先々週末は、日光へ小旅行をして、秋の東照宮と紅葉を楽しんだ。先週は、新宿御苑の菊花壇展を見に行ったなぁ・・・それから、実に多忙な1週間が過ぎ、また土曜日が巡って来た。今日は、たいそう天気がよさそうだから、近場へ出かけて、また紅葉でも見に行こうかと思ったものの、都心は紅葉にはまだ少し早すぎる。それでは何をしようかと思っていたところ、たまたまネット上で「あつぎ国際大道芸 2009」という催しを見つけた。小田急の本厚木駅の周辺で、世界中の大道芸人・・・いや、最近はアーティストというらしい・・・を、44組も集めるイベントを開催するらしい。実は、私も家内も、東京に住んで長いが、どうも小田急沿線や特に神奈川方面には疎くて、電車では通ることがあっても、町田駅や厚木駅には降り立ったことがない。それでは良い機会だから、行ってみよう。もし面白くなければ、二つ隣の伊勢原駅に行ってまた大山に登り紅葉でも見て来ればよいということになった。 先々週の日光旅行で予約の大切さを感じたので、本厚木までの特急をネット予約したら、意外と簡単に取れた。特急「あさぎり」という。新宿駅の小田急のホームに行ってみると、何とまあ、御殿場を経由してはるばる沼津まで行くらしい。編成されている車両の中には、JRと表示された二階建てのグリーン車まである。向かいのホームにいた箱根行きのロマンス・カーは満席だったのに対して、こちらは空席が十分にある。こんなことなら、予約するまでもなかった。出発時間となり、自分たちの席に座ってお菓子をつまみ、お茶を飲んでいたら、もう本厚木駅だ。新宿駅を出てわずか40数分、眠る間もなく着いてしまった。これなら、十分に通勤圏内である。 失礼ながら、実際に行くまでは田舎の木造の駅舎を想像していたが、とんでもない。近代的なビルが立ち並ぶ大都市だった。街並みは、たとえば吉祥寺のようである。いやいや、街の様子は、もっとすっきりとしている。そういう建物のひとつである大きな駅ビルから出てみると、もうアーティストによるパフォーマンスが行われていた。オープニングだから、何組かのパフォーマーが集まっている。あとからパンフレットで確認したところ、次のお三方であった。 @ ジャグリングの森田智博・・・「最高7つのボールジャグリングは、華麗の一言。しなやかに身体とファンタジックなショー形式で、ディアボロからクラブ、コンタクトにボールまで、最難級のテクニックを軽やかにお見せします。特にボールのジャグリングはオススメです!」とある。確かに、7つだったか6つだったか良く見えないほど多くのボールをポンポン空中に投げ上げて両手をぐるぐる回して、それらを扱っていた。いや、これはすごいとしか、言いようがない。はるか昔、母がお手玉を扱っていたのを思い出してしまった。私はわずか3個扱っただけでも、簡単に落としたり目を回してしまうほど不器用だったが、この人は7つも扱えるのかと思っただけで、尊敬に値する。 A 一輪車パフォーマンスの栗原 舞・・・「風を切って走り回る姿は、まるで妖精。かわいらしいルックスと、必殺のスマイル。類まれな一輪車のテクニック!! 重力を忘れ、フワフワと自由自在に走り回る一輪車の妖精に、いつしかあなたも引き込まれてしまうでしょう!」とある。なるほど、一輪車の乗り方はたいしたもので、スマイルもかわいい。少し前、地方によっては一輪車を小学校の体育の授業に取り入れていたようだから、この人も、そうやって覚えたのかもしれない。何でも、芸は身を助けるだなあ・・・。ただし、ジャグリングの森田さんからボールを渡されて、それをポロポロ落としていたから、どうやらジャンルが違うと不得手のようだ。まあ、可愛さに免じて、それもよいではないか・・・。美人は得の見本のようなものである。 B フェスティバル・ミュージックの少子化対策・・・「これぞフェスティバル・ミュージックの決定版! 元気いっぱいのフェスティバル音楽隊。ジプシー音楽やワールド・ミュージックなど、フェスティバルの雰囲気に欠かせない楽曲を、練り歩きながら演奏します。トランペットの甲高い音! 色気たっぷりのSAX! 気持ち高ぶるサウンドでカップルを盛り上げ、少子化対策に貢献します?」とある。その名前の由来は、一応説明されているけれど、やっぱりよくわからない。まあ、それはともかく、この皆さんたちは、あちこちに出没して、元気な音楽を奏でてくれていた。 どのパフォーマンスも、およそ30分以内で終わる。この30分刻みのスケジュール表があって、市内の繁華街やら公園などのAからMまでの会場で、パフォーマンスが行われている。いや、土曜日1日くらいでは、とても全部は回れない。冒頭にも書いたように、この街は初めてなので、地理がよくわからないこともある。まあともかく、歩いてみようということで、家内とともに二人でトコトコ歩き出した。 駅前の信号を渡ろうとしたところ、変なお兄さんがいる。頭も顔も銀色、眼鏡は青色だが、それがピカピカ光っている。