目 次 | ||
1. | 三宅坂の神代曙桜 | 1.写真集 |
2. | 六義園の枝垂れ桜 | 2.写真集 |
3. | 皇居北の丸公園の桜 | 3.写真集 |
4. | 千鳥ヶ淵の染井吉野 | 4.写真集 |
5. | 霞ヶ関外務省前の桜 | 5.写真集 |
6. | 憲政記念館の桜 | 6.写真集 |
7. | 愛宕神社の桜と鯉 | 7.写真集 |
8. | アークヒルズの桜 | 8.写真集 |
9. | 大手門枝垂れ桜と白鳥 | 9.写真集 |
10. | 新宿御苑の八重桜 | 10.写真集 |
1.三宅坂の神代曙桜 (写真集) さあ、寒くて長かった冬がようやく抜けて、やっと春が来たことを日に日に実感するようになった。というのは、梅に続いて、桜の季節となったからである。東京の桜といえば、イの一番にお勧めしたい場所は、千鳥ヶ淵などの皇居の周りのお濠沿いである。今週月曜日(3月22日)には、染井吉野が開花したと報じられたが、それから比較的寒い日々が続いたので、金曜日のきょう(27日)のところはまだ二分咲き程度である。 そこで、本日のお昼にはまず、半蔵門近くの三宅坂にある国立劇場辺りから散歩することにした。すると、国立劇場前の庭に、ピンク色がとても美しい早咲きの桜が天にも届けとばかり空一杯に満開となって咲いているではないか。これは素晴らしいと思って、近づいていった。道行く人たちもこの見事な桜の木に集まって、携帯カメラで写真を撮るのに余念がない。思わず私もその内のひとりに仲間入りして、気がついたら自分も写真を撮っていた。 この桜は、江戸彼岸(エドヒガン)の雑種で、元々は神代植物園にあったものだそうだ。掲示板によれば、その名も「神代曙」という。それにしてもこの桜は、染井吉野(ソメイヨシノ)よりもピンク色が強く、それが空の青い色とちょうど対比色になって実に美しい。可憐、美形、ほのか、夢幻・・・・そんな言葉が浮かんでくる。もう八分咲きくらいで、あと数日もすれば真っ盛りとなるだろう。開ききった桜の花もよいが、まだ枝にはたくさんある蕾の桜も、ますますピンク色が濃くて、これまた素晴らしい。おっと、何かが目の前を横切ったかと思ったら、蜂が桜の花に飛んできて、取り付いている。こちらも、御馳走を前にして、大忙しのようだ。 さて、その神代曙のところでしばらく過ごした後、半蔵門に向かって内堀通りを皇居に沿って歩いていくと、左手に甘味処がある。ちょうどお昼というのに、あまり人がいない。店先のメニューを見たところ、おはぎがあるではないか・・・それも、最近流行りのちょこちょこっとした小さなおはぎではなくて・・・昔懐かしい大型のおはぎである。私が小さい頃、やってきてくれた祖母がよく作ってくれたものと、そっくりではないか。それも、あずき、きなこ・・・などとある。これは注文しなくてはと思ったが、これでは昼食にならない。それではと・・・併せておでんも注文した。おはぎと、おでんという、妙な取り合わせだけれど、この店ではありきたりの注文らしくて、二つ一緒に持ってきてくれた。どちらも、おいしかったのは、いうまでもない。 甘味処を出て、内堀通りの信号を渡って皇居側に行き、そこで桜田門方向を見て写真を撮った。手前には、菜の花、正面には桜田濠の水面があり、その先には警視庁や国土交通省の建物とアンテナが林立していて、左右には、皇居の城郭の斜面の緑がある。なかなか、美しい風景であるが、あと数日もすれば、左手前には桜が満開となる。そうすれば、もっと幻想的な景色となるだろう。機会があれば、また来てみよう。 イギリス大使館前まで歩いて行ったが、途中に見かける皇居の桜は、まだ早い。そこで、信号を渡って帰ろうとしたが、そのとき、公園に少し花が植えられていることに気がついた。この青い五弁の花は、ビンカ、和名を蔓日日草(つるにちにちそう)というらしくて、地中海原産なのだそうだ。 それから、スズランのようなスイセンのような、白くて下を向いている可憐な花があった。