悠々人生のエッセイ







 東京の都心でも、一年を通して色々な「花」を楽しむことが出来る。そこで、この数年、私が見て回った記録をこのように整理してみた。参考にしていただければ、幸いである。ちなみにこれは、私のテニス仲間にも披露しているのだが、その価値をわかってくれるのは、熟年の世代だけである。この人たちは、私たちと同じく、子育てが一段落して暇を持て余しているからだ。これに対して、今が子育ての真っ最中という働き盛りの世代は、皆そろって「ふうぅーん」という、気のない反応である。確かに、「花が美しく見えるのは、歳をとった証拠」というのは、当たっている。

 せっかくだから、少しだけ解説をさせていただくと、まず1月牡丹上野東照宮]というのは、もちろん冬牡丹のことで、わざわざこの寒い季節に合わせて咲くようにしつらえた牡丹の花を、藁囲いでかこって屋外に展示しているものである。もともと、外で花などを見かける機会のない冬に行われるところに、その価値がある。藁囲いに雪でも積もれば、絶好の写真の被写体になると思うのであるが、残念ながらまだ撮る機会には恵まれていない。

 次いで2月は、1年で最も寒くなる月だというのに、[東京ドームでは世界らん展]が開かれている。カトレア、パフィオぺディラム、ファレノプシス(胡蝶蘭)、リカステ、シンビジュームなど、ラン科の花があの広大なドームのグラウンド一杯に展示されている。見ごたえのある展示会といえる。それから、2月は梅の季節でもある。そこで、[湯島天神]に梅を見に行ってもよいが、私は[小石川後楽園]の梅が好きである。特徴のある梅の花ばかりで、ひとつひとつ見ごたえがあって、本数もちょうど良いと思われるからである。

 3月中下旬になると、桜の季節が巡ってくる。桜は都内各所にいろいろと名所があるけれども、私のお気に入りは[千鳥ヶ淵]である。行ってみると、あの狭い遊歩道が押すな押すなの盛況となる。しかし、ボート乗り場からの満開の桜の眺めは、まさに絶景だと思う。このほか、都心そのものとはいいかねるが、かつて住んでいた杉並区の善福寺川沿いの遊歩道もよい。何しろ、桜を見に来る人がほとんどいないというのも、稀有な場所といえる。以前はよくここを歩いて、川面に垂れさがる桜の並木を見て回ったのであるが、この季節になるとそれがとても懐かしい。なお、花見を一点豪華主義でいくとすれば、[六義園の枝垂れ桜]がよい。小石川後楽園の枝垂れ桜も悪くはないが、実際に見に行くとすれば、まず六義園をお勧めしたい。豪華絢爛な桜を堪能できること請け合いである。

 桜が終わって4月も中下旬になると、[根津神社]の美しい躑躅(つつじ)の季節となる。こちらでは、陽のあたる斜面につつじの木が群生していて、それが一斉に咲き誇る。そうすると、楼門、池に架かる橋、お稲荷様の赤い鳥居の行列などと不思議と調和して・・・まるでこの世のものとは思えない異次元のような眺めが現出する。騙されたと思って一度お出かけになればどうだろうか。私は、一見の価値ある景色だと思う。

 さて、5月の中旬になると、まずは春薔薇が咲く頃で、[旧古河庭園]のバラが見頃を迎える。こちらの西洋風の庭園とマッチしているだけでなく、バラの品種自体も豊富で、なかなか見ごたえがある。また、それとほぼ同時期か、少し早い時期には、[亀戸天神]の藤の花が美しい。大きな鳥居をくぐって赤い太鼓橋を渡り、その頂点にさしかかると、両脇の池の藤棚から垂れ下がる花が実に綺麗だし、これを近寄ってみてもまた美しい。もちろん、日本一の藤の名所である栃木県の[足利フラワーパーク]には及びもつかないと言われると、まったくその通りではある。しかし、都内でそこそこの藤の花を手軽に鑑賞できて、併せて神前でお参りもできるのは、何物にも代えがたい。話は変わるが、5月の下旬頃以降に[明治神宮]に行くと、都内では珍しく静粛な環境の下にある菖蒲園が見られる。創建当初の雰囲気は、おそらくこのようなものだったに違いない。

