最近の日本の技術力の衰えが見られるのは、実に悲しいことだ。 (2) こうして米英3社のワクチンを既に承認済みの欧米各国で、接種が本格化してきた。しかし、国によってかなり事情が違う。アメリカは、2020年末までに2000万人に接種する目標だったが、残念ながら12月30日の時点で僅かに278万人、翌1月21日でもやっと1505万人が第1回目の接種を終わった言われている。 イギリスでは、1月18日時点で406万人が接種を受けた。イスラエルでは、12月19日に予防接種を開始して1日に約15万人のペースで接種していった結果、1月中旬で既に人口の2割が接種済みとなっている。これは早い。この問題を危機管理と捉えて政府がしっかり対応しているからだろう。 アジアでは、シンガポールが昨年中にいち早くファイザー製ワクチンを輸入して、国民に投与し始めた。あの国は、何でも素早いし、やることが完璧だ。 (3) と、ここまで書いてきて、日本はどうなっているのかと思ったら、1月21日時点で、まだ承認すらしていない。あと1ヶ月もかかるそうだ。一体どういうことだと言いたくなる。 日本の厚生労働省は、昔からワクチン接種問題で痛い目に遭ってきた経験がトラウマとなって「羹に懲りて膾を吹く」状態で、ともかく自ら責任を取りたくないものだから、医薬品医療機器総合機構に審査を外注させてしまっている。同機構は「日本人を対象にした治験結果を持ってこい」などとやっている。日本は欧米各国に較べて感染者数が二桁も少ないので、そんな簡単に治験などできるはずがない。もう少し、融通を効かせてはどうかと思うのだが、この新型コロナウイルス騒ぎの初期の段階で「PCR検査を増やすと医者の仕事が増える」などという自分勝手な理屈で国民の切なる願いを無視してきた医系技官の集まりだけに、そういう国民の声が届きそうもないのはまず間違いないと思われる。 菅義偉首相は、1月18日、ワクチン接種を円滑に進めるための担当閣僚を新たに置き、河野太郎行革担当大臣を充てると表明した。その河野大臣は翌19日のツイッターで、「ワクチンや注射する医師は厚労省、冷蔵庫は経産省、物流は国交省、使った針などは環境省、学校を使えば文科省、自治体の関係は総務省、予算は財務省等々と調整して進めます」と書いた。こんな複雑で込み入ったところに通称「喧嘩太郎」が「殴り込んで」行って、果たして仕事が上手くいくのか、逆にかえって混乱を招くことになりはしないか、周囲は固唾を飲んで見守っている。 (4) そんなところに、外野から一石を投じたのは平井卓也デジタル担当大臣で、「マイナンバーを活用して接種記録を国が一括管理すべきと提案した」という。また、ややこしい事になりそうだ。現在のマイナンバーカードの普及率は、やっと25%ほどになったばかりである。100%ならともかく、その程度で活用などできるはずがない。 現に昨年春から夏にかけての10万円の特別定額給付金で自治体が大混乱に陥った前例を見れば容易にわかりそうなものである。あの時は、マイナンバーによるデジタルベースの事務処理と従来の紙ベースの事務処理とが混在して混迷の度を増し、結局、紙ベースの方がずーっと早かったという落ち着きになりそうだ。 河野大臣による「ゴリ押し」ばかりか、他の大臣によるこうした「思いつき」により、このワクチン接種計画は、早々に暗礁に乗り上げて大幅に遅れそうで、前途多難である。 (5) ああ、喧嘩太郎がやっぱり喧嘩をやってしまった。新聞によると「ワクチン担当相に就いた河野太郎規制改革相は1月22日の閣議後の記者会見で『具体的な供給スケジュールは今の時点で未定』と説明した。21日に坂井学官房副長官が『6月までに対象のすべての国民に必要な数量の確保を見込んでいる』とした発言は『削除する』とした。閣僚が政府高官の発言を否定するのは極めて異例だ。」(日経2月23日付け)そもそも、人の発言を勝手に「削除する」という発想自体がよくわからないが、いかにも河野太郎らしい。 しかし、この発言はノー天気で無責任な現政府の内情を表していると同時に、ワクチン確保に出遅れた日本の焦燥感を如実に示していると思う。同じ記事には、次のようにある。 「結果的に共同治験のデータを利用しやすい欧米がワクチンの承認で先行した。共同治験の対象にならず、出足で遅れた日本や韓国は今も接種を始められていない。枠組みに入らなかった時点で将来のワクチン供給に遅れが出る事態は想像できたはずだが、特別な対策に動いた形跡はない。 厚生労働省所管で審査を担当する医薬品医療機器総合機構は昨年9月に、国内のワクチン承認には日本人の治験が必要とする指針を決定した。ファイザーは共同治験から半年遅れの10月に日本でも治験を始めた。 日本は2月下旬にまず医療従事者への接種開始をめざす青写真を描いたが、昨年末時点ではファイザーとの契約は基本合意止まりだった。まだ正式契約に至っていないと知った官邸は厚労省への不満を募らせ、ワシントンの日本大使館に直接、ファイザー米国本社と交渉するよう指示した。 ・・・ ワクチン接種に向けた主導役として官邸が河野太郎氏を据えた2日後の20日になって、日本はようやくファイザーとワクチン供給で正式契約を結んだ。従来の基本合意では6月までに1億2000万回分(6000万人分)の供給を受ける内容だったはずだが、正式契約では年内に1億4400万回(7200万人分)に変わった。分量は増えたが接種スケジュールが先送りになる可能性は否定できない。」(同上記事) いやもう、ガッカリだ。かくして我が国でのワクチン接種が全く目処も立たないというのに、それを尻目に世界では、「1月22日時点で世界の54カ国・地域が接種を開始し、接種回数は累計で5600万回以上に達する。イスラエルはネタニヤフ首相自らがファイザーの最高経営責任者(CEO)と直接交渉しスピード接種につなげたとされる。」(同上記事)我が菅政権の中で、こんな目の覚めるような芸当ができる人材は、まず見当たらない。残念でたまらない。 またトランプ大統領に代わって新しく政権に就いたバイデン大統領の下でもコロナ対策を担当するファウチ大統領首席医療顧問は、1月21日の記者会見で「夏までに国民の70〜85%が接種すれば秋にはある程度の『平時』に近づくと述べ、感染拡大が止まる『集団免疫』の獲得に期待を表した」(同上記事)というから、それにしても、米英、シンガポールやイスラエルと比べて大きく差がついてしまっているのに愕然とする思いだ。 (6) この調子だと、世界の片田舎の日本にいる私にワクチン接種の順番が回ってくるのは、今年の夏か秋になりそうだ。それまでには、ワクチンの副作用がかなりの程度、明らかになっているものと思われるので、むしろ好都合と考えることにしよう。 ただ、ワクチン接種が進んだら進んだで、接種済みの人々が「自分はもう大丈夫だ」と思って、かえって感染を拡げないか心配になる。ここで、私が申し上げたいのは、有効性率95%の残りの5%に相当して罹患しているのに無症状で過ごしている人々のことだ。まあ、そういうことは、取り越し苦労かもしれないことを願おう。だから、周りと歩調を合わせるという意味で、自分に接種の順番が回ってきた時は、素直に従って接種しようと思っている。 なお、面白いニュースがある。BBCの報道によると、「調査に応じたフランス人のうちワクチン接種を希望すると回答したのはわずか40%だった。一方で中国では回答者の80%が、イギリスでは77%が、アメリカでは69%がワクチン接種を希望する」という。その国での感染と死者の数の逼迫度によるのかもしれないが、国民性の相違とワクチン接種についての政府や科学者に対する信頼の度合いを示している。 (7) 日経新聞の電子版ニュース(1月23日)を見ていたら、新型コロナウイルスのワクチンの最新の状況が出ていた。これがまさに、私の知りたいことだった。それによると、 @ メーカー別の契約数 アストラゼネカ 19.36億回 ファイザー 9.94億回 ヤンセンファーマ 8.89億回 サノフィ 7.32億回 モデルナ 5.00億回 ノババックス 3.88億回 ガマレヤ 3.59億回 キュアバック 2.25億回 シノバック 3.61億回 日本では、ワクチン製造の欧米系メーカーは、米ファイザー、英アストラゼネカ、米モデルナばかりが報道されているが、そのほかに、ベルキーのヤンセンファーマ、仏のサノフィ、米バイオ企業ノババックスがある。ガマレアというのは、ロシアのスプートニクVの開発企業であり、キュアバックは独バイオ企業、シノバックは中国企業だ。ここに日本企業が全く入っていないのは、何とも悲しい限りである。 A 国・地域別の契約数 欧州連合 15.85億回 アメリカ 12.10億回 コバックス 10.70億回 イギリス 3.67億回 カナダ 3.62億回 日 本 3.14億回 アフリカ 3.00億回 ブラジル 2.52億回+1.50億回 インドネシア 1.91億回 コバックスというのは、WHOが中心となって作ったワクチン共同確保組織である。 アメリカ 1754.0万回 中 国 1500.0万回 イギリス 544.4万回 イスラエル 320.8万回 UAE 224.6万回 ドイツ 140.2万回 ここで、フランスが入っていないのは、先に述べたようにフランス人のワクチンに対する見方が冷めているからである。 C 国・地域別の人口100人当たり累計接種回数(1月22日現在) イスラエル 35.4回 UAE 23.0回 バーレーン 8.8回 イギリス 8.1回 アメリカ 5.3回 デンマーク 3.2回 イタリア 2.1回 カナダ 1.9回 ドイツ 1.7回 中 国 1.1回 情けないことに、日本はまだ承認すら終わっていない。だから、累計接種回数は正真正銘のゼロだ。もっとも、死者数はアメリカの41万9208人に対して日本は二桁違う5120人(2021年1月24日現在)だから、危機感の度合いが違うとはいえ、それにしても、ワクチン接種がこれほど遅れているというのは、残念至極というほかない。 ああ、これはまた厚生労働省の大失態だ。皆が待ち望んでいる新型コロナウイルスのファイザー製ワクチンは、現在各国で取り合いの状況が続いている。その中で、2月12日にその第1便が、ベルギーの工場から成田空港に到着した。そして14日に薬事承認を受けて、まずは1ないし2万人くらいの医療関係者を対象に接種が始まることになっている。 ところが、その段階になって、とんでもないことが発覚した。ファイザー製ワクチンは、その1本から6回分のワクチンを取れるはずのところ、厚生労働省が2億本発注した日本の注射器では、5回しか取れない、つまり1回分は無駄に廃棄せざるを得ないというのである。1日でも早く1本でも多くワクチンを打ちたいという切羽詰まった状況なのに、一体何をやっているのかと、憤懣やるかたない思いがするのは、私だけではないはずだ。 どうしてこういうことになったのかというと、日本でよく使われている注射器は、筒先に三角錐のようなものが付いていて、その先に注射針が付いている。そして注射針を腕に刺し、薬液をピストンで押し込んでいくと、先端は筒先で止まり、三角錐の中までは入って行かないから、その三角錐の中の薬液が無駄になる。ところが、感染防止の観点からその薬液は他の人にまた使うというわけにはいかず、そっくりそのまま廃棄せざるを得ない。ところが先に接種が始まっている欧米諸国では、そんな三角錐のない特殊な注射針(ローデッド品)を使っているので、1本から無駄なく6回分を取ることができるというのである。 今回のワクチンで使うのは、皮下注射のインフルエンザのワクチンなどと違ってさらに下の筋肉注射をしなければならないために、針が長いなどの特殊な仕様の注射器である。だから、この段階で仕様変更により対応しようとしても、そう簡単に増産したり発注に応じたりすることはできない。ゼロから生産するには金型の製作だけでも数ヶ月はかかるし、また製造や販売の承認も必要だ。だから、テルモのような大手はともかく、中小メーカーには手に余る。このままでは、相当の無駄が出そうだ。 (50(1)から(7)までは令和3年1月23日、(8)は2月13日記) 51.緊急事態再宣言を更に1月間延長 政府は、2月2日夜に開いた新型コロナウイルス対策本部で、1都11府県を対象に2月7日までの予定だった緊急事態再宣言を栃木県を除外して更に1ヶ月間延長し、3月7日までとすることを決定した。これにより、引き続き緊急事態宣言が維持されるのは、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県、愛知県、岐阜県の中京2県、大阪府、京都府、兵庫県の関西2府1県及び福岡県の合計10都府県となった。 同日の記者会見で、菅義偉首相は次のように述べた。 「 全国の新規感染者数については、宣言を行った1月7日は7,721人、その後減少に転じ、昨日の2月1日は1,783人でした。東京では、1月7日は2,447人、その後大幅に減少し、昨日の2月1日は393人、さらに本日は556人となっております。・・・ 新規感染者数、病床利用率などについて、当面のめどであるステージ3へと改善していきます。新規感染者数で言えば、東京で1日500人、大阪で1日300人を下回ること。さらに、病床のひっ迫に改善が見られることが重要であります。」 去る1月7日に緊急事態再宣言を出したしたときに菅首相は「1ヶ月で事態改善に全力を尽くす」といった。国民はそんなもの嘘に決まっている、出まかせだと感じたが(上記48(3)参照)やはり、国民の思っていた通りとなった。そのこともあってか、今回、菅首相は「全ての地域で緊急事態宣言を終えることができず、誠に申し訳なく思っております。」と語る。綸言汗の如し、そんな簡単に前言を翻してもらっては困る。 その直後の記者会見で、ワクチンについての鋭い質問が飛んだ。まさにこれこそ、私が聞きたかったことである。 「 イギリスの軍事週刊誌、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー、東京特派員のタカハシと申します。 ワクチンについて伺います。総理、2月中旬から接種を開始したいとの意向を示されましたが、世界では既に60か国近くがワクチン接種を開始しております。日本は何でこんなに時間がかかるのでしょうか。G7の中でワクチンの接種を開始していないのは日本だけです。OECD(経済協力開発機構)加盟国37か国中、ワクチンをまだ未接種なのは日本やコロンビアなど僅か5か国。そもそもワクチンは、国家安全保障や危機管理ですごく重要な、日本でやるべき生産、開発だと思うのです。なぜこんなに日本はできないのか。 なおかつ、総理はいつも日本は科学技術立国と名乗っていますよね。その立国を名乗るならば、なぜメード・イン・ジャパンのワクチンを生産できないのか。こういう状況で、ワクチンも駄目、あと検査も日本は人口比当たり138位です、世界で。検査不足、ワクチン未接種、この中でオリンピックを強行していいのでしょうか。危機管理でもっとコロナに専念してというのは国民の願いではないでしょうか。」 菅首相「 まず、日本のワクチン研究にも国として支援をしていることは事実であります。しかし、現実的にはまだまだ遅れているということであります。 ただ、このワクチンの確保は、日本は早かったと思います。全量を確保することについては早かったと思います。ただ、接種までの時間が海外に遅れていることは事実であります。それは日本の手続という問題も一つあると思います。慎重に慎重に、いろいろな治験なりを行った上で日本が踏み切るわけでありますから、そういう意味で、遅れていることは現実であるというふうに思います。 ただ、こうしてようやくこのワクチン接種の体制ができて、これから始めるようにしたいと思っていまして、始まったら世界と比較をして、日本の組織力で、多くの方に接種できるような形にしていきたい、このように思っております。」 ダメだ。なんの答えにもなっていない。次いで同じ質問が尾身会長に振られた。 尾身会長 「 日本の国内でも、実はもう御承知のように、ワクチンの生産を今、始めているわけですよね。それで、なぜ日本はというのは、これは今の直接の問題よりも、ワクチンというものの全体の日本の状況を世界と比較すると、日本のワクチン業界というのは、もうこれは個々の企業は本当に頑張っていますけれども、やはりこれはグローバルなスケールという意味では、これは今日の今のことではなくて、全体として日本のワクチン業界というのが、欧米の非常に競争力の強いというものに対して、少しスケールメリットがということだと思います。 それからもう一つは、今回、欧米の今、話題になっているようなのは全く新しい方法をつくったわけですよね。これについて、日本の場合にはもう少ししっかりと、比較的今までに分かっている方法をという、そういう文化の違いもあるし、だけれども、一番の違いはやはり私は日本のこれは今、今日のことではなくて、ずっとワクチン業界のこのグローバルな競争力というものが本質的にあったのではないかと思います。」。この人は、実に官僚的答弁をする。語彙が豊富なだけあって、何やらたくさん喋っているのだけれども、聞く人の頭にほとんど何にも残らない。 ワクチンの話に戻せば、いずれにせよ、これはスケールメリットやというより、従来技術に固執し過ぎてmRNAを使った最新技術に後れを取ったことという企業側の問題とともに、ワクチン行政を誤り企業の育成に失敗したという行政側の問題である。 ちなみに、それから1週間経った2月9日現在の感染状況は次の通りで、新規感染者は大幅に減ったものの、重症者はむしろ増加傾向にあり、これとともに重症者用ベッドが足りなくなり、東京都などは「重症者対応のベッド数」に占める「重症者数」の割合が107%と、医療崩壊状態にある。 