邯鄲の夢エッセイ










 長い冬が抜け、日中の気温が20度近くになって、ようやく暖かくなった。その陽気に魅かれるように上野広小路に出た。そして、いつものレストランで定番メニューの食事をし、湯島天神に向かったのである。天神様の梅の季節は、受験シーズンの終了とともに、枯れた梅の花と小山のような絵馬の束を残して、既に終わった。それにしてもまあ、この絵馬の数の多いこと、多いこと、まるで牛馬の背、いや駱駝の背のようになるまで山盛りに吊り下げられている。数が多いだけでなく、その一つ一つに、受験生の願いと悪戦苦闘の軌跡があると思うと、その分、厳粛な気持ちにすらなる。ご苦労様なことだ。しかし、神頼みもいいけれど、本当はどれだけ勉強したかなのだけどなぁ・・・それに、ここに来るまでの時間と風邪やインフルエンザをもらう危険性を考えれば、よほど家で勉強していた方が良いと思うのは、私だけではないだろう。ともあれ、梅の花はない、受験生も少なくなった、梅祭りも終わった、ついでに売店の数も半減したとなれば、菅原公には申し訳ないが、あまり用はない。男坂の階段を足早に降りて、不忍池に向かった。

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 今日は3月21日(土)だが、まだ桜には早い。しかし今日はぽかぽか陽気だから、不忍池にはたくさんの白鳥ボートが出ている。その周りには染井吉野と関山が多いが、未だにつぼみだ。そうした中で、ごく僅かだけれども、早咲きの桜がポツリポツリと咲いてはいる。その中でずいぶんピンク色の強い桜があった。「陽光」という札が掛かっている。そうかと思うと、白い早咲きの八重桜があった。「雛菊桜」とのことだ。そうした桜の木の下で、昼間からもう一杯やって盛り上がっている連中がいるから面白い。そんな光景を見るにつけ、これが上野だ、自分は日本にいるという気がする。ワシントンのポトマック河畔に日本から贈った桜の並木があるが、その下をそぞろ歩きをしながら純粋に観て楽しむものである。しかし、桜といえばその満開の花の下で飲めや歌えの宴会をするものというのが日本人の常識となっているから、如何ともしがたい。桜の下で、楚々と咲く雪柳(小米花)が控え目でなかなか良いが、宴会をしている連中に見習ってほしいものだ。

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 池とは反対側の道路の向こう側に目をやると、東天紅の新しいビルが完成したようだ。特に蓮の花の季節には、そこから池を見下ろすと、さぞかし良い眺めだろう。天上の世界を味わうに違いない。あれ、その左手の3つ目のビルは何だろうと一瞬思って、すぐに思い出した。あれは上野税務署ではないか。確定申告の季節が終わったから、やっと一段落だろう。私は昨年は歯医者さんによく通ったから、少しだけ還付してもらった。これまでは納める一方だったので、還付申告など何年ぶりかのことだ。しかも税務署がとても効率が良くて、申告書類を提出したと思ったら、10日も経たない内に私の口座に振り込まれて来たから、驚いてしまった。

 話は変わるが、税務署といえば、今年に入って、昨年に亡くなった家内の父の相続税の申告をした。昨年の秋以来、家内が税理士さんと相談をして準備していたものだ。もちろん私個人には無関係なことで、私は単なる傍観者にすぎない。それでも、これはいけないと思って、一度だけアドバイスをしたことがある。税理士さんは、要は、あまり頭を使わずに、配偶者が50%、二人の子がそれぞれ25%という法定相続分通りの分割案を出してきた。

 しかし、少し考えれば分かることだが、遅かれ早かれ二次相続があるのは避けられないし、二次相続のときに適用となる相続税制が、昨年までと比べて大きく強化された。だから、お母さんのご了解をいただいて今回はその相続分を極々小さくし、残る分を二人の子が相続して少し多めの税を払っておけば、二次相続時を含めた全体の税負担は少なくて済むと思った。その方針で改めて計算をしてもらったところ、子二人を合わせた一次相続時の税負担はかなり大きくなるが、二次相続時には税負担はそれ以上に減り、二つ合わせれば相続税はその差額分が減る計算となった。千万円単位の差が出て、これは大きい。税理士さんも専門家ではあるが、得手不得手の分野もあるだろうから、あまり信じ過ぎてはいけないという見本のようなものである。


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 さて、不忍池の周りをブラブラ歩いて、ボート池に来た。赤い花が咲いている。ピンクというものではなくて、本当に赤い色だ。遠目で見ると赤梅のようだが、近づくと明らかに違う。ああ、これは寒緋桜だ。清澄庭園にもあって、あそこの寒緋桜は見事である。濃いピンク色の花で、幹は確かに桜の木の特徴を備えている。花は釣鐘状の下向きで、一見すると咲ききっていないように見える、でも、これで満開というのがこの花の特徴だ。さて、どう撮ろうか。花を横から撮ってもダメだし、下から上向きに撮る方が良いか。絞り優先でF値をなるべく小さくして周囲をボケさせよう。などと色々やってはみたものの、どうも満足する写真を撮ることができなかった。それよりも、道端で何の気なしに咲いていた乙女椿をサッと撮った写真の方が美しく見えた。それから更に歩き、不忍池の弁天堂と東京スカイツリーが重なる地点まで来た。空がもっと青かったら、さぞかし美しかっただろうにと思ったものである。

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 上野動物園に近いところの池の端で、池に沿って少し回り込んでみた。水鳥が見えるように、浮き橋になっているところを通る。近くを飛んでくる「ゆりかもめ」を待つことしばし。やっと飛んできたので、シャッターを切ったら、たまたまその背景は、東天紅の新しいビルだった。池の中には、それ以上、ボートが行かないようにと、杭が打ってある。その上には、やや獰猛な顔つきの顔が白で羽が黒の鳥がとまっている。嘴が黄色でその先が赤いし、足の色が黄色だから、これはウミネコに違いない。その近くの池面には、顔と背中が黒で、頭の後ろの羽が寝癖の黒髪のようにまとまっていない鳥がいる。ああ、これは金黒羽白、別名が寝癖鳥だ。なかなか愛嬌がある姿をしているから、私の好きな鳥のひとつである。それを見て満足し、馬酔木の可憐な花を見つけて家路についた。

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(平成27年3月21日著)
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