悠々人生・邯鄲の夢エッセイ








 東京モーターショー 2017( 写 真 )は、こちらから。


1.EVとAIの時代

 東京モーターショー 2017に行ってきた。今年は、EV(電気自動車)とAI(artificial intelligence,人工知能)がテーマである。しかし、EVの外観はますます普通の自動車の外見になっているし、AIに至っては「運転者の性格に合わせて自動運転をします」などと言われても、それを実感しようもない。だから、表面を見るだけの何ともよくわからないモーターショーだったが、後から振り返ってみると、意外とこういう年が、実は時代の転換点だったということなのかもしれない。


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 トヨタのブースには、「コンセプト愛」というシリーズがあり、最先端のAIを使った「YUI」と称するもので、人を理解し、記憶を蓄積し、能動的に働きかけるものだという。具体的には、「ドライバーの性格や感情をも認識して、自動運転技術との組み合わせによって安全性能が強化され、エージェント技術によって会話や提案を行う。この3つの柱が有機的に機能することで、ドライバーの表情や動作から疲れを感知したら運転を代わってくれたり、好みの音楽を流してくれたり、時にはジョークを言って笑わしてくれたりする。」と言うのだが、説明がいかにも日本的というか、あまりにも情緒的で、こんなことで良いのかと、逆に心配になってきた。

 今やトヨタは最強の世界的自動車メーカーとして君臨している。例えば、HV(ハイブリッド自動車:エンジンと電気モーターで動く自動車。)、PHV(プラグインハイブリッド自動車:電気自動車に補助的にエンジンを備えて、家庭用電源からコンセントプラグで電気モーター用の電池に直接充電できる。)、FCV(燃料電池自動車:電気化学反応によって水素などの燃料から電力を取り出す燃料電池を備えた自動車)などの開発を続け、HVでは世界を席巻し、FCVでは世界の先端を走っている。

 ところが、今年に入ってイギリス、フランス、中国、インドが国の自動車政策として、将来のガソリン車の販売禁止に言及するなど、EVを重視する方針に大きく転換することを明らかにした。アメリカでは、かつてのプリウスに代わってテスラの高級電気自動車が評判となり、HVはもはや環境に優しい省エネルギー車ではなくなっている。現在、市場に出ている電気自動車は、例えばあるモデルでは、航続距離が200km程度で充電に8時間程度を要するなど、まだまだ性能は不満足なものである。しかし、最近では400km、急速充電だと30分という製品も出始めており、侮れなくなってきた。私は、このままで行くと、あと10年もしないうちに、世界の自動車市場の半分が電気自動車になってしまうのではないかと思うのである。にもかかわらず、トヨタは相変わらずの路線で、HVはともかく、FCVといった全く見当違いの方向に向かっている。全固体電池を開発して2020年には発表したいというが、いまだ海のものとも山のものともわからない。これが上手くいかないと、トヨタの命運は尽きるということになるだろう。他のメーカーや他の国々も、HVでトヨタにしてやられた失敗を、EVで取り戻そうとしているからだ。そういうことで、事ここに至っては、ガソリン高級車レクサスなどにかまけているときではないと思うのだが・・・まさに経営者の力量が試されている。

 それにつけても、思い出されるのが日本の電機メーカーの蹉跌である。エアコン、電気冷蔵庫、電気洗濯機、電子レンジに至るまで、高級化路線に明け暮れて毎年毎年の開発競争で消費者には全く要らない機能を積み込み過ぎて馬鹿馬鹿しい値段となってしまい、新興国メーカーとの競争に負けてしまったことや、携帯電話がガラパゴス化してiPhone対Androidという世界の競争にも参戦できなくて消えてしまったことなどは、まだ記憶に新しい。製品がいかに高級だ、高性能だといっても、それが市場を読み違えたり、力づくの大量生産による低価格競争に付いていけなくては、もうおしまいなのである。文化的に高度な西ローマ帝国が、侵入してきた蛮族ゲルマン人にあっけなく滅ぼされてしまったのと同じことだ。そう思って、トヨタのブースを見渡すと、高級車レクサスばかりが目立つ。それはそれで立派だが、今や誰がこんなものを買うのだろうという気がしてならない。商品政策が、全くズレているのではないかと思う。