52.法改正で新型コロナウイルス対策を強化 新型コロナウイルス対策を強化するための感染症法や特別措置法の改正が、2月3日に成立し、同月13日から施行される運びとなった。この改正の目玉は、行政罰である「過料」を科すことにより、法律施行の実を上げることである。 具体的には、 (1)緊急事態宣言が出ている場合であって、飲食店などが営業時間の短縮・休業命令に従わなかったときは30万円以下の過料、 (2)今回新たに設けられた「まん延防止等重点措置」が出ている場合であって、飲食店などが営業時間の短縮命令に従わなかったときは30万円以下の過料、 (3)これらの宣言等が出ている場合、出ていない場合にかかわらず、患者が入院や保健所の調査を拒否したときは、50万円以下の過料を科すというものである。 政府の原案では過料ではなく罰金だったが、国会での議論でこれしきのことで前科になるのはいかがなものかということになり、過料に落ち着いたという経緯がある。 ◎ 新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正後、抄) (新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置の公示等) 第三十一条の四 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章及び次章において同じ。)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。(以下略) (感染を防止するための協力要請等) 第三十一条の六 (略) 3 第一項の規定による要請を受けた者が正当な理由がないのに当該要請に応じないときは、都道府県知事は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため特に必要があると認めるときに限り、当該者に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。 (感染を防止するための協力要請等) 第四十五条 (略) 3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。 (立入検査等) 第七十二条 都道府県知事は、第三十一条の六第三項の規定の施行に必要な限度において、同条第一項の規定による要請を受けた者に対し、必要な報告を求め、又はその職員に、当該者の営業所、事務所その他の事業場に立ち入り、業務の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。 2 都道府県知事は、第四十五条第三項の規定の施行に必要な限度において、 同条第二項の規定による要請を受けた施設管理者等に対し、必要な報告を求め、又はその職員に、当該要請に係る施設若しくは当該施設管理者等の営業所、事務所その他の事業場に立ち入り、業務の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。 (罰則) 第七十九条 第四十五条第三項の規定による命令に違反した場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の過料に処する。 第八十条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、二十万円以下の過料に処する。 一 第三十一条の六第三項の規定による命令に違反したとき。 二 第七十二条第一項若しくは第二項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくはこれらの規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をしたとき。 ◎ 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(改正後、抄) (罰則) 第七十二条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。 一 第十九条第一項、第二十条第一項若しくは第二十六条において準用する第十九条第一項若しくは第二十条第一項(中略)若しくは第四十六条第一項の規定による入院の勧告若しくは第十九条第三項若しくは第五項、第二十条第二項若しくは第三項若しくは第二十六条において準用する第十九条第三項若しくは第五項若しくは第二十条第二項若しくは第三項(中略)若しくは第四十六条第二項若しくは第三項の規定による入院の措置により入院した者がその入院の期間(中略)中に逃げたとき、又は第十九条第三項若しくは第五項、第二十条第二項若しくは第三項若しくは第二十六条において準用する第十九条第三項若しくは第五項若しくは第二十条第二項若しくは第三項若しくは第四十六条第二項若しくは第三項の規定による入院の措置を実施される者(中略)が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき。(以下略) (52は、令和3年 2月3日記) 53.緊急事態再宣言の解除は政策の蹉跌 今年(2021年)に入ってからのこれまでの動きをまとめると、新型コロナウイルスの第3波に直面した政府は、1月7日に1都3県(神奈川県。埼玉県、千葉県)を対象として緊急事態を再宣言し、期間は2月7日までとした。それというのも、首都圏の医療崩壊の危機に直面した小池百合子東京都知事をはじめとする1都3県の知事に「押し切られる」形で、しぶしぶ宣言を行った結果である。続いて、大阪、京都、兵庫の3府県、それに愛知県、岐阜県、栃木県の知事からも要請があったことから、1月13日にはこれらの府県も併せて、宣言対象地域が1都3県から1都2府8県へと拡大された。西村康稔新型コロナウイルス担当大臣は、北海道も対象とするように主張したが、観光業界に配慮した菅首相に退けられたと伝えられる。 1都2府8県のうち栃木県については、感染状況等が落ち着いてきたことから2月8日以降は対象から外された。残る1都2府7県は、引き続き宣言が1ヶ月延長されて期間は3月7日までとされた。その後、関西や九州方面では感染状況が徐々に落ち着き、医療提供体制への負荷も軽減されてきたことから、2月26日の決定で3月1日以降はこれらの府県が外され、1都3県のみを宣言の対象とするようにした。そして、3月7日の期限切れ2日前の3月5日には、1都3県につき更に2週間延長されて3月21日までとされた。この延長決定は、小池百合子東京都知事の動きを察した菅義偉首相が、その要請をいわば先回りした形で行った感があった。 菅内閣の支持率は、本年2月の感染拡大期には、それまで後手後手に回った感染対策の失敗から30%台そこそこに低迷し、40%ほどだった不支持率を大きく下回っていた。ところが、この3月5日に首相が珍しく都知事に先んじて延長したときには、それが評価されて支持率が40%と跳ね上がる一方、不支持率が7ポイント下がって37%となり、昨年12月以来、3ヶ月ぶりに支持率が不支持率を上回った。そのせいか、菅首相は、日頃の会見を避ける態度とは一変して、同日の会見を1時間20分にわたって続けるなど、高揚感が感じられるほどだった。 しかしながら、それが終わって2週間経つと今度は感染状況が一変して、1都3県では感染者数が少しも減らずに横這いか少し増加する状況が続くとともに、4週間前に解除した大阪では再拡大の兆しがある。この感染者が増大する大阪の姿は、2週間後の1都3県の姿である。また、これまで感染者数が少なかった仙台や山形ではかつてないほどの感染者数となってきた。この調子では、あと1月か2月後には、第4波が来ているかもしれない。それにもかかわらず、首相は、再々延長せずにそのまま解除してしまった。折しも、変異型ウイルスが欧州で猛威をふるい、日本でも神戸では6割近くが変異型となっていてその流行が容易に予測されるというのに、「国民が慣れてきて効果がなくなった。観光業や飲食業関係の打撃が大きい」などというエモーショナルな理由で解除したのである。こんなことでは、7月の東京オリンピックを待たずして、変異型による第4波か第5波で日本は大混乱に陥っていることだろう。 現実離れした希望的観測、科学の無視、思い込みによる政策判断、この極限状況にあっての小手先の政治的配慮などは、もう日本のお家芸といってもよい。遠くは、太平洋戦争のときもそうだった。国力が米英の十分の一にもかかわらずこれらと戦って勝てるわけがないのに、そういう冷静な考察すらせずに無謀な戦争に突入していった。10年前の東日本大震災の原子力災害の時もそうだった。全電源喪失して以来もう3日以上も経っているから、原子炉内部は既にメルトダウンを起こしているのは明らかなのに、記者会見でそれを正直に伝えた原子力保安院の審議官は飛ばされ、首相や大臣はメルトダウンとは言えないなどと強弁していた。科学を無視するのも甚だしい。 この新型コロナウイルス対策は、そういう政治的配慮をしてはいけない政策の典型である。ともかく、感染源を早く見つけてそれを徹底的に潰していかないと、どんどん広がるばかりである。当面の経済は多少犠牲にしても、ともかく徹底的に対策を行うというのが、政策の肝である。今回の騒ぎの中心地となった武漢を抱える中国は、その全域を都市封鎖して抑え込んだ。韓国も、PCR検査と感染者の追跡を徹底して抑え込みに成功している。その結果、両国の感染者数や死者数は、日本のそれと比べて、圧倒的に少ない。3月25日午後5時現在では、 日本の感染者数 46万1,174人(死者数 8,929人) 中国の感染者数 10万1,603人(死者数 4,840人) 韓国の感染者数 10万0,276人(死者数 1,709人) もちろん、専制国家の中国のようなことは、日本では出来ないが、それならばせめて韓国のようにPCR検査を徹底して感染者を早期にあぶり出し、周囲への感染の拡大を防ぐといったことは十分に出来たはずだ。そうしないままに感染初期にはダイヤモンド・プリンセス号での抑え込みに失敗し、PCR検査ひとつをとってみても厚生労働省内や各地の保健所や医師会の医者グループの既得権益ばかりに目を向けて、民間の検査能力を全く活用しないままに今日まで来てしまった。こんなことでは、感染者数が急膨張するのは、当たり前だ。しかも感染者を受け入れているのは国公立系の病院ばかりで、民間病院はわずかに18%しか感染者を受け入れていない。これほど明らかな感染症対策の蹉跌はない。 これからの感染対策の中心となるのは、ワクチン接種である。少なくとも国民の70%が接種して、集団免疫状態に持っていかないと、いつまでもダラダラと感染が続くことは明らかだ。イスラエルでは国民の半数以上の510万人が第1回目の接種をし、そのうち460万人が第2回目も終えた。80歳以上は既に8割以上が2回目を終えている。接種済みの60万人と未接種の60万人とを比べた調査では、発症を防ぐ効果が94%、重症化を防ぐ効果が92%だったそうだから、大いに期待が持てる。日本で接種済みはまだ人口の3%にも満たなくて、全て医療従事者にとどまっている。アメリカでは既に1億人が少なくとも1回の接種を終え、独立記念日までには2億人を目指すというのに、この遅れは一体どうしたことだと言いたくなる。 ワクチンの副反応だが、因果関係が明らかな死亡例はなく、特にファイザー製のものは今のところ副反応も事前の予想の範囲内だ。問題は、国民の間にはワクチン接種に対する抵抗感が強くて、接種率がどこまで上がるかだ。イスラエルは、ワクチン接種をした人には「グリーンパス」という証明書を発行して、これがあればレストラン、ジム、ホテルが利用出来るという。日本も、それくらいは考えても良さそうだと思う。 こういうパンデミックが襲ってきている危機的状況の中でのリーダーシップというものを考えたい。まず何といっても「経済」ではなく、「人命」を尊重するべきである。それから、ぶれない、ごまかさない、もちろん嘘や希望的観測をまきちらさない、そして正直であるべきだ。我が菅首相も、アメリカのトランプ前大統領も、残念ながら全く正反対のことをやっている。これでは対策が後手に回るわけだ。 (53は、令和3年 3月26日記) 54.マン防効果なく3回目の緊急事態宣言 (1)2020年末から21年始にかけての新型コロナウイルス第3波の到来に対処するため、政府は1月7日に第2回目となる緊急事態宣言を1都3県を対象に発令し、同13日には1都2府8県へと拡大して、その抑え込みにかかった。そして、関西や九州方面では感染状況が落ち着いたということで、早々と3月1日にはこれらを除外し、同13日には1都3県についても解除してしまった。 そういう中、3月25日には東京オリンピック・パラリンピックの聖火リレーが始まった。これは、沿道に多くの観客を呼び込んでいるから、まるで感染を全国に撒き散らしているようなものだと思うが、どうにも止められないようだ。 (2)大阪の感染拡大は止まらず、ついに吉村大阪府知事は、政府に「まん延防止等重点措置」(いわゆる「マン防」)の適用を要請した。これは2月の法改正で新設された特別措置法第31条の4に基づくもので、特定の区域において「飲食店などが営業時間の短縮命令に従わなかったときは20万円以下の過料」を科すことができる。 これを受けて、政府は4月1日、まん延防止等重点措置を大阪府、兵庫県、宮城県の1府2県につき、4月5日から5月5日まで適用することを本部で決定した。知事の判断で、大阪府は大阪市を、兵庫県は神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市を、宮城県は仙台市を指定する。これらの市では、知事は飲食店の営業時間を午後8時までとするように要請・命令することができ、従わない場合には前述の過料を科すことができる。しかし、クラスターの発生は必ずしも飲食店に限らない。大規模イベント、百貨店、モール、レジャーランドなどについても同様に対策が必要ではないか。だから、この程度の措置で感染拡大を抑えられるのか、疑問に思えてくる。 (3)そのような中、感染力が在来型の少なくとも1.5倍という英国型の変異ウイルス(N501Y)が国際的に大流行している。4月中旬にはイギリスではほぼ100%、フランス、ドイツ、スペインでは80%となってしまった。 この英国型の変異ウイルスは、日本国内でも大流行している。4月中旬の調査では、全国ではまだ36%であるが、関西圏で大きくなり中でも大阪府は67%、兵庫県で77%である。東京ではまだ32%であるが、このままでは5月中にほとんど英国型になってしまうのではないかと推定されている。 ここに至り、大阪の医療の逼迫が東京に波及することを恐れた政府は、4月9日、まん延防止等重点措置を12日から拡大し、東京都、京都府、沖縄県をも対象とすることにした。東京都は23区、武蔵野市、立川市、八王子市、町田市、調布市、府中市を、京都府は京都市を、沖縄県は那覇市など沖縄本島の9市を指定した。ところが、それでは収まらず、4月16日からはまん延防止等重点措置が、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県に拡大された。これで、10都府県である。文字通り、とどまるところを知らないようになってきた。 (4)しかしながら、4月末には、英国型は関西圏のみならず関東圏でも、いずれにおいても8割を占めるようになったと推定されている。ものすごい拡大スピードである。英国型に加えて、南アフリカ型とブラジル型、更にはそれらの二種混合型、三種混合型というものすら現れた。特にインドで出現した三種混合型の感染速度は通常の2.5倍で、しかも若い人でもあっという間に重症化するというから、非常に怖い。 4月下旬、インドの悲惨な状況の映像が飛び込んできた。その前の18日には、インドの新規感染者数は26万人と世界一になり、累計感染者数は1,478万人と、アメリカに次ぐ2番目となった。その背景には変異型ウイルスの大流行がある。もはや医療崩壊が極まっており、病院では一つのベッドを見知らぬ人どうしの2人で使い、酸素吸入器は3人で使うという有り様。酸素や薬やケアが足りないので、患者がバタバタと亡くなる。その人々の遺体を焼くために薪を円錐形に積み上げるのだが、その薪と焼き場のスペースが足りなくなり、公園の木を切り倒して薪とし、その公園も焼き場とするほどで、更に足りないから近くの河原まで焼き場に転用する。上空から見ると、遺体を焼く煙があちらこちらでモクモクと一面に立ちのぼっている。もう、凄惨を極めている。 (5)他方、日本は関西圏を中心に医療崩壊が現実のものとなっている。4月19日には、大阪府の新型コロナウイルス重症患者の数は、301人と1週間前の40%増になったが、重症患者用のベッド数は254人分と、全然足りなくなっていて、それが5月下旬まで続くと見込まれている。 つまり、まん延防止等重点措置で飲食店だけに時短要請を行っても、全く役に立たなかったということだ。こんな中途半端な措置では、人々の通勤を減らす効果はないし、商業施設やレジャー施設に人は集まる。ここに至り、ついに大阪府は3回目の緊急事態宣言を要請するまでに追い込まれた。 (6)2021年4月23日、政府は緊急事態宣言の発出を決定した。対象は東京都、京都府、大阪府、兵庫県で、期間は4月25日から5月11日まで。まん延防止等重点措置についても愛媛県を追加した。これに伴う菅首相の発言は、次の通りである。 