先週はこの寒い時期に加えて雨の日だったので、室内で楽しめる場所として、高島平にある板橋区立の熱帯環境植物館に行ってきた。私は熱帯の植物については、それなりに一家言があると思っていたが、それでもこの施設はなかなか面白かった。加えて、思わずウーパールーパーなどの水族館のお魚や両生類にも出会えたことから、楽しい一日を過ごすことができた。それから一週間後、せっかくの土曜日だというのに、また雨の日となった。そこで、二匹目の泥鰌をねらって、同じようなところをと思い、インターネットで探したところ、東京都立夢の島熱帯植物館というものがあった。場所は遠いのではないかと思ったが、有楽町線の新木場駅だという。それなら我が家から30分で行けるので、高島平までの45分より近い。そこで、行ってみることにした。 新木場駅に着いた。鉄道やら首都高が走っているところを横切ると、道の両脇にだだっ広い土地が広がり、何にもない。もちろん、競技場のような建物があるが、その熱帯植物館へ通ずる道とされている方向へと足を向けると、確かに公園の中を歩いているようなのだが、何にもないし、誰も歩いていないし、まるで地の果てにいるような感じがある。そういえばここは、ゴミを埋め立てて造られた土地であった・・・まあそういう気がするのも、当たり前なのかもしれない。「こんなところで、野犬でも出てきたら困るなぁ。これが東京都心からわずか半時間の土地とは思えない」と思った。そういう中、15分ほど歩いて、ようやく熱帯植物館に着き、ほっとする。 熱帯植物館のドームの中に入ると、さすが都の施設だけあって、板橋の施設に比べればドームは高くて面積も広い。入ったところにいきなり赤い美しい花がぶら下がっており、2人の年配女性が写真を撮っている。フウリンブッソウゲという花で、「ハイビスカスの原種のひとつで、花びらが深く裂けて反り返る。垂れ下がって咲く様子が風鈴に似ていることからこの名がある」とある。 またそこから少し行ったところに同じような花があって、ブッソウゲという札が下がっている。その説明には「古くから栽培されているハイビスカスの一種。現在の色鮮やかなハイビスカスは、ハワイの野生種やブッソウゲをもとに交配を重ねて作り出された」とある。別の掲示板には「中国語では扶桑または佛桑と書きます。これに華の字を付けて音読みをしたものが和名の由来ですが、ハイビスカスという名前の方で親しまれています。丈夫で成長が早く風に強く、亜熱帯から熱帯地域では1年を通して咲き続けます。中国ではシソと同様、色を付けるのに用います」とのこと。 ウナズキヒメフヨウという赤い花があった。アオイ科ヒメフヨウ属で、メキシコからコロンビアにかけて熱帯アメリカの原産である。つぼみの時は上を向いているが、咲くに従って徐々に下を向いていく姿から『頷き姫芙蓉』と名付けられたとのこと。なお、満開になっても花弁は開かないという。 次は熱帯性スイレンで、説明によると「スイレンには数多くの園芸品種があり、温帯性と熱帯性のふたつに分けられます。温帯性のものは水面に浮くように開花し、いっぽう熱帯性スイレンは水面から高く伸びた茎の先で花が咲きます。熱帯スイレンには、花が夜に咲く開くものがあります。耐寒性がないため、日本では屋外での冬越しができません」とのこと。 ちなみに必ずしも睡蓮に限られないが、夜の花についてこういう説明もあった。「夜に花を咲かせる植物は、夜に活動するコウモリやガなどの動物に花粉を運んでもらうため、暗闇の中で最も目立つ白い花を持ち、そこに蜜があることを知らせる匂いがあります。コウモリに花粉を運んでもらう植物は、花がブラシ状で、長い舌で蜜を舐めるコウモリの鼻先に花粉が付くようになっています。この仲間には、ゲッカビジン、マンゴー、ドリアン、サガリバナなどがあります。ガが運ぶ花は、大部分が細長い筒になどの奥に蜜を出します。ガの種類によって花の形や咲き方が違います。スズメガが花粉を運ぶものに、ヨルガオ、ハマオモトなどがあります」という。 そういえば、東南アジアに住んでいたとき、友達の奥さんが自宅で月下美人を栽培していた。そしてある日突然、午後9時すぎに家内に電話が架かってきて、「今から咲きそう。いらして」というわけである。そこでこういう機会を逃してはならないと、眠たそうな子供も連れて、そのお宅へ伺った。そうすると、白い花がもう咲き始めていて、見ているうちに午後10時頃には満開となった。まあ何というか、中央には丸い立派な花弁があって、それを取り囲むように細長い花弁がいくつも「翻っている」という感じである。他のどんな花にも似ていない。