 更に思うのは、AIについてである。これはEVよりも早く、あと5年もすればレベル5つまり完全な自動運転時代が来ると思われる。自動運転技術は、グーグルのような先端技術企業が相当、先行していると思うが、トヨタなどの日本の自動車産業が本腰を入れて取り組んでいるとは、どこからも聞こえて来ない。こんな調子だと、自動車産業は、日本企業が総負けに負けたパソコン産業と同じことになりはしないかと、本気で心配になる。つまり、パソコンの時は、製品や規格が乱立する状態から、まず部品がIBM仕様になって標準化され、次いで肝心要のOS(オペレーション・システム)もマイクロソフトのウインドウズに統一されて、誰でも参入できるようになってしまった。それから、コモディティ化が一気に進み、生産コストの安い国との競争に負けて、先進国から大きなパソコンメーカーがほぼ消えてしまった。自動車も、今はエンジンがあるから容易には参入できないが、電気自動車になると、構造は簡単になり、誰でも参入できるから、必ずコモディティ化が進む。現に、電気掃除機のメーカーだと誰もが思っていたダイソンも、自動車生産に参入する意思を明らかにしている。ほとんどの電機メーカーも、モーターの技術はお手の物だから、車台と足回りの部品さえあれば、簡単に生産できるだろう。AIも、グーグルなどの企業から買えばよい。

 そんな時代に、トヨタは本年に入ってマツダと提携した。エンジン技術を磨き上げるためだそうだ。マツダのガソリンエンジンを扱う技術には、定評があるのは確かである。しかし、今はエンジンに力を入れる時代ではない。そんなことより、電気自動車の要である、電池の技術開発に力を入れるのが、先ではないか。必要なら、その圧倒的な資金力に物を言わせて、M&Aで大手電池メーカーを強引に買収するなどの手が打てないものかと思う。自動車メーカーではないが、パナソニックは時代の先を読んで、テスラと組んでアメリカに電池工場を作るために1000億円を投資するそうだ。実に、正しい経営判断である。かくして世の中は、ガソリンエンジンから時代が一挙に飛んで、電気自動車の時代になりつつある。馬車から蒸気機関車、更にはエンジン搭載車へと百年ごとに時代は大きく変化してきた。それが電気自動車へと向かうのである。

 こうした流れに取り残される人たちが、必ずいる。例えば、現在、エンジン関連の部品を作っている協力企業は、一体どうするのかと心配になる。トヨタ系だと、デンソーなどの大企業から始まって町の小さな二次・三次下請け企業に至るまで、特にエンジン部品関係は、仕事がなくなる。ここに至って将来についての危機感を持たない経営者は、平凡を通り越してよほどのボンクラだろう。併せて、国としての日本自体についても心配になる。貿易黒字のうち自動車関連のものによるのはその半分近いのではないか。加えて、自動車メーカーのみならずその部品メーカーを含めて広い意味の自動車産業によって食べさせてもらっている国民の割合は、おそらく1割くらいなのではないか。そうすると、虎の子である自動車産業がいったん転ければ、国民全体に悪影響が及ぶのである。これは、杞憂でも取り越し苦労でもない。現実として、10年以内に始まる事態である。しかし、自動車業界にも政府にも、危機感が全く感じられない。それこそ、現在進行中の事態の本質を現わしていると思うのである。


2.日本車の展示内容


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 トヨタの次から、各社の展示内容を見ていこう。ニッサンは、EVのリーフを実際に販売しているから、その新車と、「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」という一種のAIを展示していた。これは、3つのものから成り、第1は「インテリジェント・ドライビング」で、「高性能レーダーやカメラ、レーザースキャナなどを搭載した360度センシング中長距離の対象物を感知し、距離や対象物を正確に認識。AIと組み合わせることで危険を早期に検知して運転をガイドするなど、将来の完全自動運転を見据える。」。第2は、「インテリジェント・パワー」で、「新開発のEV専用プラットフォームにより、・・・航続距離600kmというかつてない走行性能の達成を目指す。」。2020年までには発売するそうだ。第3は、「インテリジェント・インテグレーション」で、無人で駐車場に移動して自動駐車をしたり、太陽光発電のバッテリーに蓄えたり、VPP(仮装発電所)として機能したり」するらしい。ちなみに、EVの新しいリーフ(LEAF NISMO Concept)の外観も、いかにも電気自動車という野暮ったい形から、なかなかスポーティで素敵なものになっている。