「全国の感染者数は、先月以来増加が続き、重症者も急速に増加いたしております。大阪、兵庫の感染者数は、いわゆるステージ4の中でも高い水準にあり、医療提供体制はこれまでになく厳しい状況にあります。東京、京都においても感染者数の増加ペースが日増しに高まっており、いわゆるステージ4の水準に至っております。特に懸念されるのは変異株の動きです。陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇するなど、強い警戒が必要であります。このまま手をこまねいていれば、大都市における感染拡大が国全体に広がることが危惧されます。 こうした中で、再び緊急事態宣言を発出し、ゴールデンウィークという多くの人々が休みに入る機会を捉え、効果的な対策を短期間で集中して実施することにより、ウイルスの勢いを抑え込む必要がある。このように判断をいたしました。私自身、これまで、再び宣言に至らないように全力を尽くすと申し上げてきましたが、今回の事態に至り、再び多くの皆様方に御迷惑をおかけすることになります。心からおわびを申し上げる次第でございます。 今回の宣言の下では、感染源の中心である飲食に対する対策を、夜間に限らず徹底します。同時に、大都市における人流や都市間の移動を抑え、人と人の接触を減らすために、これまで以上に踏み込んだ対策を実施します。 第1に、飲食店における酒類の提供を控えていただきます。お酒を伴う飲食の機会は、ともすれば、大声、長時間となり、感染リスクが高いことがこれまでも指摘されています。飲食店においては、20時までの時間短縮と併せ、終日、酒類提供の停止を要請いたします。また、路上などで、飲食店以外であってもお酒を飲むことが感染につながることのないよう、十分な注意をお願いいたします。さらに、カラオケの提供も停止を要請いたします。 第2に、一段と感染レベルを下げるために、人流を抑え、人と人の接触機会を減らすための対策です。外出を通じた人の接触は感染のきっかけになり得るとの専門家の御指摘もあります。デパート、テーマパークに加え、一定の規模を上回る商業施設や遊興施設など多くの集客が見込まれる施設について休業を要請いたします。また、イベントやスポーツの原則無観客での開催を要請いたします。併せて、皆様には不要不急の外出、さらには帰省や行楽を始め、感染拡大地域との往来はできるだけ控えていただきますようにお願いいたします。そして、テレワークや休暇の活用により、出勤者を例年並みの7割減とするよう、要請いたします。 これまでガイドラインを遵守しながら事業を続け、感染防止に取り組んでこられた多くの方々がおられます。期間を限った措置とはいえ、休業といった踏み込んだ対策をお願いすることは誠に心苦しく、申し訳ない限りであります。 しかし、今回の厳しい対策の背景の一つには、若年層で感染が拡大しているという現実があります。そして医療の現場では極限の闘いが続いています。若い世代での感染を抑制し、リスクの高い高齢者への波及を防ぐ、そうした意識を社会で共有することが強く求められております。 また、クラスターも多様化し、福祉施設、医療機関、飲食店に加え、職場や大学のクラブ活動など、様々な場面での発生が報告されております。福祉施設等の定期検査に加え、一人一人が意識をもって行動し、マスク、手洗い、3密の回避という基本的な予防対策を徹底するよう、お願いいたします。(中略) 大阪府においては、医療の現場に危機的な状況が続いています。国と自治体が一体となって病床確保の調整を行い、400床近くを新たに確保できる見込みです。また、全国から看護師の広域派遣を含め、約200名を新たに確保しています。引き続き国と自治体が協力し、医療体制の確保に全力で対応してまいります。 ワクチンの接種が始まっています。多くの方々に速やかに受けていただくため、できることは全てやる覚悟で取り組んでいます。まずは医療従事者への接種を早急に終えます。そして、ゴールデンウィーク明けまでには約700万回分、それ以降は毎週約1,000万回分を全国の自治体に配布し、6月末までには合計1億回分を配布できるようにいたします。その上で、接種のスケジュールについては、希望する高齢者に、7月末を念頭に各自治体が2回の接種を終えることができるよう、政府を挙げて取り組んでまいります。 自治体の多くで課題とされる人材確保のために、全国の接種会場への看護師の派遣と歯科医師による接種を可能とします。先般の訪米では、ファイザー社のCEOに要請を行い、本年9月までに全ての対象者に確実に供給できるめどが立ちました。高齢者への接種の状況を踏まえ、必要とする全ての方々への速やかな接種が済むよう、取り組んでまいります。 新型コロナとの闘いは世界でも一進一退であり、また、予期せぬ変異を繰り返すウイルスの動きには全く予断を許さないものがあります。しかし、これまでの闘いの中で我々が学んだ知見の積み重ねもあります。ワクチンという武器もあります。厳しい闘いにも必ず終わりが見えてくると確信をしています。まずは緊急事態宣言に基づく酒類提供の停止、そして人流の抑制から成る新たな対策への、皆さんの御協力を心からお願いを申し上げます。」 でも、これほど感染が猛威をふるっている中で、たった2週間余りの宣言でこれを抑えられるとはとても思えない。またどうせ、1ヶ月ほど延長されるに違いない。今回は菅首相は、上にあるように「私自身、これまで、再び宣言に至らないように全力を尽くすと申し上げてきましたが、今回の事態に至り、再び多くの皆様方に御迷惑をおかけすることになります。心からおわびを申し上げる次第でございます」と述べているが、その延長のときには、どんな顔をして同じように「おわび」をするのだろうか。 55.ワクチン接種の予約騒ぎ
(1)日本のワクチン接種率は世界で100番目 2021年4月末となり、各国の人口に占めるワクチン接種率をみると、イスラエル6割、イギリス4割、アメリカ4割と、相当程度進展している。あのヒマラヤ山脈中のブータンですらと言うと失礼かもしれないが、成人の9割が接種を受けている。首相が医師なので、早期に手を打ったからだそうだ。 それに対して日本はというと、4月10日現在、接種率は未だに2%にも満たない。しかもそのうち大半が先行接種の対象となる医療従事者である。4月12日から鳴り物入りで始まった高齢者の接種率はまだごくごくわずかである。国全体のワクチン接種率は、世界で100番目だという。こんな馬鹿なことがあるか。政府によるワクチン行政の歴史的大失敗である。 その後5月18日になっても、諸外国と我が国とのワクチン接種の格差は、埋まらないどころか、ますます拡大しつつある。次の表を見たら一目瞭然だ。ワクチン接種が完了つまり2回の接種をし終わった人の割合は、イスラエル58%、アメリカ37%、イギリス29%、フランス13%、ドイツ11%、などの主要国に対して、日本はたった1%台半ばだ。しかも、インドネシア3%やバングラデシュ2%にすら負けている。また言いたい。こんな馬鹿なことはあるか。これで日本は先進国と言えるか。 (2)ワクチン接種は国民の生命保護と経済運営の鍵 ところで、ワクチン接種による各国の感染予防効果は目に見えて現れている。アメリカでは1日当たりの新規感染者が3万人という日が続いていたのに、今は2,000人と激減した。イギリスも6万人が2,000人になったという。これを反映して規制が緩められるようになった。アメリカでは屋外でのマスク着用義務が撤廃され、ディズニーランドが1年振りに再開された。イギリスではロック・ダウンが一部緩和され、パブの屋外営業も再開された。ドイツとフランスではまだワクチン接種率が2割から3割と、あまり進んでいないが、それでも外出禁止令が一部緩和されている。こうしたことを反映して、アメリカの経済成長は平年並みに戻りつつある。 他方、日本は変異型ウイルスの第4波に見舞われており、3回目の緊急事態宣言が発令されている最中で、人の流れが強く抑制されていることから、特に飲食業、観光業、宿泊業、運輸業を中心に経済が大きく落ち込んだ。このままワクチン接種が広がらずに推移すると、今年の経済成長率は昨年並みのマイナス4.8%程度になってしまうのではないかと思われる。他方、ワクチン接種が進んだアメリカは5%ものプラス成長が見込まれ、ヨーロッパ諸国では2%から3%の成長が期待されている。要は、今後の国民の生命を守るうえでも、経済運営でも、いずれもワクチン接種が鍵となる。 (3)私の家に文京区から接種券が送られてきた 政府は、4月12日から65歳以上の高齢者についてワクチン接種を始めたという。それにしては、4月下旬になっても、私の住んでいる文京区からは何にも連絡が来ない。さては、あの報道は政府のとりあえずの「やってます」という宣伝かと思っていたら、4月26日(月)になって、文京区から「新型コロナウイルスワクチン接種券」という封筒が、私と家内の二人分、郵便でようやく届いた。 (4)千回電話してもパソコンで3時間粘ってもダメ さて、申込み日の4月30日となった。インターネット経由の申込みに備えて、必要な項目をコピー&ペーストできるように予めテキスト形式にしておいた。また、文京区の説明をよく読み、準備した。 午前11時頃、2時間経っても話にならない状況なので、気分転換に散歩に出ることにした。もちろん、左手には携帯電話を持っている。いささか悲しいことに、もう画面を見なくても、勘で切ったり再ダイヤルしたりすることができる。そのまま、自宅から出て、根津神社を通り、日本医科大学の脇から汐見坂を抜け、第八中の辺りまで歩くと、金宝樹の赤いブラシのような花や白いカラーの花が花盛りだ。 しかし、こんな限られた数の予約を巡って、文京区内の何万人もの高齢者がこれほどの時間の浪費をするのは、全くもって無駄なことだ。そもそもの制度設計が間違っている。厚生労働省の指示に盲従するのではなく、文京区は少しは自分の頭を使って考えてみるべきだ。例えば、最初の接種券の送付は80歳以上、次は79歳から75歳まで、その次は74歳から70歳まで、最後は69歳から65歳までとして段階的に発送し、それぞれの受付日を数日ずつずらしていけば、こんな無駄な時間の浪費は避けられたはずだし、コールセンターの混雑も回避できたはずだ。接種券には文京区長の名前が書かれていたが、次回の選挙には絶対投票するものかと思う。 5月4日付けの朝日新聞によると、世田谷区でも予約受け付けが始まったが、ある人は「予約開始初日、パソコン1台とスマホ2台、電話も使って7時間かけて予約がとれた」とのこと。私は3時間、この方は7時間だ。よほどの忍耐力と暇な時間がなければできないことだと、感心するやら、呆れるやら。 私の同期の友達は、江東区の高層マンションに住んでいるのだが、パソコンを使って約1時間半で予約が取れたとのこと。彼からのメールによれば、「8:30からワクチン接種予約の電話番号に何度かトライするも、ビジー状態が続き不成功、iPadから予約のホームページにアクセスしようとするも予約の画面が出てこない。20分〜30分格闘するも、このまま無駄な時間を過ごすのも嫌なので、方法を変えて、パソコンで予約システムのアドレスを打ち込むと、なぜかすんなりと到達。その後の入力を画面に従って進めていくと、1回目も2回目も接種予約成功!うまくいった理由はわかりません。運がよかったのか?」 もっとも、この話には後日談がある。数日後の彼からのメールによると、「ワクチン接種1回目が無事終わったかと思ったら、まだ続きの話が出てきました。本日小生外出中に江東区から電話があり、『昨日接種を行った人の中で5名、間違えて生理食塩水を注射してしまった』とのこと。したがって『2回目の接種の際に予め抗体検査を行い、抗体が出来ていれば予定通り、出来ていなければその日の接種を1回目の接種として扱う』とのこと。小生の体の反応からすれば、多分大丈夫だろうと思っていますが、抗体検査がされるまでは安心できません。こういうこともあるのですね」とのこと。ちなみに、これに類したミスは、全国にみられる。例えば、ワクチンが入っていない空の注射器で注射したつまり空気を注入してしまった(神戸市)、既に使用済みの注射器を別の人に使った(五條市)、ワクチンの温度管理を間違えたために使用できなくなった(五島市)などである。 (5)マレーシアではいとも簡単に予約できたそうな 新聞で、マレーシアでもイギリス・アストラゼネカ製のワクチン接種が始まったと知った。そこで、マレーシア駐在の友人に連絡をとり、様子を教えてもらった。クアラルンプールとその周辺のセランゴール州を対象とし、5月2日に受付を始めて、5日に接種開始とのこと。予約は大変ではないかというと、とても簡単だったらしい。元々、マレーシアでは、新型コロナウイルス騒ぎが起こってから、例えばスーパーやレストランに入るには、入り口で氏名、住所、電話番号を書かなければならないという規制があった。 それが、いつの間にか政府が提供する「マイ・セジャテラ(My Sejahtera)」というアプリをかざすだけでよいということになり、自分もそれに登録していた。今回の接種の予約は、そのマイ・セジャテラに一画面が加わったので、それをクリックするだけで予約が完了したという。そして、資格審査の上、その日のうちにコンファメーションの連絡が来た。彼の家族4人だけでなく、友達の家族もこうして予約できたというから、全く持って羨ましい限りだ。 (6)全国各地でも同じ騒ぎで高齢者の怨嗟の声 全国各地で、ワクチン接種について私の経験したのと全く同様の騒ぎが広がっている。5月11日の日本経済新聞の記事を要約してみると、次の通りである。 (1) NTT東日本は固定電話網がパンクするのを避けるため、10日に一部地域で通信を制限。この日予約を受け付けた自治体では、高齢者が役所に集まる一幕もあって大混乱。→私も、14日に電話を129回掛けたが、いずれも掛かる前にNTTによって撥ねられた。 (2) 東京都渋谷区の施設に訪れた65歳の女性は予約が始まる午前9時の前からスマートフォンでネット予約できるように待機したが、画面が「フリーズ」。その間に十数分ほどで受け付けが終わった。「こんなに手間取るなら、年齢順に受付日を決めてもらった方がまし」→私と全く同じ感想だ。 (3) 10日から受け付けが始まった東京都東久留米市では午前中でいっぱいに。電話がつながりにくい時間帯があり、30人以上が市役所にやってきた。市内のコンサルティング業の男性(70)も予約開始時間の午前9時から30回以上電話したがつながらず、ネット予約に切り替えた。→総じて、電話は全く役に立たない。ネットでしか予約できないのが実情。ネットを使えない高齢者はどうするのだろうと思う。 (4) 千葉県習志野市では午前8時半の受け付けから30分後には予約枠が埋まった。→こういうのは、まるで役所側の「やっているフリ」そのものだ。 (5) 横浜市は、予約開始の3日午前9時に1分間で200万件のアクセスが集中し、ネットでも電話でも予約ができなくなった。→こういうことを聞くと、自治体側がいかに細かい気配りをしていないか、そしてインターネットというものを知らないかがよくわかる。ちなみに、あの膨大なチケットのインターネット販売をこなしている「ぴあ」ですら一度に処理できる最大アクセス数は50万件というのであるから、この横浜市に殺到した200万件という数字がいかに異常なものかがわかるというものだ。これでは、普段の委託先程度では、役に立たないのは当たり前である。 (6) さいたま市は、約30万人いる65歳以上の高齢者を五つの年齢層に分け、予約に必要な「接種券」の発送時期をずらした。最初に送ったのは85歳以上の約5万人。コールセンターに166回線を用意し、10日に予約の受け付けを開始。しかし、午前9時〜午後3時に7万6782件の入電があり、回線がふさがった。→私の住む文京区よりは、はるかに賢くて、それなりに頭を使っている。 (7) 横須賀市は予約専用のウェブサイトとLINE、コールセンターの3種類で受け付けを開始したが、予約集中により、午前9時前から予約がしづらくなった。システムを構築した業者の設定ミスが原因。→もっとまともな業者に委託してほしい。 (8) 神戸市(人口151万人)は4月に75歳以上の受け付けを始めて以降、想定を超える申し込みが殺到。市は段階的に回線数を増やすことにし、10日は当初より15回線多い135回線に。応答率は10%台だが、今月下旬までに300回線まで増やす計画だ。ネットでの予約もすでにサーバーを増強しており、利用しやすい状況になっている。→後から述べるが、我が文京区(人口22万人)では第1回目の受付日はたった25回線しかなかった。第2回目はそれを「増強して」臨むと言うが、それでも50回線に過ぎない。 (9) 堺市(人口82万人)も10日からコールセンターを100回線に増やしたが、かかりにくい状況は続く。 (10) 京都市の場合は、集団接種会場は設けずに個々のかかりつけ医院で接種することにした。そして、その医院名を公表したが、中には公表されるとかかりつけの患者以外がたくさん押し寄せてくると考えて、公表リストから外してもらった医院もあった。すると案の定、公表された医院には問い合わせが殺到し、医院の前に高齢者が長蛇の列をなし、日常業務に大きく支障をきたしたばかりか、中には午前2時に電話を掛けてきた人もいたというから、もう大混乱だ。 ところで、ワクチン接種を巡って全国的にこれほど酷い混乱が起きている状況を、政府はどう見ているのか。5月14日の衆議院内閣委員会で、河野太郎ワクチン接種担当大臣は、次のように述べている。 