そして、明け方にはもうしぼんでしまうとのこと。花の香りはユリに似ていて、とても良かった。この夢の島熱帯植物館では、8月末には、こういう夜に咲く花を見せるというから、その際に見られるかもしれない。ところで、この花が実をつけるとどうなるかを知って、私はびっくりしたことがある。何とまあ、私の好きな、ドラゴン・フルーツだったのである(正確には、月下美人そのものではないらしい)。先日、テレビを見ていると、この果物を岐阜県高山市郊外で栽培している人がいた! 温泉熱を利用するらしいが、それにしても、日本という国はこんなものまで作っている面白い国である。これはまた、嬉しい限りではないか。 ヒスイカズラである。新宿御苑では、藤棚のようにしつらえているので、すぐ頭の上にぶら下がっているところだが、どういうわけか、ここ夢の島では壁の高いところに生っているので、はるか上方を見上げなければならないから、非常に見にくい。それだからであろうか、見学路のそばにひとつだけ現物が置かれていた。この緑の色は、なかなか神秘的である。マメ科の植物というから、そういえばそんな気がする。 赤くて大きいトーチジンジャーという花があった。案内してくれた係員さんは、「これは本来この季節には咲かないものなので、狂い咲きです」と言っていたが、おかげで私たちは見られたというわけだ、説明によると「多くのショウガ科植物は、小さくてあまり見栄えのするものではありません。その中でも、トーチジンジャーの花はきわだって大きく、トーチ(たいまつ)のような姿と、鮮やかな色が印象的です。熱帯アジアに広く分布しも観賞用だけでなく、若いつぼみは香料野菜に、果実は主食に、種は香辛料として使われます」とのこと。 ブルグマンシア・ウェルシコロルという、おどろおどろしい名が付けられていたから、どういう花かと思ったら、何だ、エンゼルズ・トランペットではないか。私の家の近くだと、本郷三丁目の交差点から東大の赤門にかけて、本郷通りの両側に植えられている。それはともかくとして、この夢の島の説明書きによると「エクアドル原産。大きな花が垂れ下がって咲き、夜になると強い香りを放つ。咲き始めはクリーム色で、次第に色づく。ナス科。大きなラッパ形の花から、Angel's Trumpet (天使のラッパ)とも呼ばれています。長さが30cmから50cmにもなる大きな花は下向きに咲き、夜には芳香を放ちます。花の色は、始めは白色で、日がたつにつれてオレンジ色に変化します。南米エクアドル原産ですが、熱帯地方で観賞用に広く栽培されています。中国名は橙花曼荼羅」とのこと。確かに日本で咲いているこの花は小さいが、東南アジアの観光地のホテルで見かけた花の大きさは30〜40cmくらいあって、びっくりしたことがある。 次はベニヒモノキである。その名のとおり、紅色の紐みたいな花である。説明では「西インド諸島の原産。小さな花がたくさん集まり、長い穂となって咲く様子が赤いひものように見える。トウダイグサ科。ベニヒモノキという名前は、小さな花が密集した花序の色と形に由来し、花序の長さは20〜50cmになります。英語の別名Red-Hot Cattailは赤いネコの尾、和名より的確にこの植物の特徴を示しているように思えます。西インド諸島原産で寒さに弱く、冬でも10度以上ないと枯れてしまいます」とある。 さて、板橋では見かけなかったドリアンの木があった。木の前には、どこからか買ってきたのか現物の実が置いてある。表面には危険な突起がたくさんあるから、これは本物だ。熟れてくると、この重くて危険な果物が、木の上から落ちてきてドーンという音をたてて転がるというから怖い。その頃になると匂いで分かるから、人間だけでなく猿などの動物もドリアンの木のまわりに集まってきて、落ちてくるのを一緒に待つというから、可笑しくなる。 「パンヤ科。マレーシアやインドネシアで古くから栽培されている果物。強烈な匂いをいやがる人もいるが、甘い濃厚な味は一度食べると病みつきになるという。果物の中は普通5室に分かれており、果肉に包まれて大きな種子が数個ずつ入っている」というのが説明である。もう少し私なりに詳しい説明を付け加えると、タイ産のドリアンは、ジューシーでおいしい。匂いも強くない。大きさも大きくて、この説明のように5室に分かれているものが多い。それに対して、マレーシア産のものは小ぶりで5室もないものが多く、水分もそれほどなくて食べられる部分の分量も薄いが、甘さが凝縮しているようで結構、甘くておいしい。私などはタイ産が性に合うが、マレーシアの人にいわせると、地元のものが最高という。