悠々人生・邯鄲の夢エッセイ



首相官邸広報写真より




1.退位礼正殿の儀

首相官邸広報ビデオより


 天皇陛下(現上皇陛下)御在位30年記念式典が、平成31年2月24日に挙行された。それに続き、いよいよ同年4月30日、天皇陛下が退位されて上皇陛下となられ、翌令和元年5月1日新天皇陛下が即位されて、時代は平成から令和へと大きく移り変わった。この退位は、皇室典範特例法に基づいて行われたもので、その理由として、「象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること」などが規定されている(同法第1条)。

首相官邸広報ビデオより


首相官邸広報ビデオより


 確かに、天皇皇后両陛下(現上皇上皇后陛下)は、外国賓客などの接遇その他の多忙な日常の公務に忙殺されつつも、大規模な自然災害が続いた平成年間でそうした災害が起こる度に現地入りして被災者に寄り添って励まされたりするなど、80歳を超えるご高齢の御身を削るようにして公務に精励されるお姿をテレビなどで拝見する機会が多かった。そうした場面を見るたびに、国民の一人として有り難いことだと思いつつも、前立腺がんや心臓病をお持ちなのでお身体は大丈夫なのだろうかと心配になっていたのであるから、そういう意味では、胸をなで下ろしたというのが正直な気持ちである。

首相官邸広報ビデオより


 この退位は、同年4月30日午後5時からの「退位礼正殿の儀」によって行われた。両陛下が宮殿内で最も格式の高い「松の間」に入られ、我々参列者の前にすっくと立たれた。すると侍従が皇位の御印である剣や爾などの三種の神器を捧げ持って両陛下の前の白木の台(案)に載せた。それを待って、国民の代表として安倍晋三首相が次の挨拶を行った。

首相官邸広報ビデオより


「 謹んで申し上げます。
 天皇陛下におかれましては、皇室典範特例法の定めるところにより、本日をもちまして御退位されます。
 平成の30年、『内平らかに外成る』との思いの下、私たちは天皇陛下と共に歩みを進めてまいりました。この間、天皇陛下は、国の安寧と国民の幸せを願われ、一つ一つの御公務を、心を込めてお務めになり、日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たしてこられました。
 我が国は、平和と繁栄を享受する一方で、相次ぐ大きな自然災害など、幾多の困難にも直面しました。そのような時、天皇陛下は、皇后陛下と御一緒に、国民に寄り添い、被災者の身近で励まされ、国民に明日への勇気と希望を与えてくださいました。
 本日ここに御退位の日を迎え、これまでの年月を顧み、いかなる時も国民と苦楽を共にされた天皇陛下の御心に思いを致し、深い敬愛と感謝の念をいま一度新たにする次第であります。
 私たちは、これまでの天皇陛下の歩みを胸に刻みながら、平和で、希望に満ちあふれ、誇りある日本の輝かしい未来を創り上げていくため、更に最善の努力を尽くしてまいります。
 天皇皇后両陛下には、末永くお健やかであらせられますことを願ってやみません。
 ここに、天皇皇后両陛下に心からの感謝を申し上げ、皇室の一層の御繁栄をお祈り申し上げます。」


首相官邸広報ビデオより


 その後、天皇陛下が、次のお言葉を述べられた。

「 今日をもち、天皇としての務めを終えることになりました。
 ただ今、国民を代表して、安倍内閣総理大臣の述べられた言葉に、深く謝意を表します。
 即位から30年、これまでの天皇としての務めを、国民への深い信頼と敬愛をもって行い得たことは、幸せなことでした。象徴としての私を受け入れ、支えてくれた国民に、心から感謝します。
 明日から始まる新しい令和の時代が、平和で実り多くあることを、皇后と共に心から願い、ここに我が国と世界の人々の安寧と幸せを祈ります。」


首相官邸広報ビデオより


 簡潔なお言葉ではあったが、これを聞いた参列者の中には、男女を問わず眼に涙を浮かべている人もいて、実に感動的な瞬間であった。いかに平成天皇陛下が国民に慕われていたかを示すエピソードである。

首相官邸広報ビデオより


 そのお言葉が終わり、天皇陛下は皇后陛下とともに静かに退出され、三種の神器を捧げ持つ侍従が続いた。それから皇太子殿下及び同妃殿下(当時)などが続いて退出され、儀式は滞りなく10分ほどで終わった。


2.剣璽等承継の儀


剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより


 「剣璽等承継の儀」は、令和元年5月1日午前10時半から宮殿「松の間」で行われ、国民代表として安倍晋三首相ら三権の長や閣僚など26人が燕尾服姿で参列した。この儀式は伝統的に成年男性皇族だけで行われるということで、天皇陛下のほか、秋篠宮殿下及び常陸宮殿下も両脇に参列された。

剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより


剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより


剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより


 天皇陛下が松の間に入ってこられて壇上にお上がりになり、正面の玉座を背にして参列者と向き合ってお立ちになる。陛下は、天皇が装着する最高の勲章「大勲位菊花章頸飾」を身につけておられ、実にご立派であられる。見とれていると、松の間の扉がまた開いて、三種の神器のうちの剣及び璽、国事行為で使われる御璽及び国璽をそれぞれ捧げ持った4人の侍従が一列になってしずしずと入ってきて、それらを陛下の前の案に置いた。それから、一瞬時間が止まったような感覚がしたかと思うと、暫くして陛下が壇上からゆっくりとお下りになり、剣や璽などを捧げ持った侍従らをあたかも引き連れるようにして松の間を退出され、他の皇族方もこれに続いた。この間、誰も一言も発しなかった。これで、天皇という地位の象徴である三種の神器が無事に受け継がれたようだ。かくしてこの儀式はおよそ7分ほどで終わった。

剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより


剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより


剣璽等承継の儀。首相官邸広報ビデオより



3.即位後朝見の儀

即位後朝見の儀。首相官邸広報ビデオより


即位後朝見の儀。首相官邸広報ビデオより


 「即位後朝見の儀」は、剣璽等承継の儀に引き続き、やはり宮殿「松の間」において、午前11時10分過ぎ頃から行われた。今回の参列者は原則夫婦同伴で、三権の長、閣僚、地方自治体の代表など292人が参列した。最前列は、さきほどの剣璽等承継の儀に引き続いての出席者だから燕尾服姿で、その他の参列者は原則として男性はモーニングコート、女性の多くは和服の白襟紋付姿である。また、皇后陛下をはじめとする女性皇族は、ティアラを頭に載せられた白いローブ・デコルテ(ロングドレス)姿だったから、非常に華やかな儀式となった

即位後朝見の儀。首相官邸広報ビデオより


 天皇皇后両陛下が秋篠宮殿下ご夫妻ら成年の皇族方とともに松の間に入ってこられた。そして、天皇陛下から次のお言葉があった。

「 日本国憲法及び皇室典範特例法の定めるところにより,ここに皇位を継承しました。
 この身に負った重責を思うと粛然たる思いがします。
 顧みれば,上皇陛下には御即位より,30年以上の長きにわたり,世界の平和と国民の幸せを願われ,いかなる時も国民と苦楽を共にされながら,その強い御心を御自身のお姿でお示しになりつつ,一つ一つのお務めに真摯に取り組んでこられました。上皇陛下がお示しになった象徴としてのお姿に心からの敬意と感謝を申し上げます。
 ここに,皇位を継承するに当たり,上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いを致し,また,歴代の天皇のなさりようを心にとどめ,自己の研鑽に励むとともに,常に国民を思い,国民に寄り添いながら,憲法にのっとり,日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たすことを誓い,国民の幸せと国の一層の発展,そして世界の平和を切に希望します。」


即位後朝見の儀。首相官邸広報ビデオより


 重責を負われる責任感と緊張感が、ひしひしと伝わってくるようなお言葉である。日本国民統合の象徴として、誠にご立派な天皇陛下を戴いたものだと感激する一方で、どうかお身体を大切にされたいと、心から願うものである。そういうことを考えているうちに、国民代表としての安倍首相が祝いの辞を述べた。

「 謹んで申し上げます。
 天皇陛下におかれましては、本日、皇位を継承されました。国民を挙げて心からお慶び申し上げます。  ここに、英邁なる天皇陛下から、上皇陛下のこれまでの歩みに深く思いを致し、日本国憲法にのっとり、日本国及び日本国民統合の象徴としての責務を果たされるとともに、国民の幸せと国の一層の発展、世界の平和を切に希望するとのおことばを賜りました。
 私たちは、天皇陛下を国及び国民統合の象徴と仰ぎ、激動する国際情勢の中で、平和で、希望に満ちあふれ、誇りある日本の輝かしい未来、人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ時代を、創り上げていく決意であります。
 ここに、令和の御代の平安と、皇室の弥栄をお祈り申し上げます。」


即位後朝見の儀。首相官邸広報ビデオより


 中身が凝縮されていたので長い時間が過ぎたようにも感じたが、計ってみると、この儀式もおよそ7分ほどで終わったそうだ。いずれにせよ、国民の一人として、これらの歴史的瞬間を目の当たりにして、これに勝る名誉はないと感激しているところである。


4.今後の儀式の予定

 今後の即位の関連儀式として様々なものが予定されているが、中でも本年10月22日の「即位礼正殿の儀」が最大の儀式である。これは、平安時代そのものの宮中の伝統装束を身にまとった天皇皇后両陛下が、それぞれ、京都御所から運ばれてきた「高御座(たかみくら)」と「御帳台(みちょうだい)」に登壇され、天皇陛下が即位を宣言する儀式である。国内外から約2500人が招待されるが、特に国外からは各国の元首級や王族らの来訪が予定されている。即位を祝う「饗宴の儀」は、この日から4回に分けて開かれ、合計2600人が招かれることになっているという。





(参 考)天皇の退位等に関する皇室典範特例法

(趣旨)
第一条
 この法律は、天皇陛下が、昭和64年1月7日の御即位以来28年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、83歳と御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、57歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精勤されておられることという現下の状況に鑑み、皇室典範(昭和22年法律第三号)第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項を定めるものとする。

(天皇の退位及び皇嗣の即位)
第二条
 天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。

(上皇)
第三条
 前条の規定により退位した天皇は、上皇とする。 2 上皇の敬称は、陛下とする。 3 上皇の身分に関する事項の登録、喪儀及ひ゛陵墓については、天皇の例による。 4 上皇に関しては、前二項に規定する事項を除き、皇室典範(第二条、第二十八条第二項及ひ゛第三項並ひに第三十条第二項を除く。)に定める事項については、皇族の例による。

 (上皇后)
第四条
 上皇の后は、上皇后とする。 2 上皇后に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太后の例による。

 (皇位継承後の皇嗣)
第五条
 第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太子の例による。

 (附則以下略)







(備 考) このエッセイ中の写真は、首相官邸の広報ビデオから複写したものである。





(令和元年5月 1日著)
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