「大勢の方が殺到すれば、パンクするのが見えていたため『段階的に接種券を出してください』と申し上げたが『公平性重視だ』と言って接種券を一斉に出してしまった自治体が多かった・・・もう少し強い指示や干渉をしなければいけなかったのかなと思う。自治体が公平性や平等性に重きを置いていることに気付かなかったのは失敗だった。」→こういうところにも、政府と自治体との連携の悪さが現れてしまっている。ひいては、このような国家的危機管理に際しての、地方分権のあり様が問われているのではないかと思う。 (7)第2回目のトライでやっと予約がとれた 私は、4月30日の第1回目のワクチン接種予約開始日に、文京区に千回電話しても、パソコンで3時間粘っても、全然予約できなかったことから、しばらくの間、苦々しい気分で放置していた。ある日、家内と近くを散歩していたとき、家内が次のような貼り紙を見つけた。それによると、4月30日は25の電話回線とインターネットで5,850件の予約を受け付けたようだ。次回は5月14日に2万件、その後21日と28日に各1万件だ。電話は倍増する・・・といっても50回線しかない。NTT東日本の通信規制があるから、まず期待できないと思う。やはり、インターネット経由しかないか。 そして、お昼ご飯後にまたインターネットで予約を試みた。IDとパスワードを何回も入れて、本当に飽き飽きしてきた頃、やっと私の予約が取れそうな状況になった。でも、目の前で、残余の席がみるみるなくなっていくので焦る。例えば、パスワード変更を行っていて戻ってきたら、もう6月2日の分がなくなり、6月4日の分になった。それをようやく取り、祈るように「これで予約する」というボタンを押すと、確認画面が出た。これで私の分の予約は完結した。直ぐに家内の分の予約に移る。6月5日の分となる。私が副反応に見舞われる場合を考慮するともう少し日取りを離した方がよいが、この際そんな悠長なことは言っておられない・・・そういうわけで、ちょうど午後1時に、二つの予約がやっと揃った。 ああ、どっと疲れた。古希にもなって、なぜこんな馬鹿なことをしなければならないのか、全く合点がいかない。インターネットを使い慣れていない高齢者も多いだろうと思うのに、そういう人は、置いてきぼりだ。国や地方自治体の政策当局者の企画力と想像力の欠如以外の何物でもない。こんな先着順などやめて、抽選にすべきであった。これというのも、マイナンバーと言っておきながら、まだ3割程度にすらも普及していない「IT弱小国」に甘んじているせいだ。 (54と55(1)から(5)までは令和3年 5月 1日記、4日、18日追記。55(6)と(7)は14日記) (8)防衛省の大規模ワクチン接種の予約 菅首相は、5月7日、「65歳以上の高齢者3,600万人に対する新型コロナウイルスのワクチン接種を7月前までに終わらせるという政府目標を達成するため、1日に100万人を目処に接種を進める」ことを表明した。聞くところによると、周辺では「そんなことができるわけがない」と反対した者もあったようだが「インフルエンザのワクチンは1日に60万人に接種したそうだからできるはずだ」と押し切ったそうだ。 私も、1日に100万人の接種なんて、瞬間風速ならともかく、現在の地方自治体の呆れるような鈍い仕事ぶりからして絶対にできないと思う。まずもって実現の難しい公約だ。これまでの菅首相の新型コロナウイルス対策を振り返ると、行き当たりばったりもいいところだ。緊急事態宣言も出しては直ぐに解除し、GO TOキャンペーンで全国に感染を広げて感染者が増えてくるとまた宣言を出して、その度にこれで終わりにしたいようなことを言う。もう誰が信じるものか。今回の1日100万人接種も、それと同じようなハッタリの類いだ。こういうことを続けていては、誰も政府を信用しないだろう。 それはともかく、5月半ばに行った各自治体からの聞き取りでは、7月末に高齢者への接種はとても出来ないとするところが17%に及んでいる。中には接種完了を10月末などとする自治体さえあった。まあ、それが正直なところだろう。 なぜ菅首相が突然そんな無理で無茶な目標を打ち出したかというと、7月21日に競技を開始し8月8日に閉会される東京オリンピック・パラリンピックのため、少しでも新型コロナウイルス対策の成果を上げておきたいという下心があったのだろうと思う。安倍内閣以来「東京オリンピックは、人類がコロナに打ち勝った証(あかし)」などと言ってきた手前、引くに引けないこととなった。 実は、その関係でワクチン接種を少しでも進めるため、首相は、既に4月27日、岸防衛大臣に対して「東京と大阪に新型コロナウイルスのワクチン接種を行う大規模接種会場を設けよ」という指示を出している。発案は、杉田和博官房副長官だそうだが、子供だましのような昨年のアベノマスクよりは、はるかにまともな政策だ。もっとも、東京と大阪の二つの会場で頑張っても対象となる高齢者の5%しか接種できないから実質的効果は全く期待できないが、少なくとも政府が少しは腰を入れて取り組んでいるというPRにはなるだろう。 ワクチン接種は、予防接種法では市区町村の事務である。だから自衛隊にとっては、今回の業務は昨年2月から3月にかけてのダイヤモンド・プリンセス号事件の時と同じ「新型コロナウイルス災害派遣」ということになる。東京の会場は、大手町の第三合同庁舎である。それは、私が、通勤途中に車で毎日通りかかっていた建物で、竹橋と大手町の間の内堀通りに面しているからよく知っている。 大規模接種会場で使われるワクチンはモデルナ製で、5月20日に承認される予定である。これまで日本で打たれてきたワクチンは全てファイザー製であるが、どちらもmRNAワクチンという意味では同じだ。いずれも副反応としてアナフィラキシー・ショックがある。しかし、データによるとファイザー製が100万人中11.1人に生じたのに対して、モデルナ製は100万人中2.5人と、モデルナ製の方が少ない。 私は、前述(7)の通り5月14日に文京区の接種をようやく予約したのであるが、接種予定日は、私が6月4日、家内が6月5日なので、いずれも今から20日も後だ。とりわけ家内は、持病を抱えているだけでなく骨折後の経過観察をするためにしばしば病院に行かなければならないから、常に病院や行き帰りの車中での感染の危険に晒されている。その意味では、これから20日も待つのは遅すぎる。だから、もっと早く出来ないかと思っていた。 そういう時に、この大規模接種会場の話を聞き、少なくとも家内だけは、これを予約してみる気になった。というのは、5月17日からの受付で、接種予定日は5月24日から30日の間だという。だから、文京区より早くできる。もし、こちらの会場での予約ができたら、文京区の方の予約は直ちに取り消すつもりだ。そうしても、何しろ接種予定日より2週間以上も前のことなので、あまり迷惑はかけないはずだ。持病の関係で家内がワクチン接種を受けることの是非については、先日、病院へ行ったときに主治医の了解を得た。 ということで、防衛省の大規模接種会場の予約をする5月17日を迎えた。午前11時からの予約開始だという。文京区と同様に相当手こずるかと思ったが、わずか20分で家内の分が今月24日に予約でき、私も2分後、同じ日の家内の予約時刻の数時間後に予約がとれて、いささか拍子抜けした。とりわけ家内については、先ほどのような事情で病院にしばしば行かないといけないので、早く接種したいと思っていたから良かった。 もっとも、市町村コードと券番号さえあれば予約ができるというのは、予約しやすいという意味では誠によろしいが、その反面、市町村のシステムと全く切り離されているスタンド・アローンのシステムだから、防衛省側ではその番号が正しいかどうかを検証することができない。早い話、適当なフェイク番号を入れても予約ができる。だから、セキュリティが「脆弱」どころか、そもそも「ない」のである。こんなことで大丈夫か、悪用してシステムを混乱させる悪い輩が出てこないか、逆に心配になる。 (9)ファイザー製とモデルナ製ワクチンの比較 現在、日本で接種されているのは全てファイザー製ワクチンであるのに対し、この防衛省のワクチンはモデルナ製だ。どちらもmRNAワクチンで、ファイザー製は3週間後、モデルナ製は4週間後に2回目を打つ。有効率はほとんど同じでそれぞれ95%。94%ということだ。ただ、いずれも副反応としてアナフィラキシー・ショックが出ることがあり、その度合いは、ファイザー製が百万回当たり11.1人、モデルナ製が2.5人だそうだから、この点はモデルナ製に軍配が上がる。アナフィラキシー・ショックは、場合によっては命に関わる問題なので軽視してはいけないが、そのほとんどが会場での健康観察時間内に起こっていて、いずれも大事には至っていないとのこと。 ちなみに、国立感染症研究所がファイザー製のワクチン接種を受けた日本の医療従事者110万人について調べたところ、 (1) 感染した事例は、110万人中の281人、率にして0.03% (2) 1回目の接種から12日前後を境に感染者が減少する このほか、海外の報告では、 (3) ワクチン接種から2週間ほど経って感染を防ぐ効果が現れる (4) 1回の接種では70%の効果、2回の接種では95%の効果 山中伸弥教授のサイトによると、ファイザー製とモデルナ製のワクチンの副反応は、次の通りである。これを見ると、モデルナ製の副作用の方がやや高い傾向にある。 「両ワクチンの副反応は接種の翌日に最も頻度が多く、モデルナ社製ワクチンの方が頻度がやや高い傾向にあります。1回目接種においては、接種部位の疼痛がモデルナで約71%、ファイザーで約64%、倦怠感、頭痛、筋肉痛が両ワクチンとも約20%に、悪寒や発熱がモデルナで約10%、ファイザーで約7%に報告されています。2回目接種においては、接種部位の疼痛はモデルナで約78%、ファイザーで約67%に、倦怠感、頭痛、筋肉痛がモデルナで約50%、ファイザーで約40%に、悪寒や発熱がモデルナで約40%、ファイザーで約20%に報告されています。65歳以上と65歳未満を比べると、65歳以上の方がいずれの副反応の発生頻度も低かったと報告しています。 以上の副反応はいずれも接種当日から2日目くらいの急性期に報告され、1〜2日で軽快するようです。これとは別に、モデルナワクチン接種後、1週間後くらいに、接種部位の皮膚反応が1回目接種後は0.8%の頻度で、2回目接種後は0.2%の頻度で発生したことが、臨床試験の結果で報告されています。」 この中の「接種部位の皮膚反応」というのは、その他ネットの情報によると、アメリカで「モデルナ・アーム」といわれているもので、モデルナ製ワクチンの接種をした後、腕がパンパンに腫れ上がり、寝る時などその腕を下にしてはとても寝られないというケースだそうだ。それも、時間が経てば、軽快しているとのこと。 (55(8)までは令和3年 5月18日記) 56.第3回目の緊急事態宣言等の延長と地域拡大 当初5月11日までとされていた新型コロナウイルス緊急事態宣言(第3回目)は、案の定2週間では感染が収まるはずもなく、やはり月末31日まで延長された。それだけでなく対象地域も、これまでの東京、大阪、京都、兵庫に加えて、12日から愛知、福岡を加え、更に16日から北海道、岡山、広島も加わり、そして23日から沖縄県も追加されて対象を10都府県に広げることとなり、また更に5月28日には宣言自体の2回目の延長があって今度は6月20日までとなった。まん延防止等重点措置区域も群馬、石川、熊本の追加があって10県に拡大した。もう全国的に感染が燃えさかっているがごとくである。 5月14日に改定された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の概要は、次の通りである。 【期間及び地域】 5月16日以降は、緊急事態宣言の緊急事態措置区域として、東京都、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県及び福岡県に加えて北海道、岡山県及び広島県を追加。期間は31日まで。 5月12日以降は、緊急事態措置区域として、東京都、京都府、大阪府、兵庫県に加えて、愛知県及び福岡県を追加。期間は31日まで。 5月9日以降は、まん延防止等重点措置区域に北海道、岐阜県、三重県を追加。期間は31日まで。既に対象の埼玉県、千葉県、神奈川県、愛媛県、沖縄県は期間を31日まで延長。ただし12日から宮城県を除外。 【感染症対策の重要事項】 緊急事態宣言の対象都府県は催し物について、主催者に規模要件(人数上限5000人かつ収容率50%など)に沿った午後9時までの開催を要請。利用者による酒類の店内持ち込みを認めている飲食店などに休業要請。 多数の人が利用する床面積1000平方メートルを超える施設に午後8時までの営業時間の短縮を要請。路上や公園での集団の飲酒などに注意喚起し自粛を要請。 経済団体に対し、在宅勤務の活用などによる出勤者数の7割削減の実施状況を事業者が自ら公表するよう要請。政府は感染拡大が顕著な都道府県で深刻な看護師不足が生じた場合には緊急的に看護師派遣。 まん延防止等重点措置区域の道県では、緊急事態宣言期間中に知事の判断で飲食店へ店内持ち込みを含む酒類を提供しないよう要請。大規模な集客施設などに営業時間の短縮(午後8時まで)を要請。インドで最初に検出された変異株への対応強化。 また、各地の感染状況や医療提供体制などの状況をみると、最高のステージIVを示す真っ赤っかの都道府県ばかりで、今まさに燃えさかっている最中だ。緊急事態宣言(第3回目)も発令されてから3週間以上も経つというのに、東京の感染はまだ横ばい、大阪はやや下回りつつあるも医療の逼迫どころか崩壊が依然として続く。いずれも変異型ウイルスの割合が9割を超えたと推定されている。他の主要国がワクチン接種の進展で平常に戻りつつあるというのに、この残念な状態は一体どうなっているのだと言いたくなる。 57.ええっ、我々が濃厚接触者だって? (1)やって来たケアマネージャーが陽性? 自分は新型コロナウイルスには感染しないよう常に注意しているから大丈夫と思っても、意外なことが起こるものだ。先日、家内がリハビリ病院から退院して帰宅した直後、文京区のケアマネージャーが「自宅を訪問したい」 という。「どうしても必要なのか」と聞いたら、「介護保険の関係で現況確認が要る」とのこと。それでは仕方がないということで、自宅に招き入れて書類の作成やら何やらをしつつ雑談をして、30分ほどで帰った。 すると、翌々日にその彼女(ケアマネージャー)の事務所から連絡があって、「彼女が定期的なPCR検査で陽性になったから、あなた方も『濃厚接触者』になった。念のため文京区のPCR検査を受けてほしい」と言われた。全く予想もしていないことで、文字通り青天の霹靂だ。「ただ、偽陽性かもしれないので、本日また彼女の検体を取って再検査しており、今は自宅待機させている」ともいう。 振り返ってみると、彼女が来た当日は、不織布のマスクをした彼女と居間で話し、私と家内も不織布マスクを付けて、1メートルは離れていた。しかし、時には書類を彼女と一緒に覗き込んだり我々が記入したりして、その状態で30分ほどだから、1メートル以内で15分以上という濃厚接触者の定義には確かにあてはまる。 面倒なことになった、特に家内は病み上がりなのに大丈夫かなと思いつつ、その事務所の人が唾液検査のキットを持って来るまで待ち、家内と私の分を渡し、必要な書類に記入した。その際、「仮に彼女(ケアマネージャー)が陽性で私の家に来た時に我々が感染したとして、たった2日間でもう我々のPCR検査が陽性になるものですかね」と聞いたが、その人は専門家ではないので、答えられない。無理な質問だったか・・・まあ、ともかく持ち帰ってPCR検査に出してもらった。文京区の検査なので、費用は無料とのこと。翌々日に検査結果が出て、私の携帯電話に連絡が来るらしい。 その日とその翌日の夜は、さすがに安眠できなかった。さて、翌々日の午後になって、見慣れない番号からの着信があった。文京区の予防対策課を名乗り、「陰性だった」と告げられ、とりあえずは安堵した。その旨を事務所から来てくれた人に電話で伝えたところ、「それは良かった」と喜んでくれて、「彼女(ケアマネージャー)も再度の検査結果は陰性だった」という。これで取り敢えずは、安心することができた。ただ、PCR検査をするのが早すぎたのではないかという疑念は残ったままだ。 そういうわけで、本当に思いがけないことが起こるものだ。しかし、この事件から汲み得る教訓としては、これまでやってきた「三密を避けるとか、15分以上公共交通機関の同じ車両には乗らないとか、人と会食をしないとか」等の外出時の注意だけでは不十分で、「家族以外を簡単に家には入れないこと」も大切だ。その他、どういう危険が待ち受けているかもしれないし、加えて最近流行りのインド型のような変異ウイルスは感染力が格段に強いから、これからはワクチン接種をなるべく早く済ませることが命を守る唯一の道である。 (2)駅前でPCR検査キット配布 前述の通り、そもそも「仮に彼女(ケアマネージャー)が陽性で私の家に来た時に我々が感染したとして、それからたった2日間でもう我々のPCR検査が陽性になるものか」という疑問が常に頭の中を駆け巡っていた。だから、検査を受けた翌々日に陰性という連絡を受けて一応は安心はしたが、手放しで嬉しいという気はしなかった。しばらく経って、もう一度、検査を受けるしかない。何か手立てはないかと、常々、考えていた。 ところがそれから3週間ほど経った6月2日のこと、思わぬことで事態が進展した。テニスをプレーした帰りに、北千住駅前を歩いている時、白いテントを設営している一団があった。