代々木公園で、チャイナ・フェスティバルを開催するというので、行ってきた。目的は、民族舞踊芸術団の公演と、その演技を新しいカメラ・ソニーα7IIIで撮ることである。この日に見たのは、黒竜江省ジャムス市芸術団の「同江市赫哲族非遺展示展演団」、カンフーの里から来た芸術団の「中国武当功夫団」、天津市の「天津シルクロード芸術団」である。いずれも期待にたがわず、非常に面白かった。
1.黒竜江省ジャムス市芸術団
まずは、同江市赫哲族非遺展示展演団である。一体、何を演じるのか、興味津々である。最初に、狩猟民族のような衣装を身に付けた男性2人と女性2人が登場し、タンバリンに様々な色の毛皮の紐を付けたような楽器を打ち鳴らし、同時に「ビューン、ビューン」と鳴る不思議な小型の楽器を奏でる。それも、手のひらに収まるほど小さいのに、結構大きな音が出る。狩りのときに仲間との合図に使ったものなのだろうか。改めてその衣装に目をやると、アメリカ・インディアンみたいな衣装に、日本のアイヌ民族の紋様を合わせたような出で立ちである。なるほど、これは辺境にあって、長年の間、狩猟で生きてきた少数民族なのだろう。
それが終わると第2幕で、若い女性の2人の踊り手が登場する。赤い派手な衣装だが、頭には毛皮の帽子を被っているから、いかにも寒い地方から来たのだろうと思われる。まるで子供のように天真爛漫に遊んでいると思ったら、氷の上でツルリと滑るような仕草をみせるので、客席がどっと湧く。背中に背負った魚籠(びく)からは、小さな魚が顔を覗かせている。あれあれ、魚釣りでもするのだろうか。小さな魚を採ったようで喜んでいる。それどころか、舞台の隅に行くと、思いがけず大きな魚が釣れて、その喜ぶこと、喜ぶこと。重たそうに引きずりながら意気揚々と帰っていった。これは、言ってみれば幼稚園児の劇みたいなものだが、それだけに言葉が通じない我々には、非常に分かりやすかった。
さて、第3幕には、頭には鹿の角を載せ、甲冑のようなものを着た、まるでシャーマンのような女性が登場する。その周りをタンバリンを持った踊り手が乱舞する。そして、時々陶酔の表情を浮かべる。よくよく見ると、シャーマン女性のタンバリンには、まるでマヤ文明の太陽神のようなものが描かれている。これは、偶然だろうか。この人たちは、ますますアメリカ・インディアンの先祖という気がしてきた。背景のスクリーンには、この皆さん(赫哲族)の生活の風景が映し出されているが、まるでイヌイットの世界で、冬が長くて厳しそうだ。
ちなみにウィキペディアによれば、「ナナイ(Nanai)は、ツングース系の民族。分布は主にアムール川(黒竜江)流域で、ロシア国内に約1万人で、中国国内にも居住している。2004年人口調査時の中国国内人口は約4,640人。中国国内のナナイはホジェン族(Hezhen;赫哲)と呼び、55の少数民族の一つとして認定されている。」とのこと。
2.中国武当功夫団(カンフー団)
さて、白い衣装に白い扇、黒い衣装に赤い扇を持った2つのグループが出てきて、その扇をバチバチッと打ち鳴らしたかと思うと、白い衣装に長い剣を持ったグループが現れて、その剣を振り回す。それらが動きを止めた・・・と思ったら赤い衣装に身を包み鋭い剣を持って、バック転のようにして現れる者が出る。そして、一人、剣で派手な立ち回りをする。おっと、飛んで宙に浮いた。これは、凄い。日本の忍者みたいなものだ。辛うじて私のカメラ(毎秒10枚撮影)でその一部始終を捉えたが、中には動きが速すぎてこのカメラでも十分捉えきれない者もいた。
また、大きな筆のようなものを持って、まるで、何かの文字を書いているかの如き所作で空中を飛ぶ人もいた。次に、背を平らにしてその上を馬跳びのようにして飛ぶ。これは、カンフーの修行の一つなのだろうか。不思議な所作である。
