夏休みの最後の日曜日である8月28日に、富士山の麓で、陸上自衛隊による「富士総合火力演習」が行われた。昭和36年から始まり、毎年行われている実弾演習である。たまたま今年、行く機会に恵まれたので、御殿場からほど近い駐車場まで車で行って、そこから畑岡演習場までバスに乗せていただいた。基地の中を通って約15分程度の距離を走ると、そこはもう観覧者用スタンドとなっていた。真夏の暑い日差し中、3万人近い満員の観客で満たされたスタンドや見物席は、熱気に溢れていた。陸上自衛隊の最新装備を使った実弾演習を間近に見ることが出来るというわけで、なかなかの人気であるという。
演習に参加する主な隊は、(1) 富士教導団(本部付隊、普通科教導連隊、特科教導隊、戦車教導隊、偵察教導隊、教育支援施設隊)、(2) 高射教導隊、(3) 教育支援飛行隊、(4) 各方面隊隷下部隊、(5) 中央即応集団隷下部隊、(6)航空自衛隊ということで、もちろんこの富士演習場に駐留する部隊が主力らしい。参加人員は、約2,400名、戦車・装甲車約80両、各種火砲約80門、航空機約30機、その他車両約600両とされている。
演習内容は、二つに分かれていて、前半午前10時10分からの1時間は、203ミリ自走りゅう弾砲(この富士演習場から弾を打つと、熱海まで届くそうな)、装甲戦闘車、戦闘ヘリコプター、90式戦車、空挺団の降下である。午前11時25分から35分の後半は、対戦車ヘリ、戦闘ヘリなどのヘリボン行動、偵察行動、すべての装備による第一線部隊の攻撃で終わる。こう書いていると、私も装備に詳しいと思われるかもしれないが、実はその現場で配られたパンフレットを参考に記録しているだけで、日本の自衛隊の装備については、あまり知らない。むしろ、ディスカバリー・チャンネルの番組を通じて、アメリカ軍の戦車、装甲車、ヘリコプター、無人飛行機、イージス艦、航空母艦、潜水艦などの知識なら少しは持っている程度である。
その乏しい知識でいくと、戦闘ヘリAH-64Dというのは、要するにアメリカ軍のアパッチ・ヘリコプターらしいし、UH-60JAは、ソマリアで有名になった例のブラックホークに相当するようだ。戦車も、74式というのは、砲塔が丸いので、限りなく先の大戦当時のものに近い。これでは容易に対戦車ミサイルの餌食になりそうだ。90式というのも、外見からするとあまり変わらない。ところが、新式という戦車は、アメリカ軍のエイブラムズ戦車と似ていて、速度が早そうな上に、背が低いし、装甲が直線的だなどという感想を持つ程度である。戦車も盾と矛のようなもので、装甲板がとても硬くなって容易に砲弾が貫けなくなると、当たったら何千度という熱を出して中の乗員を熱で倒す砲弾が発明された。そうしたら、今度は戦車の側がそれを避けようとしてなるべく車高を低くし、かつ装甲板を斜めにしているから、たとえ弾が当たっても上方へ跳ねあげやすくしているタイプのものが発明されたとか聞いたことがある。
戦車の戦法は、要するに集団で一斉に射撃をして、さっとその場を離れてまた打つという動作、つまりヒット・エンド・ラン戦法で、その都度、陣地変換を続けていくというものらしい。弾を発射した場所にとどまってぼやぼやしていると、相手から反撃されるというわけだ。まるで、ワンパクを相手にした鬼ごっこのようなものだと納得。それにしても、戦車の一斉射撃というのは、もの凄い迫力で、砲塔から火を噴いたと思った瞬間、スズーンという大音響が耳と体を襲ってくる。これだけ、ミサイルが発達した世の中だから、戦車というものはまるで時代遅れそのものだと思っていたが、都市の中の戦闘などを考えると、確かに必要だと思う。しかしそれも、さきほど述べたようなヒット・エンド・ランのような戦い方をしないと、簡単に歩兵携行の対戦車ミサイルの餌食となってしまうだろう。新型戦車というのは、当然そういう場面も想定して造られているのだろうとは思うが、どうも確かめる術はない。
そんなことを考えながら、演習の行方を見ていると、空から空挺団が降りてきた。風のない日だったので、空から一直線・・・といっても、左右にゆらゆらと揺れながら、螺旋形を描くように団員の皆さんが下降しつつある。パラシュートは昔のように丸い菊の花のようなものを思い描いてはいけない。そうではなくて、今は横長の蒲鉾形で、要はパラグライダーのような形である。この方が、方向性が良いのだろうか? 全員無事に、地上の目標に降り立ち、パラシュートを急いで畳んで退場していった。それで、前段の演習は終了した。
演習の後段は、いきなりヘリコプターによるヘリボン行動から始まった。観測ヘリコプターOH-1というものが飛んできたと思うと、UH-1という多用途ヘリコプターが飛んできて、偵察用オートバイを何台か降ろし、それらがエンジンをかけて次々に走り出すという場面になった。ところがどういうわけか、最後に降りた隊員のオートバイのエンジンがかからず、あわててオートバイを押しながら退場していったので、皆「あー、あーっ」と悲鳴のような溜息のようなものをついて同情していた。さあ展開しようとする段階だったし、次にもう別のヘリコプターが近付いていたので、いかにも間が悪かった。
その次に来たローターが前後にあるヘリコプターCH-47Jチヌークは、隊員を5人ほど降ろした。それらが展開して活動した後、またヘリコプターに集まってきた。ヘリコプターからは、一本のロープが降ろされただけである。どうするのだろうと見ていると、その一本のロープに5人の隊員が群がったかと思うと、何とまあ、その全員を一気に釣り上げた。そして、そのまま100メートル以上の高度を保って飛び去って行ったのである。これは、かなりの技ではないかと思う。
技といえば、火力や弾の性能が大きく異なる状態で、それらが同時に弾着するような調整をして発射するというのは、素人が考えただけでもかなり高度な技であるが、演習中に、それをいとも簡単にやっていたのには、感銘を受けた、何でも、100分の1秒の単位で揃わなければ出来ないそうだ。この技を使ったのかどうかはよくわからないが、途中で、富士山の形に弾が爆発するように調整して打っていた場面があった。あわてて写真を撮ったのだけれど、肝心の光った場面は映っておらず、その直後の煙だけしか撮れなかったのは、いささか残念だった。このカメラの性能上、1秒間に3コマしか撮れないから、まあこれが限界だろう。
最後に思うのだが、こうした装備を実際に使うことがないように祈るばかりである。しかし、最新装備を備えておかないと、これまた万が一の場面で取り返しのつかないことになりかねない。近隣国の軍事技術と装備が質と量ともに日進月歩の状態にある中で、それには伍していかなければならないと考えている。
(平成22年8月31日著)
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