これは、その名も鈴蘭水仙(すずらんずいせん)といい、花言葉は「皆をひきつける魅力」とのこと。確かに、そういう気がする。同じ公園には、もう真っ盛りの桜があり、葉が出始めている。もちろん、染井吉野ではないが、早咲きの山桜なのだろう。 その公園の一角に、遠めでは、ピンクの桜のような木が咲いていた。近づいてみると、木蓮(モクレン)ではないか。美しい紫がかった色をしている。これは、これは・・・見事というほかない。しかも、風が吹いてくると、あの大きな花弁が、ぱらぱらと落ちてくる。地面は、紫のような、ピンクのような、そして花弁を裏返した白い色で埋め尽くされている。その下で、お弁当を広げている女性がいたが、あれだけの花弁の雨の中で、よく食べられたものだと思う。しかし、めったにない経験を楽しんでいるのかもしれない。 最後に、赤い立派な花を付ける石楠花(しゃくなげ)を見た。たぶん同じ株ではないかと思うが、一ヶ所に、蕾から、開きかけ、そして満開の花が咲いていた。つまりは、咲く過程を一度に観察したようなものである。こういうのは、あまり見たことがない。ちなみに、石楠花の花言葉は「威厳、荘厳」という。 (平成22年3月27日記) 2.六義園の枝垂れ桜 (写真集) 東京で咲く桜としては、これ以上の豪華絢爛なものはないだろうと私がひそかに思うのが、六義園の枝垂れ桜である。いつも、染井吉野が咲く頃になって行ってみると、もう散り始めていてがっかりという有り様だった。そこで、今年は早めに行ったつもりだったが、それでも思ったより少し遅くて、ちょうど満開の時に当たった。まあ、結果としてよかったということである。 もうひとつの今年の工夫は、開園した直後に行ってできるだけ見物人のいない枝垂れ桜を撮ろうというものである。それで、どうだったのかというと、午前9時開園のところを5分過ぎに着いたのだが、もう枝垂れ桜のすぐ前には2〜3人の人がいて、しかもなかなか熱心に写真を撮っている。特に、黒っぽい服の女性は、右に傾いてクローズアップで桜の花びらを撮ったかと思うと、今度は左に傾いてまた同じように撮ったりと、その場をなかなか開けてくれない。カメラを持って遠巻きに並んでいるカメラマン・ウーマンは、皆イライラしているのがわかる。しかし、その願いもむなしく、それからしばらくして、どっと見物人が入って来てしまった・・・万事休すである。まあそれでも、何とか数枚は、枝垂れ桜だけの写真を撮ることが出来た。欲を言えば、空が青空だったら、桜のピンクと映えて美しかったはずなのだが、それだけが心残りというものである。また来年の楽しみとしておこう。 さて、それから園内を一周してみたのだが、もう春の息吹きが感じられて嬉しくなる。苔は緑色を濃くしているし、木々には新芽が出ている。緑の葡萄のような、木五倍子(きぶし)が咲いているところがあって、その辺りだけが異次元のような、とても不思議な風景であった。池では、金黒羽白(キンクロハジロ)がたくさんいて、餌をめぐって鯉と壮絶な取り合いを演じていた。ちなみに、このカモ科の小型の鳥は、頭の後ろの毛が飛び出したようにバラついているので、別名を寝癖鳥(ねぐせどり)というのだそうだ。まったく、面白い命名をしたものだと感心する。そのほか、花海棠は、まだつぼみで、山吹は、その一部が咲き始めていた。早春の段階が終わりつつあり、いよいよ春本番が近付いている。 (平成22年3月28日記) 3.皇居北の丸公園の桜 (写真集)
きょうは天気がよいし、黄砂も飛んで来ないようなので、ここしばらく見たこともないほどの青空となった。残念ながら染井吉野はまだ四分咲き程度で満開とはいかないが、その他の山桜や枝垂れ桜などの早咲きの桜はもう盛りを過ぎる頃である。青空を背景に写真を撮ると、桜の白さやピンク色がとても引き立つ絶好の写真日和である。皇居の北東側の竹橋から内側に入って、北の丸公園を南から北へ歩くことにした。これは、山桜系だろうか、今が満開となって、溢れんばかりに花が四方八方に付いている。また、ピンク色系もあって、中心部は赤い。その名を知りたいが、残念ながら、手掛かりはない。