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 三菱自動車は、数々の不正問題を起こして経営が不安定になり、結局ニッサンの傘下に入ったのだが、今度はそのニッサン自体が完成検査を無資格者に行わせていた法令違反問題で揺れているのは、皮肉なものである。それはともかく、三菱自動車は、今回、「得意とするEV技術やSUV技術で培った四輪制御技術を大きく進化させたクロスオーバーSUVタイプのハイパフォーマンスのEV」である「MITSUBISHI e-EVOLUSION CONCEPT 」を展示する。SUVなのでEVでもアウトドアでもどこでも飛び出して行けることを売り物にしている。また、ドライバーの意思や感情を読み取るAIをも搭載しているという。最近、「あおり運転」や「付け狙い運転」が問題となっているが、ドライバーがカーッとなったりすると、それを抑えてくれるような機能も必要かもしれない。



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 SUBARUは、「将来の自動運転社会を見据えた高度自動運転支援技術を磨きながら、運転の愉しさを追求する」として、従来の「アイサイト」にますます磨きをかけているようだ。これは、自動運転技術そのものだから、そのうちAI全盛時代の主役になるだろうと思う。スポーツセダンのVIZIVコンセプトモデルは、なかなか格好がよい。思わず、買いたくなるセダンだ。ただ、ニッサンと同様にこちらも完成検査を無資格者に行わせていた法令違反問題がつい最近に発覚し、気のせいかあまり元気がないようだ。

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 ホンダはEVのコンセプトモデルを展示していたが、その車は、漫画チックな丸目を持つやや「とっぽい」形をしている。「スポーツマインドを昇華させたコンセプトモデル。レスポンスに優れた電動パワーユニットを搭載し、モーターならではの力強く滑らかな加速と静粛性、低重心による優れた運動性能を実現。更に独自のAI技術を組み合わせ、ドライバーの嗜好を学習したり感情を読み取りながらドライビングを快適にサポート。先進のEV性能とAI技術で人とクルマが一体となったような未体験の運転感覚を味わえる」そうだ。しかし、私の見るところ、こんなとっぽい形で、そういう未体験の運転感覚を味わえるものかどうか、素人目には疑問に思うところだ。せめて外見は、「賢そうな」ものにすべきだろう。まあ、このアンバランス感は、いかにもホンダらしいと思うけれど・・・。

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 スズキが、その雑草のような社風を生かして、かなり頑張っているように感じた。クロスビーやスペーシアなど、小さな車体に面白いデザインをよく詰め込んでいる。展示の目玉は、未来のコンパクトSUV「e-survivor 」で、4つのモーターによる四輪独立駆動の4WDだという。ただ、デザインは遊園地の乗り物に近い。

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 マツダは、ガソリンエンジン技術と、美しいデザインの両方で特色を出していた。次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」は、火花点火制御圧縮方式(SPCCI:Spark Controlled Compression Ignition)で、ガソリンエンジンでありながらディーゼル機関のような圧縮着火を制御する技術を世界で初めて実用化したものである(ガソリンエンジンの伸びの良さにディーゼル機関の優れた燃費、トルク、レスポンスといった特徴を融合させた夢のエンジンに一歩近づいた)。これを搭載したものが、次世代商品コンセプトモデルの「魁(カイ)」で、スタイルは、非常に綺麗である。


3.外国車の展示内容

 外国車で最も目立っていたのは、ポルシェとメルセデス・ベンツである。ポルシェは、その非の付けどころのない完璧なデザインと力強いマシンで、元から人目を惹く存在であるが、この日も大勢の見物人が押し寄せてきた。値段は、一見したところどこにも書いていないので、よく分からなかった。後からインターネットで調べると、中には700万円程度のものがあるが、それならともかく、モデルによっては3600万円という値段を知れば気が遠くなるかもしれない。


