1.即位礼正殿の儀に参列
令和元年10月22日、宮中で「即位礼正殿(そくいれいせいでんのぎ)の儀」が粛々と挙行された。既に5月1日には剣璽等承継の儀と即位礼正殿の儀が挙行されているので、それに引き続く今回の儀は「御即位を公に宣明され、その御即位を内外の代表がお祝いする儀式」である。当日は、200人近い外国の元首や祝賀使節を含めて、総数約2,500人が宮殿に参列した。 光栄なことに、私もその一人として招かれ、参列することができた。朝9時半に迎えに来た車に乗って10時過ぎに皇居に着くと、宮殿内を豊明殿に案内され、そこに並べられた数多くの椅子の一つに腰を掛けた。周りの方はほとんど男性で、モーニング・コートに身を包んでいる。目の前は、宮殿の中庭である。残念ながらこの日は雨で、しかも風がますます強くなってきた。 2.当日の中庭と参列者の配置 中庭には色とりどり、形も様々な「旛(ばん)」と呼ばれる旗が縦二列に立てられ、それらが風に吹かれてはためいている。事前の話では、中庭には王朝絵巻のように、武官の装束姿の「威儀(いぎ)の者」や、太刀、弓、盾などの「威儀物(いぎもの)」を持った者たちが並ぶはずだったが、この日は残念ながら雨や風の天候がそれを許さない。 3.儀式直前の様子 さて、外の雨が、しとしととした弱い降りから少し強くなってきた中を、豊明殿の中で大勢の一人として椅子に座ってひたすら待つ。小1時間経ち午前11時になり、更に1時間経ってお昼になった。何も起こらない。更に待つこと30分ほどで、ようやく動きがあった。正殿に向かって左手の北渡から平安時代そのままの衣冠束帯姿で一列になって貴人が歩いてくる。黒い姿の人物に先導されて渋いオレンジ色の衣冠束帯姿の秋篠宮が歩いて来られ、それから十二単姿の同妃殿下、眞子女王、佳子女王が続く。シューシューという聞き慣れない音が聞こえると思ったら、これは絹による衣擦れの音そのものだ。 4.おことばと寿詞 (1)天皇陛下のおことば 上皇陛下が30年以上にわたる御在位の間,常に国民の幸せと世界の平和を願われ,いかなる時も国民と苦楽を共にされながら,その御心を御自身のお姿でお示しになってきたことに,改めて深く思いを致し,ここに,国民の幸せと世界の平和を常に願い,国民に寄り添いながら,憲法にのっとり,日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓います。 国民の叡智とたゆみない努力によって,我が国が一層の発展を遂げ,国際社会の友好と平和,人類の福祉と繁栄に寄与することを切に希望いたします。」 ちなみに、このおことばの時には、不思議なことに降り続いていた雨が止んで空には青い部分が広がり、あまつさえ虹が出たのには驚いた。 (2)安倍内閣総理大臣の寿詞 「謹んで申し上げます。 天皇陛下におかれましては、本日ここにめでたく『即位礼正殿の儀』を挙行され、即位を内外に宣明されました。一同こぞって心からお慶び申し上げます。 ただいま、天皇陛下から、上皇陛下の歩みに深く思いを致され、国民の幸せと世界の平和を常に願い、国民に寄り添いながら、日本国憲法にのっとり、象徴としての責務を果たされるとのお考えと、我が国が一層発展し、国際社会の友好と平和、人類の福祉と繁栄に寄与することを願われるお気持ちを伺い、深く感銘を受けるとともに、敬愛の念を今一度新たにいたしました。 私たち国民一同は、天皇陛下を日本国及び日本国民統合の象徴と仰ぎ、心を新たに、平和で、希望に満ちあふれ、誇りある日本の輝かしい未来、人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ時代を創り上げていくため、最善の努力を尽くしてまいります。 ここに、令和の代の平安と天皇陛下の弥栄をお祈り申し上げ、お祝いの言葉といたします。」 続いて安倍内閣総理大臣の主導で万歳三唱が行われ、我々参列者がこれに唱和する。これに合わせ、「ドーン」、「ドーン」という腹に響く音がしたが、これは皇居に隣接する北の丸公園で陸上自衛隊が礼砲を21発打ち鳴らしたからだと知った。 そういうことで、式次第が全て終了して帰途に着いたが、何しろ参加人数が多いものだから、私の番になって豊明殿から出たのは午後3時を過ぎていて、内閣府を経由して自宅に帰り着いたのは、4時頃になっていた。