その人がバス待ちの列の横を通ったものだから、皆ギョッとしている。それから、信号が変わって通行人が歩道を渡ろうとしたから、手を振ってそれを誘導している。これは変なお兄さんだと写真を撮っていたら、空から誰かに眺められている気がした。変に思ってカメラのファインダーから眼を外すと、派手なスタイルのお兄さんたちによって、とんでもない上方から覗き込まれて見下ろされていた。びっくりして顔を上げてよく見ると、それは身長が普通の人の2倍半くらいある3人組だった。ズボンの下には、昔の言葉でいうと「高下駄」を履いているらしい。それで、方々にちょっかいを出しながら、大股で歩いているようだ。この人たちは、街のあちこちに出没する組らしい。 ああ、変なものを見たと思い、まずはちゃんとした大道芸を見ようとして、厚木公園に足を向けた。「GちょこMarble」さんという「お兄さんとお姉さんのコミカルアクロバット・ショー」であるが、既に見物人でいっぱいなので、見ようにもあまり良い場所がなかったことから断念した。そこで次に、厚木中央公園に行ってみた。ここは市役所の真向かいのところで、何とまあ、北海道から福岡県までのナントカ県人会という旗が風にひらひらとはためいていて、各地の物産が売られている。それに隠れるように、二つのステージ・・・といっても、単に場所を確保した程度のもの・・・があって、そこで外人と日本人の「Fumnny Bones」という組がパフォーミング中である。「世界を旅する芸人クリスとけーぼー。2人がかばんを開くと、おもちゃ箱のように楽しさがあふれ出す・・・」とあるが、申し訳ないけれども、どうもこれは性に合わないと思い、しばらく見てからその場を離れてしまった。 それで次に、1番街通りを駅の方向に歩いて戻る途中、駐車場の前で人だかりがしている。あれあれ、さっき駅の歩道のところにいた銀色のお兄さんだ。どうやらパフォーミング中である。名前を「UN−PA」さんといい、「その仕掛けるいたずらに注意せよ!!全身銀色の機械人間?があちこちにいたずらを仕掛け、日常生活にシュールで不思議な空間を作り出します。何をし始めるかは、まったくもって予測不可能。1度目に止まったら最後。気になって彼の後を付けてしまう事でしょう。尚、時々壊れるのでご注意ください」という。いやはや、その通りである。しかし、この駐車場の前では、何やら音楽に合わせて、人生の切なさのようなものをやっていた。苦労人なのだろうか・・・しんみりとしたものであるから、見物人の中にいた子供たちには、何のことやらさっぱりわからなかっただろうと思う。最後は、全身銀色の体を見せて、熱演していた。ははぁ、こういう人なんだ・・・。 それが終わり、今度はサティ前へと戻ると、まるで寅さん二世のような顔をした「バロン」さんという人が演じていて、「寅さん大好き!エノケン大好き! 四角い顔の歌って踊るヴォードビリアン! ウクレレよし!歌ってよし!タップでよし!音楽とダンスと歌で、とってもしみじみ。バロンの世界をお届けします。特に彼の歌は最高!こんなに心に染みるシンガーってめずらしいと思いますよ!!」ということなのだが、しばらく見ていたものの、何だか浅草の安オペラの前座のような気がしたので、これまた申し訳ないことだが、しばらくしてその場を離れてしまった。 そして、お腹が空いたと感じたので、その近くのケーキ屋のようなレストランのようなお店に入った。注文したところ、ものすごいボリュームのプレートが出てきて閉口したのだけれど、いざ食べてみると、ペロリと平らげられたのには、我ながら驚いた。家内の方も、あれほど大量のパンが添えられていたのに、まあ大丈夫だった。二人とも、キョロキョロしながら街を歩きまわったので、結構、空腹だったようだ。満腹になり、ゆっくりとコーヒーを啜った後、お腹ごなしに再び大道芸を探して市内を歩き出した。 「にぎわい処」という店を目指したのだが、ここから出発するフランス人の「Dark krakou」というのがお目当てである。これは「公害の海から生まれた怪物! 出会った瞬間に異世界へトリップ! 世界中で熱いラブコールを受ける。フランスを代表するアーティスト。3mを超す長身と異様なほど長い手足。そして金色の輝きを放つ怪物ダークラクー。フェステバルのときだけ現れる異世界の怪物が、厚木の街に迷い込む! 目の当たりにした光景は、夢ですか?現実ですか?」というわけ。確かに、そのお姿は、一度見たらびっくりする。まるで蜘蛛のお化けのような、はたまた枯れた古木のような感じである。顔は自然のままで、金色に塗っているようだが、手足は異常に長い。それで、道行く人に、ちょっかいを出している。子供の中には、それが面白くって自分で仕掛けに行く子もいれば、こわがって泣き出す子もいる。そうかと思うと、この「Dark krakou」、何を思ったかその姿で動き出し、それから駈け出した。あれまぁ・・・いったん走り出すとこれがまたびっくりするほど早くって、我々も含めて皆、唖然として見送ったほどである。 