悠々人生・邯鄲の夢エッセイ








 2月に入り、北陸地方は何十年ぶりの大雪で、国道8号線には1,400台もの車が立ち往生して、60時間も掛けてようやく解消したそうだ。そのような中で、今年も確定申告の季節が到来した。私の場合、去年は歯医者に行ったから医療控除を受けられるし、家内の国民年金基金への一括払い掛金もあるので、そちらの控除もある。また、昨年の投資信託の解約で若干の損失が出たから、それを繰り延べしないといけない。そういうわけで、帳票原本が集まるのを待って確定申告書類を作ろうとした。

 何しろ私は新しもの好きなものだから、電子申告が始まったばかりのときに、早速やってみた。それ自体は便利なものだけど、一方で控除を受ける証明書などを5年間も保管しておかなければならない。スキャナーで写したり写真を撮ったりした電子形式のものではなくて帳票原本だと、嵩張る上にいざという時なかなか見つからないこともあり得る。だからそれが面倒になって、3年ほど前からパソコンで確定申告を作成した後、それをPDF形式の紙にして印刷し、書類で提出することにしている。いわば先祖返りしたというわけだ。

 今年も、自宅のパソコンから国税庁の確定申告作成コーナーに入って、コツコツとデータを打ち込んでいった。途中、源泉徴収票の内容を入れていき、(1) 給与の支払金額、(2)源泉徴収税額、(3)社会保険料等の金額を入れたところで、動かなくなった。(まさか源泉徴収票に問題があるなどとは疑いもせず)、数回繰り返しやってはみたものの、前に進めない。困ってしまったが、一計を案じて、(3)社会保険料等の金額を源泉徴収票とは切り離して入力するという荒業で、この問題を回避することができた。これで30分間も時間を浪費してしまった。でも、ともあれ作成できたから良しとしよう。結果をみると、医療費控除よりも、家内の国民年金基金への一括払いの効果が大きくて、何十万円かの単位で還付金がある。

 これは良い、それにしても申告書類をこのまま手元に置いておいても仕方がないので早めに提出することにした。善は急げというわけだ。確定申告の期間は2月16日から始まるが、還付金がある申告なので、それまででも受け付けてもらえる。そこで、書類一式をとりまとめ、2月6日に税務署に持って行った。税務署は、自宅から片道15分もかからない近いところにある。行ってみると待っている人は誰もいなくて、直ぐに受け付けてもらえ、「控」に受け付け印を押してもらって帰ってきた。

 その次の日のことである。勤め先の人事から、「実は源泉徴収票の中に間違いがあり、源泉徴収税額が5万円ほど少なかったので、訂正後の源泉徴収票を渡します。」という連絡を受けた。単純なミスなら仕方がないが、「できればもう一日早く言ってくれれば、誤った確定申告をせずに済んだのに」と内心思ったものである。私は、給与所得をもらうようになってから優に40年を超えるが、源泉徴収票が間違っていたというのは、初めての経験である。文字通り、「まさか」の世界だ。なるほど、国税庁の確定申告作成コーナーでつっかえた理由がわかった。というのは、この訂正後の源泉徴収票でやってみると、何の問題もなく作成できたからである。

 ところがこの時、人事担当者から受けた示唆がまた間違っていた。いったん提出した確定申告については、「更生の請求」なるものをすべきというのである。国税庁のホームページで探すと、なるほど「更生の請求」なる書式が出てきた。そこで、それ以上調べないままに、その書式に書き込んでいった。狭い欄なのに、結構書かなければならないことがある。しかも今時珍しい手書きだ。真ん中辺りまで書いたところで、数字を書き間違えた。あららと思ったがもう遅い。書き直しである。そういうことで、四苦八苦して書き上げ、それに訂正後の源泉徴収票と家内の国民年金控除証明書を貼ってようやくお仕舞い、出来上がりである。ふと時間を見たら、2時間も経過していた。楽しかるべき夕方のひと時が台無しだ。いやはや、税理士にならなくて良かったと思った。こんな書式、パソコンで書けるようにしてほしい。そうすれば、途中で間違えてもその部分を直すのは簡単だ。


更生の請求


 というわけで、翌日の早朝、その成果物を持ってまた税務署に行ったのだが、何とまあ、係員の人から「まだ確定申告の期限が来ていないので、更生の請求ではなくて、訂正申告です。」と言われてしまった。「では、どうするの」と聞くと、「最初の確定申告と同じものを作って、また出してくれれば良いです。最初のページに『訂正』と書いてあれば、わかります。」とのこと。「何だ、そんなことならもう作ってある。」と思ったものの、手元にない。やむを得ず、出直す羽目となった。

 これは、ひょっとして最初から電子申告でしたのなら、送信するだけで済み、また出向くという必要はなかったのではないかとも思った。しかしながら、それにしても大事な原本を5年間も自宅に保管するというのは、職業柄もあってか私の趣味には合わない。どこか銀行の貸金庫を借りて、この季節になると5年前の書類を取り出して廃棄し、新しくその年の書類を入れるというやり方にするのも一案だ。しかし、今回のようにかなりの金額が還付される年ならばともかく、貸金庫を開けてみれば病院の領収書ばかりという一方でその貸金庫代自体が馬鹿にならないという年もあるだろうから、コストパフォーマンスが悪すぎる。それまでは、税務署まで往復30分の道のりを、運動を兼ねて歩いて行くことにしよう。

 ところで、この問題、個人の電子申告についても、帳票原本の電子化(PDF化)と、その送信を認めれば解決できる。確か法人の申告では何年か前にそうなったはずだから、それと同じことである。だいたい、本体の電子申告を認めておきながら、それを裏付ける帳票原本の保管を個人に5年間義務付けるという現行の制度は、割り切り過ぎの反面、納税者からすると中途半端なのである。

 例えば、家内の国民年金基金の一括支払いで、100万円を超えたという場合の控除証明書は、他に紛れたりすると、何十万円かの還付金に影響する。こういう帳票原本たる紙は、税務署に保管しておいてもらいたい。ところが、一件当たりせいぜい数千円の病院の領収書の束は、嵩張る割には確定申告の金額にあまり影響がないことから、そのほとんどは要らない。ところが稀には歯のインプラントの領収書のように100万円を超えたりするものがあるから、こういうものは自宅でより税務署の方で大事にとっておいてもらいたい。それが困るなら、PDFでの保管を認めるべきである。病院の領収書の束を見るたびに、そう思っている。

 もっと大きな視点でみれば、今やマイナンバーの時代なのだから、そもそもサラリーマンの給与の源泉徴収票などは、税務署と給与の支払事業所とを回線で結んでそちらから申告させるようにするべきだ。税務署と社会保険事務所との間も同様である。ついでに言うと、税務署と病院の間もそうしてほしいが、その前提としてレセプト請求が電子化されないといけないから、これはなかなか難しい課題だろう。もっとも、そういう時代が来るまでには、私はすっかり仕事からリタイアして、ご隠居さんをやっているかもしれないので、以上述べたことは、私についてはまるで必要がなくなり、あたかも犬の遠吠えのようなものかもしれない。





(平成30年2月16日著)
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