一面に咲いている菜の花を前景に、雪を被った富士山を撮ってみようということで、昨年の3月21日、神奈川県二宮町の吾妻山公園に行った。ところが、その日はあいにく曇り模様の天気だったことから、富士山をまったく見ることが出来ずに、すごすごと引き上げてきたという事件があった。東京は晴れているので、そう遠くないところだからたぶん見えるだろうといういい加減な考えだったことから、まあ、当然の結末だったのかもしれない。 ところが、今年の私には、去年と違ってiPhone 4Gという強い味方が付いている。画面をわずか数回タップするだけで、全国各地の天候とその予報を1時間ごとに知らせてくれるし、ライブカメラまで見られるから、現在の富士山の様子がどうなのかをリアルタイムでチェックすることができる。それだけでなく、いわばカーナビの携帯版のような機能も付いている。つまり知らない土地に電車で向かっても、いまどこの線路上をどちら向きでどれだけのスピードで走っているかがすぐわかるというわけだ。これで外出がとてもしやすくなった。 そういうことで、昨日iPhone 4Gを使って富士山の状況をチェックしていたら、快晴で富士山がよく見えた。そして、明日も同様だろうという予報である。しかし、雪を被った富士山と青い空を写真に収めても、何か寒々しいだろうなと思っていたところ、いやいやそうではなかった。二宮町観光協会のHPによれば、早咲きの菜の花が満開だというではないか。ああ、これは昨年の心残りを取り払う良いチャンスだと思い、早朝にiPhone 4Gでチェックをして、もし富士山が見えていれば行こうと思った。 それで、当日の朝7時に天気予報とライブカメラを見たところ、快晴で富士山もよく見えていたので、東海道本線午前9時4分発・小田原行きの快速電車に乗ることにした。そして、8時20分頃に二人で家を出たのである。東京駅に着いたときには発車まで20分ほど余裕があった。コンコースをぶらぶらと歩いていたところ、東京ばな奈の出店が目に入った。そういえば、先日、実家へ帰るときに親類向けに3箱ほどここで買って帰ったことを思い出した。家内に、これを食べたことはあるかい聞くと、ないという。それではちょうど良い機会だから、吾妻山の頂上で食べるつもりで、一箱買った。ついでに暖かいお茶を買って、東海道本線に飛び乗ったというわけである。 電車は順調に走って横浜を過ぎ、大船を通り、何気なく車外の景色を見ていると、建物の隙間からわずかに富士山が見えた。ああ、これで今日は写真が撮れるとうれしくなった。それまでに雲がかからないことを祈るばかりである。それにしても早く着いてくれないかなと、いささか気がせく。焦るときにはまず腹ごしらえと、東京ばな奈を口へと運ぶ。うむ、なかなかやわらかくて、バナナのカスタード・クリームが口にとろけてくるのがわかる。これはうまい。しかし、この程度なら本物のバナナを食べる方がもっとおいしいし安くてよいと思えてきたりもする。だから私には、なぜこんなものが東京みやげとして売れるのかがよくわからない。家内にそう言うと、そうねえ・・・などと曖昧に答えつつも、その実、こちらの方が良いと、その目は語っているようである。 そうこうしているうちに、やがて所定の1時間10分ほどが経過したらしく、ほどなく二宮駅に到着した。前回来ているので、迷うことなく駅の北口から町役場の前を通って、吾妻山公園に向かう。そして、そびえ立つように見える300段の階段を登り始める。そのたくさんの階段をひとつひとつ上がっていった。途中、一休みできるようにと、ポイントごとに椅子代わりの木の切り株がちゃんと置かれているから、笑ってしまう。はじめはそんなものをと無視していたのだが、胸突き八丁というべきところを過ぎて、ついついそこに座っている自分の姿があった。これでは昨年来たときと変わらない。 それやこれやで、ようやく136メートルを登り切った。すると、そこは芝生の丘が連なる頂上で、周囲360度を見渡すことが出来る誠に素晴らしいところである。真っ先に視界に入ったのは、もちろん富士山だ。ほどよく冠雪をしていて、その白さと左右に広がるなだらかな稜線が実に美しい。山部赤人の「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」という歌が頭に浮かぶ。万葉の昔から、日本人は、この景色に魅せられてきたというわけだ。もっとも、途中でその歌が、「富士の高嶺に降る雪も、京都先斗町に降る雪も・・・」に変わりそうになったので、あわてて頭の中でそれを打ち消した。 ともあれ、今日は美しいものを見て良い写真が撮れた一日であった。新年最初の三連休としては、上出来である。社会にとっても、私たち家族にとっても、今年も良い年になるように心から祈りたい。 前回2010年3月、富士山撮りが出来なかったときの記事 (平成23年 1月 8日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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