配られたチラシを見ると「新型コロナウイルス感染症 モニタリング検査」と題して「国と東京都が協力し、新型コロナウイルス感染症の再拡大を防ぐため、『モニタリング検査』を実施しています」とあり、「モニタリング検査とは、令和3年2月又は3月に緊急事態宣言が解除された地域等での感染再拡大を早期に探知するよう、繁華街等において幅広くPCR検査を行って感染状況をモニタリングするとともに、そのデータを分析して感染拡大の予兆を早期に探知し、早期の対応につなげるための検査です」とある。 ■14都道府県に在住している。 ■自身のスマホにアプリを登録できる。 ■【月曜日から金曜日にキットを受け取る場合】 キットを持ち帰り、次の月曜日16時までに郵便局へ持ち込み又は同日12時までに集荷依頼が可能な人(唾液採取は返送の前日又は当日) 【土日にキットを受け取る場合】 《略》 ああ、これだ、まさにこれだ。自分が本当に陰性かという前述の疑問を解消するのに、良い機会である。そこで、チラシを渡してくれた人に、「私はいずれにも該当するから、やってみたい」と申し込んだ。その場で、チラシ中のQRコードを読み込み、「HELPO」というアプリをインストールした。ヘルスケアテクノロジーズ株式会社という会社のアプリである。聞いたことがないが、この際そんなことは言っておられない。それが立ち上がったところで、名前、チラシに書かれていた招待コード、私のメールアドレス、電話番号、適当なパスワードを打ち込む。そして唾液採取日をその日とし、キットをもらって家に持ち帰った。 【HELPO】からのお知らせ 先日のPCR検査の検査結果がご確認可能となりました。 【結果確認方法】以下手順でご確認下さい。 HELPOトップ画面→「唾液PCRお申込み」→「検査結果」 【結果について】詳細は検査結果画面が表示されているカードをタップして結果詳細ページをご確認ください。 https://healthcare-tech.co.jp/pcrinfo/ これは早かったと思いつつ、このページ「HELPO」を開いて、パスワードを打ち込んだ。 (56と57(1)は令和3年 5月19日、57(2)は6月3日記) 58.大手町でワクチン接種を受ける (1)第1回目の接種を受ける 5月24日(月)から、防衛省の大手町ワクチン接種センターで、65歳以上のワクチン接種が始まった。私も、その日に家内と一緒に行き、ワクチン(モデルナ製)を打ってもらった。接種そのものは特にこれといった痛みもなく、拍子抜けした。 ただ、多くの人が押しかけることを想定して作ったのだろうか、高齢者や障害者にとっては会場のレイアウトが良くない。そもそも結構広い敷地の中にある建物なので、どこが入口なのだろうと事前に調べようとしたが、防衛省のホームページには何の表示もない。そこでまず我々は、タクシーで内堀通りを北から南へと走って来て、敷地の角に乗り付けたつもりだったが、係員は「あっちだ」とばかりに遠くを指さす。 なんとまあ、そこから反対側のところが入口らしい。家内は、骨折から回復したばかりで、まだリハビリ中で歩行器を使っているから、さらにこれから200メートル近く歩くのはつらい。これがわかっていたのなら、タクシーに気象庁の建物から回り込んでもらって日経新聞ビルの角に付けるようにすべきだった。 そこで、歩行器でゆっくりゆっくり歩いて、建物の端から端まで行き、そこにあるプレハブの中で、最初の「書類チェック」を受けた。区から送られた接種券、マイナンバーカード、予診票を提示する。入口にあった体温計の計測値36.2度を予診票に書き入れてもらい、「奥様はお御足がお悪いようだから」と言われて、2階で接種を受ける緑のクリアファイルに書類を入れてもらった。 他に赤や黄色など4色のクリアファイルがあり、それに従って色分けされた矢印に従っていくと、その階に行く専用のエレベーターに乗ることができるという仕組みである。それはよく考えられていると言えるが、体の悪い高齢者や障害者は、ともかく建物の端からまた反対側の端へと延々と歩かされて可哀想である。私の家内も先程述べたように骨折後の歩行器使用だったので、このあっちへいったりまた戻ったりするレイアウトには、かなり難儀をした。 それで、ようやく予診票を見て「事前の問診」を行うブースまで到着した。私のは単純で、怪我の時以外は病院にかかったことは全くないので、問題なく済んだ。家内のは、「血液サラサラの薬」という問に対して「バイアスピリン」と書いたところ、どうも接種後にどれだけその箇所を押さえているかということに関係があったようで、その旨の説明を受けていた。また、最近の病歴を書く欄があり、その主治医の先生の先生の見解も「接種に同意」だったと説明したら、意外とすんなりと通った。 その次は、隣の部屋で、いよいよ「接種」である。またブースになっていて、そこに入ると恰幅の良い女性看護師がいた。名札には人材派遣会社の名前が書いてあった。その人が、使い捨て注射器を取って、「はい、注射しますよ」と言って、肩にズブリと打ち込む。注入されている感覚があり、やがて引き抜かれて丸い絆創膏を貼られて、それでおしまいだ。 次の部屋で、待ち受けている人に緑のクリア・ファイルを渡すと、その場で「次回の予約」を取ってくれた。そして、文京区の接種券に打ったワクチンのロット番号を貼ってくれた。将来、海外旅行をする時などにこれがワクチン接種の証拠になるので、大切にとっておく必要がある。 さらに隣の部屋で、打ってから数えて15分間、「経過観察」がされる。実態は、ただ時間が来るまでパイプ椅子に座っているだけだ。接種を受けた時に、あらかじめ何時何分までと書かれた紙をもらっているので、それを出口の係員に渡して、さあこれで無罪放免となる。エレベーターに乗り、そそくさと出てきた。 午後だったせいか、総じてさほど人はおらず、待つことはほとんどなかった。着いてから、書類のチェック、接種、次回の予約、そして経過観察をとりまとめて、出てくるまで、二人が同様に行動したが、合わせて所要時間40分ほどである。次回は、6月28日となったから、このモデルナ製のワクチンによる免疫がつくのは、7月半ば頃ということになる。 ところで、何らかの副反応があったかというと、家内も私も、これといった症状はなかった。ただ、接種の翌日と翌々日に、注射をした二の腕がやや重たい感じがしただけである。とりわけ家内は病み上がりだけに、いささか心配をしたが、取り越し苦労だったようだ。もっとも、第1回目より第2回目の方の副反応が強いというから、まだ気が抜けない。 (2)第2回目の接種を受ける さて、第2回目の予約の日である5月28日(月)となった。前日と当日の朝に、家内ともども体温計で測り、熱がないのを確かめてから、防衛省の大手町ワクチン接種センターにタクシーで行った。今回は前回のようにお濠側で降りて延々と歩くようなことはせずに、気象庁のところから日経ビルまでぐるりと回ってもらい、そこから歩く最短コースをとった。 駐車場に設けられたプレハブ棟に5つのレーンが設けられていて、そこの一番左側に入っていった。まずは体温計で測定する。家内は36.3度、私は汗をかいていたせいか36.2度と出た。その紙と、予診票、接種券、身分証としてマイナンバーカードを見せる。チェックの上、前回と同じく緑のフォルダに書類を入れて矢印通りに歩いて、エレベーターに乗った。 着いたのは2階の予診会場で、家内と一緒にチェックを受け、次の接種の部屋に行った。この会場を開設してからもう1ヶ月も経っているので、案内係員も予診係も手早く仕事をしてくれるから非常に楽だ。 接種会場では、医師がまた書類をチェックした上で、ワクチンを接種してくれる。それが終わると、次の部屋で接種仮証明書を作ってくれる。更にその次の部屋では、15分間の待機となる。暇なので、持参してきたお茶の飲み物を取り出し、ストローを挿してその一つを家内に渡す。それをチューチューと吸い、前のテレビを見ているうちに、時間が経ってしまった。そこで、やっと無罪放免となる。 59.東京オリンピック開催強行で第5波到来か こうして我々を含む高齢者がワクチン接種はしたといっても、これから日本はますます多難な時を迎える。感染力の強いインド変異株が入ってくるし、東京オリンピックで9万人以上の外国人が来日するし、その中で夜中に抜け出し歓楽街へ行って感染を広げる人が出かねないし・・・など、これまでにない事態が予想される。 私が一番懸念しているのは、成田空港の検疫体制だ。きっちりと2週間隔離されていると思いきや、なんとまあ、一日当たり300人から100人も所在不明になっているそうだ。使うアプリの不調や使い方がわからないという初歩的なミスもあれば、意図的に消えているケースもあるようだ。現に、その一部は新宿の免税店に現れているという。こんな緩くてよいのか。誓約書などではなく、罰則をもって担保し、所在不明は厳格に処罰すべきである。 NHKニュースによると「台湾では渡航制限や隔離などの対策を厳格に実施し、海外から到着した人などを除いた域内での感染を少なく抑え込んできました(5月初めの統計では、人口約2,300万人の台湾においては、新型ウイルスの累計感染者は1,682人で、死者はわずか12人)。 こうした中、感染が拡大したきっかけの1つと見られているのが、国際線のパイロットの感染です。海外から到着した人の隔離期間は原則として14日間ですが、航空会社のパイロットは例外扱いとされ、最も短かった時期には3日間でした。4月20日以降、国際線のパイロットや乗組員、その家族への感染が相次いで確認されました。感染は、隔離先となっていたホテルの従業員らにも広がりました。これらの人たちは台北市や近隣地域の飲食店などに立ち寄っていたということです。 また、5月に入ると、海外への渡航歴がない人の感染確認が増え始め、接待を伴う飲食店やゲームセンターでクラスターが発生しました。その後も毎日2けたの感染確認が続き、5月15日には前日までの1年余の累計164人を一気に上回る180人の新規感染が確認され、特に感染者が多い台北市と新北市の警戒レベルが上から2番目に引き上げられました。」(NHKニュース2021年5月18日付け。( )内はBBCニュース5月17日付け) これから得られる教訓は、わずか数人の航空機パイロットより感染が広がったことから、空港での検疫が大流行を抑える鍵だということである。これが、東京オリンピックでは、9万人も来日するのであるから、感染が広がらないはずがない。ちなみにこの中華航空のパイロットらは、「台湾の桃園空港近くのホテル『ノボテル』に宿泊し、後日、イギリス型変異株「B117」に感染していることが確認された。このウイルスが地域で拡大し、やがて台湾の「茶芸館」(風俗店)にも広まった」という(BBCニュース同上)。来日する9万人全てが聖人君子のわけがない。必ず繁華街に繰り出して色々な感染源になっていくことが懸念される。 そのような中で日本人の65歳未満約9,000万人がワクチンを未接種のままで、本当に大丈夫か。とりわけ、東京オリンピック・パラリンピックに参加するボランティアの方々には、当然、ワクチンは行き渡っていない。その人たち自身の健康も心配であるが、大会が終わって国内各地に帰り、さらに感染を広げないか。とりわけインド変異株は、30歳代、40歳代などの若い人をも重症化させやすいことがわかっている。もう、二重にも三重にも危ない。 そういうことで、この8月から9月にかけては、猛烈な第5波の感染拡大に見舞われて、とんでもない大流行になるかもしれないという嫌な予感がする。これまで、私の予感は意外と当たってきたので、暗澹たる思いだ。 東京オリンピック・パラリンピックを目指して努力してきた選手の思いはわかるが、ここは勇断をもって中止か再延期とすべきである。事は、国民の命か、これまでの準備かの二者択一だ。国際オリンピック委員会(IOC)が何を言おうが、国民の命が大事に決まっている。最近の毎日新聞の世論調査では、国民の8割が私と同じで、中止か再延期すべきと思っているそうだ。また、5月26日付けの朝日新聞も、社説で「中止の決断を首相に求める」と書き始めた。 それでもなお、東京オリンピックを開催するというのは、先の見通しもないまま単なるムードに引きずられて無謀な戦争に突入していった太平洋戦争のときとほとんど変わらないではないか。これまで、菅内閣は感染が少し収まると、経済界に気を遣って緊急事態宣言を早めに解除したり、GO TOキャンペーンを展開したりして、再び感染の拡大を招くという愚を繰り返してきた。しかも日本は各国と比べてワクチン接種比率が最下位に近い。一体、何をやってきたのか。行き当たりばったりもいいところだ。冷静な先の見通しなど、あったものではない。 しかも、8月の東京オリンピックのあと、9月にはパラリンピック、10月には任期切れを迎える衆議院議員の総選挙をしなければならないという。しかし、その時期は、まさに感染の第5波の真っ最中だ。聞くところによると、菅首相は、東京オリンピックで支持率を上げてその勢いで総選挙に突入したい意向のようだが、現実は全く逆になりそうだ。もう戦略も何もなく、ただただ滅茶苦茶としか言いようがない。 菅首相は、何かと言えば「専門家に聞いて」と、専門家を隠れ蓑のように使うが、これまで専門家に聞いて判断したことなどほとんどない。またその専門家も、最近は官邸に「忖度し過ぎて」言わなければならないことも言わずに、実に情けない有り様だ。しかし、第1波のときに当時は北海道大学であった西浦 博教授(現在は京都大学)が深刻な状況を官邸に伝えようとしても、官邸に行くまで厚生労働省内に二重にも三重にも壁があって、「こんな情報は伝えられない」などと断られてほとんど届かなかったと語っていた。まさに、菅首相は自分の耳に心地よい情報しか伝達されていない「裸の王様」になっている。 それだから、今回の第3回目となる緊急事態宣言も、一挙に強力な措置を短期間に行った方が結局は効果があるという専門家の信頼できる試算があるにもかかわらず、弱い内容の措置をまず2週間、次いで3週間、更に20日間と、小出しにするばかりだ。これこそまさに「戦力の逐次投入」で、ノモンハンやガダルカナルと何ら変わらない。そんなことをしても何の成果も得られないままに損耗するばかりだから、絶対にやってはいけないというのは戦略上の常識だ。 菅首相の記者会見を見ると、宙に浮いた自信なさげな目をしながら予め用意された紙を棒読みし、記者の質問をまともに受け止めようとせず受け流し、答えになっていないことをひたすら繰り返す。自信のなさばかりでなく、何の長期的な見通しもないままにただ目の前の火の粉を払おうとしているに過ぎないと見受けられる。司令塔がこんなことでは、東京オリンピック後に予想される混乱を乗り越えることができるとは、到底思えないのである。 (58(1)及び59は令和3年 5月28日、58(2)は令和3年 6月28日記) 60.尾身茂政府分科会会長が五輪阻止に孤軍奮闘 (1)いまの状況でやるというのは普通はない これまで、政府と歩調を合わせることが多く、「果たしてこれが専門家の代表か」と思われていた尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策分科会会長(独立行政法人地域医療機能推進機構理事長)が、このところ政府の意向に反して、急速に東京オリンピック反対の意向を示し孤軍奮闘中である。 5月頃から尾身会長を中心に専門家が集まり、最近の感染状況を踏まえて意見を交換しており、とりわけ東京オリンピック・パラリンピック開催によるリスクを議論しているという。その結果、「東京の感染状況が、緊急事態宣言の目安となるステージ4(感染爆発)なら医療体制への負荷が大きく開催は難しく、ステージ3(感染急増)でも無観客や規模縮小などが必要」との認識を共有したという(令和3年6月5日付け朝日新聞)。それを踏まえ、尾身会長は、国会の厚生労働委員会で、次のように答弁している。 6月2日「いまの状況で(東京オリンピックを)やるというのは普通はない」、「規模をできるだけ小さくして管理体制を強化するのは、主催する人の義務だ」。 6月3日「東京オリンピック・パラリンピックで、日本からウイルスが、医療制度や検査体制が非常に脆弱な発展途上国にわたるリスクがある」、「感染のリスクや医療逼迫への影響について評価するのは、プロフェッショナルとしての責任」。 6月4日「お祭りムードになって普段会わない人と飲み会をすると感染者、重症者が増え、死亡者が出てくることもあり得る」、「本当にやるんであれば、私は緊急事態宣言の中での、オリンピックなんていうことを絶対に避けるということ・・・やるのなら強い覚悟でやってもらう必要がある」。 これについて聞かれた菅義偉首相は、「安心・安全の対策をしっかり講じる」と、まるきり噛み合わない答えを繰り返すばかり。首相の心づもりとしては、まずは東京オリンピックを開催して政権浮揚を狙い、その勢いで9月末の自民党総裁選に勝利して、10月21日に任期満了となる衆議院議員総選挙を迎えようとする意向のようだ。これまでの節目節目の記者会見では、隣に尾身会長に同席してもらい助け舟を出してもらっていた。それだけに、この尾身発言にはさぞかし困惑していることだろうと思う。 他方、尾身会長としては、この場面で言うべきことを言っておかないと、専門家として鼎の軽重が問われることになると思ったのだろう。ちょうどトランプ前大統領のデタラメで非科学的な方針にもかかわらず、その不興をかうのを覚悟でアンソニー・ファウチ博士(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所所長)が冷静で科学的な説明を繰り返したことから、国民から信頼されていたのと同じ構図を彷彿とさせる。 