もう今年の暮れまで、あと2週間というところに来ている。それにしても、今年の3月11日午後2時46分に発生した東日本大震災は、本当に災難だった。この地震とその直後に東北各地の太平洋岸を襲った大津波で、約1万6000人の人が亡くなった。これは大震災による直接的な被害というものだが、それだけでなく、その津波で全電源が喪失した東京電力福島第一原子力発電所の原子力事故には、全国民が震え上がった。全部で6基の原子炉のうち、無事だったのはたった二つで、残る4基のうち三つがひどい水素爆発を起こした。高温となった炉心の溶融が止まらずに、メルト・ダウンを起こした模様であるが、映画で有名となったチャイナ・シンドロームにまで至るのではないかと本当に心配した。これは、消防、自衛隊、警察などの必死の注水作業で何とか回避され、その後の東京電力やその協力会社の作業員の皆さんの献身的なご努力で、事故から9ヶ月経った12月16日に冷温停止状態となったと発表されている。これらの事故収束に当たられた皆さんは、全員が「フクシマ」の英雄として、東北や関東地方の人々のみならず日本国民のすべてが深く深く感謝しなければならないと思っている。 その部分について早川教授はメディアのインタビューで、「自分や家族の健康のために、福島の米は食べるべきではないから、福島では米そのものを作るべきでない」ということをおっしゃりたかったそうだ。まあ、それはそうかもしれないが、まず批判されるべきは原因者たる東京電力と、それに対する監督が不十分だった原子力安全・保安院の国である。その上で、福島の農家は、最大の被害者であるから、そういういわば最も弱くかつ可哀想な立場の方々をダイレクトに批判するのはよろしくないと思う。ただ、消費者としては万が一にも健康被害を生じさせるような食物は食べたくないと思うのは当たり前のことだから、国の基準を上回る米がないかどうか、国や福島県は消費者に代わって常に監視していなければならない。 ところが12月に入って福島県旧渋川村の農家1戸の米から、国の暫定基準値(1キログラム当たり)500ベクレルを超える780ベクレルの放射性セシウムが検出された。しかし、その前月の11月12日、福島県は今年の新米を対象にした放射性セシウムの本検査を行っていた。そして県内1174地点すべての検体で国の暫定規制値500ベクレルを下回ったと発表していたのである。あまつさえ福島県知事は、この結果に基づいて県産米について「福島県のコメの安全性が確保された」と堂々と安全宣言を出したほどである。ところが結局、この汚染の発覚で政府は12月5日、原子力災害対策特別措置法に基づき、福島県に対し、福島市の旧福島市全域の2011年産米を出荷停止とするよう指示をした。そのときテレビで見た福島県のある農家の奥様の発言が忘れられない。「(県による)あんなたった2つくらいのおざなりなサンプル調査で大丈夫かと思ったけど、やっぱりねぇ・・・」。そうそう、私などはこういうことが十分あり得ることだろうなと思っていた。 こういう場合、国や県当局は、農家や生産者の立場だけでなく、消費者の立場に立ってしっかりと検査や調査をすべきである。特に消費者の信頼を確保するためには、公平で信頼性のある調査でなければならない。私がいささか驚いたのは、今年5月の頃の静岡県知事の態度だった。その頃、神奈川県の足柄産のお茶で、暫定基準値を超える放射性セシウムがあるものが見つかり、出荷停止となった。ところが静岡県は、「茶葉をそのまま食用にすることはほとんどない」として、当初は検査すらしない・・・いや、したくないなどと知事が発言していたからである。静岡県のお茶生産者を保護する立場からはそう思うのは当然かもしれないが、消費者保護の立場をすっかり忘れているのではないか。すなわち、消費者としては基準値を超えるお茶などを飲みたくないのは当然であるから、この知事の発想は見方を変えると全国の消費者の立場を全く考慮していないことになる。全国の消費者は、どの産地のお茶を飲むかの選択権を持っている。だから、県当局がいつまでもそういう考え方でいると、全国の消費者は、そんな生産者寄りの怪しげでおざなりな監督を行っているような県のお茶は、黙っても避けようとするから、自ずとそういう産地のお茶の消費が減っていくと考えるのが普通だろう。知事は、もっと深く考えて、そういうことにまず思いを巡らすべきである。 今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故では、このお茶農家のように、事故の最大の被害者が、結果的にではあるが実は消費者への加害者に転じてしまってその信頼を失うという、誠に皮肉なアンビバレントな状況にある。いわば、トランプのゲームで嫌われ者のババを引いてしまって、さあどうしようかと考えるようなものである。その結果、生産者側に立つか、消費者に立つかで見方は180度異なってしまう。その中で早川教授が消費者の立場に立って、ババを引いた人(生産者)がそれを隣の人(消費者)に押しつけようとするのは怪しかぬことだとばかりに、いささか過激で不穏当な発言をしたことから、世の物議を醸したというのが今回の事件の真相のようである。そこで私は思うのであるから、早川教授におかれては、他の研究機関や学者の追随を許さないような実証データに基づく素晴らしい地図を作成され、それを適切な時期に世の中に提供するという立派なことをされたのであるから、まずはこの客観的データの解釈をそれぞれの国民に任せてはどうであろうかと思うのである。 (平成23年12月18日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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