どこでも、お国自慢があるようだ。 写真にはないが、マンゴーの説明もあった。「チェリモヤ、マンゴスチンとともに世界三大美果とされています。原産地はインドからミャンマーあたりと考えられ、4000年以上も前から栽培されていたと言われています。1000を超す品種があり、果実の色、形、大きさは異なります。ウルシ科」という。私もマンゴーが大好きだけれど、マンゴーがうるし科だとは知らなかった。かぶれる方もいるのではないだろうか。 ところで、世界三大美果というが、そのうちチェリモアについては、私がいた頃の東南アジアには、五つ星の高級ホテルに行かないと、これはなかった。もともと原産地がペルーやエクアドルだったからだろう。しかし今では、東南アジアの各地でその辺の地元の市場でも売っているようだ。 なお、これも写真には撮れなかったが、スターフルーツ、つまりゴレンシの実があった。「果実の断面が星形をしていることから、英語ではスターフルーツと呼ばれています。熱帯アジア原産で、生のままか、砂糖漬けなどにして食べます。ビタミンCやペクチンを含み、芳香もあります」という。私は、この実が大好きで、現地ではパパイヤに次いでよく食べた。わずかに酸っぱくて甘い味がして、現地ではビタミンの補給と血圧を下げる効果があるといって食されている。値段も、一個10円もしないほど安かった。 これはパンノキといって、「南太平洋の島々で、パンの代わりに主食として食べるからパンノキといわれる。1本の木に100個以上も実る。家の周りに何本か植えておけば、果物のなる半年間はこの実を食べて暮らしていける。まだ熟しきらない実を石焼にして食べると、イモと同じ味がするという」らしい。実は私は、この木は見たことがない。太平洋の島の産だからだろう。 この熱帯の植物の葉だが、大きく切れ込みが入っている。少しでも日光を得たいはずなのに、これはなぜだろうと思っていたところ、これは、雨や風のために、葉が傷んでしまうのを避けるためだと聞いた。なるほどと納得した。 さて、タコノキがあった。説明書きでは「小笠原諸島が原産です、学名のboninensisは、小笠原諸島の英語名称"bonin island"に由来します。(江戸時代には、無人島(ぶにんじま)と呼ばれていました)マツカサのような実を付けるので、英語では『スクリューパイン』と呼ばれます。沖縄から東南アジア一帯の海岸近くでよく見られるアダンも同じ仲間です。タコの足のように見えるのは気根といい、地面に向かって何本も伸びて、植物を支える役割を果たします。雌雄異株で、果実は食べられます」という。 タコノキは、東南アジアの海辺の汽水域つまり海水と川の淡水が混ざり合うところには、必ずといっていいほど見られる植物である。しかし最近では、絶滅とまではいかないが、可哀そうに大いに切られまくっているようだ。ひとつには、この木は結構硬いので、燃料や材木代わりになるからというし、それだけではなくて、この木がある場所は運の悪いことに、日本向けのエビの養殖池を作るのにもってこいのところらしいのである。 ノヤシの先の方である。「小笠原最初の開拓者であるナサニエル・セボレーの名前にちなんで、『セボレーヤシ』といいます。戦時中には若芽が食糧とされ、数が激減してしまいました。外部から移入されたクマネズミが実をほとんど食べてしまうため、発芽して大きくなることができるものはわずかです」という。ああ、これも大変な目に遭っているようだ。 シマギョクシンカという花である。説明では「アカネ科。漢字では『島玉心花』と書き、丸い花を玉にたとえたことに由来しています。かすかに香る白色の小花を多数つけます。日本で見られるギョクシンカ属の植物は、シマギョクシンカとギョクシンカの二種だけです。シマギョクシンカの方が花が密で、美しい形状をしています。島では『アオキ』とも呼ばれています」。どうやら、小笠原特有のものらしい。 ああ、これはサンタンカだ。「中国南部からマレーシアにかけて分布する低木で、熱帯各地に植えられている。たくさんの花がボール状にこんもりと咲く」という。実はこの花、現地の私の家の庭にたくさん咲いていた。一年中、咲いているので、いったいどうなっているのだろうと思っていたが、しばらく住んでいるうちに、そのような花を現地ではよく見かけたので、珍しくもないようだ。花の色が橙気味で、丸い形をしているのが「イクソラ・キネンシス」、花の色が赤くて花の先端がとがっているのは「イクソラ・コッキニア」というらしい。 パラミツの幼い実である。クワ科の植物であるが、私たちの中では別名ジャックフルーツで通っている。