さらに行くと、辛夷(こぶし)が咲いていた。演歌の北国の春で一躍有名になった花である。一見すると白木蓮そっくりであるが、あちらは花びらが十分開かずに落ちるようであるが、こちは五弁の花びらがしっかりと開いて咲く。青空を背景に、真っ白な辛夷の花びらがたくさん咲いている様子は、人の心を打つようである。なるほど・・・それで、これが咲いていた故里を思い出す歌というわけか・・・わかるような気がする。
あれあれ、この黄色い花は、あまり見たことがない。葉は桜そっくりだが、花の形は明らかに違う。先週、二宮の吾妻山公園で見た連翹(れんぎょう)とはまた違う花だ・・・ということで調べてみたところ、これは土佐水木(とさみずき)という満作(まんさく)科の花であることを確認した。ネットでは、花言葉は「清楚」「にぎわい」とされている。良く茂るので、垣根の木に適当だという。
おやまた、これは絢爛豪華な枝垂れ桜である。ちょうど、インターの入口前という気の毒な位置にあるが、その大きさといい、枝ぶりといい、個々の桜の見事さといい、私が絶賛した六義園の枝垂れ桜に勝るとも劣らない。とりわけ、青い空と桜のピンク色を対比すると、まるで一幅の絵画を見ているようである。惜しまれることはただひとつ、生えている場所が悪いことのみで、この桜のせいではない。後からこんなところに首都高の入口を作ったのが悪いのである。もしこの枝垂れ桜が北の丸公園の中心部にあったとしたら、絶大な人気を誇る桜となっいたことだろう。
大きな武道館を通り過ぎて、田安門でお濠に架かっている橋・・・というか土手に咲く桜を撮ったもので、両側から橋の上に覆いかぶさってきていて、これぞまさしく桜のトンネルというに相応しい。その中を腕を互いの背に回して歩くカップル、そんな時代をはるかに超越している中高年の二人連れなど、色々な年代の人たちがたくさんブラブラと散歩している。そのような人々に混じって私のように、短いお昼の時間を有効に使おうと、バシャバシャとシャッターを切って歩いて駆け抜けるなどという人種は、あまりいなかったので肩身が狭い思いをした。
さて、田安門の土手を渡って対岸に着き、振り返って田安門の櫓を眺める。右下にあるのは、また明日にでも撮りに来ようと思っている千鳥ヶ淵濠の端の部分である。桜が満開を少し過ぎた頃に、この千鳥ヶ淵濠でボートを漕ぎ、風が吹いて来て散り始めるときの桜の花びらをボート上から見上げるというのが、最高の花見だと思う。しかし、残念ながらまだ私は現役で仕事中なので、それはリタイアした後の楽しみにとっておきたい。
ちなみに、この機会に桜の種類を勉強しようとして、ネット上を色々と調べたところ、ネットに掲載されたものとしては、公益財団法人「日本花の会」による桜380品種についての「桜図鑑」というものが、参考になった。しかし、桜の現物を東京で見たければ、高尾に独立行政法人森林総合研究所「多摩森林科学園」という公的な機関があって、約250種類、約2000本の桜が保存目的で植栽されているので、こちらに行くとよい。かなり以前のことになるが、実は私も現地を案内していただいたことがあり、桜の種類の多さと美しさに感嘆したことがある。どなたでも入れて、しかも高尾駅北口から徒歩でわずか10分程度という便利なところにあるので、ご関心がある方には、是非お勧めしたい。 (平成22年3月31日記) 4.千鳥ヶ淵の染井吉野 (写真集) いよいよ、東京の桜の名所中で白眉とされる皇居の千鳥ヶ淵に行き、濠沿いに植えられている満開の桜、染井吉野を楽しんだ。九段下駅で降り、靖国通りに沿って歩き、靖国神社の石の鳥居がある交差点辺りから、「千鳥ヶ淵緑道」と書かれたところを大ぜいの人たちとともにゾロゾロと歩くという趣向である。 千鳥ヶ淵濠は、ちょうどL字形をしているが、その直角に曲がる角が、歩き始めのところに当たる。そこから最初に見える景色は、お濠の水面と両脇の桜、奥に見える建物と空、それにお城の石垣といった組み合わせの妙である。