いやはや全くもう、これは本当に大変な一日だった。夏の暑い土曜日のことである。朝ふと起きると、何かしら気力が充実している。そうだ、今日は数ヶ月に一度の家族ランチの日だ。久しぶりに孫娘ちゃんに会える。それに、夕方は花火を見に行くつもりだ。何と本日は、隅田川花火大会、立川花火大会、八王子花火大会と、三つも重なっている日である。それなら、人出も多少は分散されるだろうから、真ん中の立川にでも行くとするかと考えた。ただ、唯一の懸念は、天候である。都心は午後7時頃から雨、ただし2ミリ程度との予報である。立川はもう少し前の午後6時頃から2〜3ミリの雨とのこと。それなら、隅田川の方に行けばよい。家から近いし・・・でも、初孫ちゃんに花火を見せるのが目的だから、あそこは人出が多すぎて、ゆっくり見るどころではないからあまり適当とはいえないなぁ・・・。その点、立川は自宅からは遠いけれども、駅から数分と近いし、芝生の上でピクニック気分でゆっくりと見ることができる。まあこれは、直前の天気予報次第だと考えた。 そんな昔の記憶が一瞬、頭の中を過ぎるが、いやいやこれから楽しい家族ランチだった・・・。我々が帝国ホテルの入り口から入ろうとすると、ちょうど息子夫婦がタクシーから降りるところだった。これで娘のところと我々とで全員そろったので、正面玄関近くの生花・・・この日はひまわりの花だったが、その前で記念写真を撮った。フラッシュを使ったが、やや光量不足で、写真としてはいまひとつだ。これなら、フラッシュのない方が良かったと反省する。初孫ちゃんが楽しそうにスキップをする中、エレベーターにたどり着いて17階に行き、サール・レストランに入った。案内されたのが窓際だったので、良く全員の顔がわかるし、写真うつりも良い。孫娘ちゃんは、もう5ヶ月となった。笑い掛けると、それに応じて笑い返してくるから、その可愛いことといったらない。しかもその体は、いやもう、ふわふわ、ぽちゃぽちゃっとしている。抱かせてもらったが、初孫ちゃんとは大違いだ。初孫ちゃんは男だから、体が硬くて、あちこちごつごつとした筋肉に包まれているという感触だった。それを思うと、孫娘ちゃんとは雲泥の差である。既にこの頃から、男女の差がついているようだ。 ただ、唯一の心配は天候である。iPhoneのウェザー・ニュースは、午後7時くらいから雨が降ると予想している。朝にチェックをしたときは午後6時頃からだったから、ちょうど1時間遅れたことになる。この調子でまた1時間ほど遅れれば、花火がある程度見られるから、それで帰途につけばよいと考えた。空を見上げると、西から黒い色の雲が低く垂れこめて来ている。しかもそれらが猛烈なスピートが東に向かって動いているのでまさに雨模様だが、幸い降る気配はない。それどころか、西の方の空は、明るくなっている。それなら天候は持つだろうと自己流の判断をした。夏の夕暮れに、芝生の上に寝転がって初孫ちゃんとじゃれ合うのは、実に楽しい。 そうこうしているうちに、次第に風が強まってきた。近くの誰かのレジャー・シートが風で飛ばされそうになったと思ったら、私たちのレジャー・シートの四隅が捲れ上がった。これはいけないと、私の靴を四隅の対角線上に置いたが、それでも巻き上げられそうになる。そこで初孫ちゃんが、風で浮いてくるレジャー・シートの四隅の残りの対角線上に、私の真似をして自分の靴を置きに行った。「おお、なかなかやるな」と思っていたら、いやいやそれどころではなかった。新しく来た家族がつい隣の芝生にレジャー・シートを敷き、その四隅の穴にピンを打ち込んでいた。それを見ていた初孫ちゃん、私たちのレジャー・シートが入っていたビニール袋を取り出して、その中からピンを見つけ、それを四隅に打ち込み始めたから驚いた。何もいわれなくて、自主的にそうしたのだから、なかなかの学習能力である。これは凄いと、喜んで、家族にメールで知らせたほどだ。 そうこうしているうちに、花火大会の始まる時刻である午後7時20分が近づいてきた。ああ、あと5分だと思ったその時、西の空に雷鳴が大きく轟いた。あまつさえ、ピカピカッと稲妻が空に大きく走る。これはいけないと思った瞬間、ドドトーッと豪雨が降ってきた。稲妻と雷鳴がもの凄い。あわてて荷物を取りまとめ、リュックを背中に背負い、初孫ちゃんに小さな傘を渡した。私は、リュックもあるから傘をさすというわけにもいかず、そのレジャー・シートをそのままひっくり返してレインコート代わりとした。そして初孫ちゃんの小さな手を引き、公園の出口に向かった。当然のことながら、豪雨と稲妻を避けようとする人たちで大混雑となった。降りしきる激しい雨の中、我々二人も、駅に向かう大勢の群衆の中にいた。そして、一歩一歩、じわりじわりと駅に向かって歩かざるを得ない。その途中では、初孫ちゃんを励まし、逆に「おじいさん、大丈夫?」などと励まされたりもした。雨がかかるといけないと思って初孫ちゃんを抱き上げたり、しばらくして腕が痛くなってまた下したりを繰り返した。普通ならたった5分しかかからない距離を、何と1時間もかかってやっと駅構内にたどり着いた。ほっとして、駅の改札前の片隅で、初孫ちゃんの濡れた衣服を着替えさせた。そうやってほうほうの体で東京行の快速電車に乗り込んだのである。幸い、乗客の皆さんに、初孫ちゃんがひとり座れるスペースを空けていただいたので、そこに座ってもらった。この一連の行程で、初孫ちゃんは泣きもせず、終始、冷静でいてくれたので、とても助かった。自宅に帰ったらもう午後10時近くで、そのままお風呂に入った。 お風呂から出てきた初孫ちゃんに、家内が聞いたそうだ。「きょうは、大変だったねぇ。」これに対して、初孫ちゃんが答えたそうな。「雷も大雨も怖かったし、駅までは雨が冷たくて長かったけれど、おじいさんが守ってくれたから、良かったよ。おじいさんって、親切だねぇ。」家内の感想は、「三つの意味で良かった。一つは、おじいさんが親切だと改めて認識したこと。こういうことは、家に閉じこもって同じことをするだけでは知りえないことですね。二つ目は自分中心だった狭い世界から、人の気持ちや行動を客観的に評価できるようになったということ。三つ目は、いざというとき、自分はどういう行動をすべきかが少しは分かったことですね。」そういうことなら、今日は非常に意義ある一日だったけれども、ともかく疲れた。 (平成25年7月27日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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