悠々人生のエッセイ








 私は、平成22年7月にアップルのiPhone4Gを購入してその先進的なデザインと先端的なテクノロジーにいたく感心してしまった。文字通り「惚れ込んだ」のである。それ以来、平成25年4月の今日に至るまでのほぼ3年間、iPhone4SiPadiPhone5と新製品が出るたびにこのシリーズを使い続け、アップル製品の熱心なユーザーとなっている。そのどういう点が魅力的なのかというと、まずiPhoneというハード自体が電話であるほか、考えられないほどの高機能を備えているからだ。たとえば電話帳、メール、話した言葉を文章にしてくれるのみならず何でも教えてくれるSiri、カメラ、ビデオカメラ、カレンダー、手帳、計算機、地図、コンパス、音楽プレーヤーなどは基本機能で、それだけでなく何十万という数のアプリをインストールすれば、辞書、六法、翻訳機、通販、文庫本、ニュース購読、為替情報、ラジオ、万歩計、フェースブック、ツィッター、ホテル・航空券・鉄道の予約、多種多様なゲーム、銀行取引、株取引、カード取引、観光ガイド、インターネット閲覧、世界の大学の講義の聴講、その他ほとんどあらゆることが出来るからである。

 これほど多機能であるにもかかわらず、製品は直観的に使いやすく出来ている。最初に購入したときはともかく、それ以降、私は説明書など読んだこともない。それでいてどのアプリも自由自在に使えて、日常生活から高度な知的刺激まで、何でも可能だ。ありとあらゆることができる多種多様な機器なのだけれども、それがわずか片方の手のひらに入るほどの大きさにコンパクトに納まっている。だから、これこそ現代のIT社会の象徴のような存在である。そういうわけでiPhoneは、今や私の仕事、日常生活、趣味などに欠くことの出来ない相棒となっている。

 ところがその優秀な相棒だが、3年も経てばその発売された当時の新鮮な感動が薄れてきつつある。とりわけライバルであるアンドロイド搭載のスマートフォンのレベルが、近頃では以前とは比較にならないほど格段に上がってきたことから、さしものiPhoneも後れを取る状況になっている。そこで今日は、その状況の変化の一端を記してみることにしよう。

 元々iPhoneの生みの親はアップルの共同設立者の一人であり、文字通りの天才と評されたスティーブ・ジョブズであるが、残念なことに膵臓ガンに侵され、56歳の若さで平成23年10月に亡くなった。この時点でアップルやiPhoneの将来について心配する向きもないわけではなかった。ところがその後、後継者とされるティム・クックが、翌24年10月になって新しくiPadを発表し、これが市場の期待通りの出来だったことからそういう懸念が払拭されたように見えた。そのiPadの使い勝手は、私に言わせればその文字入力方式にいささか不満が残るものの、iPhoneとほぼ同じアプリが使え、しかも画面が大きくて高精細ディスプレイ「Retina Display」が採用されているからとても見やすい。メールやウェブをちょっと参照しようという日常の用途にはぴったりだ。まあ、ここまではユーザーの期待通りの製品だった。

 ところが引き続き同24年9月21日にアップルがiPhone5を日本で発売した頃から、私はその先行きに懸念を抱くようになった。特におかしいと思ったのは、その直前に行われたiOS5をiOS6にアップデートしたときに発生した地図(Apple Map)の不具合である。日本では羽田空港が大王製紙と表示されていたり、オーストラリアでは砂漠で実際の場所と70キロメートルも離れて表示されていたことから、旅行者が数人もその砂漠の炎天下で遭難しかけたという社会問題も引き起こした。こういうことは、それまで採用されていたグーグル社のGoogle Mapではあり得ないような失態である。このiOS6はそのままiPhone5に引き継がれ、地図が使い物にならなくなった。しばらく経って、各種アプリの側から地図としてGoogle Mapも選択できるようにアップデートが図られるようになったし、またApple Mapそのものも徐々に修正されつつある。しかしそれでも、地図の正確性や盛られた情報の多様さと使いやすさは、Google Mapと比べればまだまだ月とすっぽんくらいの大きな差が感じられる。完璧主義者だったスティーブ・ジョブズがもし存命であれば、こういう致命的なミスは、なかったのではないかと思うほどである。

