悠々人生エッセイ



アルピーヌA110S




 東京モーターショー 2019年( 写 真 )は、こちらから。


1.全般的な印象

 東京モーターショーは、2年ごとに開催されており、メモを見ると私は2011年以来、4回、観に行っている。実はその前も、記録はないものの何回か観た記憶があるので、自分では、かなりの自動車ファンではないかと思っている。

 ただ、残念ながら、モーターショーの内容が、次第につまらなくなってきたと思っている。特に今回は、その傾向が強かった。例えば、外国メーカーの出展がない。唯一、ルノーなどが(おそらく日産とのお付き合いの関係で)、日産ブースの真向かいに数台並べていただけだ。一昨年の前回の場合には、ポルシェ、メルセベス・ベンツ、アウディ、フォルクスワーゲンなどが、結構面白い車を展示していたので、様変わりである。

 国内メーカーも、あまり元気がない。例えばトヨタは、レクサスを前回は派手に展示していたが、今回はとても控え目で目立たなかった。その他ホンダ、三菱自動車、スズキなどは、前回までは舞台からのアピールに力を入れていた感があったが、今回はそれほどではなくて、舞台の上はかなり寂しくなった。

 この体たらくは何なのかと思ったが、考えてみると、特に外国メーカーはもう日本市場を見限ったのだろう。それもそれはずで、日本は既に人口減少時代に入り、高齢化が進み、若い人の間ではそもそも自動車に魅力を感じる層が少なくなってきた。かく言う私も、外車でもレクサスでも、買おうと思えばいつでも買えるくらいの資力はできたが、都心に住んでいることから、車は必要ないし買っても逆にお荷物になるばかりだ。

 それに比べて、例えば人口が日本の10倍ある中国では、公共交通機関が未発達である一方、急速な経済発展で自動車を買う余裕がある層が急増しつつある。そこで自動車は必要となるし、充分に買える消費者が育っているが、本格的普及はこれからという段階にある。だから自動車市場としての将来性は、日本より遥かにあるだろう。ということで、やや湿っぽい話になってしまったが、昨今の日中間の経済関係の差が、こんなところにも現れていると思った次第である。


2.主要メーカー

(1)日産グループ

フェアレディZ


真っ赤に塗られたスカイライン


 それでは、見た順に印象に残った車などについて書いていこう。まずは日産だ。目に止まった中に、我々の世代には懐かしいフェアレディZがあった。この車は優雅さで一世を風靡した。若い頃、私もこんな車を買いたいなと思ったものだ。ただ、このフェアレディZに施された今風の赤と白の塗装はいただけない。これでは、まるでピエロではないか・・・古き良きイメージを大きく損ねている・・・と思いながらしばらく行くと、あった。力強い走りで憧れたスカイラインが。これは全て真っ赤に塗られている。車は、やはりこうでなければいけない。

セレナ


電気自動車のリーフ


電気自動車のリーフ


 次にあるのは、セレナか。バンタイプだから、大家族でも乗ることができるし、車椅子対応もできるそうだ。電気自動車のリーフがあった。充電中で、充電ポートが開けてあるのを初めて見た。60分の急速充電で、458kmの航続距離だという。

アルピーヌA110S


 日産の前のブースはルノーだ。黄色い車があったが、説明がないので、よくわからない。その隣に、アルピーヌA110Sという車があった。これは、さぞかしよく走りそうな素晴らしいスポーツカーのように見受けられた。

M1−TECH


K−WAGON


 それから、三菱自動車のブースがあった。ここは3年前に日産グループになってしまった。気のせいか、2年前まではこのモーターショーでの宣伝は、もっと派手だったような記憶があるが、今日はとても大人しい。M1−TECH(マイテック)というコンセプトモデルがあった。小型電気自動車で、しかもオープンカーだ。とても格好が良い。K−WAGONもコンセプトモデルで、なかなか渋いスタイルをしている。でもこれは、軽自動車だ。


(2)ヤマハ

ヤマハ自動二輪


電動の車椅子


 自動二輪車が並んでいる。色目は、ブルーが基調である。あれ、あそこに変わったモデルがある。何だろうと思って近づいてみると、電動の車椅子だ。それも自走式で、しかも折り畳める。これはかなりコンパクトである。リチウムイオン電池だと最大8時間は持ち、市価は45万円だという。将来、家内か私がお世話になるかもしれないので、覚えておこう。


(3)カワサキ

カワサキ自動二輪


 こちらは同じく自動二輪車のメーカーだが、緑色を基調としている。まるで、会社ごとにシンボルカラーがあるみたいだ。しかも、うち1台のモデルの名前が「NINJYA」というから、マンガチックだ。しかし、デザイン的には、いずれの自動二輪も空力特性を考慮した美しい流線型で、非常に優れていると思った。