しかも、桜はお濠の向こう側だけでなく、こちら側からもいっぱい植えられているので、我々に近いところに桜の花がまずあって、そしてお濠を越えて石垣側にもたくさんの桜があるので、いたるところに桜がある。しかも、お互いに満開となっているから、まあその豪華絢爛たること、一幅の絵画の如しである。これに普通なら、ゆったりと漕がれる何艘かのボートを一緒に目にすることが出来るのだが、残念なことにたまたまこのお昼の時間は、強風のためにボートは繋留されたままであった。 さて、それからは、頭上の桜をたまに見つつ、もっぱらその濠の水面や石垣の桜、それからこちら側から濠に突き出している桜の枝を見比べながら、がやがやと喋る群衆に交じってゆっくり歩いていく。途中、立ち止まって記念写真を撮る家族連れ、感激のあまり「綺麗ねぇー、綺麗ねぇー」を連発する奥さま達がいるかと思えば、むっつりと黙りこくって歩く中高年の夫婦連れ・・・話題がないのだろうかと心配になるほどだ・・・新入社員らしき元気な若い背広の一団、赤ちゃんを連れてきている若い奥さん・・・こんなに混雑している所に赤ちゃんとはと心配になる・・・和気藹々の社内グループなどなど、いやまあ、色々な世代の人たちが連れだって歩く。これが、千鳥ヶ淵流の花見なのである。 今日の千鳥ヶ淵はそれほど込んでいないが、日曜日になると、もう押すな、押すなの大混雑で、冗談のようだが、屋外にいるのに人いきれで息苦しくなるほどである。それではと、夜間に来る人たちもいる。宴会ではなくて、近年あちこちで流行っている夜桜のライトアップを楽しむためである。もっとも、私はまだ行ったことはない。これほど人出が多いと、三脚などは立てられないだろうから、写真は撮れない、したがって興味も湧かないというわけだ。 さて、途中にはボート乗り場脇の展望台があり、そこからの景色は、これは絶対に見逃してはいけないものである。前面には、美しい色の水を隔てて桜の列島のような皇居の一角がドーンとばかりに目に入る。特にこの日は、それに加えてたくさんの繋留ボートがゆるやかな弧を描いている。・・・パノラマ写真を作るとまるで魚眼レンズで撮ったような写真となったのは、思わぬ副産物であった・・・左に目をやると靖国方面まで続く千鳥ヶ淵の水面があり、空が青くて美しい。実に、清々しい風景である。都心の真ん中で、これほどの景色に出会うとは、実に幸せな気分となる。新しい年度が始まる。また今年も、頑張ろう。 (平成22年4月1日記) 5.霞ヶ関外務省前の桜 (写真集) 今回は、外務省前の歩道の桜を中心にご紹介をしたい。霞が関界隈では、毎年、この桜のトンネルが出来上がる。そこで、その桜のトンネルの下を歩くことを楽しみにしている人が多い。ここはそういう、隠れた桜の人気スポットなのである。ただ、今や言っても仕方のないことだが、比較的最近、隣に背が高いだけで何の情緒も感じられない総務省ビルが建てられてしまった。そしてこれが桜並木の背景となってしまったのである。この総務省ビルがなかった時代には、もっと良かったと言う人が多い。そのときは、大空のスペースがこうしたビルに占拠されずに、一面が青い空の背景だったからである。
まあ、それはともかくとして、この季節の外務省のビルはたくさんの桜の花で囲い尽くされていて、それはそれは美しい。普段の建物と、月とスッポンくらいの違いがある。ただ、たった1週間かそこらで終わってしまうのが、いかにも日本的である。なお、この日は特に守衛さんに頼んで敷地内に入れてもらい、桜に囲まれた明治期の偉人、陸奥宗光公の像の写真を撮らせてもらった。誠に素晴らしい景色である。
最後は、国会議事堂脇の桜である。晴天のときに撮った写真であるが、真っ青な空の色に対し、桜のピンク色、国会議事堂の白っぽい色、それに画面左に翩翻とひるがえる日の丸の旗という、とり合わせの妙が特に気に入っている。 (平成22年4月1日記) 6.憲政記念館の桜 (写真集)
