私はこれまで自衛隊に少しは縁があって、富士山の麓で行われる陸上自衛隊の東富士実弾演習、横須賀を母港にして駿河湾上で実施される海上自衛隊の観艦式に行かせてもらったことがある。しかし、航空自衛隊の観閲式には行ったことがなかった。ところがこの10月16日に茨城県の百里基地で行われると聞き、参加させていただいた。航空観閲式は、陸上と海上自衛隊とローテーションを組んで3年おきに行われ、今回で6回目になるという。観閲式とは、観閲官つまり自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣の観閲を受ける式典である。これにより、「隊員の使命の自覚及び士気高揚を図るとともに、航空防衛力の主力を展示し、自衛隊に対する国民の理解と信頼を深める」ことを目的とするとのこと。
まあ、有り体にいうなら、一般の自衛隊員に内閣総理大臣の謦咳に触れてもらい、「ああこの人が最高指揮官か」と自覚してもらって、日頃の業務に引き続き頑張ってもらう。それとともに国民には、自衛隊の装備品を公開して、「ほらこんな武器で日本の国と皆さんの命や財産を守っているんだ」とわかってもらう。そして周辺国には、「日本に侵攻したりすれば手痛い返り討ちにあうぞ」と暗にわからせるという意味合いがあるのだろう。
航空自衛隊の百里基地に着くと、格納庫前の滑走路の手前に大きなスタンドが作られて、何万人もの招待客を収容できるようになっている。その真ん中に紅白の幕が覆われた一段高い場所があり、そこに野田佳彦内閣総理大臣、一川保夫防衛大臣、岩崎茂航空幕僚長などがいて、観閲するという形となっている。式次第を記しておくと、午前11時25分から始まり、栄誉礼、国旗掲揚、慰霊飛行(4機編隊飛行してきて、うち1機がコースを離れて殉職者を偲ぶというものだが、この日は天候がよくないということで中止となる)、観閲飛行(F−2やP−3Cなどが会場の右手から左手へと飛んで来てそのまま去った)、巡閲(野田佳彦内閣総理大臣らがオープンカーで会場を一周し、機体の前に整列している自衛隊員らを見て回る)、訓辞(野田総理は、「自分は自衛官の倅だ」と語っていた)、栄誉礼、航空機地上滑走(騒音がすごいので、耳栓を詰めた)、展示飛行(ブルー・インパルスがダイヤモンド型編隊、スワン型編隊などという編隊を組んで目の前を通り過ぎた)、国旗降下、特別儀仗を経て、午後0時55分に観閲官退場で終了した。
それが終わって、三々五々、滑走路に並べられている大小様々な航空自衛隊などの航空機を見て回るという趣向である。ちなみに、並べられている航空機の前に整列している部隊について観閲官から見て左から右へいうと、空自音楽隊、陸自大隊、海自大隊、空自第1大隊、空自第2大隊、空自第3大隊などという順になっていて、それらの前に観閲地上部隊指揮官がいて、総理大臣を見上げるという配置である。
さて私はというと、招待客席に座りながら、愛用のオリンパス・カメラE−P3に400ミリの望遠レンズを装着して、観閲飛行中の機体を捉えようと待ち構えていた。諸元は、シャッター速度優先で1000分の1秒とし、空の明るさに機体が黒ずんでしまわないように、露出補正をプラス0.7とした。さて、左からF−4EJ戦闘機が飛んでくる。まさに目の前を通り過ぎようとした瞬間、シャッターを押した。すると、どうだろう。機体は既に画面を行き過ぎて、左端が切れてしまった。あらら、戦闘機の速度を考え、もっと手前でシャッターを切るべきだった・・・でもそれでは、焦点が合わないなぁ・・・電車の場合はあらかじめ線路のレールにでも合わせるのになぁ。よし、まあともかく、それではもう一度やってみるか。あれあれ、今度やってくるのは太いずんぐりとした機体である。それに速度がいやに遅いなと思ったら、輸送機C−130Hである。これは簡単で、しっかりと焦点を合わせ、機体が画面にちょうど収まるようにシャッターが切れた。しかし、この速度が焦点合わせの限界である。プロのカメラマンは、あのとてつもなく早い戦闘機に、どうやってピントを合わせるのだろう? うかうかしていると、あっという間に通り過ぎてしまうではないか。
式は進み、観閲式の花形であるブルー・インパルスの登場だ。ダイヤモンド型編隊を組み、真正面から我々の頭上を抜けていく。さあ、遠方のダイヤモンド型編隊を捉えてシャッターを押す。おお・・・うまく撮れた。それでは、ズームを一杯にして、頭上を抜けていく機体を大きく撮ろうとした。すると、撮るには撮れたけれど、画面中で構図ができるどこか、5つの機体がバラバラに散ってしまい、何とも締まりのない写真となってしまった。あまけに、慌てて撮っているから、少しぼけた写真になってしまった。いやはや、難しいものだ。次のスワン型編隊も、遠方から眺める形で編隊の形は撮れるのだが、ズームを一杯に大きくすると、どうしても画面の中に収まってくれない。やっと一機が画面の真ん中に大きく撮れたのは、着陸のときだから、笑えてくる。どうやら、カメラは一流だが、私の腕の方は三流だから、うまくいかないらしい。バカチョンカメラを持っていた隣の友人の方が上手な写真を撮っていたのだから、ますますお笑いだ。もっとも、その人は「ズームをアップすると、それだけ難しいんですよね」と、慰めてくれたけれど・・・。
野田総理大臣の巡閲が始まった。これは、オープンカーでゆっくり会場を回るというものなので、これくらいは撮れると思ったら、総理のアップの顔が、少しボケてしまった。あーあ、これでは、飛行中のブルー・インパルスの一機が撮れないのも、仕方がないか・・・修行が足りないな・・・というか、全く修行をしていないから、当たり前か・・・まあ、次回に期待しよう。
ちなみにこの日は、先日、石川県でF−15戦闘機がタンクを落としたので、その原因調査のために飛行中止となっていた。それだけでなく、朝の5時前には東京で大雨だったので天候不良で式全体が中止かと思ったら、曇天ながらかろうじて天候が持ち、何とか中止にならずに実施された。ただ、会場の上空の雲の高度が低いので、ブルー・インパルスは単純な平面飛行のみとなってしまい、あの、大空を駆け上がり、駆け下りるというダイナミックな飛行は見られなかった。しかし、それでも、式がまさに終わるというときになって、会場上空の雲の真ん中がぽっかりと開いて、青空が見えてきたのには、感激した。最後になるが、自衛隊員の皆さんには、通常の業務に加えて、東日本大震災で本当にお世話になった。これからも、よろしくお願いしたいものである。
(平成23年10月16日著)
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