(4)ホンダ

ホンダNSX


 まず印象に残ったのは、NSXである。若い頃は、スポーツカーとしてこれ以上のものはないと思って乗りたいなと憧れたものだ。ところがうまくしたもので、買いたかった若い頃にはお金がなく、歳をとってお金ができた頃には若さがなくなっていた。こういうものは、買いたいなと思ったときに無理して買わないと、意味がない。

FITベイシック


FITクロススター


 ところで、FITは、ハッチバック式の小型車であるが、ベイシック、ネス、クロススターなどと、色々な種類がある。それからアコードがあった。ホンダを代表する車種で、東南アジアにいたときには、現地の人がとても欲しがっていた。前のライトが細長くて流れるようなデザインだ。

アコード



(5)スズキ

ハスラー


ハスラー


舞台上のお姉さん


 一番の注目を浴びたのが、ハスラーの新型である。ワゴンとSUVを軽自動車で融合したモデルで、ますます力強いデザインとなった。舞台上のお姉さんも、力を入れて宣伝を熱演していた。

アルト


アルト


 ああ、アルトがあった。これは懐かしい。我が家が最初に所有した車である。まるで郵便局の車のように真っ赤に塗られていたが、非常によく走ってくれて、関東各地や中部地方の観光地に子供を連れていくのに重宝した。


(6)三菱ふそう

スーパーグレート


 大型トラック「スーパーグレート」があった。ステアリング、アクセル、ブレーキ制御を自動化し、ドライバーをサポートする技術を搭載しているというのが売りだったが、運転席を覗いてもさっぱりわからなかった。

普通の路線バスを2台連結したバス


普通の路線バスを2台連結したバス


 普通の路線バスを2台連結したバスがあった。中に入ってみると、運転席も座席もそのままに、ずっと後ろまで繋がっている。2台のバスの連結部は、蛇腹である。なるほど、これは道路事情さえ許せば、運転手不足の折には、良い考えかもしれない。


(7)いすゞ自動車

 基幹モデルの「ギガ」が置いてあった。説明によれば、「ドライバーへの疲労軽減装備を拡充し、歩行者や自転車も検知するプリクラッシュブレーキを備えるなど最新のテクノロジーが満載」だそうだ。

ギガ




(8)UD

風神


雷神


 このメーカーはネーミングセンスが非常に良くて、実験車両のトラックに「風神」、「雷神」と名付けている。このうち風神は、レベル4の自動運転技術実験車で、雷神はハイブリッド実験車である。とりわけ風神は、なかなか難しい近未来の技術であるが、高速道路の上だけでも実現できれば、安全運転、省エネルギー、運転手不足などに大きな効果がある。早く市販にこぎ着けてもらいたいものだ。


(9)スバル

レヴォーグ


 基幹車であるレヴォーグが非常に素晴らしい。精悍で力強いフォルム、これで実際に走ってみたいと思わせる車だ。世の中に根強いスバル・ファンがいるのは、さもありなんという気がする。


(10)トヨタ

トヨタ


トヨタ


 トヨタは、市販モデルを並べるのではなくて、未来のコンセプトに繋がるモデルを用意したというのであるが、素人にはあまりに先端すぎて、何が何だかよくわからなかった。これに対してトヨタグループのダイハツの車は、そのまま野菜を売りに行けそうなものなど生活に身近なもので、わかりやすかった。


3.その他メーカー

(1)AGVとNCV

AGVと天野浩教授


 濃い青の小型のスポーツカーがあった。その脇に見たことがある人の全身写真があって、にこやかに笑っている。どこかで見たことがある人だと思ったら、青色LEDに関する研究でノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授ではないか。書かれていたものを書き写すと、「AGV(All GaN Vehicle)は、低酸素モビリティ社会を実現するため、次世代半導体材料GaN(窒化ガリウム)を電動化技術に適用したコンセプトカーです。平成29年度よりGaNインバータやコンバータなどの研究開発に着手し、CO2排出量20%削減を目標として、電動化部品開発、車両性能評価、CO2削減効果などの評価・検証に取り組みます。

 駆動システムとして、後輪にインホイルモーターとGaNトラクションインバータに配置、さらにGaNを適用したコンバータ、車載充電器、レーザーハイビームランプなど省エネルギーGaNエレクトロニクス・システムを採用。」
とある。なるほど、電気自動車でも、シリコン型半塔体に替えて、次世代半導体材料のGaN(窒化ガリウム)を使って、CO2排出量20%削減を目指す。その研究を天野教授が行っているというわけだ。

NCVとミス日本みどりの女神


 そうかと思うと、ガルウィングの小型スポーツカーがあり、その隣に「ミス日本みどりの女神」というミスコンテストの優勝者らしきお嬢さんがにこやかに微笑んでいる。その説明には、「NCV(ナノ・セルロース・ヴィークル)、木からつくる自然なクルマへの挑戦。環境省セルロース・ナノ・ファィバー(CNF)等の次世代素材活用推進事業」とある。そして、