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 メルセデス・ベンツは、さすがに商品構成が多様である。「Mercedes-AMG Project ONEは、F1マシンに搭載される1.6リットル、V6ガソリンエンジンをほぼそのまま使い、それに4つのモーターを組み合わせたハイブリッドターボエンジン。これにより・・・200km/hまではわずか6秒、最高速度350km/hオーバーという性能を実現している。」という。あるいは、ベンツのEV専用ブランド「Concept EQAは、2個のモーターにより最大合計出力272hpを発揮するパワートレーンを持ち、バッテリーコンポーネントは拡縮が可能なので、希望の出力や航続距離をユーザーが選択できる点も先進的。最大航続距離は400km。また、急速充電を利用すれば10分の充電で100kmの航続距離が得られる。」とのこと。

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 シティビークルとして人気のあるベンツの「smart」は、なかなか可愛い車である。完全自動運転で、ステアリングやペダルがなく、車自体がユーザーの希望する場所に迎えに来てくれたり、使っていないときは自動で充電ステーションに動いて行って自ら充電するらしい。

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 Audiも、AI化が相当進んでいるようだ。Audi Elaineは、「フロント1基、リア2基の計3モーターを車軸上に収めた電動SUV。人工知能と電動化を売り物にしているだけでなく、その最高出力は435ps、ブーストモード時は515psにも達し、非常にパワフル。・・・航続距離は500km以上とし、EVでありながら、エンジン車の匹敵するロングドライブが可能」という。しかも、「クルマが自ら学び、状況を先読みしてくれる高い知能と共感力が鍵」だとのこと。しかし、目の前にあるのは単なる車体なので、そのAIの本当の能力は、謎である。

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 フォルクスワーゲンは、ディーゼル機関の燃費の不正で大問題になったのは、まだ記憶に新しい。その痛手から立ち直ったかどうかはわからないが、電動化にも力を入れているらしい。「I.D. BUZZ」は、2022年の市販予定で、動力源はバッテリーの完全なEV、完全自動運転機能を備え、運転席は180度回転する。航続距離は600km。その他、従来からあるGOLFでも、e−GOLFというEV版ができるようだが、航続距離は300kmと、短い。


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4.部品会社の展示内容

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 今回、見物した部品会社の中で、いくつか記憶に残ったものがある。まずは日立オートモティブシステムズである。これから自動車がEVとAIの時代を迎えると、その鍵となるのはこうした会社が作る自動車電装品モジュールだから、前途洋々といったところだろう。ただ、なぜフォーミュラカーのスポンサーをやっているのか、本業とどういう関係にあるのか、どうもよくわからない。普段は部品という目立たない分野の会社だから、少しは目立つようになりたいという思いなのかもしれないが、力の入れ方が若干違うような気がする。

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 三菱電機も、工場のオートメーションで最近目立っている会社であるが、やはり自動車がEVとAI化の時代の波に乗りそうである。日本の天頂衛星みちびきによるGPSの精度が上がって、誤差が現在の10m以上という大雑把なものから、僅か6cm程度になるというから、ますますAIが誘導しやすくなるだろう。私が数年前にこの三菱電機のブースで天頂衛星みちびきのGPS電波受信器を見たら、パソコンくらいの大きさがあってびっくりしたことがあり、これでは実用化は当分先の話だと思った。ところが今回見た受信器は、ずーっと小さくなっていたから、安心した。

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 また、タイヤメーカーの住友ゴム工業(ダンロップ)が、空気を使わないエアレスタイヤ(ジャイロブレイド)を提案していた。自転車のタイヤで例えると、スポークの代わりに半円形のプラスチックでゴムタイヤを支える構造だ。これだと、乗り心地は非常に悪いと思うが、新しい試みだから、最期まで粘って完成するように努めてもらいたい。完全自動運転の時代を迎えると、タイヤの空気圧管理のメンテナンス意識が低下することを見越しての開発だそうだ。説明のお姉さんが熱心だったので、つい一枚、写真を撮らせていただいた。






(平成29年10月28日著)
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