ちなみに、週刊誌「AERA」電子版によると、官邸筋の話として「『(尾身会長を)黙らせろ。専門家の立場を踏み越え勘違いしている。首相にでもなったつもりなんじゃないか』などと怒りを爆発させています。尾身会長を菅首相が最近、ひどく疎んじているのは間違いありません。もともと御用学者として側に置いていた尾身会長が謀反を起こし、自分の敵になったという意識が日に日に強くなっています」(2021年6月4日15:04配信)ということらしい。 6月3日の参議院厚生労働委員会において尾身会長は「感染リスクや医療逼迫の影響を評価するのがわれわれの責任だ。早い時期に考えを表明しようと思う」と述べた。これに対して翌4日午前の記者会見で、田村憲久厚生労働大臣が予防線を張り、このうち尾身会長らが「考え」を表明したいとしていることについて、「自主的な研究の成果の発表ということだと思う。そういう形で受け止めさせていただく」と述べた。つまり、専門家が何を言おうが、政府としてはこれを無視すると言ったのに等しい。これでもはや亀裂は決定的になった。 東京オリンピックの競技開始まであと40日となった6月11日、衆議院厚生労働委員会で、尾身会長は「すでに東京の人流は少しずつ増えており、緊急事態宣言を解除すれば、今までの経験からすると、さらに加速する。これから、夏休みやお盆、帰省のほか、変異株の影響もあり、そのうえでオリンピック・パラリンピックをやれば、感染のリスクがある・・・仮に、国や組織委員会が大会を開くのであれば、そうしたリスクがあることを十分認識したうえで、人々に協力してもらえる運営のしかたが重要だ。リスクをマネージメントし、大変なことが起こらないようにするのが大事だ」と述べた。 (2)新聞の読者欄 朝日新聞のオピニオン欄を目にすると、次のような記事があった。読んでみると、全く同感だ。それにしてもこの文章、情感に訴え、しかも皮肉をたっぷりと利かせてなかなか上手だなと思い、ふと書いた方の名前と職業をみたら、「作家 赤川次郎(東京都 73)」とある。なるほど、プロの作家だった。 「想像してみよう。恋人たちが身を寄せ合って夜の川辺を歩く姿を。孫の誕生日に集まった3世代の家族が互いに抱き合う光景を。今、私たちが求めているのは、そんな「日常」が戻った世界であるはずだ。 しかし今、日本はそれに逆行する「とんでもない国」になろうとしている。新型コロナの感染拡大が続く緊急事態宣言下で五輪パラリンピックを開催? 他の国のことなら「何てひどい国だ!」と呆れるだろう。 国の指導者の第一の任務は「人々の命を守ること」。いまだウイルスの正体が分からないのに、9万人もの人間が出入国するとしたら、どうやって感染拡大を防ぐことができるのだろうか。むしろ、ここを起点にさらに新たなパンデミックが世界を襲うかもしれない。一日も早く、五輪中止を決断するしか道はない。賠償金を払わねばならないのなら払えばいい。経済は取り戻せても、人の命は取り戻せないのだ。 医療も報道も、それぞれ良識と良心をかけて、五輪開催に反対の声を上げるときである。利権に目のくらんだ人々には、これも「馬の耳に念仏」だろうか。そう言っては馬に失礼かもしれないが。」 (3)オリンピックと国民の命のどちらが大事なのか 要は、もはやここに至っては、国威発揚だの、首相職の再選だの、来るべき総選挙での勝利だのと、そんなことを言ってはおれない状況なのである。それと、国民の命とどちらが大事なのか・・・答えは、言わずとも明らかだ。 6月7日、東京オリンピックのパブリックビューイングの中止を、埼玉県と神奈川県が公表した。開催が避けられないのなら、正しい判断だ。東京都は、代々木公園をパブリックビューイングの会場にすることを予定していたが、急きょ警視庁と東京消防庁の職員を対象とするワクチン接種に転用することとした。これらの職員については、6月8日から築地市場の跡地でワクチン接種を始めるが、同じ所が東京オリンピック・パラリンピックの輸送車両の拠点となっている関係で6月30日までしか使えないことから、それ以降は代々木公園を接種会場にするという。しかし、代々木公園では、パブリックビューイングの会場にするつもりで既に35本もの欅の木の枝を切ってしまっている。これらの欅の木は、無計画で場当たり政策の犠牲になったようなものだ。 ちなみに、東京都のパブリックビューイングの会場としては、他にも井の頭公園が計画されている。この井の頭公園には2万人を収容する予定だそうだが、地元の武蔵野市がこんな時期にするべきでないと、東京都にその中止を要望している。東京都は、緊急事態宣言の下、一方で外出自粛を呼びかけながら、他方で万単位の観客を集めるこうしたイベントを開催するなど、やっていることが矛盾している。昨年、感染が広がる中で「GO TOキャンペーン」を繰り広げようとしていた政府について、「暖房と冷房を同時にかけるようなもの」と切って捨てていたのは、確か小池百合子都知事ではなかったか。 (注1)都内のパブリックビューイングは全て中止 その後、6月20日になってようやく小池知事は、都内で予定されていたオリンピック・パラリンピックの井の頭会場、都立(大学)、調布、集合型のライブサイトその他のパブリックビューイングをすべて中止すると表明した。当然の決定だ。 (注2)東京オリンピックに対する世論調査 朝日新聞が6月26日・27日に行った東京都民を対象とする世論調査は、次の通り。 問1.東京オリンピック・パラリンピックをどうする? → (1) 今夏に開催38%、(2) 延期すべき27%、(3) 中止すべき33% 問2.今夏開催するなら観客数は? → (1) 観客なし64%、(2) 制限する30%。 (注3)東京オリンピックは無観客に 7月23日の東京オリンピック開幕を間近に迎えた7月8日、政府、東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の5者は代表者会議を都内で開き、4度目の緊急事態宣言が出る都内の会場は無観客とすることを決めた。引き続いて開かれた関係自治体との協議会で、まん延防止等重点措置が適用されている神奈川、千葉、埼玉の会場も無観客とすることに決まった。合わせるとこれで、1都3県の34競技会場が無観客開催となる。 しかし、これで話は収まらず、その後、当初は観客を入れる予定だった北海道と福島県も無観客での開催となった。ただし、茨城県と宮城県は、ごく限定的ながら観客を入れる方向だという。 (4)尾身の乱は残念ながら不発 6月17日夜の菅義偉首相の記者会見に同席した尾身茂分科会は、「私は、今、また非常に重要な時期に差し掛かっているので、国民に、これから一般の市民にお願いをするというときに、国や自治体が、今、私が申し上げたようなことですよね。検査をする、それからQRコードを使う、そうした科学技術をフルに使ったこと、今まで以上に国と自治体がリーダーシップをとってやるのだと、その上で国民にお願いをするということで、今までよりも、もう一歩強い国のリーダーシップ、自治体のリーダーシップが、私は今この時期に求められていると思います。」と、例の通り建前の一般論を繰り返すにとどまり、東京オリンピックの開催については、ものの一言も触れなかった。 かくして、国民が期待していた「裸の王様」になっている首相にご意見して東京オリンピックの延期や中止」を求める「尾身の乱」は、不発に終わったようで、尾身さんはまた元の御用学者に戻ってしまった。東京オリンピックは、もうどうにも止まらない。ワクチン接種もとうてい間に合わない。このままで行けば、感染拡大の第5波が1ヵ月半後に来るのは確実だ。特に私たち高齢者は、それまでに身を低くしつつ、第2回目のワクチン接種をしておくしかない。 (5)尾身会長ら専門家の提言 尾身茂会長その他26名の専門家が、6月18日に、政府と大会組織委員会に提出した「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に伴う新型コロナウイルスの感染拡大リスクに関する提言」の要約は、次のとおり。(提言書本体、提言書データ編) 1.多くの地域で緊急事態宣言が解除される6月20日以降、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、本大会)期間中を含め、ワクチンの効果で重症者の抑制が期待できるようになるまでの間、感染拡大及び医療逼迫を招かないようにする必要がある。ワクチン接種が順調に進んだとしても、7月から8月にかけて感染者および重症者の再増加がみられる可能性がある。また、変異株の影響も想定する必要がある。 2.本大会は、その規模や社会的注目度が通常のスポーツイベントとは別格であるうえに、開催期間が夏休みやお盆と重なるため、大会開催を契機とした、全国各地での人流・接触機会の増大による感染拡大や医療逼迫のリスクがある。 3.観客の収容方法等によっては、テレビ等で観戦する全国の人々にとって、「感染対策を緩めても良い」という矛盾したメッセージになるリスクが発生する。大会主催者におかれては、このことを十分に考慮して、観客数等を決定して頂きたい。 4.無観客開催は、会場内の感染拡大リスクが最も低いので、望ましいと考える。もし観客を収容するのであれば、以下の3つの点を考慮いただきたい。 イ) 観客数について、現行の大規模イベント開催基準よりも厳しい基準の採用 ロ) 観客は、都道府県を越えた人々の人流・接触機会を抑制するために、開催地の人に限ること、さらに移動経路を含めて感染対策ができるような人々に限ること ハ) 感染拡大・医療逼迫の予兆が探知される場合には、事態が深刻化しないように時機を逸しないで無観客とすること 5.大会主催者は行政機関とも連携し、不特定多数が集まる応援イベント等の中止と飲食店等での大人数の応援自粛の要請と同時に、様々な最新技術を駆使した「パンデミック下のスポーツ観戦と応援のスタイル」を日本から提唱して頂きたい。 6.政府は、感染拡大や医療の逼迫の予兆が察知された場合には、たとえ開催中であっても、躊躇せずに必要な対策(緊急事態宣言の発出等)を取れるように準備し、タイミングを逃さずに実行して頂きたい。 7.大会主催者及び政府は、これまで述べてきたリスクをどう認識し、いかに軽減するのか、そして、どのような状況になれば強い措置を講じるのか等に関する考え方を、早急に市民に知らせ、納得を得るようにして頂きたい。 8.大会主催者は、本見解の内容をIOC(国際オリンピック委員会)にも伝えて頂きたい。 報道によると、専門家の間で東京オリンピックの開催の有無についても言及すべきだとの意見があったとのことだが、結局、開催されることを前提にしたこの形となったという。こういうのを竜頭蛇尾、あるいはアリバイ造りというのだろう。 日本はなぜこんな無責任体制になったのだろうか。いやいや、振り返ってみれば、太平洋戦争の開戦時も、言うべき立場にある人が何も言わずにただ流れに任せたから、あのような悲惨なことになったのではないだろうか。それと同じことがまた起こっているようだ。首相に逆らうと、官僚は首になり、与党議員は選挙時の公認を得られずに落選したりするから、五輪に反対と言いにくいかもしれない。専門家なら、そういうリスクはないはずだから、もっと自由に言うのかと思ったら、どうも「空気を読んで忖度」してしまったようだ。 (60は令和3年 6月8日記、(3)注は、7月14日追加) 61.五輪前に緊急事態宣言を解除し規制緩める愚行 (1)第3回目緊急事態宣言を早々と解除した狙い 政府は6月17日、それまで10都道府県に出していた新型コロナウイルス緊急事態宣言を、沖縄県を除き予定していた期限の6月20日で解除することを決定した。その解除後は、北海道、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7都道府県については「まん延防止等重点措置」に切り替え、宣言を延長する沖縄県とともに、7月11日までこれを適用することを併せて決めた。しかし、岡山県と広島県については切り替えずに20日で全面解除となる。なお、東京都と隣接してこれまで「まん延防止等重点措置」を適用してきた埼玉、千葉、神奈川の3県も、7月11日までその期限を延長することを決める一方、岐阜県と三重県は予定していた期限の6月20日で解除することにした。 その第2回目の緊急事態宣言が解除された3月21日の全国の感染者数は1,118人だったが、今回の第3回目の緊急事態宣言の解除前日の同感染者数は、1,520人であり、前回の解除時を36%も上回っている。まだこれほど高い水準なのに解除してしまうと、また前回と同様に1ヶ月もしないうちに再び感染者数が激増し、それはまさに東京オリンピック開催の7月23日頃ではないかと思われる。一体、何をやっているのかという気がする。 政府は、東京や大阪の緊急事態宣言を解除してまん延防止重点措置に移行する際、イベントの入場者数について、それまでの「収容人数の50%を上限に最大5千人まで」としていたのを上限を「1万人」に緩和すると公表した。もちろん感染状況が悪化した場合は「無観客」開催も検討するとしているが、おそらくこれが狙いだったのだろうと思う。要するに、東京オリンピックの無観客開催を避けるための早期解除である。国民の命を文字通り「ないがしろ」にするありえない決定だ。 (注)その後、6月21日になって、政府、東京都、日本オリンピック委員会、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の5者協議が行われ、競技会場の観客数の上限は、定員の50%以内で最大1万人とすることになった。もっとも、これは一般の観客数であって、大会関係者やスポンサー関係はまた別だという説明なので、実際にはこれよりかなり増えるものと考えられる。 (2)東京オリンピックによる感染拡大のおそれ 東京オリンピックには選手や大会関係者として外国から11万人も訪れるという話だが、「彼らは来る前にワクチン接種をし、PCR検査の陰性が確認されてから来るし、日本に到着しても『バブル』の中、つまり外界から隔絶された環境の中で生活や競技をする。また、海外からのメディアも居場所をGPSで常時管理するから、これらの人からは感染が拡がらない」というのが暗黙の了解となっていて、日本の政治家のみならず一部の専門家も素顔にそれを信じているようだ。6月17日の首相記者会見で、次のようなやりとりがあった。 (記者) RADIO FRANCEの西村と申します。総理大臣に質問させていただきます。 総理は何度もワクチンを前提にせずに安心・安全な大会が可能だと言いましたが、結局、ワクチンなしには無理でした。でも、ワクチンがあっても100パーセント安全性を確保することはできません。したがって、マスコミも選手たちも自己責任で参加します。 例えば無償でマスクを確保するのは難しい。ホテルも隔離施設ではなく、そのノウハウとか徹底した対策を採るのは無理があります。参加者の行動をGPSで管理すると言われても、あくまでスマホの位置情報であり、人間の行動と異なります。結局、感染対策が不十分だと言う専門家が多い。なぜ、感染拡大のリスクや死者が出るリスクがあっても総理大臣は開催するのは大丈夫と思っていますか。その理由は何ですか。ノーと言えないことでしょうか。それともプライドでしょうか。又は経済の理由であるでしょうか。よろしくお願いします。 (菅総理) ノーも、プライドも、経済でもありません。しっかり、日本においては、そうした外国から来られた方を、感染対策を講じることができるからであります。選手の皆さんはワクチンを打って来られます。選手を始め関係者の皆さんは来られる。そうした人たちも日本に入る前に2回PCR検査、入国時に検査、それから3日間、また、選手は毎日検査します。それだけ厳しい、まず対応をするということが1つです。 それと同時に、メディアの方です。メディアの方は1つのホテルに集約を、貸切りのホテルに入っていただいて、そこで組織委員会でそのメディアの人たちに対応する職員によって。さらにまた、移動については車両で移動する、その車両の運転手についてもワクチンを接種して、心配のないような形、あるいはアクリル板で運転席と客席を離したところでやる。そういう対応をしっかりやります。これについて守ってくれない人は国外退去もしてもらいたい、もらいます。そうしたことをしっかりやりますから、リスクは、海外から来られた方というのは、非常に少ないと、このように思います。 しかし、海外メディアよりもずっと厳しく管理されているはずの選手団でも、現にこういうことが明らかになった。「東京オリンピックの事前合宿のため、6月19日夜、成田空港に到着したアフリカ・ウガンダの選手団の1人が、空港でのPCR検査で新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。海外の選手団で感染が確認されたのは初めてです。・・・ウガンダの選手団は全員、現地でアストラゼネカ製のワクチンを2回接種しているほか、出国前、72時間以内に受けた検査の陰性証明書を取得していたということです。」(NHKニュース2021年6月20日) 更にまた、「東京オリンピックの事前合宿のため来日し、大阪泉佐野市に滞在しているアフリカ ウガンダの選手1人が、新たに新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。ウガンダの選手団の感染確認は6月19日に来日した際、成田空港で1人が確認されたのに続き2人目です。