悠々人生のエッセイ








1.第二の職業人生が始まる

 私は先月、長年勤めた内閣法制局を退職して最高裁判所で第二の職業人生を歩むこととなった。その過程では様々なことがあった。前職では法治国家とは何かとつくづく考えさせられるなど心残りはあるものの、しかし今更どうこう出来るものではない。その後ろ髪を引かれるような気持ちを別にすれば、当面はとりあえず身辺が落ち着き、新しいオフィスで順調に仕事が進みつつある。毎日、朝は午前9時に出て夕刻は午後5時に帰るという判で押したような生活である。これまでのように場合によっては午前様、早くても帰りは午後8時という厳しい生活に比べればはるかに人間らしくなった。

 仕事上の責任も従来は一人で一手に引き受けていたが、今度はいわば共同責任のようなもので、その分、他の同僚裁判官の考え方も参考にしながらじっくりと腰を据えて考えることができる。もちろん自分の主張が正しいと思えば最後までそれを曲げずに貫くことができるのは、非常に有難いことだ。また、これまでのように外部から突然、降って湧いたように矢玉が飛んできて、「ああ、時間がない、明日の朝までにこれにどう対処するか考えないと」などと頭を悩ますということもなくなったのは、精神衛生上、誠によろしいことは確かである。その代わり、仕事の量は明らかに増えた。もう激増といってもよい。前職でも山ほど書類が積み上げられることはあったが、それは年二回ほどの繁忙期に限られていた。しかし今度の職は、文字通り毎日、机の上に多種多様な案件がこれでもかというほどに置かれる。一週間ほど留守にしようものなら広い机の上に1メートルほどの高さになりそうな勢いだ。それに対して、一つ一つ懇切丁寧に見ながら、リズム良く処理していく必要がある。しかも、難しい案件は本当に手間も時間も根気もいるので気が抜けない。まるで学生時代の受験勉強をこの歳になって再び繰り返しているような気がする。夕方になって、「ああ、これで今日はお仕舞いだ」とホッとしていると、そういう日に限って新しい案件がドーンと大量に追加されたりする。

指人形


 内容も結構難しい。まるで連日、法律時報や判例タイムスを隅から隅まで読んでいるようなものだ。中にはこれは十分に考えなければと思う案件として、いったん脇にとっておかなければならないものもある。しかし、うかうかすると、そういうものが直ぐに山ほど溜まってしまう。まあ、どこで割り切るかという問題でもある。しかし、本当に難しい案件が多い。あれやこれやと思考の過程を繰り返していくと、遂には一冊の法律書が書けるのではないかとすら思うほどだ。この世界で長く暮らしてきたが、法律というものはこれほどまでに広範囲でつ奥が深いものとは想像もしなかったというのが、正直な感想である。まあ、コツコツ、淡々と、誠意をもって地道に取り組んでいくほかない。

猫やさん



2.初孫ちゃんのお相手

 とまあ、そういう法律の条文漬けのような世界に身を置くと、たまの週末くらいは六法全書を離れて息抜きがしたくなる。かつて若い頃の私は、毎日の帰りは午前様という激務で、自分自身の子どもの世話など考えもつかなかった。いわばその罪滅ぼしのような気持ちで孫の世話をするという第二の人生も良いなと思い始めている。とりわけ最近は、初孫ちゃんが身近にいてくれるので、その相手をしてお出掛けをするというのが絶好の暇つぶしであり、文字通り童心に返ってのリフレッシュとなる。その初孫ちゃんも、早や5歳近くとなり、いやはや大きくなった。可愛いことは相変わらずだが、それに加えて最近の初孫ちゃんには自信のようなものがフツフツとその身にみなぎって来ているのを感ずる。何をするにも大声を出して全力で取り組むし、好き嫌いがはっきりしている。それに活動量が増えて疲れを知らない。

 そういう場合にこうした幼児向きの遊戯施設として、近くの東京ドームに「アソボーノ」というものがある。要は、学齢期前の子供を遊ばせる施設である。例えば、アドベンチャー・オーシャンといって、ボールが海のごとくに敷き詰めてある中で滑り台あり、トランポリンあり、ボール投げあり、ロッククライミングありという環境で思う存分運動したり出来る。そうかと思えば、プレジャー・ステーションといい、プラレールやブロックが置いてあって、好きに遊んでよいとなっている。その他いろいろあるが、ウチの初孫ちゃんは、この二つにしか興味がないので、この施設に行くとこればかり。プラレールはともかくとして、アドベンチャーの方に付き合うと、私も少しは走ったり飛んだり跳ねたしなければならないので、もう60歳台半ばに差し掛かろうという身には辛い。文字通り身体がガタガタになる。しかし、気分爽快になるのは確かである。