先週、永田町にある隠れた桜の名所、憲政記念館に行って来たので、その話をしておきたい。ここは、国会議事堂のまさに目の前にあり、憲政記念館と時計塔のある北庭、そして南庭がある。憲政記念館は昭和47年に開館されたもので、議会制民主主義についての一般の認識を深めることを目的として設立されたという。玄関には、「憲政の神様」尾崎行雄翁が、イヨッとばかりに気軽に帽子を掲げている像が置かれている。
しかし、実はそれ以前よりこの場所は、とても有名なところだった。まず、江戸時代の初めには加藤清正が屋敷を建てた。次に、彦根藩の上屋敷となった・・・そう、あの井伊直弼が居住していたところなのである。桜田門外の変は、登城のため直弼一行がこの屋敷から桜田門の方向に向かっていく途中に、水戸の浪士たちによって引き起こされたというわけである。それだけでなく、この地は、明治時代になってから参謀本部・陸軍省が置かれたところとしても知られている。
ははあ、それはすごい歴史的な場所だと思うのだが、現在のこの場所は、平日にはさほど来訪者がいるとは思えない憲政記念館が置かれているだけで、その他の土地は公園風になっているものの、人影はまばらである。しかし、知る人ぞのみ知るという花の名所であり、現に春ともなれば、桜、ハナミズキ、ツツジ、アジサイの花を楽しめるようになっている。特に桜は、「うこん桜、思川、天の川、市原虎の尾、八重紅大島や普賢象・麒麟・関山・静香・福禄寿・梅護寺数珠掛桜など」があるというが、咲く時期が違うので、どれがどの桜か、私は未だもってよくわからない。ちなみに、これらの桜の木は、(財)日本さくらの会が植樹したものだという。 (平成22年4月14日記) 7.愛宕神社の桜と鯉 (写真集)
東京都港区の神谷町駅近くにある愛宕神社は、私のオフィスからほど近いところにあるから、よく出かける。桜の花見といっても、他の名所と違って染井吉野しかないので単純そのものではあるのだが、そもそもここは、これほど浮世離れをした場所が東京の都心の真ん中にあるとは想像もつかないという意味で、私の好みにとっても合うところなのである。だいたい、近づくと見上げるような出世の石段がドーンと目の前にある。登るたびにこれは大変だと思いつつ一歩一歩階段を踏みしめていく。そして、よせばいいのに、真ん中辺りで、おそるおそる下を振り返る。あらら、下手をすると落ちそうだと思いつつ、振り返ったことをちょっぴり後悔し、またそのまま登り続け、てっぺんに至ってやっと、ほっとするということを、行くたびに繰り返している。
実は、登るのが嫌なら向かって右手の傾斜がゆるい女坂を行けばいいし、またこれは秘密・・・ではないか・・・向かって左手のところには、高層ビルの建設で最近出来たエレベーターで上がってもよいという誠に便利なご時世なのである。しかし私は、いまだにこの出世の石段・・・寛永11年に四国丸亀藩の家臣の曲垣平九郎が馬で往復したと伝えられている目のくらむような階段・・・を登るという、サラリーマンの鏡みたいなことをしている。
さて、この桜の季節、標高26メートルの石段を登りきったところの右手にある池に目をやると、あれあれ・・・と、顔が自然にほころんでくる・・・また今年も、池一面に散る桜の花びらの下でたくさんの錦鯉が群れていて、必死に餌をねだっている。ここには、お濠のように、鳥という手ごわい競争相手はいないから、錦鯉どうしの競争ということになるが、それでもまあ、その激しいことといったらない。まず、大きな口を開けて・・・その時に、チュボ・チュボ・チュボという音がする・・・群れて集まり、それが他の鯉を次々に乗り越えてどんどん迫ってくるほどである。それを見ていると、何だか、サラリーマンどうしの競争にも思えてきて、いささか浅ましくなるが、なるほどこれが生存競争というものかとも思う。
