悠々人生のエッセイ








 パソコンのセキュリティソフトとして、ノートンとマカフィーが市場を分け合っているのは、周知の事実である。このふたつのうち、昔から私はノートンを使って来た。最初は、何の気なしにこちらの方を買ったもので、これまで性能面で何の問題もなかったからである。ところが、サービス面では、大いに不満があることばかりで、一時は、史上最低のけしからぬ会社だとさえ思っていた。サポートは繋がらないし、値段は高いし、HPは見にくいし、まるで悪代官に対するように毎年お金を貢がなくてはならない。一番困ったのは、何か起こって、会社のサポート窓口に電話しても、ちっとも繋がらなくて、問題が全然解決しないことである。

 たとえば、一年ごとに更新していた頃のこと、それが自動更新扱いとなっているのを忘れていたのか、知らなかったのか、たまたまそういう設定になっていたのか、それすら今となっては定かではないが、ともかくそういう状態のときのことである。期限の何週間か前に、「あなたの契約の期限がそろそろ来ます。更新手続をしてください」というメールが来た。ああ、そうかとばかりにそのアドレスを開いてクレジットカードで決済すると、その情報が契約更新部門に行っていないらしく、気がついたら、そちらでも引き落とされていた。つまり、ひとつの商品に対して二重に支払わされたというわけだ。

 それを抗議しようとしたら、先に書いたように、会社のサポートの電話がぜんぜん繋がらない。そのうち、さほど高い額でもないこともあって、つい面倒になって放置しておいた。そして、気がついたら再び一年が経っていたというものである。では、そんな二重払いという嫌な目にあったにもかかわらず、なぜノートンを使い続けているのかといえば、IDセーフという機能があるからだ。これは、ウェブの画面を開けたときにそれがログイン名とパスワードを入れる画面であれば、自動的にノートンがそれらを入れてくれるというもので、これが他に追随を許さないほど実に便利なものだからである。

 ともあれ、こうした苦い経験をして以来、その轍を踏まないようにと、気を付けていたのだが、思いがけないことに、まったく別の問題が発生してしまった。ある日、わたしの使っているノートパソコンを開いたところ、「このパソコンには、セキュリティの問題があります」という大きな表示が出た。そういえば、前日の夜にWindows Updateの更新をして再起動したばかりだったが、その更新プログラムとノートンとの相性がよほど悪かったのだろう。緊急警告が出て、ノートンがストップした。そして、再インストールせよという警告が出てしまった。それによるとプロダクト・キーをメモして既存のノートンを削除せよという。

 そもそも、これをネット経由で買ったのか、CDで買ったのか(たぶん前者の方だったとは思うが)、そんなことは忘れてしまった。しかし、このノートンは、わずか1ヶ月前に更新したばかりだ。また買うのも、前回の轍を踏むようで、誠に面白くない。これは困った、あの通じない電話番号にまた架けるのかと思ったが、ほかにやりようがないので、時間の余裕のあるときに電話してみた。具体的には、自動更新を知らせてきた一月前のメールをひっぱり出し、それに注文番号とシリアルナンバーがあったので、それをメール最下段にあった0570-005557に問い合わせた。ところがこれは、料金の係だったらしくて、まず自宅の03から始まる電話番号をいわされて、それで本人確認がされたことになるようだ。それで、技術サポートに電話しろという。それは、03-5642-2682だった。

 すると、あれあれ、一発でスムースに繋がった。数年前とは様変わりである。応対してくれたのはWang Niという中国人の女性である。中国語なまりの日本語だが、私の言ったことは、十分にわかってくれているようだ。というのは、発生した問題の内容はこれこれだと説明すると、ちゃんと理解した。私の名前と電話番号をいうと、私の個人データを呼び出してくれて、それには、いつ更新したかも記録されている。私が「再インストールをしようとしたのだけれど、そもそもこれはネット経由で取得したものだから、プロダクトキーがわからない」というと、それを教えてくれただけでなく、「そちらのパソコンの遠隔操作をさせていただければ、こちらで再インストールをします」とまで言ってくれたから、有難くそれを了解した。その際、すべてアンインストールするのではなく、「既存のパスワードなどの保存」を選択すると、プロダクト・キーも含めてそのまま保存してくれるので、次回のインストール時には何もタイプインする必要はないことも教えてくれた。