 6月は、もちろん紫陽花の季節で、地元に住む者としては紫陽花祭りの白山神社がよいといいたいところだが、実はこちらはよそから鉢植えを持ってきているものがほとんどなので、見たらがっかりする。むしろ私は、都内なら[豊島園]をお勧めしている。こちらでは、かなり本格的な紫陽花が植えられているからである。

 毎年7月の6日から8日にかけて、[入谷の朝顔市]が開かれている。入谷鬼子母神を中心として、言問通り沿いに120軒の朝顔業者と100軒の露店が並んで、たくさんの人出で賑わう。ただ、その年によっては、朝顔の鉢の値が吊り上っている。せっかく高いものを買って帰っても、いくらも咲かないうちに萎んでしまったりすると、いささか落胆するので、気をつけたい。

 8月の初めは、[不忍池]でを見るのを楽しみにしている。あの広い不忍池の半分が一面に蓮の葉に覆われ、早朝にポンッという音とともに蓮が咲く光景は、これが都心にあるとは思えないほどのものだ。(ただし、私は早起きが苦手なので、現実に蓮が咲くポンッとか、シュポッとかいう音を生で聞いたことがない。テレビ番組で見た程度である。)

 9月には、[向島百花園]ののトンネルを見物に行ってはいかがかと思う。萩というのは、薄いピンクや白色の小さな頼りない花だが、こうしてトンネルのようにしつらえてあるとなかなか風流で、古代人が愛でただけの理由があるというものである。

 さて、10月にもなると、いよいよ紅葉のシーズンで、私はオフィス近くの[日比谷公園]の紅葉を見て満足している。もちろん、遠出をすれば近郊に大山とか高尾山など紅葉の名所は数々あるけれども、日比谷公園のようなご近所で、そんな雰囲気を味わえるというのは、なかなか捨てがたいものである。それから、10月は秋薔薇の季節である。私は[神代植物園]をお勧めしている。こちらは、バラに関しては、おそらく全国一の豊富な品種を誇るのではあるまいか。寄贈されたアメリカのバラのコレクションを中心として、我が国で生み出された数々の品種がある。一日中ここで写真を撮っても、飽きないほどである。もちろん、5月の春薔薇でご紹介した旧古河庭園のバラも、この季節にも咲くから、近場を選ぶなら、こちらを見に行ってもよい。

 11月菊の季節で、私は[新宿御苑]の菊花展が日本一だと思う。というのは、こちらは皇室の伝統を受け継いでいて、懸崖造り、大造りなど、それはそれは素晴らしい菊の展示が行われている。その技術は、ニューヨークの植物園からも習いにきたほど高度なものらしい。それから、11月末近くになると、銀杏の黄葉が素敵である。東京都の花は銀杏だから、都内にはあちこちで銀杏を見かけるが、私は[神宮外苑の銀杏並木]が一番、気にいっている。銀杏並木というのは、まさにこれかと思うほどで、日本離れした風景が現れるからである。そのほか、新宿御苑のマロニエの並木もまたよいが、惜しむらくは、公園の中の開かずの門から伸びているので、通行人が自由に歩くという雰囲気ではないという点である。

 年の瀬である12月になると、さすがにもう花が咲いているわけではないので、[神代植物園]の温室に、ベゴニアの花を見に行くというのも、一案ではないか。この花は、高校時代の文化祭で女の子たちがよく造った、紙の造花と良く似ている。見方によれば、花弁が何重にも重なってゴテゴテとしている花なのだが、他に美しい花のない季節に見に行くと、なぜかほっとする気にさせられる花である。





(平成22年2月18日著)
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