1.上高地
7月半ばの連休を利用して、上高地、黒部ダム、大観峰、室堂、弥陀が原、宇奈月温泉に旅行してきた。前回、上高地を訪れたのは平成19年7月だったので、8年前のことである。今回で5回目となる。ところで、私は白骨温泉に泊まってから上高地に行くのを常としていたが、平成16年に一部の旅館で温泉水に草津温泉の入浴剤を入れて白く見せかける偽装事件があった。そのせいで、一時、客足が遠のいたようだ。
しかし前回の私のように、固定ファンは引き続き行っていたので、今はもう影響は残っていないそうだ。ガイドさんによれば、一部の泉源で特定の時期に何ヶ月か、白濁がなくなるようになった。そのため、せっかく来てくれるお客さんをがっかりさせては申し訳ないと、入浴剤を入れたのだそうだ。
それはともかく、今回も白骨温泉に泊まりたかったが、予約が一杯で、断念せざるを得なかった。その代わり、旅行社に黒部観光ホテルというところを予約してもらった。部屋は普通だったが、バイキング形式の食事が美味しくて、高級食材、例えばタラバガニなどが食べ放題。そういうのを楽しみにしている人は、喜んでいた。
朝から上高地に入り、川筋の断崖絶壁のようなところをバスが進む。途中、大きな崖崩れの跡があるところを通る。この国道自体も崖崩れで2ヶ月間、通れなかったそうだ。やがてバスは、大正池に着き、そこで降りた。正面の焼岳を見上げる。この火山が大正時代に噴火して梓川を堰き止めて、この池ができた。それ以来、森が水に浸かってたくさんの木々が枯死した・・・あれ、以前と、何か違うではないか。
昔の写真と見比べてみると、枯れ木の数が減っている。それに、焼岳を覆う緑色がより深くなっていた。たった8年間で、これだけの変化があるのかと驚いた。ガイドさんによると、それに加えて、次から次へと、土砂が堆積していて、景観保護のために排出しているそうだ。大正池を眺めてまた気づいたことは、前回までなかった観光ボートが出現して、写真を撮ろうとすると、邪魔になることだ。池の水も相変わらず美しいし鴨も可愛いが、ボートだけは興醒めだと思いつつ、更に上流を目指して歩き始めた。
道端に咲いている可憐な花々を眺めながら、歩いて行く。冬はマイナス30度近くまで気温が下がるという中で、こんな花が代々その生命をつむいでいるのだから、大変なことだ。日光キスゲは大ぶりの花だが、そのほかの花は小さい。どうかすると見落とすところだ。田代池に着いたが、昔は5メートルの深さがあったようだが、今はもう湿原から、草原になりつつある。それでも、背景の穂高連峰とセットで見ると、なかなか美しい。それを過ぎて、ふと上の木を見たら、昔この辺りで野生の猿を見たのを思い出した。
やがて、梓川沿いに歩く。この川水の薄青のエメラルドグリーンの色は、上流で大理石起源の砂が混ざり、それが日光の光を反射して作り出しているそうだ。上高地は、これを見に来るだけでも、価値がある。木立越しに、そのエメラルドグリーン色が現れては消え、また現れる。川の流れのせせらぎの音が、耳に心地よい。ところで、この梓川は、松本で犀川となり、最終的には信濃川となって日本海に注ぐそうだ。
河童橋のたもとに着いた。正面の穂高連峰と梓川上流方面の写真を、振り返って、今度は梓川下流方面とその先にある焼岳の写真を撮る。いずれもまさに、絵になる風景だ。ひとしきり撮り終わってから、同行の人たちとお弁当を食べる。空気が気持ちよく、心なしかお弁当もそれだけ美味しい。上流の明神池の方面から、本格的な装備をした登山者たちが次々と下りてくる。と思ったら、下流方面より、これから登ろうとする登山者もいる。そこでしばらく談笑して、バスターミナルから沢渡に向けて下っていった。
2.黒部ダム・室堂・称名滝
翌朝、扇沢駅から、関電のトロリーバスに乗って、標高1,450メートル地点の黒部ダムまで一気に上がる。トンネルを抜けて外に出て視界が開けると、大きなダムが目に入ってくる。堰堤に立つと、ダムの壁から二本の筋で、もの凄い量の水が放出されていて、虹が見える。もっと良い位置から写真を撮ろうとして、新展望台というのに向かった。しかし、同じ高さにあるので、放出される水をとるにはよいが、全体像がわからない。ふと見ると、展望台という表示がある。脇の山の上らしい。外に階段が付いているが、あんなに登るのかと、あきれるほどの高さだ。
仕方がないと、登り始めた。かなりきつい。昔、東京タワーの外階段を上がった時のようだ。やっと、上りきる。ああ、息切れする。深呼吸して息を整えてから、周囲を眺めると、ダム湖、堰堤、放水の二本の筋と下流域が一気に眺められる。これは見事だ。ダム湖に、観光船が浮かんでいる。こんな山奥に、どうやってあんな船を浮かべたのだろうという疑問が浮かぶ。でも、聞く人もいない。ダム湖の周囲に遊歩道があるが、残念ながら、時間がない。
黒部ダムからケーブルカーに乗って、黒部平に着き、そこからロープウェイに乗って大観峰へ、またトロリーバスで立山の室堂にやっと到着する。ここで、標高2,450メートルである。ここから、雄山の頂上3,003メートルまで往復4時間で、学生時代以来もう4回ほど登ったことがある。今回も天候さえ良ければと思ったが、途中で白いガスが掛かってきたら、あっという間に視界の全部が真っ白になり、自分の来た道さえ分からなくなる始末だ。これは危ないので、すぐに断念した。
ところが、ちょうどその直前、道のすぐ脇に、特別天然記念物の「雷鳥」が見えたのである。夏なので、その辺の岩と同じ焦げ茶色の保護色をしている。大きさは鳩ぐらいで、目の上に赤い印のある雄と、それよりやや小柄な雌のつがいだ。驚かせないように、遠いところから望遠レンズで撮った。こんなに簡単に出会えるなんて、我ながら運が良い。また、ガスのすき間で、高山植物のチングルマ、雪に囲まれた「みくりが池」が見えた。それで満足し、食事をした後、高山バスで弥陀が原を通り、宇奈月温泉まで降りていった。
その途中、高さ350メートルという日本一の落差がある「称名の滝」があった。水しぶきが辺り一面に舞い、確かにすごい滝だ。国の天然記念物である。名前の由来は、法然上人がこの地を訪れた際、滝の音が「南無阿弥陀仏」の声に聞こえたからだと伝えられている。
3.宇奈月温泉とトロッコ電車
宇奈月温泉では、延楽という旅館に泊まったが、渓流を望む部屋で、食事も美味しく、また露天風呂もなかなか良かった。ただ、翌朝に乗ったトロッコ電車は、非常に寒かった。途中の黒薙温泉というところが宇奈月温泉の泉源で、ここから温泉水をパイプを引いてきているらしい。
トロッコ電車は終点の欅平駅まで行かずに、鉄路のほぼ真ん中の鐘釣駅で降りて引き返したが、鐘釣駅から黒部川を挟んで向かいの絶壁の谷には天然雪があった。しかしこれには、枯れ枝や木の葉が積もっていて、とても汚かった。やはり、観光に来るには、この季節よりも、秋の紅葉の時期が良いと思った。なお、宇奈月温泉駅に近い黒部川電気記念館は、黒部ダムの歴史に触れられるので、時間が余ったようなときには、立ち寄ってご覧になるといいと思う。
(平成27年7月20日著)
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