これまで私は、山下公園から見た横浜港とその近くの中華街の夜景の写真を撮ったことはあるが、どうやらそれは、横浜の夜景のごく一部らしい。東京メトロのパンフレット「都心から横浜へ直通の『こなとみらい号』で行く横濱クリスマス夜景」を見ていると、このクリスマスの季節には、横浜市内の主要な建物のイルミネーションやクリスマスの飾り物がなかなか美しいようだ。では、クリスマスの一週間前だけれども、ちょっと様子を見て来ようかと、二人で出かけた。自宅を出る前に、夜景だけでなく、横浜港の手軽なクルーズはないかと調べたところ、「横濱ベイサイドライン」の「ハーバービュー横濱」というものがあった。横浜港をロイヤルウィング号でちょっと回り、それから横浜の夜景をバスで眺めるという趣向である。これも手軽だから、ちょうど良いと思って電話をしたところ、オフ・シーズンらしくて、席は空いていた。
そのお茶とケーキの幸福なひとときが終わり、上甲板のデッキに出てみた。真っ青な空に白いベイブリッジが見える。少し向こうには、ランドマーク、クイーンズスクウェア、グランドインターコンチネンタルホテルの特徴的な建物群と、コスモワールドの観覧車が見える。もっとも、午後は逆光になるから、良い写真を撮ることが出来ないのが残念なところである。行き交う船があり、大小様々である。おっと、そろそろベイブリッジをくぐるようだ。橋桁がぐんぐん近づいてきて、その真下から見上げる形となったが、けっこう高い。クイーン・エリザベスU号が通れるように、高さは175メートルだといっていたような気がする。東京のレインボー・ブリッジがその建造当時の世界最大級の客船に高さに合わせたものの、その後もっと高い船が主流になったために東京港に寄港できなくなったと、むかし何かで読んだことがある。その点、横浜の場合はまだ大丈夫なようだ。ところで、港にはカモメが付きものだが、どうも横浜港には、カモメはもちろん、鳥の数が非常に少ないような気がした。食べ物がないせいなのだろうか。
自席に戻ると、操舵室を見せてくれるという。入ると、傾斜した小さな窓が並んでいて、中央には丸いワイパー付きの窓がある。よく映画で見かける通りだ。操舵手が操舵輪を動かしている。船長さんに、レーダーを見せてもらった。黒い丸い画面に緑の粒々が数多く浮かんでいて、レーダーが動くたびにその一部が動く。ああ、前方に横切っている白い線がレインボーブリッジである。その向こうは陸地で、レーダーが動くたびに位置を変える緑の点は、船舶だ。ははぁ、左手にはちょっと倒れたような灯台らしき影があり、見慣れるとかなりわかる。船長さんに海上版のGPSはないのですかと聞くと、あるとの答え。それには、暗礁の位置などの海図情報も入っているらしい。この世界でも、ITの波が押し寄せてきているようだ。もっとも、たとえば太陽からの磁気嵐のようなものが襲ってきて、パソコンやらGPS衛星やらが故障してしまったら、やはり紙の海図に頼るしかあるまい。便利なような、不便なような世界になった。 着いたときはもう夕暮れで、ランドマークやコスモワールドの観覧車が夕闇の空に浮かぶ姿が幻想的だった。ところが、建物の中は中でネオンサインがきらめき、こちらもまるで異次元の世界のようである。一階には世界の縁日のような色とりどり、中身さまざまの食べ物屋さんがひしめき、二階にはアクセサリー・ショップというのか、バラエティ・ショップというのが正しいのか知らないが、その手の小間物屋さんが軒を連ねて立ち並ぶ。そこをぞろぞろと主に若い人が散策し、かつ食べているというまさに縁日状態だ。中庭には、クリスマス・ツリーが飾られて、またその回りを屋台が取り巻く。1号館前の広場にはスケートリンクまで作られている。その雑踏をしばし見物して、バスに戻った。バスに乗り込む頃には、とっぷりと日が暮れていて、たったいま来た道もわからないほどだった。 元町商店街の入口をかすめて、山下公園に戻った。私たちは、ここで降りて夜景を撮ろうと考えていたが、何しろ寒い日だったので、それは止めておこうと思い、このまま乗っていることにした。バスが市内を走っているときに、横浜三塔つまりキング、クィーン、ジャックと呼ばれる三つの塔があって、キングは神奈川県庁、クィーンは横浜税関、ジャックは開港記念館の建物とのこと。そういえば、それぞれの建物のてっぺんは、県庁が四角、税関はイスラム風の優雅な半球、記念館は二段重ねと、いずれもちょっと変わった趣向になっている。横浜に入港する外国人船員がそう呼んでいたそうだが、なるほどそれらしい。 再び、みなとみらい地区に戻ってきた。クリスマスの夜景を撮るため、我々は、グランドインターコンチネンタルホテルでバスを降り、そこから桜木町駅まで歩くことにした、このホテルは、外形は船の帆のような特徴的な形をしているが、中については私の昔の知識では、全く何もないという印象しかなかった。ところが今回は建物に入ってみると、ASEAN首脳会議がつい先日行われたおかげかどうかはわからないが、装飾もあちらこちらにあって、昔に比べれば、かなり良くなっていた。そこから、クイーンズスクウェアに向けて歩いてい行った。ロイヤルパークホテルの辺りで外に出ると、コスモワールドの観覧車がよく見えるテラスがある。そこで、その色とパターンを刻々と変える観覧車を撮った。その横には、丸い形の大遊具があって、それが回りながら立ち上がると、画面には観覧車の横に丸い光の輪が立ったり、斜めになったり、横になったりするように見えて、なかなか面白い風景である。ひとしきり、写真を撮った。 (平成22年12月18日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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