今度は、ソロの演技が始まった。見ていると、手は比較的緩く遅く動き、むしろ身体がキビキビと動く。なるほど、これは典型的なカンフーの動きだ。それが終わると、数人が出てきて、演技が始まった。女性はもちろん、男性でも身体がものすごく柔らかい。足がグニャリと曲がって、頭の上まで持って行っているではないか。これには驚いた。そうかと思うと、両足を片方の手に預けるようにしたり、前後に持って行くようにして、両手で身体を浮かせている。おお、次の人は、両手で身体を垂直に支えている。これも、凄い。インドのヨガの水鳥のポーズどころではない。
最後に、赤い衣装に身を包んだカンフーマスターのような人とともに、大勢が出てきて、そのマスターを中心に演技が始まる。ゆっくり手を動かして、それに気を取られていると、身体がキュッとばかりに動いている。これが、カンフーが武術たる所以なのだろう。おやおや、マスターが円盤に乗って担ぎ上げられた。マスターはその上で演技をしている。あっと思ったのは、マスター両足をやや開きながら、前に傾いていた。どこにも掴まらなくてやるというのは、これは凄い。次に身体を横に傾ける。これ、一体どうなっているのだろうか。ともかく驚いているうちに、終わってしまった。
3.天津シルクロード芸術団
天津シルクロード芸術団というのが始まった。おや、これは可愛い女性たちだ。フレンチ・カンカンのような派手な衣装で、スカートの裾を円形に回している。もっとも、フレンチのように脚を上げたりはしない。その衣装で、裾を持ってグルグルと回る、回る、回る。目が回ってきた。
次に、2人のピエロが出てきた。客席から4人の男性を選び、その人に、何か芸をさせる。例えば、丸い輪の内側に水を入れたコップを載せ、それをぐるりと一周させる。ピエロはもちろん成功するが、お客は失敗して笑われるという次第だ。やがてその4人をパイプ椅子に座らせて、横の人の膝に頭を載せ、それを全員にさせる。そうしておいて、なんとまあ、その椅子を1個ずつ引き抜いて、ついに4個全部がなくなった。もちろん、数秒後には、自重に耐えきれずに、ガシャンとばかりに崩れてしまった。これには、客席一同、びっくりしつつも大笑いした。
今度は、品の良い紫色の衣装を纏い、手に団扇を持った女性達が出てきた。そして、優雅に舞って踊る。美しさを愛でるだけなので、これは安心して見ていられる。
それを「静」とすると次は「動」だ。男性が出てきて、カンフーのような力強い演技をする。子供、女性、また男性と続いて、飛んだり跳ねたり、型を決めたりと、凄まじい。でも、いささか演技過剰感がある。あれあれ、男の子が空中を一回転した、これには、思わず拍手をする。いやまあ、中国感が満載の演技だった。
4.家内の一言
そういうわけで、久々の代々木公園での各国別フェスティバルは、主催国が中国だけのことはあって、なかなか面白いものだった。家に帰って家内にビデオや写真を見せると、次の一言を宣った。
「良いわね。幸せよ。飛行機に乗って何千キロを飛ぶ必要がなくて、あちらから近くの公園に来てくれるのだから。」
なるほど、ごもっとも。なお、私はこれに刺激されて、中国少数民族の舞踊を観に行こうという気になった。ちょうど「雲南省シーサンパンナ少数民族歌舞公演(孔雀の舞う楽園)」というものが来月にあるので、行って観て来ようと思っている。ただ、こちらは正式な公演なので、写真を撮ることはできないだろうから、それが少し残念である。
【後日談】1ヶ月後に、「孔雀の舞う楽園」の公演に行ってみた。実に良かった。
(令和元年9月22日著)
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