大阪 泉佐野市によりますと、新たに感染が確認されたのはウガンダ選手団の20代の選手で、22日行ったPCR検査の結果、23日にわかりました。 」(NHKニュース2021年6月23日) これは、今回の大会に備えて来日した選手団のまだ第2例目にすぎない。それで、もうこのようなことが起こっている。だいたい、日本では紙に書かれている「証明」なるものを簡単に信ずる傾向があるが、そんなもの簡単に偽造されるし、お金を出せばいくらでも買えるというのは国際的常識である。特に大学の卒業証明書などが多い。それなのに検疫で「検査の陰性証明書」なるものを簡単に信用して入国させるというのは、愚の骨頂である。このウガンダの選手団がそうかどうかは知らないが、これほど立て続けに陽性者が見つかると、あるいはそうかもしれないと思う。ワクチン接種証明書も疑ってかかる必要がある。 (3)バッハ会長に一泡吹かせたらどうか これから百何十ヶ国・地域がやってくる。こんな体たらくでは、どうなるのかと考えただけで恐ろしい。首相やオリンピック組織委員会が言っている対策には、大きな綻びがあるのではないか。このまま東京オリンピックに突入するのは既に規定路線で首相には変える気は全くないようだが、それで命が危険にさらされるのは国民であり、それを首相は全然気にかけず、一切のことを捨て去ってともかく開催に向けて突き進んでいるのが、私にはますます怖く感ずるのである。これでは日本の首相なのか、それとも国際オリッピック委員会のバッハ会長の操り人形なのか、わからないではないか。 確かに東京都は開催都市契約で中止の権限はないかもしれないが、入国管理と検疫の権限を握っているのは国である。国際オリッピック委員会に対してもっと主体的に注文を付けて、ぎりぎりまで入国者を絞るなど、積極的に渡り合うこともできたはずだ。極端にいえば、例えば、入国を認めるのは選手だけ、大会関係者やマスコミや大会スポンサー企業などは一切お断りとすると、これはバッハ会長もこたえるだろう。 ただでさえGHQ司令官に比肩されるほど傍若無人な振る舞いをしている国際オリッピック委員会トップに一泡吹かせることができれば、国民の溜飲が下がり、大いに評価されるはずだ。そういう国民の気持ちを代弁したり、その命を守ったりする努力を全くしないで、あるいは無能のために対抗手段を考えることなど思いもつかなくて、ただ単に無為無策で多くの感染国からの入国を認め、感染防止といっても緩々のおざなりのコントロールしかせず、そして7月23日の東京オリンピック開幕の日を迎えることが、国民のひとりとしてとても恐ろしく、また非常に残念な気がするのである。 (4)天皇陛下が東京オリンピックによる感染拡大をご懸念 西村泰彦宮内庁長官は、6月24日の定例記者会見で、「オリンピックをめぐる情勢につきまして、天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を、大変ご心配されておられます・・・国民の間で不安の声があるなかで、ご自身が名誉総裁をおつとめになるオリンピック・パラリンピックの開催が感染拡大につながらないかご懸念されている、ご心配であると拝察をいたします・・・私(宮内庁長官)としましては、感染が拡大するような事態にならないよう、組織委員会をはじめ関係機関が連携して感染防止に万全を期して頂きたい」と述べたという(NHKニュース同日付け)。 これは、極めて微妙な発言である。天皇陛下は、国事行為を内閣の助言と承認の下に行われなければならないことが憲法上規定されていて(3条、4条)、当然のことながら、政治的発言は控えなければならない。その点、宮内庁長官のいわば「勝手な拝察」という形で、結果的にそのご意向を示されたのではないかという気がするからである。 しかし、それ以上に驚くのは、この「拝察」に込められた皇室からの国民に対するメッセージである。天皇陛下は、東京オリンピック・パラリンピックの名誉総裁ということなので、開会式に当たっては何らかの「お言葉」を述べられることになるのは、これまでの前例からして明らかである。これは、もちろん限定列挙されている国事行為ではないのは言うまでもなく、他方「私的行為」というべき性質のものでもないことから、いわゆる「公的行為」であるとされている。すなわち宮内庁長官の補佐の下に天皇の意思で行う国の象徴としての行為であり、その責任は内閣にある。とすれば、天皇はその自らのご意思に逆らって、開会式に出席して「お言葉」を述べざるを得ない羽目になる。 これは、今の憲法秩序からしてやむを得ない。もちろん「お言葉」自体はおそらくごく簡単な素っ気ないものとするだろう。しかしそれでも、東京オリンピック・パラリンピックによって感染が大爆発しているような環境で行われた場合、開催自体が国民の怨嗟の的になり、ひいてはその非難の矛先が天皇ご自身にも回って来ないとも限らない。 だからオリンピックまであと1ヶ月というこのギリギリの段階で、皇室としては開催による感染の拡大を心配しているというメッセージを側近の視点ということで、あらかじめ表明しておきたいということなのだろうと推察する。内閣にとっては、頭の痛い問題だろう。 皇室を意のままにしようと官邸から送り込んだ長官が、いつの間にか反旗を翻して皇室側に立ってしまったのだから。 内閣としてはこの問題の沈静化を図ろうと躍起になっている。早速、加藤勝信官房長官は、同日午後の記者会見で「宮内庁長官ご自身の考え方を述べられたと承知している。東京大会では、安全・安心な大会を実現し、国民の皆さんに安全だと思っていただけるよう取り組んでいくと申し上げてきた。引き続き、関係者と緊密に連携し、安全・安心な環境を確保することを最優先に、大会に向けた準備を着実に進めていきたい」と述べたという(NHKニュース同日付け)。また、菅首相は、「長官ご本人の見解を述べたと理解している」とした(同、翌日付け)。 しかし、何の根拠もなく宮内庁長官が独自にそのような発言をするとは考えられず、やはり天皇の強いご意向を踏まえて、この際言わなければということでやむなく発言したものと思って間違いないだろう。天皇と内閣との板挟みは、なかなか辛いものがある。 それにしても、西村宮内庁長官は、よくやった。先日の「尾身の乱」は不発に終わったが、今回の「西村の乱」は、かなり良く練られて実行に移された形跡がある。こうしてみると、百戦錬磨の政治家でもなかなか思いつかないような上策である。果たしてこれは、今上天皇陛下お一人のお考えなのか、それとも上皇陛下がご示唆されたのかなどと邪推してしまうほどである。 (5)薄氷の上にいる自覚があるのか 6月25日の朝日新聞は、官邸内のやり取りをまるで見てきたように報じていた。 東京などの緊急事態宣言が延長された5月半ば以降は、首相に中止を求める直言も相次いだ。 「この状況を考えれば、中止も仕方ありません」「中止で支持率はマイナスになりません」。何人もの閣僚らが、この1カ月ほどの間に首相に五輪中止の決断を迫ったと証言する。だが、そうした声はみな退けられた。「ワクチン接種を加速させる」「感染者数は6月に減るはずだ」。首相はそんな決意の言葉を繰り返したという。 夏の五輪・パラリンピックは、9月に自民党総裁の、10月に衆院議員の任期を迎える首相にとって、この1年の総仕上げとなる。五輪の成功を背に衆院解散・総選挙に臨んで、長期政権の足場を築く。昨秋、安倍晋三前首相から政権を引き継いだ際に打ち立てたシナリオに、かたくなにこだわる。 首相は、長く東京大会の準備を重ねた前政権の継承者でもあった。五輪から身を引けば、自らの足もとがどうなるか。「見直し」と「実施」のリスクをはかりにかけ、首相の針はなお実施の側に振れた。 先の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で五輪への支持をとりつけ、ワクチン接種も軌道に乗る。「首相は楽観シナリオを信じている」。首相周辺は、五輪に突き進む首相の様子をそう語る。 だが、東京には「第5波」の予兆がちらつく。首相が繰り返し強調するワクチンの効果は、政府内でも「五輪には間に合わない」(官邸幹部)との見方が一般的だ。 自民党内では、首相の先行きを危ぶむ声がじわりと広がる。党幹部は「『安心・安全』を実現できなかった責任をとって退陣となるかもしれない」。閣僚経験者は「薄氷の上にいる自覚があるのか」といぶかる。 当の首相は最近、周辺にこんな考えも漏らした。「五輪は、やめるのが一番簡単なんだ。でも、ここまで来た。全部やめるわけには、やっぱりいかない」 いやもう、大した描写力だが、閣僚の一部が首相に五輪中止を進言したということは他のメディアでも報じられているから、それは本当かもしれない。それと、なぜ首相は五輪にそれほど固執しているのかという推察をないまぜにして、上手く書いたものと感心した。 しかし、この記事の文章の最後に「薄氷の上にいる自覚があるのか」という部分は私も全く同感で、首相は果たして鈍感なのか馬鹿なのか、よくわからない。たぶん後者なのだと思う。しかし、その結果が退陣など本人だけの問題であるのなら、ただ放っておけばよいが、第5波が来襲し感染急拡大による医療崩壊が起こるのはまず間違いないけれども、そうすると事は国民の人命に関わる問題になる。一体どうしてくれるのかという気がする。 (61(1)から(3)までは令和3年 6月20日、(4)は6月25日、(5)は6月27日記) 62.ワクチン接種が急速に進むがまだ世界に及ばず (1)6月22日現在の世界のワクチン接種状況 世界のワクチン接種状況を表す指標については色々ある。その中でまず人口100人あたりの接種回数を見ると、最も多いのがチリであるが、これは中国のシノバック製であるしこれだけ打っているにもかかわらず再び大流行しているので、ちゃんとしたワクチンかどうかは疑わしい。そこで、それを除くと、イギリス、アメリカ、カナダ、ドイツ、イタリア、スペイン、フランスなど欧米先進国が上位に来て、いずれも70回以上である。次にトルコ、モロッコ、ブラジル、アルゼンチンが40回台と続く。その後に来るのが30回台の韓国とメキシコである。日本はというと、更にその下の20回台で、なんとロシアと並んでいる。これでは中進国並みではないか、全く情けない。 6月9日に行われた国家基本政策委員会合同審査会(いわゆる党首討論)において、菅義偉首相はワクチン接種につき、次のように述べた。 「現在、全国の自治体や、さらには医療関係者の皆さんの大変な御努力によって、ワクチン接種が順調に進んでいます。昨日は100万回を超えてきました(※)。まさに一定の方向を示すと、日本の国民の皆さんの能力の高さ、こうしたものを私自身今誇りに感じております。 昨日までで合計約2,000万回に近くなっています。重症化しやすい高齢者の皆さんは7月中には接種完了する、1,700を超える日本の市町村の中で98%が7月いっぱいで超えられる、そうした報告を受けております。そして、重症化しやすい高齢者の皆さんは7月いっぱいで終えるわけ、終えるという方が大部分ですけれども、現場の逼迫というのはそうしたことによって大幅に改善をされると思います。 また、この6月21日からは、職場や大学で産業医の皆さんを中心に集団接種が始まります。少なくとも今月末には4,000万回は超えることができるというふうに思っています。そしてまた、そうした体制を維持することによって、今年の10月から11月にかけては必要な国民、希望する方全てを終える、そうしたことも実現したいというふうに思います。」 当初、私は、ワクチン接種に右往左往する地方自治体の残念な姿を見て、一日100万回などというのはまず無理だと思っていた。ところが、党首討論では菅首相は100万回と言った(※)。党首討論用に無理して瞬間風速で出したのかもしれないが、いずれにせよ河野太郎ワクチン接種担当大臣は、実力は一日80万件だという。 そういうわけで、6月22日現在のワクチン接種の実績は、国内で1回目の接種を終えた人数は合わせて2,315万8,516人で、割合にすると日本の全人口1億2,557万人のうち18.22%であり、更にこのうち、2回目の接種を終えた人数は合わせて976万3,776人で全人口のうち7.68%となっている。 ところで、イスラエルや英国などのワクチン接種と感染者数の推移を比較して分析すると、どちらも、1回目の接種率が国民の4割前後に達すると、明らかに新規感染者数が減少傾向を示している。ところが日本は、この調子で首相の言う通り一日100万回の接種ができたとしても、東京オリンピックが開かれている7月下旬時点ではまだ3割に届くかどうかである。たった3割では、感染抑制効果は不十分だと考えられている。 (3)6月21日から職域接種が開始 今回、地方自治体による実にのんびりとした接種に任せておいてはいつまで経っても接種が終わらないと考えたせいか、政府は企業や大学等が主体となって、その職場で接種を行うことを認めるということになった。ただし、規模は1,000人以上で、打ち手と会場はその企業が用意すること、その費用(上限あり)は国が持つということになった。これはかなり有効な施策で、地方自治体が送ってくる「接種券」は必要ないとされたこともあって、接種数をかなり押し上げしそうである。 加藤官房長官によれば、「この職域接種は、6月18日の午後5時の時点で、3,479会場から申請があり、予定の人数は、およそ1,373万人となっている。このうち、大学からの申請は179会場で、予定人数は、約134万人とのことである。中には、ANAやJALのように21日の約1週間前から既に開始している企業があるが、これらを含めて今日(6月21日)までに接種が開始される会場数は266会場で、これらの会場での接種予定人数はおよそ263万人と聞いている」のこと。 6月21日に開始した企業等は、次のとおり。日本郵政グループの本社(最初は窓口担当者から)、虎ノ門ヒルズ(ビルに入るテナントの従業員、マンションに入居する住民らも含む)、トヨタ自動車の本社(まずは外部との接触の機会が多い警備員や通勤バスの運転手、次に社員、更には自社で職域接種を行うのが難しい取引先の社員)、イオン(千葉市美浜区にあるショッピングモールで、社員のほか近隣の店舗やテナントの従業員)、楽天グループ都内の本社(従業員やその家族、できるだけ早く近隣住民)。ということで、自社の社員のみならず、取引先や近隣住民など思ったより幅広く接種してくれるようだ。こうした企業努力に大いに期待したい。 (4)打て打てと発破かけたがタマがない これは、朝日川柳(6月25日付け)に載っていた神奈川県の赤木不二男さんの作である。どういう意味かというと、政府は5月以来、高齢者に対するファイザー製ワクチンの接種を行ってきており、それに加えて6月21日からはモデルナ製ワクチンの職域接種を積極的に推進してきた。まさに、「どんどんいくらでも申請してくれ」といわんばかりであった。すなわち、「打て打てと発破かけ」ていたというわけである。 ところが河野太郎規制改革相は、6月23日の記者会見で唐突に、「企業での職場接種の新規受け付けを25日午後5時で一時休止する」と発表した。申請が殺到し、モデルナ製ワクチンを供給できる量の上限に達しそうだからだという。つまり、「タマ切れ」だというわけだ。これは、職域接種を準備していた企業等には、全くの寝耳に水であった。あたかも最大巡航速度に達しようとしているときに、突然ブレーキをかけられたようなものだ。既に申請を終えている企業にとっても、申請通りにワクチンの配送がされるのか、疑心暗鬼を招く結果となった。いい加減で無計画で無責任な今の政府の犠牲になったということだ。 ファイザー製ワクチンは市町村に配布され、6月から9月にかけて7,000万回分確保の予定である。ただ、市町村レベルでは、かなり在庫が偏在しているものと見られる。 モデルナ製ワクチンは、6月末までに4,000万回分確保の予定だが遅れが見受けられ、7月から9月にかけて1,000万回分確保の予定だという。今回の予約の一時休止は、主にこの遅れが原因とみられる。 このほか、アストラゼネカ製のワクチンが1億2,000万回確保されているが、日本では5月21日にモデルナ製とともに承認されたものの、まだ集団接種は認められていない。欧米では特に若者に脳血栓の副作用が何件かあったからだと言われている。なお、2回接種をした時の発症予防効果は、ファイザー製とモデルナ製ワクチンが95%程度であるのに対して、アストラゼネカ製のワクチンは80%程度だという。 6月28日現在の日本国内の接種人数の累計は、次の通り。2回目終了がやっと10%を超えたばかりだ。 1回目は、2,804万9,718人 (全人口に占める割合は、22.06%) 2回目は、1,378万7,345人 (全人口に占める割合は、10.84%) 世界のワクチン接種の状況を表した次のグラフを見ると、この6月に中国が急速に伸びている。アメリカはそろそろ天井に近づきつつある。5月に患者が激増して酷い状況となったインドは、ようやくワクチン接種が上向きつつあって、アメリカをすぐに追い越して世界第2番目になる勢いだ。これらに比べれば、日本のワクチン接種数の伸びは、まだまだ低いといえる。 (61(1)から(3)までは令和3年 6月22日、(4)は6月28日記) 63.ワクチン供給が需要に追いつかず
これは、本当か、にわかには信じがたい。ワクチン接種をした腕が熱くなって温度が上がり、それで汗をかいてそれが磁力のように鉄製品を引き寄せたのではないかと思うが、どうだろうか。いやいや、汗ぐらいでペンチがくっつくはずがない。それとも両面テープで貼ったのだろうか。 【7月14日現在】 64.第4回目の緊急事態宣言発出
65.金融機関から飲食店に圧力かけよとは?