帰ってモーニング・コートを脱ぎ捨ててから、どうも喉が乾いたなと思ったら、この間、飲まず食わずだったことに気が付いた。世紀の行事に出席させていただいて、固唾を飲んで見ていたので、喉が渇くのも空腹すらも忘れてしまった。まあ、格好のダイエットになったかもしれない。 5.饗宴の儀 (第1回) その10月22日夜は、海外賓客248人を迎えた祝宴「饗宴の儀(きょうえんのぎ)」が宮殿で行われた。これは、両陛下が「祝宴に臨んで即位を披露し祝福を受けられる儀式」といわれる。 宮内庁によれば、「天皇陛下は燕尾服を着用され、『大勲位菊花章頸飾』という最高位の勲章などを身につけられていた。また皇后陛下はローブデコルテというロングドレスを着用し、上皇后さまから受け継いだティアラや勲章を身につけられていた。まず『竹の間』でおよそ1時間にわたって出席者から順番に挨拶を受けられた。その際、挨拶を終えた出席者は『春秋の間』に移動し、食前の飲み物を手に秋篠宮ご夫妻など皇族方と和やかな雰囲気で歓談を行った。ここでは、宮内庁の楽部職員が『太平楽(たいへいらく)』と『舞楽(ぶがく)』を演じたという。また、『松の間』では儀式で使われた『高御座』と『御帳台』を間近で見る機会も設けられた。 それから出席者は皇族方とともに食事会場の『豊明殿』に移り、午後9時すぎ、両陛下が部屋の奥にあるメインテーブルの中央に着席されて食事が始まった。食事は上皇さまの即位を祝った前回をほぼ踏襲した和食で、まつたけやくりなど秋の味覚も取り入れた合わせて9品が出された。食事のあとは『春秋の間』に場所を移し、食後酒やコーヒーなどが出されて、和やかに歓談が行われたということである。宮内庁によれば、この第1回目の『饗宴の儀』の食事は上皇さまの即位を祝った前回をほぼ踏襲する形で、次の和食が供された。この食事の後は『春秋の間』に場所を移して食後酒やコーヒーなどが出される中、和やかに歓談が行われた。」という。 ▽「前菜」は、かすごたいの姿焼きや蒸したあわび、ゆり根、くりなど(扇の形をした木の器に盛りつけ) ▽「酢の物」は、スモークサーモン ▽「焼物」は、アスパラガスの牛肉巻き ▽「温物」は、ふかひれやまいたけが入った茶わん蒸し ▽「揚物」は、かに、きす、若鶏の三色揚げ ▽「加薬飯」は、たけのこやしいたけが入ったたいのそぼろごはん ▽「吸物」の具には、伊勢えびのくず打ちやまつたけ ▽「果物」として、イチゴやマスクメロン、パパイヤ ▽「菓子」として、和菓子 (第3回) 饗宴の儀は、10月22日(火)の第1回に引き続いて25日(金)には第2回、29日(火)に第3回、そして31日(木)に最後の第4回が開催された。実は私は、もう退官しているので、そのうち第3回に招かれた。元議員や地方公共団体の長などと同じグループである。もうこの回になると、もちろんシッティング・ディナーではなく、内容も簡略化されている。 まず松の間に案内されて、高御座と御帳台を間近で見た後、春秋の間に案内された。そこで、立ちながらワイン、日本酒、ビール、烏龍茶、ジュースなどをいただきながら知人友人と雑談していると、雅楽の演奏が聞こえてきた。演目は、「平調音取(ひらじょうのねとり)」、「五常楽急(ごじょうらくのきゅう)」、「越殿楽(えてんらく)」などである。 ともあれ、世紀の慶事に参加することができて、誠に光栄に思った次第である。ところで、即位に伴うパレード「祝賀御列の儀(しゅくがおんれつのぎ)」は、台風19号の被害が大きかったことから、これを踏まえて11月10日に延期された。 6.祝賀御列の儀 7.大 嘗 祭 11月14日の夕方から15日未明にかけて、大嘗祭が執り行われる。天皇が即位後はじめて行う新嘗祭である。これで、剣璽等承継の儀・即位後朝見の儀から始まる一連の行事が終わる。 (出 典) このエッセイ中の写真は、直前の5枚を除き、首相官邸の広報ビデオから複写したものである。 (令和元年10月22日著、同29日、11月10日追記) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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