池の周囲に目をやると、石の上に生えた苔の緑が美しいし、その上に散る桜の花びらのほのかなピンク色が、よく映えている。ううーむ、これぞ私がイメージする日本の美である。こんなものを真昼間に都心のど真ん中で見られるなんて、何て運が良いのだろうと思う。そうやってひととおり池の周りを巡り、そしてお参りしようとしたが、最近はどういうわけか参拝客が一列に並ぶものだから、少しも列が進まない。お賽銭箱のはるか手前で一礼するだけで済ませ、神域の隣に行った。
そこは、NHKの放送会館がある広場で、その周囲の染井吉野の桜の木が満開を迎えていた。その下で、今年もサラリーマンの皆さんがビニールシートを敷き、皆で寄り添って仲良くお弁当を食べている。見るところ、同じ職場の人たちというより、同世代のグループが多いようだ。こういうところにも、時代の流れが見受けられる。
愛宕神社については、この悠々人生でも、ブログ、ビデオ(桜と鯉)、(出世の石段祭)などでこれまで何回も取り上げてきたが、やはり今回も、単に訪れるだけでは気が済まなくて、何枚か写真を撮ってしまった。ともかく、私の好きな神社なのである。
(平成22年4月15日記) 8.アークヒルズの桜 (写真集)
港区赤坂のアークヒルズは、今年で24年目を迎える高層ビル群である。森ビルの大規模再開発事業で造られたこのオフィス棟には金融機関等の外資系企業や法律事務所など、隣のホテル棟にはANAインターコンチネンタルホテル東京、別棟でクラシック音楽専門ホールのサントリーホールなどが入居し、その裏手には高級賃貸レジデンス棟などもある。以前は、テレビ朝日もここにあった。もう建設後四半世紀に経ってしまって、世間の注目は六本木ヒルズや東京ミッドタウンなどに一旦は移ったものの、ITバブル崩壊とともにそれも薄れてしまい、今やその前の前の時代に当たるアークヒルズについて、人の口の端にのぼることは稀である。
しかし、そんなことは、この際どうでもよいことである。その名も桜坂という、アークヒルズを取り巻く坂には、建物が出来たばかりの頃に植えられた何百本もの染井吉野の木があり、それらが順調に育ってくれて、この十数年は、お花見が楽しめるようになったからである。それも、上野公園や飛鳥山公園のような、人波でごった返すということもなく、昼休みで外資系企業のサラリーマンたちが三々五々そそぞろ歩きする中で、桜のトンネルを見上げてその美しさを愛でるというものである。また、うまい具合に途中に下の道路をまたぐ形で歩道橋が架かっていて、その上からは、桜のトンネルを上から見渡せるというポイントもある。場所柄、外資系に勤めているような外国人女性たちもここに来て、キャアキャア言いながらお互いの写真を撮ったりしつつ、桜見物をしていた。まさに、都会のオフィスならではのお花見なのである。
その桜のトンネルの合間には、建て替えられた霊南坂教会の尖塔・・・ではなく、建て替え前の古い建物はそうだったのだが、今は何というのか・・・ともかく十字架の塔・・・が見え隠れし、もちろん周辺の高層オフィスビルが見える。これがまた、染井吉野の素朴な桜と非常に調和していて、見るたびに私が感動するような風景が現出する。 いまも、一陣の風が吹いてきたかと思うと、ああっ・・・桜の花吹雪が尖塔をバックに舞い落ちる・・・下の道路もピンクの花びらに覆われていく・・・風が吹くたびに次々と花吹雪が空に舞い上がり、やがて風に乗ってふわりフワリと辺り一帯に落ちていく。池の水面に落ちる桜の花びらは花筏、土の上なら花吹雪とは、よく言ったものである。これぞ日本の美というものか。 とりわけ、花吹雪に包まれた霊南坂教会の尖塔は、日本の美と西洋の美とが混ざり合って東西が融合している気がする。ちなみに、この霊南坂教会では、昔はよく芸能人が結婚式を挙げたところである。それだけでなく私の親友もここで結婚式を挙げ、それに出席した私にとっても思い出深いところである。
(平成22年4月15日記) 9.大手門枝垂れ桜と白鳥 (写真集)
さてこれは、皇居大手門に咲く枝垂れ桜である。この写真は、4月9日に撮ったもので、いつも染井吉野より10日から2週間ほど遅れて満開となる。小ぶりな枝垂れ桜であるが、年々、姿形が成熟してきて、あと10年もすればこの辺りの柳の木を押しのけて、大手門の名物になること請け合いの桜である。また、最近は、この大手濠でも白鳥を飼っていて、雛が生まれることもあり、それがまた可愛い。