 しかしそうはいっても、まだまだiPhone5は魅力的な製品であると思っていた。ところがこの間、米グーグル社製の基本ソフト「アンドロイド」を搭載するスマートホンがどんどん増えてきた。もともと、アンドロイドがその開発者であるグーグルの方針でいわゆるオープンなOSであるのに対し、iOSはアップルがすべてを差配するクローズなOSであることから、サムソンを代表とする非アップル陣営のほとんどがアンドロイドを採用するという状況にある。その結果、平成24年第4四半期の世界の統計では、アンドロイドのシェアが69.7%、iOSのシェアが20.9%となっているし、同年3〜6月の日本の統計では、アンドロイドが64.1%、iOSが32.3%と、世界と同様の傾向にある。その2年前の平成20年第4四半期のアンドロイドが30.5%、iOSが15.8%だったことを考えれば、ますます差がついてきた。

 ほんの2年前のことであるが、私のオフィスの女性でアンドロイド搭載のスマートフォンを買った人がいた。ところが、いきなり電源が切れたり、メールソフトが誤作動をして電話帳が消えたりしたことから、アンドロイドは使えないと思ってiPhoneを買い直したという話をしてくれたものである。そのときは、アンドロイドというのは、まだまだOSとハードとの連携がうまくなされていないという印象を持った。しかし、それからの2年間で、アンドロイド搭載のスマートフォンの使い勝手が目に見えて良くなってきた。というのは、つい最近、私の家族の中で一人だけドコモのガラパゴス携帯を使っていた娘が、それがとうとう壊れて、アンドロイド搭載の日本製スマートフォンに買い替えた。私はそれを見て、これはかなり進歩した完成度の高い製品で、もはやiPhoneのレベルを超えたのではないかと思った次第である。

 まず、最近のアンドロイド搭載のスマートフォンは、画面が大きくて見やすいし美しい。画面は、iPhone5が4インチなのに対して、最近のアンドロイド搭載のスマートフォンは5インチが主流となっている。こうした画面の大きさは、インターネットを閲覧する上では見やすさに決定的な影響を与える。それに、アンドロイドでは日本的仕様に欠かせない三つの機能、ワンセグ、おサイフケータイ、防水がある。こういうものは、iPhoneではとても実現できないだろう。何しろiPhoneは世界統一規格なのだから、日本独自のローカル規格など、アップルには見向きもされないはずだ。もちろん、ソフトバンクなどiPhoneを扱っている日本の通信会社もこれを気に掛けていて、そのための特別なチップを載せたアクセサリーが用意されてはいる。しかしこの先も、本体そのものにはそういうチップは決して搭載されないものと思われるので、これが日本のユーザーにはiPhoneの一番物足りないところだ。それにITを少しわかっている人にとっては、iPhoneのiOSは、いわゆるマルチ・タスクではないのが残念なところだ。もちろんアンドロイドもパソコン並みのマルチ・タスクかと問われれば、そうではない。ウィジェットといって画面の一部を使用した小さなアプリが使えてこれを通じて一種のマルチ・タスクを実現している。これだと、天気予報や為替レート、株価、Wi-Fiをオフにするボタンなどをあらかじめ配しておきさえすれば、わざわざアプリを立ち上げなくてもそのまま使えるという便利さがある(実はiPhoneにもウィジェット画面があるのはあるが、一度それを引き出さなくてはならないし、配置を自由に変えられないなど自由度が低い)。そのほか、iPhoneのiOSでは、MicroSDカードが使えないのが物足りないところである。

 その反面、iPhoneには、アンドロイドにはない良さもまだまだある。特にiPhoneの場合はすべてのアプリにアップル社の審査があるから、アンドロイドのスマート・フォンに比べると、ウィルスにとりつかれる割合は極めて低い。また、アンドロイド搭載のスマートフォンに比べて、iPhoneの方が電池の持ちが良いといわれている。もっともこれは、どういうアプリを入れているかということにもよる。さらに、iPhoneにはiTunesがあるので、ローカルなバックアップも出来るし、音楽関係が充実している。既にiTunes経由で音楽を購入してしまっているのなら、それをそのまま使える。

