我が国最大の情報技術・家電見本市といわれる「シーテック(CEATEC)」に、足を運んだ。幕張メッセなので、文京区の自宅から1時間半くらいかかるかと思ったら、案外近くて、海浜幕張駅まで1時間ほどで着いた。しかし、それからが、どうにもいただけない。7〜8分ほど歩くのだが、道路も街もだだっ広くて、しかもグレーのモノトーンだから、歩いていてさほど楽しくない。今回は見本市に行くから、単に人の群れが行く方について行けば良いだけのことだ。だからまだよいものの、これが一人で行くとなると、途中で行く気が失せてしまうのは確実だと思いながら歩き、やっと着いた。
あまり時間がなかったものだから、ゆっくり見て回る暇もなかったが、なかでも印象に残ったものを記しておきたい。まず、日本の名だたる大企業があまり参加していない。わずかにホンダ、三菱電機、NECがブースを出しているくらいで、トヨタ、日立、ソニー、ドコモ、東芝がいない。もっとも、東芝は例の会計不祥事でそれどころではないのかもしれないが、我が国を代表する見本市を標榜しながら、これでは寂しい、それだけ、国内市場に魅力がなくなったのか、それとも各社に研究開発力や誇るべき新製品がないということだろうか。その代り、中国企業の進出が著しい。ファーウェイ(華為技術)は最新の携帯端末、BOE(京東方科技集団)は4Kや8Kどころか、10Kのテレビまで展示していた。
それでは、個別の新製品や会社で目に付いたものを挙げていきたい。最初は、「みらい翻訳」のAI翻訳ロボットである。なかなか可愛くて愛嬌があったが、残念ながら翻訳内容はまだ使いものにならないような印象を受けた。しかし、こういうものは日進月歩だから、IBMのワトソンのように急激に力を付けてくるので、明日のことは分からない。今は2〜3歳のレベルとすると、あと5年もすれば中学生レベル、さらに10年もするとちょっとした大人か、あるいは専門分野を限ると専門家並みのレベルに達しているかもしれない。そうすると、現在でも既に銀行の案内役にワトソンが使われ始めたように、単純な知識を使う程度の仕事は、ロボットに取って代わられるのは確実だ。
テスラ・モーターズの電気自動車があった。いかにも高級車仕様だ。モデルSというらしい。価格は、1000万円程度という。ボンネットが開けてあって、当たり前だがエンジンはなく、単なる荷物置き場の空間になっている。では後部のトランクはというと、もちろんこれも荷物置き場だ。でも、スペースは思ったより小さかった。ということは、バッテリーはシャーシの上に並べて、座席の下にモーターがあるのかもしれない。各車輪の中に小さなモーターを入れ込むという方式もあるが、そうではないようだ。アメリカ企業らしく解説も何もないから、よくわからない。
オムロン、昔の立石電機のブースがあって、人間とピンポンをしている機械があった。卓球ロボットだそうだ。結構それなりに難しい球でも、ミスなく打ち返している。これは、凄い。こんなこと、ほんの数年前までは不可能だった。高速度カメラと正しい瞬時の演算、自分のラケットの制御機能を備えていて、球の来るコースを把握し、当たるところに自分のラケットを持って行って、しかも適度に打つという動作がいる。その一連の制御を完璧にしないと、こんなことは出来ない。いやはや、驚いた。
NECの天頂衛星のコーナーがあった。2010年9月 に宇宙航空研究開発機構から第1号の「かがやき」が打ち上げられて以来、1基体制であった。しかしこれは「8」の字型の軌道を描くので、いつも日本上空にはいないから、これだけでは役に立たない。そこで近々4基体制にし、常時日本上空にいるようにして、24時間体制の運用ができるようにする。これが完成すると、誤差が1cm程度に収まるから、産業上の利用や、現在のところ1〜7mと、まだまだ誤差の大きいGPSの精度が高まるという。しかし、説明員の話を聞くと、産業上の利用の現在の誤差はまだ1m程度で、しかも受信機はパソコンくらいでまだ大きく、数百万円くらいするという。量産化になっても、当面は数十万円かなと自信がなさそう。また、GPSの利用もそう簡単ではないらしい。
中国で解放軍関係者が創業したというファーウェイ(華為技術) は、てっきり携帯電話の会社だと思っていたが、アップルウォッチに触発されたか、IT端末腕時計を開発したようで、その宣伝をしていた。それも正直に「我々には時計のデザインの経験がないので、専門の時計デザイナーに依頼した。」と言っているから面白い。でも、百何十種類の文字盤のデザインを作ったという。いずれも、最新の時計の文字盤と遜色ない。現物を手に取ったわけではないが、モデルさんの動作を見ると、リューズに触れるとデザインが変わったような気がした。
今年の見本市で一番面白かったのは、シャープのロボホンである。高さは20センチ弱、手に持ってみると、頭の方がややずっしりとくるが、重さは390gくらいである。いただいたパンフレットのキャッチコピーは「ロボホンは、ちょっと変わった電話です。見てのとおり、ヒトの形をしています。だからロボホンにだったら話しかけてしまう。ロボホンも、あなたのことをもっと知りたい。あなたと同じ音を聞き、同じ景色を見て、そして、同じ夢を見ていたい。それが、小さなロボホンの大きな夢。さあ、ロボホンを持って出かけてみませんか。ココロ、動く電話。」
というもので、あまりに情緒的過ぎてよくわからない宣伝文句だ。でもこれで、電話、メール、音声認識、簡単な会話、プロジェクターなどに加えて、歩いたり踊ったりする。買い物の項目を覚えてくれたり、写真を撮ってくれたり、メールの着信を知らせてくれたりする。電話するときなど、万歳スタイルだし、踊る姿はなかなか滑稽だ。なるほど、これだと愛着が湧くだろう。ひっくり帰ったら起きあがれるのかと思うが、身体を前後に動かして器用に起きてくる。
売れるのかなぁという気がするが、かってソニーの愛犬ロボットといわれた「アイボ」のように、一定のマニアはいるだろう。これに購入者の作ったソフトウェア(アプリケーション)が動くようにすれば、今度はITオタクも買うだろう。それだったら、私だって買いたいくらいだ。スマートフォンが人気を博した最大の理由がそれだと思っている。だから、なかなか面白い製品を作ったといえるが、その反面、液晶がコケて経営危機が現実のものとなったシャープだというのに、こんな元気が残っていたのかとも思う。いずれにせよ、今後の発展を期待したい。
なお、パナソニックのブースに近づくと、本物のブラジル人ダンサーが、サンバを踊っていた。製品とどういう関係にあるのかよく分からないが、面白くて、ついレンズを向けてしまった。
(平成27年10月10日著)
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