ということで、ここはお勧めの桜の見物ポイントなのであるが、残念ながらこの2年ほどは、この枝垂れ桜が並ぶ外堀通りで、ちょうどその桜の木を覆いかぶさるようにして、何かの工事中のである。だから、せっかくの皇居お濠とその水面に映えるピンクの枝垂れ桜という素晴らしい景色が、工事用の柵や機械に邪魔をされて、十分に堪能できないことが残念なところである。
(平成22年4月15日記) 10.新宿御苑の八重桜 (写真集) 一週間前の桜を見る会のときは、とても寒くて都内で摂氏8度の気温、早朝には雪が降るという、4月中旬としては季節外れの天候であった。ところがその次の週の日曜日には、一転して気温が20度近くに上がり、誠に春らしい良い天気となった。そこで、午前中に家内と新宿御苑に行ってみたのである。 新宿門から御苑内に入ってみると、気のせいか、あちらこちらが華やいでいる。それもそのはずで、ありとあらゆる種類の八重桜が、まさに満開の時を迎えていたのである。とりわけ日本庭園の近くには、多種多様な八重桜が植えられているが、それらが一斉に桜の花を付けているのだ。桜の色のピンクが濃い「関山(かんざん)」、それよりもピンク色がやや薄い「普賢象(ふげんぞう)」、真っ白に近い「一葉(イチヨウ)」、桜なのに緑色で、真ん中が少しだけ赤い「御衣黄(ぎょいこう)」、うっすらピンクで、それが真っ青な空の下で美しい「松月(しょうげつ)」、その名前から、一度じっくりと見てみたかった「鬱金(うこん)」などという木々である。それらが今まさに、さあ見てくれとばかりに重たそうな桜花を小枝いっぱいに付けて、咲き誇っているところである。 家内と二人で、「ああ、きれいだなあ、美しいなあ、さっと咲いて、あっという間に散ってしまう染井吉野もいいけれど、こういう八重桜の競演もいいなあ。これこそ熟年の味だ!」などと言いつつ、苑内を見て回り、最後の桜の季節をゆっくり堪能したのである。 (平成22年4月26日記) 【備 忘 録】 さて、このようなわけで、東京では、3月最終週から4月下旬にかけ、三宅坂の神代曙桜からはじまって、六義園の枝垂れ桜に会いに行き、皇居北の丸公園の桜、千鳥ヶ淵の染井吉野、霞ヶ関外務省前の桜、憲政記念館の桜、愛宕神社の桜と鯉、アークヒルズの桜、大手門枝垂れ桜に白鳥、最後に新宿御苑の八重桜と、桜ばかりを追いかけてきた。その間には、奈良と京都にも出かけて、吉野や長谷寺、平安神宮などの桜も見物してきたのだから、いやまあ、桜はこれで十分に堪能したから、さすがに桜はもういいという気になった。 ただ、桜の季節は短いので、これでもいくつか見落としたこところもある。そこで、来年以降にこの続きを作るときに備えて、以下に記録しておきたい。 @ 不忍池の染井吉野とボート ⇒ これは、家の近くなので散歩の途中に見た風景であるが、池の周りの染井吉野と池に浮かぶ色々なボートの取り合わせがよかった。 A 飛鳥山公園の染井吉野 ⇒ 江戸時代、将軍吉宗が庶民のためにと染井吉野を植えたそうだが、小山になっているようで、写真の被写体としては、よさそうである。 B 桜越しに見る富士山 ⇒ 二宮にまた行って、吾妻山から桜越しに富士山の写真を撮ってみたい。河口湖や忍野村あたりでも、同様に桜越しの富士山が撮れそうである。 C 岐阜県の淡墨桜、福島県の三春滝桜、城下町の弘前と角館、それに高遠のお城など ⇒ なかなか魅力的なのだが、残念なことに、いずれも4月中旬以降が満開なものだから、土曜日の大学の講義を休まなければ行けない。しかし、そのうち必ず行ってみようと思っている。 (平成22年4月15日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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