 「今、自動車が大きく変わろうとしてします。CO2排出量を大幅に減らすための電動化と軽量化です。軽量化には、軽くて強い材料が必要になります。その材料として注目を浴びているのが、植物を原料としたナノレベルの強化繊維:セルロース・ナノ・ファィバー(CNF)です。環境省では、そのCNFを使った車(NCV)っくりに挑戦しています。」と書かれていた。

 へーぇ、環境省はこんなことまでやっているのか。なになに、ボンネットは100%CNFで作っている。ドアトリムとスポイラーはPP−CNF製、インテークマニホールドはPA6−CNF製だという。これらはプラスチックとCNFとの複合材料だろう。このうちPPはポリプロピレンだから、これに植物のセルロースから作ったCNFを混ぜて強化プラスチックとするようだ。気泡ができたり、成形がうまくいかなかったり、強度が足りなかったりと、色々と問題山積だったと思うが、それを乗り切って作ったのだろう。これらを活用して、車全体で10%以上の軽量化を達成したそうだ。

 それにしても気になるのは、こうした材料は、鋼板のように再利用出来ないのではないだろうか。それに加えて、車が軽くなって燃費は上がるかもしれないが、プラスチックとCNFを作ったりこれらを混ぜて成形したりするエネルギーを計算して鋼板を使うケースと総合的に比較しないと、本当の答えは分からないのかもしれない。


(2)澤藤電機

澤藤電機のブース


 最後にもう一つ、印象に残った展示がある。それは「澤藤電機」のプラズマを用いた水素製造装置「プラズマ・メンブレン・リアクター(PMR)」である。要はアンモニアから水素を得てこれを燃料に使うシステムだ。

 これまでのシステムで水素を得る方法は、

  ・ 水の電気分解から
  ・ 天然ガスなどの化石燃料から
  ・ 森林資源や廃材などのバイオマスから
  ・ 製鉄所や食塩電解などの工場で発生するガスから

の4択だったが、今度は「アンモニアから」という新たな選択肢ができたというわけだ。

 なぜこの技術が注目すべきかというと、将来この装置が小型化して車に積めることができれば、常温で液体のアンモニアの形でトヨタのミライなど既存の「燃料電池車(FCV)」にそのまま積載してこれを走らせることができるからだ。というのは、従来のシステムでは、工場で水素を製造してから運搬するのに絶対温度に近い零下253度に冷やさないといけない。こうすれば体積を800分の1にすることができる。そうした上で、これをガソリンスタンドに相当する「水素ステーション」に運ぶ。そこでは、燃料電池車に充填するのであるが、従来は200気圧程度の高圧水素タンクが使われていて、最近はその倍以上の気圧のタンクが普及しつつあるものの、高圧になればなるほど取扱いが難しい。もしこれが、この澤藤と岐阜大学のシステムでアンモニアから水素を発生させて代替できるとなれば、こうした問題は全てなくなる。なぜなら、アンモニアは常温では液体なので扱い易く、その分、効率が上がるからだ。

 では、どういう仕組みかというと、「プラズマを用いた水素製造装置『プラズマ・メンブレン・リアクター(PMR)』を用いた水素製造装置は、水素分離膜(高電圧電極を兼ねる)、石英ガラス管、接地電極、プラズマ電源で構成されています。PMRにアンモニアを供給し、プラズマ電源から3万ボルトの電圧を印加すると、アンモニアが水素原子(H)と窒素原子(N)に分解されます。水素分離膜は水素原子のみを透過させるので、水素原子と窒素原子を分離することが出来ます。水素分離膜を透過した水素原子は結合して水素(H2)になり、高純度水素として外部に取り出すことが出来ます。また、残りの窒素原子は結合して窒素(N2)になり、大気へ排出されます。

 改良型PMRには、プラズマとアンモニアの接触時間を長くする目的で、電極間(水素分離膜と接地電極の間)に、吸着剤を充填しています。この吸着剤の効果により、プラズマによる水素原子の生成が促進され、水素分離膜を透過する水素原子の量を増加させ、従来と比較して、2倍の水素製造量300NL/h が得られるようになりました。」
とある。

 その説明は、石英ガラス管の中にアンモニアを入れ、管の中の水素分離膜に高電圧をかけると、水素原子だけを分離することができ、その水素原子は結合して水素分子となって取り出すことができる。そして今回の改良は電極間に吸着剤を充填したことにより、その効果で製造量を倍にしたということらしい。目標は、更にその倍にすることを目指してようだから、水素の流通と利用を大きく変える可能性を秘めている。是非とも頑張っていただきたい。







(令和元年10月25日著)
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