 先方の指示のとおりにやると、遠隔操作が始まった。それだけでなくチャット窓が出てきてそれで会話もできるらしい。しばらくしてファイルのダウンロードが始まったが、私が使っている無線LANの速度が遅くて、「このままだと数十分かかってしまいます。その間、電話代がもったいないのから、切ってもよいでしょうか」と、ご親切にも聞いてくる。「ああ、そうしてください」と言ってから「ところであなた、どこでこの電話を受けているの?」と聞くと、中国の大連だという。「日本語がおじょうずね」と、おじょうずを言ったら本人は謙遜していたが、私は本当にそうだと思った。それと同時に、「日本から、また雇用が流出している。国内が不景気になるわけだ」という苦い感想も併せて抱いたのである。

 こうして遠隔操作が開始されたとき、チャット窓では、次のようなやりとりがあった。こちらのパソコンのウィンドゥズがおかしくなっているせいか、日本語のワードプロセッサーが立ち上がらないので、私は英語で送信せざるを得なかったが、それもちゃんと読んでくれている。このWang Niという中国人女性とは、このチャットだけでなく電話でも話したが、いろいろと気がつくし、配慮が行き届いているし、日本語だけでなく英語もできる・・・今時の日本では、まず見あたらなくなった完璧なプロフェショナルなのである。逞しいなぁ・・・近頃の中国の日の出の勢いがこんなところにも感じ取られる。これでは、ヘナヘナした近頃の若い日本人では、とても対抗できるものではない・・・しっかりしてほしいものだ。

12:17 接続しています...
12:17 接続しました。 サポート担当者がすぐに対応いたします。
12:17 Wang Ni とのサポート セッションを確立しました。
12:18 フル コントロール権限を Wang Ni に許可しました。 許可を無効にするには、ツールバーの赤い X 記号をクリックします (またはキーボードの Pause/Break を押します)。
12:18 Wang Ni によって開始されたリモート制御。
12:18 無人状態で再起動するためのログオン パスワードを設定しました。
12:18 Wang Ni は次のリンクを送信しました : www.norton.com/jp/nis11
12:24 Wang Ni: mail_to_uu@gmail.com
12:26 Wang Ni: お待たせいたしました。リモートサポート担当のオウ ニイと申します。よろしくお願いいたします。
12:45 106885: Ms Wang Ni Something is wrong with FEP processor So let me write in English.
12:46 106885: Thank you for your kind support But it seems to take time
12:46 Wang Ni: はい
12:46 Wang Ni: もうちょっと時間かかりそうですが、
12:47 Wang Ni: お時間大丈夫でしょうか?
12:47 Wang Ni: 日本語に変更いたしますので
12:48 Wang Ni: このリモートコントロールの関係で言語の変換はうまくできないようですが、
12:48 Wang Ni: リモート切断するによって、また元に戻りますので
12:49 Wang Ni: ご心配なく
12:51 106885: I understand Thank you very much
12:51 Wang Ni: こちらこそありがとうございます。
12:52 Wang Ni: 後10分ぐらいなので、もう少々お待ちください。
13:01 106885: Wow! It has finished Thank you!
13:01 Wang Ni: お客様、大変お待たせしました。以上で問題は改善されましたので、このままご利用いただきますようお願いいたします。他に何かご不明な点はございますでしょうか。
13:01 106885: Nothing special Thank you for your kindness
13:02 Wang Ni: こちらこそありがとうございます。
13:02 106885: Have a Good Day!
13:02 Wang Ni: また何かございましたら、お気軽にお問い合わせくださいませ。
13:02 Wang Ni: 本日、オペレーター番号XXYYのオウニイが担当いたしました。ご利用ありがとうございました。
13:02 Wang Ni: お客様、リモートを切断するために、私の方からパソコンを再起動させていただきます。パソコン再度立ち上がりましたら、リモートのチャット画面の右上隅の白い「×」ボタンをクリックすると、リモート操作が終了されます。
13:03 106885: Yes I will I'm waiting for the e-mail Today's service is perfact I appreciate you very much Bye
13:03 Wang Ni: ご協力ありがとうございます。

 いやあ、遠隔操作で新しい2011年版のソフトをちゃんとインストールしてくれるし、それにまた、この親切な対応といったら、数年前とはまるで別の会社に生まれ変わったようだ。その翌日、調査会社から私宛にノートンの窓口の対応をチェックするメールが来た。それには、大変に満足したという花丸の回答を書いたのは、いうまでもない。



(平成22年2月14日著)
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