何十センチにも成る大きな実で、そういえば、たまにアルファベットの「J」の字のような形になるものもあるが・・・まさかそれがジャックの語源かも・・・いや、それは私が勝手に思っただけである。この写真は、まだごく小さいジャックフルーツの卵である。熟れてくると、黄色い地にカーキ色の斑点があるフットボールのごとき外見となる。中を開けてみると、栗色の大きな種がたくさんあって、その周りにオレンジ色の部分があり、それを食べる。匂いは少しあるが、それほど気にならない。味は少し甘くて淡白なものである。種子は焼いたり、あるいは茹でたりすると食べられるというが、私は試したことはない。ちなみに、これもカカオと同じで、幹に直接、生る果物である。 そのほか、写真にはないが、ココ椰子の説明があった。「熱帯の生活に欠かせない大切な植物で、果実の中の水を飲んだり果実を料理に使うなど様々に利用する。大規模な栽培も行われ、果実の油を石鹸やマーガリンの材料にするほか、果皮の繊維をたわしや縄に、ヤシ殻活性炭は消臭や水の浄化に使う」という。私は、たとえば熱帯のリゾート地のホテルに行くと、プールサイドで必ずといってよいほどココナツ・ジュースを注文したものである。冷やしたココ椰子の上部をナタで切り、そこにストローを突っ込んだものを持ってきてくれる。また、客が好きそうだと思えば、スプーンを付けてくれる。それは、ジュースを飲みほした後、ココナツの内側をそのスプーンで掻き取って、白いコリコリとしたところ(固形胚乳)を食べるのである。 ああ、これはオウギバショウ、別名:旅人の木である。マダカスタルの産と聞いた。東南アジアで普通に見かけるのは、扇の中心がもっと地面に近いので、非常に見ごたえのあるものである。私は、シンガポールのラッフルズホテルが近代的な建築に生まれ変わる前の植民地様式のホテルに泊まったことがある。そのとき、ホテルの車寄せに生えていたのが、このヤシの木である。これを見て、とても立派なホテルだと感じ入ったものである。それに比べてこちら夢の島のこの旅人の木は、年を相当とっているらしくて、非常に高いところで扇形に分かれているので、あまり感激はしない。ちなみに、旅人の木とされる理由は、水が欲しくなった旅人が、扇の根元に穴を開ければ、水が飲めたからだという。私は、試してみたことがない。もっとも、最近は現地でもこの木は貴重だから、単なる好奇心でやたらに傷つけるようなことは、すべきではないだろう。なお、この木は東西に葉を伸ばす傾向があるので、それを見た旅人がおよその方向がわかるからだという説もある。 食虫植物のウツボカズラがあった。比較するのはいささか悪趣味かもしれないが、板橋のものより、こちら夢の島の方が大きくて立派である。それにしても、本体に蓋が付いているのは、心憎いばかりの自然の造型である。 レッドジンジャーで、「熱帯各地に植えられている多年草で、花が咲いた後も赤い苞(ほう)が長く残り美しい。ハワイでは切り花用にたくさん作られている。ショウガ科」とのこと。なるほど、非常にきれいな赤色である。 板橋にもあったが、カカオの実である。しかしこちらでは、まだ実が熟していないらしくて、まだ黄色になっておらず、なりかけである。 (平成22年3月 7日著) さて、こうして昨年3月に東京都立夢の島熱帯植物館に初めて行ったのであるが、今年になって同じく冬の季節に再び訪れてみた。今回行ったのはまだ1月中で、前回とはわずか2ヶ月の差なのに、館内の様相は相当違っていた。入り口近くのブッソウゲや、ウナズキヒメフヨウという赤い花は変わらなかったものの、反対に前回あったが今回はなかった花として、熱帯性スイレン、ヒスイカズラ、トーチジンジャー、エンゼルズ・トランペットなどがある。それらに代わり、次のような植物があった。 サガリバナの実というものがあった。解説によれば「甘い芳香を放つ白花を夜の間だけ咲かせる。一日花のため、開いた花は翌朝に落下してしまう・・・夜に咲く花の多くが濃厚な香りや白く目立つ花によって生き物を誘い出す。サガリハナも、夜行性のコウモリや蛾などによって花粉が運ばれる」という。それで、この解説板の隣に、白い猫のふわりとした尻尾に、まるでそっくりの花の写真があったが、もちろんその花は落ちてしまっていて、その成果がこの実ということらしい。 (平成23年1月23日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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