66.感染急拡大で緊急事態宣言延長拡大
これというのも、東京オリンピックの開催で新型コロナウイルスへの警戒感が薄れたこと、夏休みで帰省や旅行が増えたこと、それに東京では感染力が1.5倍も強いデルタ型の変異ウイルスに8割以上も置き換わったことなどが影響しており、東京や神奈川や沖縄ではもはや医療崩壊のレベルになりつつある。
(6)新型コロナウイルス感染の急拡大は止まらず、今や感染爆発という局面を迎えている。とりわけ、オリンピックが始まった7月下旬からは感染者数がうなぎ登りに増え、8月18日には1日当たりの全国の感染者数が2万3,917人を超えて過去2番目を記録し、とどまるところを知らない。東京では、デルタ型が98%を占めるようになった。
このため政府は、8月17日になって、緊急事態宣言の対象地域を従来の東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、沖縄の6都府県に加えて、新たに茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡の7府県を追加して3都府県とすることを決定した。
(1)原則として自宅療養の発表
8月8日のオリンピック閉幕の前後に行われたNHKの世論調査(8月7日〜9日)によると、「菅内閣を『支持する』と答えた人は、先月より4ポイント下がって29%で、去年9月の内閣発足以降最低を更新しました。一方、『支持しない』と答えた人は、6ポイント上がって52%で、発足以降、もっとも高くなりました」とのこと。だから、言わんこっちゃない。
(7)東京都内の医療機関に対し病床確保要請
(63から65までは令和3年 7月14日、66は8月3日、67(1)から(4)までは8月9日、(5)は8月20日記)
68.デルタ型の蔓延で集団免疫が遠のく
これを見ると、新型コロナウイルスのデルタ型の感染力は、在来型より格段に強く、おたふく風邪どころか、水ぼうそう並みである。その結果、集団免疫閾値は80%〜87%と、在来型の60%から格段に上がってしまった。
(68は、令和3年 8月13日記、25日追記)
69.数々の失政の末に菅首相が不出馬
(69は、令和3年 9月4日記)
70.第4回目宣言の再延長とワクチン接種5割超え
確かに、次の図のようにオリンピック・パラリンピック期間中(7月23日〜8月8日、8月24日〜9月5日)は、東京都の感染者数は最大で一日当たり5,773人(8月13日)にものぼっていたが、翌月半ばの9月16日には1,052人へと激減している。日本全体としては、8月20日の25,868人を最高に、9月15日には6,802人と、ほぼ4分の1となっている。それは良いのだが、ピーク時の患者への対応で医療提供体制などの5つの指標は、やや減少傾向にあるとはいえ、まだまだ真っ赤の状況が続いている。宣言の延長は、やむを得ないものと思われる。
(注)9月19日、国内の2回目のワクチン接種を終えた人の割合は、54.8%となったのに対し、アメリカはこの日までに54.7%だったので、日本はとうとうワクチン接種率でアメリカを上回った(日本経済新聞 9月22日付け)。日本は、1日100万人のペースで接種が進んでいるのに対して、アメリカは特に共和党支持者の接種率が低かったり(まだ30%程度)、あるいは宗教上や自由重視等の理由で接種しなかったりするので、これから大きく接種が進むことはまずないと見られる。
(70は、令和3年 9月15日記。25日追加)
71.羽田空港での検疫と自宅自主隔離の実態
(71は、令和3年 9月18日記)
72.第5波(五輪波)の終息と宣言の解除
ただし、解除されたといっても、東京など首都圏の1都3県では、感染対策の認証を取得した飲食店に限り午後8時までの酒類提供を認める。営業時間は百貨店やイベント施設を含めて午後9時までに短縮するよう求めるものとされた。
他の先進国と比べて遅れに遅れていたワクチン接種が、先行する諸外国にようやく追いつきつつある。日本で2回目を接種した人の割合は、63%を超えた。1回目を接種した人の割合は72%を超えているから、最終的には少なくともこの水準までは行くものと思われる。
諸外国のワクチン接種状況をみると、アメリカは、55%で足踏みしている。欧州では、イギリスとフランスで2回目を接種した人は66%、ドイツは64%、イタリアは68%であるから、日本はこれらの国と同等にはなるだろう。ただし、スペインは78%だ。日本も、接種が進めばこのスペイン並みになるかもしれない。ただし、これで安心してしまっていはいけない。国民の8割近くが接種を終えたというイスラエルやシンガポールでも、デルタ株による感染の急拡大に直面していることを思えば、日本でも3回目の接種が早晩必要になるものと思われる。
(72は、令和3年10月8日記)
73.第6波までの束の間の休みか?
11月10日の新規感染者数は205人である。わずか2月半前の8月21日が25,866人だったことを思えば、もう激減と言ってよい。その理由について、専門家の間では色々な説がある。
Twitterを見ていると、Eric Topolという人が、スペイン、UAEそして日本で感染が激減した理由として、「ワクチン接種が進み、しかも78%から89%という高い率で接種が終わり、加えて感染対策が継続して行われていること」を挙げていた。
(5) 元々マスクをするのに抵抗がある欧米の人々とは異なり、日本人は花粉症などでマスクに抵抗がないので、感染が下火になっても、相変わらずマスクをして外出しているなど、行動に気をつけている。これに対してイギリスでは、1日当たりの新規感染者数が10月20日の4万8,545人をピークに11月6日には3万0,150人まで下がったが、行動制限を全てなくしてしまったことから、また徐々に上がり始めて8日には3万2,785人となって再び問題になりつつある。ドイツでも、11月10日、1日当たりの新規感染者数が1週間前の2倍近い3万9,676人に増えて過去最高を更新し、死者も200人を超えた。ドイツのワクチン接種率は66%だが、これでは感染防止の効果はまだ上がらないようで、未接種者を中心に感染が広がるとともに、接種開始から時間がたったことで接種済みの人の感染も増えつつある。
(73は、令和3年11月16日記)
74.オミクロン株とブースター接種
11月25日に南アフリカの保健当局は、首都プレトリアのほかヨハネスブルクのあるハウテン州で、新たな変異ウイルスが見つかったと発表した。翌日、世界保健機関(WHO )によって「オミクロン株」と名付けられたこの変更株は、同時に「懸念される変異株」に指定された。「オミクロン株はウイルスの表面にある『スパイクたんぱく質』という突起のような部分に、これまでの変異ウイルスの中で最も多い30か所の変異が見つかっていて、このほかにも遺伝子の一部が欠損するなどしている」という(NHKニュース)
シンガポールでは9月から3回目の接種を始め、これまでに人口の4分の1が接種を終えた。当初は2回目の接種から半年が経過した60歳以上が対象だったが、方針転換をして5ヶ月が過ぎた30歳以上を対象に接種を進めている。すると、10月26日の前後1週間の感染者数が1日当たり3,481人に上っていたものが、12月5日になると1日当たり552人まで下がっている。ブースター接種の効果であろうと言われている。
ドイツでは、18歳以上を対象に2回目接種から6ヶ月後のブースター接種を原則とし、もしワクチン供給が十分であれば5ヶ月後からのブースター接種を目指している。フランスも、成人全体にブースター接種を呼びかけることにしており、従来6ヶ月としていた2回目接種から3回目の間隔を5ヶ月する方針である。接種が頭打ちのアメリカでも、9月以降、高齢者らを優先してブースター接種を進め、12月初めには18歳以上の22%が終了している。
(注)12月6日の岸田文雄首相の所信表明演説(新型コロナ対応の抜粋)
(9)第6波感染のシミュレーション
(10)ワクチン接種証明書
なお、海外用の証明書もついでに発行してもらおうと考えた。ところが、私のパスポートが、他に預けてあるから、手元にないのである。さてどうしようかと思った。その時、パスポートの写真があるのを思い出し、これで試してみることにした。駄目で元々だ、やってみよう。国内用と同じ手順を踏んだ後、パスポートの読み取り画面が出た。予めiPadに表示していたパスポートの写真を読み込ませた。すると・・・読み込んでくれた。あれ・・・意外と簡単だった。アプリというのは、こんなに容易に騙せるのか・・・。もう呆れたのなんのって。デジタル庁さん、大丈夫か?
(74(1)から(4)までは令和3年12月7日著、(5)から(8)までは同月17日追加)
75.オミクロン株による第6波が遂に到来
(2)先行する南アフリカやイギリスの例
そこで、文京区役所の該当ホームページを見たところ、「追加接種(3回目接種)に係る予約の負担を軽減するため、65歳以上の高齢者の方を対象に、区が接種日時と会場をあらかじめ指定します」とある。その計画によると私は2回目接種完了が6月なので、先月の半ばに接種券が発送済みなっている。まだ絵にかいた餅ではあるが、確かに接種券は来ている。しかし、肝心の事前指定通知が1月13日(木)に送付され、実際に3回目の接種が行われるのが2月以降ということだ。厳密に言えば、既に7ヶ月すら過ぎている。接種しても免疫が付くのに2週間はかかるから、こんなのんびりとした調子では、2月中に免疫が付くかどうかだ。どうしてこんなに遅いのかと、不満がつのる。
(6)接種間隔を更に1ヶ月ずつ前倒し
仮に、日本も同じことになるのであれば、私は1月末という感染の最盛期に3回目接種を行い、感染が収まった2月の後半に免疫が付きそうだ。そうだとすると、「一体、何だったんだ、このブースター接種は」となりそうである。もっとも、3回のワクチン接種をしているという安心感は、何ものにも替えがたい。「人からうつされないし、人にもうつさない」という安心感に包まれて、心が平穏に保たれたまま日々過ごすことができるのが、今回のブースター接種のメリットだと思っている。だから、やはり接種は大事である。
(7)まん延防止措置の発動
そこで政府は、既に新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」の対象地域に、1月末までを期限に沖縄、山口、広島の3県に適用していたが、これに首都圏の1都3県と東海3県など合わせて13都県を加えることを1月19日に決定した。措置の期間は、1月21日(金)から2月13日(日)までとされた。措置の具体的な内容は、都道府県によって異なり、午後9時までの営業時間の短縮、酒類提供は午後8時までとするなど、色々である。大阪、兵庫、京都、北海道も近く申請するそうであり、また、感染の急拡大のために、東京都などは緊急事態宣言に切り替えることを検討しているようだ。情勢は、急速に緊迫の度合いを増している。
(9)第6波が猖獗を極める
困ったのは陽性者数の増加に伴い、濃厚接触者数も多くなり、病院のスタッフ、保育園の保育士などがこれに該当してしまうと、仕事が回らなくなることである。そこで政府は、濃厚接触者の待機期間を、従来10日間から7日間に短縮した。これとともに、軽症者で病院があふれて肝心の重症者が入院できない事態を防ぐために、感染が急拡大した場合は、重症化リスクの低い人は医療機関を受診せず、自宅で療養することもあるという方針を明らかにした。
(10)第6波はいつピークアウトするのか
今回の感染を阻止する鍵となるのは、新型コロナウイルスの3回目のワクチン接種である。ところが、日本国内のワクチン接種の全人口に占める割合は、2月10日現在で、わずか7.9%にとどまっている。第1回目接種が80.1%であったのに、これはどうしたことか。市町村の接種会場をみると、取扱いを間違えないようにファイザー製を打つ会場とモデルナ製を打つ会場とに分けてあるが、ファイザーの会場が予約で満杯であるのに対し、モデルナの会場はガラガラだという。その理由として、第1回目と第2回目の市町村の接種はそのほとんどがファイザーだったので、その上で第3回目としてモデルナを打つと、つまり「交互接種」をするのは心配だという心理が働いたのだといわれている。しかも、そのモデルナが今回の3回目接種の60%を占めている。だから、モデルナの会場の人気がないと説明されている。
こうした状況を打開するため、岸田文雄首相は2月7日の衆議院予算委員会で、新型コロナウイルスの3回目のワクチン接種について「2月のできるだけ早期に1日100万回までペースアップすることを目指す」旨を表明した。ところが、これは評判が悪い。感染が落ち着いていた昨年10月から12月まで、一体何をやっていたのかという批判に繋がる。2月8日付け朝日新聞の川柳欄によると、
((1)から(3)までは令和4年1月10日著、(4)・(5)は13日、(6)は15日、(7)は19日、(8)は23日、(9)は30日追加)
76.第6波が収まりきらない内に正常化へ
(3)日本国内の感染者数は、708万3,381人にものぼっており、4月11日にはその日だけで3万3,205人の感染者がでている。未だに、すごい数だ。グラフで感染者数の推移をみると、3月22日までは減少傾向にあったが、それ以降は、徐々に増えつつある。それでも、この時点での3回目のワクチン接種率は、まだ35.1%に過ぎなかった。にもかかわらず、その前日の21日に、すべてのまんえん防止等重点措置を解除してしまった。
そうすると、オミクロン株の中でも、感染力が2割から3割強いBA.2になりつつあり、4月上旬には、東京で7割がBA.2に置き換わったと言われている。4月11日の全国の3回目のワクチン接種率は、まだ46%に過ぎない。なぜこんなにも接種が遅いのか、政府は何をやっているのかという気がする。聞くところによると、菅政権のときには、河野太郎ワクチン担当相がそれなりに頑張ったが、岸田政権では堀内詔子担当相に代わった。はっきりいってこの人は全く無能な人で、ワクチン接種が全然進まなかったのは、そのせいだと言われている。国会答弁がしどろもどろだったことからすれば、そうだろうと思う。
(4)ところで、驚くべきは、隣国である韓国での感染の急拡大である。今年1月には、感染者数は、1日当たり4,443人(4日)、累積で64万9,669人だった。これは「K防疫」と言われ、新型コロナウイルスを完全に押さえ込んだとして、世界から賞賛されていた(ちなみに、その時、日本は1日当たり1,265人(4日)、累積で173万6,651人である)。ところが、その優等生であった韓国では、3月9日に大統領選挙があったせいか、感染者数が3月16日には、たった1日で62万1,317人にものぼった。4月11日の累積感染者数は1563万5,274人にものぼっている。一体どうなっているのだろう。任期満了でやめていく文在寅前大統領による、尹錫悦新大統領への嫌味な置き土産としか思えない。
しかし、それにもかかわらず、政府は、5月21日に新型コロナウイルス対策の緩和策を発表した。その第1は、マスク着用義務の緩和である。屋外でのランニング、子供の鬼ごっこなどの場合には、2メートル以上を目安として距離が確保できるときは例え会話を行うときであってもマスクは必要ないとした。これに対して、距離が確保できない場合には、引き続きマスク着用を推奨する。ただし、徒歩での通勤など屋外で人とすれ違う程度で、会話をほとんど行わないような場合には不要とした。
ちなみに諸外国は、アメリカにしても、韓国にしても、そしてドイツにしても、感染は収まってきている。ヨーロッパや東南アジアでは、新型コロナウイルスはもはや普通の風邪と同じという感覚で、すべての規制は撤廃され、観光業や飲食業は、平常化しつつある。その一方で、中国は未だゼロコロナ政策を堅持しており、上海ではもう2ヵ月も外出禁止令が発せられており、人々は食料が足りなくなって、ひどい目に遭ったという。やり過ぎだ。
((1)から(4)までは2022年4月12日、(5)は5月22日著)
77.第7波が猖獗を極める
1日当たりでは、世界一の感染者数となってしまった。この調子では、総感染者数が欧州各国に肩を並べるのは、時間の問題だとすら、思ってしまう。ただ、各国は、もはや日本ほど真面目に感染者数を数えていないと思われるので、これらの数字そのものが信頼できるかどうかは別問題である。
息子の家では、先月、小学生の孫娘が37.7度の熱を出したので、PCR検査をしたところ、陽性となってしまった。学校の隣のクラスが新型コロナで閉鎖となった直後なので、それと関係があったのだろうと考えられる。可哀想に2日間、高熱と吐き気に苦しめられたものの、3日目に平熱に戻り、それ以降は元気に過ごしている。患者本人は10日間の自主隔離、結局は罹患しなかったが、濃厚接触者の家族は7日間の隔離を強いられたようだ。 (2022年8月3日)
78.第8波の終息・マスク着用義務撤廃・第5類へ分類替え
ただし、厚生労働省は、マスク着用が効果的な場面や着用を推奨する場面などについて「以下のような場合には注意しましょう」としている。
(2023年3月13日) ニュースリリース2月25日に掲載された新型コロナウイルス (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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