スケジュール表を見ていたら、厚木公園のステージで、フランス人の組が二つ続けて演じるらしいということで、そこへと向かった。さきほど一度は行った公園なので、近道を通ってすぐに着いた。そこで始まったのが、「La Famille Goldini」である。「大きな女と小さな男。凸凹の2人組が織りなすドタバタ・アクロバット・コメディ。今年、ヨーロッパの各地のフェスティバルで大好評を得ている。今が旬のアーティスト。フランス独特のエスプリ漂うショー構成は、納得の一言。日本のTV的楽しさとは一線を画した、しみじみと楽しく、心が温まる一流のエンターテインメントです」という。その言葉通りで、これが一番よかったと思う。まず、意図はしていなかったのだろうが、始まる前に、ご夫妻の一歳すぎくらいの小さな男の子がステージをうろうろしていて、逆立ちのような格好をし、ポーズを決める。皆で大きな拍手を送ったら、本当にうれしそうな顔をする。蛙の子は蛙という言葉があるが、その通りだ。それから本人たちの本番が始まったが、二人でアクロバットのような演技を繰り返していた。上になり、下になり、肩や首の上に経ち、二人で組んで横ではなく縦にくるくる回り、流れるように、かつコミカルに演じていく。いやいや、面白かった。 その次は、「Cirque Baroque」で、「空中ブランコが厚木の秋空を舞い踊る! 本場フランスのヌーヴォーシルク!!フランスのヌーヴォーシルクから、世界で活躍する選りすぐりのメンバーが来日。空中ブランコ、火吹き、ジャグリングに、SAXの生演奏など、まさに街中が一瞬にしてミニサーカスに大変身です!!厚木の秋空に美しい空中ブランコが舞う姿を是非お見逃しなく!」という。確かに、サーカス(フランス語の「Cirque」つまりシルク)の技術では、こちらがはるかに上で、父親が火のついた棒でジャグリングをする、物悲しい音色でSAXを上手に吹く。息子は、三階建ての家くらいの高さから吊り下げられた二本の紐テープを巧みに操り、まるで体操選手の吊り輪のように演技をする。特にびっくりしたのは、両手を十字懸垂のようにしたかと思うと、そのまま紐テープを両手に巻きつけながら、体をぐるぐる回して上にあがっていったことだ。ついに頂点に達したかと思うと、再び体を逆回転させつつそのまま降りてきた。これには、観客も大拍手である。女性は、これがまた演技がすごく上手で、とりわけ、四つのフラフープを両手両足でうまく扱ってぐるぐる回したのには、やんやの拍手大喝采だった。ただまあ、父親がちょっと品がなかったのが、たったひとつの難だったけれど・・・。 さてそれから、再びスケジュール表に目を落とすと、あの厚木中央公園で、中国の雑技をやるようだ。そういえば、昔、家内と北京に行ったときに上海雑技団の公演を見て、たいそう面白かったことを思い出した。私はまた別の機会に現地で京劇も見たが、これにも感激したことがある。そこでこれは見逃すわけにはいかない。というわけで、その公園へと急いだ。「Tokyo 雑技京劇団」といい、「孫悟空がアクロバティックに飛び回る!? 中国の伝統芸能 京劇と華麗な雑技をご覧あれ! 中国の伝統芸能『京劇』を軸に様々な中国雑技を披露。ストーリー性とともにアクロバットや軟体など、華やかな技の数々が飛び出します。二本でもお馴染み西遊記の孫悟空も登場?」という。 いやもう、これは見ごたえがあった。孫悟空は、目にもとまらずの速さで動きまわる。歌舞伎のように、「決める」ポーズをする。そうかと思うと陶器製の壺を投げ上げて首の後ろなどで受け止める。それを両手の上を動かすのはもちろん、首まで乗り越えさせて左右に動かす。しかも、小さくて軽い壺だったのに、それを大きくて重そうな壺に代えて演技を続ける。それから、小柄な女性が出てきて、「軟体」というらしいが、まるでイカかタコがその体をくねらせるように動き、たとえば、頭を前に向けながら、体をのけぞって両足をその頭の前の地面に付ける・・・と言葉で言っても表現しにくいほどだが、いやもう凄かったの一言。それからまた、どこかの地方の技術だと言っていたが、顔の仮面を一瞬にして切り替える技で、たとえばちょっと下を向いていて、はっと顔を上げると、赤い憤怒の顔がたちまち青い顔になったり白い顔になったりする。ああ、これこそ中国雑技の演技だと感心することしきりだった。 それから、駅に向かって歩く途中、二人で今日の大道芸についての話で盛り上がった。そして駅に着く前に喫茶店に入ってその日撮った写真やビデオを見て、また感激を新たにしたというわけである。そのとき飲んだローズ・ヒップ・ティーの味が忘れられない。近場の、ちょっとした楽しみだったが、なかなか忘れ難い思い出となった。 (平成21年11月 7日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
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