最近、東京の私の家の近くで、マンションの一室の売出しがあった。そのマンション自体は、築20年の古い建物で、もはや中古もいいところなのであるが、この売出し価格のチラシを見て、思わず目を疑った。48m2で、なんと4,480万円なのである。地方都市にある私の実家近くでは、80坪の一軒家が買える値段だ。確かにこのマンションは、地下鉄の駅から2分、その間に都市銀行のATMと大手コンビニがあり、並びに郵便局、裏手に保育園と小学校、交差点を渡れば中堅スーパーの店舗その他、飲食店は数多い。地下鉄に乗れば、主要企業の本店が集まる大手町駅まで5分と、ロケーションに恵まれている。その反面、東京でも下町の外れの一角に位置するから、最新のトレンドやらおしゃれなるものには全く無縁で、青山、恵比寿、六本木、白金など東京の最先端地域のファッショナブルな華やかさには、全然及ばない。それどころか、路地の道端には猫が日向ぼっこし、巣鴨ほどではないにしても、おじいさんとおばあさんがやたらと目立つ町なのである。それでいて、しかも48m2という手狭さで、青山並みの値段が付いているのは、どうにも腑に落ちない。 4年前にこの部屋が売りに出されたときのパンフレットがとってあったので、それをバインダーから引っ張り出して見たところ、2,780万円とある。やっぱりね・・・これが私の頭の中の常識的な値段だ・・・それより、1,700万円も高いとは、一体全体どうなっているのだろう。今回のパンフレットによれば、完全なリノベーションをしたそうだが、それで部屋の値段が6割も上がるものなのか、どう考えても分からない。これは、見に行くほかないとばかりに、家内と一緒に見学に行ってみたのである。 担当者に私が、「リフォームは素晴らしいのですが、それを織り込んでも、率直に言って、売出し価格が1,200万円ほど高いのではないか」と聞いた。すると、「東京オリンピックもあって、不動産価格は値上がりの傾向にあります。またここは、近くに何でもあって、大手町にも近い。この便利さから、ある程度お高くなるのは、仕方ないですね。」とのたまう。私が「毎月16万円で貸すとして、管理費と修繕積立金で月2万円、これに加えて修理や賃料未払に備え月2万円をとっておくとすると、毎月の収入は12万円となる。そうすると年間収入は144万円、4,480万円の回収に31年もかかりますね。せいぜい、20年でしょう。」というと、しどろもどろになって、結局、「200万円から300万円は値引きしますから。」と言い、それでも足りないと思ったのか、私が礼を言って靴を履いて出て行こうとすると、「いや、上司と相談して500万円は引きます。」とまで言っていた。こんなに引いてよいものか・・・まるで東南アジアで買い物をしているようだ。どうも、日本の不動産価格の値決めは、摩訶不思議としか言いようがない。 ともあれ、500万円の値引きを間に受けると、3,980万円ということになる。それでも高い。もっとも、担当者の言い値で投資をするとすれば、登記費用等を捨象するとして3,980万円の年率利回りは、3.6%になる。現在の定期預金金利が0.01%であることを考えると、これは預金では望むべくもない水準であることは確かである。定年後の副業に不動産業という選択肢も、あるかもしれない。定年後の東京での生活費に月38万円が必要だとすると、年金が25万円、そしてこの12万円があれば、合計でちょうどそのあたりの額になる。しかし、美味しい話には、裏がある。テナントが善い人ばかりとは限らないから、不払いなど面倒なことに巻き込まれるおそれもある。そうなると、この机上の計算は成り立たない。それだけの金額を持っているなら、投資信託で運用して、円レートの変動でハラハラしている方が、老人としての身の丈に合っているのかもしれない。 (平成28年12月15日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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