 とまあ、そういうことで、iPhoneにはまだまだ魅力があるが、アンドロイド搭載のスマートフォンに対する優位が、次第に縮まってきているのは事実である。私は勝手にそう思っていたが、先ほど述べたように最近のアンドロイドを搭載する新製品の完成度の高さには端倪すべからざるものがあり、中にはあっと驚くような進歩を遂げている新製品が出て来た。このままではiPhoneに優位があるどころか、近々、iPhoneがアンドロイド搭載のスマートフォンとの競争に負けてしまうのではないかとすら思うようになった。たとえば数日後の4月18日にドコモから発売される「メディウスW(N-05E)」(NECカシオモバイルコミニュケーションズ製。冒頭の写真)を見てもらいたい。このスマートフォンは、外側の裏表の2画面を備え、それが鯖折り状にしてあって、閉じればスマートフォン、開けばタブレットのような感覚でその2画面を扱える。だから、開いてその左画面でメールの一覧表を出し、その右画面でメールの内容を読むということも出来るし、もちろん左右画面を合わせて1枚の写真を写すことも可能だという。これは素晴らしい発想である。ただし画面の大きさは、片側4.3インチ、両面合わせて5.6インチということだ。

 普通のアンドロイド搭載のスマートフォンでも、ソニーモバイルがドコモから発売する「エクスペリアZ(SO-02E)」という製品が魅力的である。薄いガラス板を持っているような感覚でいて、5インチ液晶画面で高精細なフルハイビジョン(HD)の動画や写真に対応し、ワンセグ、おサイフケータイ、防水防塵機能を備え、ソニーらしく音楽関係が充実している。これまでソニーは、携帯電話端末事業はスウェーデンの通信機器メーカーであるエリクソンと合弁で行っていたが、そのせいかなかなか実績が上がらずスマートフォンでは出遅れてサムソンのギャラクシーに完敗の有り様だった。しかし、2年前にその合弁を解消してからは単独事業として取り組み、ようやくこの製品でその具体的成果が上がったかのようである。このほか、ソフトバンクから発売するシャープのアクオスフォンXx(203SH)は、例のIGZO液晶を採用する本格的なスマートフォンで、いくら使っても電池は1日は持つといわれている。

 それやこれやで、他社製品の魅力がますます増す中で、iPhoneの旗色は日に日に悪くなっていくような気がしてならない。あれほど全盛を誇ったiPhone王国がとうとう傾き始め、その行く末がそこはかとなく見えてきたといっても過言ではない。考えてみると、iPhone4Gが出て約3年弱が過ぎた。電子機器の世代交代のスピードは実に早い。この種の最先端機器としてはもはや寿命の峠を越し、他の機器にとって代わられる時期に来ているのかもしれない。それにしてもスティーブ・ジョブズがもし存命ならば、この危機に対してどんな起死回生の一打を打つのであろうか。

(平成25年4月12日著)




【後日談】 上の記事を書いてまだ間もない4月18日、アメリカのナスダック市場でアップルの株価が急落し、1年4ヶ月ぶりに400ドルを割り込み、398ドル11セントになった。昨年には株価が700ドルを超えたことがあったことを考えれば、隔世の感がある。またこれに次いで4月28日に発表されたアップルの1〜3月期の決算の売上高は、前年同期比11.8%増であったが、純利益は17.9%増に落ち込んだ。これに対してアップルは1000億ドルの自社株買いを発表したものの、これに株価は全く反応しなかった。また、当初は4〜6月にも発表されると期待されていた新製品も、ティム・クック最高経営責任者(CEO)が「今週から来年にかけて新製品を発表する」と言明しただけで、市場は肩透かしにあったような具合となった。一方、グーグルは眼鏡型の端末を発売し、サムスンは時計型の端末を開発中といわれる。そうした中で、アップルがこれまでのiPhoneのような画期的製品を生み出し続けられるかどうか、まさにその真価が問われている。


(平成25年4月24日著)
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