近所の花、コスモス



3.買い物は楽し

 買い物は何でもそうなのだけれど、買ってからその物を使い始めてから嬉しいのはもちろんである。しかしその前に、いったい何を買おうかどれにしようかなどと色々と品定めをする過程もまた楽しい。私は4年前にオリンパスのデジタル一眼カメラであるE−P1を買い、2年前にそれをE−P3に買い換えた。これで、それまでのコンパクトデジカメ時代とは比べ物にならないほど良い写真を撮ることが出来るようになって、大いに満足したのである。ところが、人間というのは幾つになっても欲というものが失せないもので、このオリンパスのカメラを使い慣れてくると、あれやこれやと欠点が目に付くようになった。

 最近の切なる願いは、孫たちの良い写真を撮りたいというものである。とりわけ初孫ちゃんは、いたずらしようとする直前に一瞬キラリと妖しく輝くその目がとても魅力的だ。それを撮ろうとするのだけれど、すぐに表情がコロコロ変わってしまうから、連写枚数が一秒間に3枚程度ではとても役に立たない。その上、ちょこまかとよく動く本人をカメラで追いかけようとしても、焦点が合うのが遅くて付いていけない。それでは、写真ではなくてビデオに残そうとすると、初孫ちゃんがちょっと動いただけでオートフォーカスが働いて前や後ろへと合焦しようとするから、焦点が合うまでボケ続けてビデオ画面が台無しになる。だから、このオリンパスのカメラのままでは駄目だなと思い始めた。

 また、E−P3では、夜景の撮影が今ひとつなのも、不満の種だ。せっかく重たい三脚を担いで行っても、これでは思い通りの写真が撮れない。その反面、太陽の光が燦々と降りそそぐ環境では、美しい写真を撮ることができる。しかし、夕暮れ時や部屋の中のような撮影環境が良くない時や所では、専門家のいう空気感なるものが全く出ないのだ。それに、かつて航空ショーに行った時にはがっかりした。ビューンと高速で飛んで来る戦闘機に焦点が合わない。仕方がないのでそのまま適当にシャッターを押すと、ぼけている上に、そもそも連写速度が遅いから、画面上では尾翼しか写っていないという惨々たる有り様。その結果まあまあちゃんと撮れたのは、飛行中でも鈍足の輸送機とヘリコプター、それに地上滑走中の戦闘機だけであり、何のために行ったのか分からなかった。

かえるの看板


 とまあ、そういうことで、新しいカメラを買おうと色々と品定めをした結果、三つの製品を候補にした。第一は、オリンパスのE−P5という上位機種。第二は、つい先月末に発売となったキヤノンのEOS 70D。第三は、ニコンのD600である。

 (1) まず最初のオリンパスのE−P5だけれど、今年(2013年)6月の発売でまだ新しい機種だ。これにするともちろん現在のE−P3のレンズはそのまま使えるし、カメラの使い方も分かっているから、移行をスムーズに出来る。E−P3とE−P5とを比較すると、撮像素子は1230万画素から1600万画素へ、シャッターユニットは最高1/4000秒から1/8000秒へ、Wi−FiなしからWi−Fi対応へと進化している。これで標準望遠レンズとカメラのセットで9万円強と、かなり安い。しかし、フォーサーズはあくまでもフォーサーズだし、あまり変わり映えがしないのが不満である。

 (2) キヤノンのEOS 70Dも、今年の8月28日の発売で、こちらは文字通り本格的デジタル一眼レフだ。出たばかりとあって、レンズセットが14万円くらい。撮像素子はAPS−Cサイズで2020万画素、オートフォーカスは19点のセンサーで、焦点合わせは早いという。しかも、一秒当たり最高7枚の連写が可能らしい。動画も焦点合わせがなめらかで追従性が高いとのこと。これで決まりという気もするが、APS−Cサイズではなくて、フルサイズのカメラが欲しい気もする・・・ということで、次の(3)機種も検討した。

 (3) ということで、フルサイズ機種のニコンのD600であるが、これは昨年の9月29日の発売だ。一年経っているから価格はそれなりにこなれてきていて、フルサイズの割には15万円である。撮像素子は2466万画素で、これだけを見るとキヤノンのEOS 70Dとさほど変わらない。ただまあ、最近発売されたカメラのように、スマートフォンとの連携はない。もちろんWi−Fiなし。あと一年すれば新しいカメラが出そうだから、そうするとがっかりするだろうから、やはり止めておこう。

 というわけで、(2) キヤノンのEOS 70Dを注文することにした。EF−S18−135mmとのレンズキットと、それから超望遠レンズであるEF−70−300mm、レザーケースやSDHCメモリーカード、レンズフードに予備のバッテリーなどをアマゾンで合わせて買い、総計で24万円ほどの買い物となった。配達されて手元に来るのが楽しみである。




(平成25年9月20日著)
(お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。)





悠々人生・邯鄲の夢





悠々人生のエッセイ

(c) Yama san 2013, All rights reserved